Artist: Lil Durk
Album: Deep Thoughts
Song Title: Shaking When I Pray
概要
本作「Shaking When I Pray」は、シカゴのドリルシーンを牽引してきたLil Durkが、自身の成功の裏にある深いトラウマと信仰、そしてストリートの現実を赤裸々に吐露した内省的な一曲である。プロデューサーのTouchofTrentによるメランコリックで重厚なビートの上で、Durkはイスラム教への帰依を示すコーランの祈りから楽曲をスタートさせる。彼は莫大な富を築き上げながらも、King VonやNuskiといったかけがえのない仲間の死、血を分けた親族が敵対する「Jojo World」にいるというシカゴ特有の血を血で洗う複雑な人間関係、そして自身がクリーブランド・クリニックで生死の境を彷徨った健康問題について語り、トラップスターとしての冷酷なペルソナと、悲しみを抱えるSad Boyとしての顔を交錯させている。ネット上のバズのために命を奪い合う現代のギャングスタカルチャーの虚無感を批判しつつ、自らが率いる「Only The Family (OTF)」の底知れぬ業の深さを自嘲気味に描くなど、ドリルミュージックの枠を超えたコンシャスなリリシズムが光る傑作だ。
和訳
[Intro]
Bismillaah ar-Rahman ar-Raheem
慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において
※イスラム教の聖典コーランの第1章「アル・ファーティハ(開端章)」の祈りの言葉。Lil Durkは熱心なイスラム教徒であり、日常的に礼拝(サラート)を行っている。
Al hamdu lillaahi rabbil 'alameen
すべての讃美は万有の主、アッラーにこそあれ
Ar-Rahman ar-Raheem Maaliki yaumid Deen
慈悲深く慈愛あまねき御方、最後の審判の日の主宰者
Iyyaaka na'abudu wa iyyaaka nasta'een
私たちはあなたのみを崇拝し、あなたのみに御助けを請い願う
Ihdinas siraatal mustaqeem
私たちを正しい道にお導きください
Siraatal ladheena an 'amta' alaihim
あなたが御恵みを下された人々の道に
Ghairil maghduubi' alaihim waladaaleen
御怒りを受けた者、そして迷える者の道ではなく
Aameen
アーメン
(TouchofTrent be wildin' with it)
(TouchofTrentがヤバいビートを鳴らしてるぜ)
[Verse 1]
Check your texts, Smurk, my phone been dead for a week
メッセージを確認しろよ、スマーク、俺の携帯は一週間も電源が切れてたんだ
※「Smurk」はLil Durkの愛称。
Check your net worth, three million, I spent that shit at Uber Eats
お前の純資産を確かめてみろよ、300万ドルか、俺はそんな額Uber Eatsで使い果たしたぜ
※自身の莫大な富と金遣いの荒さを誇示するパンチライン。
I know I'm past it, but I get mad when they say I don't do shit for the streets
俺はもうストリートを卒業した身だが、地元のために何もしてないと言われると腹が立つ
※成功してフッドを離れた彼だが、未だにストリートへの還元や忠誠心を疑うヘイターたちに対する苛立ち。
I pay cash and I feel good to do it, I grew up off Link
俺は現金で払うし、そうできることが気持ちいいんだ、昔は生活保護で育ったからな
※「Link」とはイリノイ州の低所得者向け食料支援プログラム(フードスタンプ)で支給されるLinkカードのこと。極貧の環境から成り上がった背景を示している。
I like my Xans blue, my Percs white, my Sprite Easter pink
俺は青いザナックス、白いパーコセット、イースターピンクのスプライトが好きなんだ
※「Xans」は精神安定剤、「Percs」は鎮痛剤。「Easter pink」はプロメタジンとコデインを含む咳止めシロップをスプライトで割った、通称「リーン(Lean)」の鮮やかなピンク色を指すストリート特有の表現。
I was salty when Nuski passed, so I couldn't imagine what V'd have think
ヌースキーが亡くなった時俺はひねくれてた、だからVがどう思ったかなんて想像もつかない
※「Nuski」は2014年に銃撃され命を落としたDurkの従兄弟OTF Nunu。「V」は2020年に殺害された親友でありクルーの中核だったKing Vonを指す。相次ぐ身内の死による計り知れない喪失感。
I got a cousin in Jojo World, so I couldn't imagine what he'd think
ジョジョ・ワールドに俺の従兄弟がいるんだ、あいつがどう思ってるかなんて想像もつかない
