Artist: Olivia Rodrigo
Album: GUTS
Song Title: the grudge
概要
本楽曲「the grudge」は、オリヴィア・ロドリゴの2ndアルバム『GUTS』(2023年)に収録された、悲痛なピアノ・バラードである。これまでの彼女の楽曲の多くがロマンチックな失恋を扱ってきたのに対し、本作で描かれるのは、かつて深く敬愛していた人物からの「裏切り」と、それによって生じた決して消えない「恨み(grudge)」である。ファンの間や音楽メディアの深い考察では、この曲は元恋人に宛てたものではなく、彼女のデビュー期に発生したある大物ポップスターとの「著作権・クレジット問題」における確執を歌ったものだという説が極めて有力視されている。自身のキャリアの出発点を祝福してくれた憧れの存在が、後に法的な圧力を用いて彼女から利益とクレジットを奪い取ったとされる一連の騒動への悲しみと絶望。巨大な権力を持つかつてのアイドルに対し、許すことのできない自分自身の葛藤と、業界の残酷なパワーバランスを赤裸々に描き出した、彼女のディスコグラフィにおいても一際重く、内省的な傑作である。
和訳
[Verse 1]
I have nightmares each week 'bout that Friday in May
5月のあの金曜日の悪夢を、毎週のように見るの
※ファンの間で最も注目されているラインである。一説によれば、この「5月の金曜日」とは、彼女の歴史的デビューアルバム『SOUR』がリリースされた2021年5月、あるいは特定の楽曲に対する著作権侵害の申し立て(クレジットの譲渡要求)を知らせる法的な電話を受け取った時期を指していると考察されている。
One phone call from you and my entire world was changed
あなたからのたった一本の電話で、私の世界は完全に変わってしまった
Trust that you betrayed, confusion that still lingers
あなたに裏切られた信頼、今も消えない混乱
Took everything I loved and crushed it in between your fingers
私が愛したすべてを奪い、その指先で握りつぶした
And I doubt you ever think about the damage that you did
あなたは自分がどれほどの傷を与えたかなんて、考えたこともないでしょうね
But I hold onto every detail like my life depends on it
でも私は、命綱にしがみつくように、そのすべての詳細を手放せないでいる
My undying love, now, I hold it like a grudge
私の永遠の愛を、今は恨みとして抱え込んでいる
※「undying love(永遠の愛)」という言葉から、相手が単なる交際相手ではなく、彼女が幼い頃から熱狂的に崇拝していたアイドルやメンター的な存在であったことが示唆されている。
And I hear your voice every time that I think I'm not enough
そして自分はダメな人間だと思い知るたびに、あなたの声が聞こえるの
[Chorus]
And I try to be tough, but I wanna scream
強くあろうとするけれど、本当は叫び出したい
How could anybody do the things you did so easily?
どうしてあなたは、あんな残酷なことをあんなにも簡単にできたの?
And I say I don't care, I say that I'm fine
気にしてないって、私は大丈夫だって口にするけど
But you know I can't let it go, I've tried, I've tried, I've tried for so long
手放せないことなんて、あなたが一番わかってるはずよ、何度も、何度も、ずっと努力してきたのに
It takes strength to forgive, but I don't feel strong
許すには強さがいるけれど、今の私にそんな強さはない
[Verse 2]
The arguments that I have won against you in my head
頭の中で、あなた相手に言い負かした口論の数々
In the shower, in the car, and in the mirror before bed
シャワーを浴びている時、車の中、寝る前に鏡を見る時
Yeah, I'm so tough when I'm alone, and I make you feel so guilty
ええ、一人の時の私はすごく強気で、あなたにひどい罪悪感を抱かせてやるの
And I fantasize about a time you're a little fuckin' sorry
そして、あなたが少しでも申し訳なく思ってくれる瞬間を妄想している
And I try to understand why you would do this all to me
どうして私にこんな酷いことをしたのか、理解しようと努めている
You must be insecure, you must be so unhappy
あなたはきっと自信がなくて、すごく不幸な人なんだわ
And I know, in my heart, hurt people hurt people
心の底では分かってる、傷ついた人が他人を傷つけるんだって
※「Hurt people hurt people」は心理学でよく使われるフレーズ。相手の冷酷な振る舞いも、音楽業界における過去のトラウマやプレッシャーに起因するものだと無理にでも理解しようとする彼女の葛藤が描かれている。
And we both drew blood, but, man, those cuts were never equal
お互いに血を流したけれど、ねえ、私たちが負った傷の深さは絶対に平等なんかじゃなかった
※強大な権力とキャリアを持つ大物アーティストと、デビューしたばかりの10代の新人という、圧倒的なパワーバランスの不均衡(権力勾配)を告発している。
[Chorus]
And I try to be tough, but I wanna scream
強くあろうとするけれど、本当は叫び出したい
How could anybody do the things you did so easily?
どうしてあなたは、あんな残酷なことをあんなにも簡単にできたの?
And I say I don't care, I say that I'm fine
気にしてないって、私は大丈夫だって口にするけど
But you know I can't let it go, I've tried, I've tried, I've tried for so long
手放せないことなんて、あなたが一番わかってるはずよ、何度も、何度も、ずっと努力してきたのに
It takes strength to forgive, but I don't feel strong
許すには強さがいるけれど、今の私にそんな強さはない
[Bridge]
Ooh, do you think I deserved it all?
私がこんな目に遭って当然だと思ってるの?
Ooh, your flowers filled with vitriol
あなたから送られた花には、辛辣な悪意が詰まっていた
※この楽曲の背景を決定づけると目される非常に具体的な描写。オリヴィアがブレイクした直後、ある大物アーティストが手書きの手紙と共に彼女に「花」を贈って祝福したという有名なエピソードが存在する。しかしその後のクレジット要求騒動により、あの優しい行動すらも支配的で悪意のあるもの(vitriol)に感じられてしまったという絶望を表現していると解釈されている。
You built me up to watch me fall
私の落ちぶれる様を見るために、あなたは私を持ち上げたのね
You have everything, and you still want more
あなたはすべてを持っているのに、それでもまだ多くを欲しがるのね
※すでに莫大な富と名声を築き上げているにも関わらず、新人の利益の半分を容赦無く奪っていくメガスターの強欲さへの痛烈な批判として読み取れる。
[Outro]
I try to be tough