※「Jojo World」とは、Durkたちの敵対組織であったBrick Squad(2012年に殺害されたLil JoJoの陣営)のこと。シカゴのストリートでは、血を分けた親族が敵対するギャングに所属しているという残酷な現実が往々にして存在する。
I'm so cool, like CJ, I could tell the DJ play some Tink
俺はCJみたいに超クールだ、DJにティンクの曲をかけろって言えるくらいにな
※「Tink」はシカゴ出身の女性R&Bシンガー。シカゴの地元繋がりを強調している。
I'm so happy, I'm fully focused, I had to slow down off the drank
俺はすごく幸せだし完全に集中してる、リーンの量は減らさなきゃならなかった
※精神状態が安定し、薬物依存から抜け出して音楽とビジネスにフォーカスしていることの宣言。
I was in Cleveland Clinic, I almost met up with God for the week
クリーブランド・クリニックに入院してたんだ、一週間神様に会いそうになったぜ
※2023年7月、Lil Durkは重度の脱水症状と疲労でオハイオ州のクリーブランド・クリニックに緊急入院した。生死の境を彷徨った深刻な事態であったことを明かしている。
The same place Damar Hamlin went, that shit ain't cheap
ダマー・ハムリンが行ったのと同じ病院だ、治療費は安くないぜ
※NFL選手のダマー・ハムリンは試合中に心停止し、最終的に高水準の医療機関で治療を受けた。最高峰の医療を受けられるだけの財力を誇示している。
I went rose Patek 2023, Phillipe
2023年モデルのローズゴールドのパテック・フィリップを手に入れた
※高級時計ブランドPatek Philippeの言及。
That's a closed casket, why that bastard lookin' like he sleep?
あれはクローズド・キャスケットだ、なんであのクソ野郎はただ眠ってるように見えるんだ?
※「closed casket」は、銃撃などで遺体の損傷が激しいため蓋を閉じたまま行う葬儀のこと。敵に対する凄惨な暴力の結末と、死者の顔が皮肉にも穏やかに眠っているように見えることへの不条理な疑問。
I told brodie, he do it for molly, he fall, he turnt up as we speak
兄弟に言ったんだ、あいつはモリーのためにやってる、倒れても、今こうしてる間にもハイになってるってな
※「molly」はMDMA。薬物中毒で無軌道になっている仲間の狂気を描写している。
I told Herm I need more horses, I ain't jump up out the Jeep
ハームに言ったんだ、もっと馬力が必要だってな、俺はジープから飛び降りたりはしなかった
※「Herm」は車のカスタマイズを頼むメカニックか仲間。「horses」は車のエンジン馬力。
Well, I did, when I seen— shh, I jumped up out the seat
いや、飛び降りたな、あれを見た時、シーッ、俺はシートから飛び上がったんだ
※「shh」と口止めしつつ、敵(あるいは警察)を発見した瞬間に車から飛び出して戦闘状態(あるいは逃亡)に入ったことをサブリミナルに暗示している。
I be shakin' when I pray 'cause I don't be stretchin' out my knee
俺は祈る時に震えちまうんだ、膝を伸ばしきっていないからな
※イスラム教の礼拝での不自然な姿勢による痛みに加え、薬物の離脱症状、あるいはストリートのトラウマやPTSDからくる身体の震えを掛けた、非常にディープなダブルミーニング。
I had brought a pair of buffs 'cause I was in Detroit for a week
バフのサングラスを持っていったよ、デトロイトに一週間滞在してたからな
※「buffs」はCartierのBuffalo hornグラス。デトロイトのストリートカルチャーやハスラーたちの間で絶対的なステータスシンボルとされるアイウェア。
I went Johnny on the grill, open my mouth and get that glee
グリルズはジョニーのところで作った、口を開ければキラキラ光るぜ
※「Johnny」はヒューストンの有名ジュエラーであるJohnny Dangのこと。彼の手掛けるカスタムグリルズ(歯のジュエリー)を着けている。
Now you Shiesty in your hood, they pop outside to get that ski (Phew)
今じゃお前は地元でシャイスティ気取りだな、あいつらはスキーマスクを被って外に飛び出してくる (Phew)
※「Shiesty」は服役中のラッパーPooh Shiestyのことで、彼が流行らせたバラクラバ(スキーマスク)を被るスタイルを指す。「ski」もスキーマスクのこと。顔を隠して犯罪に手を染める現代の若者たちを描写している。
[Chorus]
Oh, they my rival
ああ、あいつらは俺のライバルだ
Oh, they'll do anything to go viral
ああ、あいつらはバズるためなら何でもする
Oh, like what? They'll kill your idol
ああ、例えばどんなことかって?あいつらはお前のアイドルだって殺すんだ
Oh, you ain't even got a title
ああ、お前には何の称号もないのにな
※ストリートでの名声やネット上の注目(バズ)のためだけに、リスペクトすべき存在すらも平気で殺害するドリル世代の虚無感と無慈悲さを嘆いている。
[Verse 2]
Fee-fi-fo-fum, all the opps ****, they no fun
フィー・ファイ・フォー・ファム、敵はみんな****だ、あいつらはつまらないぜ
※「Fee-fi-fo-fum」はイギリスの童話『ジャックと豆の木』に登場する巨人が人間の血の匂いを嗅ぎつけた時のセリフ。ここでは敵を狩り出す前の不気味な警告として使われている。伏字部分は検閲されたストリートの暴力的な単語。
Two **** in the car, niggas ridin' 'round with ****
車の中に2つの****、あいつらは****を持って乗り回してる
※伏字部分は銃器(チョッパーやグロック)や違法なものを示唆している。
Street niggas winnin', I just had me a foursome
ストリートの連中が勝ってるんだ、俺はちょうど4Pをヤッたところだ
※ストリートから成り上がった自分が、富と名声を得て享楽的な生活を送っていることの誇示。
Never leave **** inside that jam if they know something
あいつらが何かを知ってるなら、その****を絶対に取り残すな
※「jam」は警察に捕まって窮地に立たされること。口を割る可能性のある仲間を警察の手に残すな(保釈金を払って助け出すか、あるいは口封じをしろ)というストリートの冷徹な掟。
Still free my opps, they gon' get life when that Glock torch
それでも俺の敵たちを釈放してやってくれ、あのグロックが火を吹けばあいつらは終身刑になるからな
※敵がシャバに出てきても、自分たちの銃による報復で命を落とすか、反撃した結果刑務所で一生を終えることになるという容赦のないメッセージ。
Could've have caught me, bro and them had snuck on my back porch
俺を捕まえられたかもしれないな、兄弟たちが裏庭のポーチに忍び込んでたんだ
※敵対組織の襲撃(ホームインベージョン)に対する言及。どれほど成功しても常に命を狙われるシカゴの緊迫感。
Brodie got dummy bags, had the drug dealers act up
兄弟はダミーのバッグを持ってて、ドラッグの売人たちを怒らせた
※偽の薬物や紙切れを詰めたバッグで取引を装い、売人から本物の金やドラッグを奪う強盗手口。
Brodie don't hustle, off the muscle, go get a Mack truck
兄弟はハッスルなんてしない、腕力だけでマック・トラックを奪いに行くんだ
※「off the muscle」は「実力行使で」「力ずくで」という意味のスラング。チマチマした麻薬の売買(hustle)ではなく、暴力と強奪で巨大なトラックの積み荷を丸ごと狙う強硬派の仲間を描写している。
Brodie don't hustle, off the muscle, go get a Mack truck
兄弟はハッスルなんてしない、腕力だけでマック・トラックを奪いに行くんだ
All of this bappin', cappin', rappin' all for a camera
こんな作り話も、虚勢も、ラップも、全部カメラのためのものだ
※「bappin'」「cappin'」はどちらも「嘘をつく、見栄を張る」という意味のスラング。最近のラッパーたちがネットやMVでギャングを演じているだけのフェイクであることを強烈に批判している。
Only The Family, in my eyes, worser than the cancer
俺の目から見れば、オンリー・ザ・ファミリーは癌よりも厄介な存在だ
※「Only The Family (OTF)」はLil Durkが創設したレーベルでありギャングの集合体。癌細胞のように周囲を侵食し、一度関われば決して抜け出せないほど深く根を張った危険な組織であることを、ボスである彼自身が自嘲と畏怖を込めて表現しているヒップホップファンの間でも高く評価されているパンチライン。
[Chorus]
Oh, they my rival
ああ、あいつらは俺のライバルだ
Oh, they'll do anything to go viral
ああ、あいつらはバズるためなら何でもする
Oh, like what? They'll kill your idol
ああ、例えばどんなことかって?あいつらはお前のアイドルだって殺すんだ
Oh, you ain't even got a title
ああ、お前には何の称号もないのにな
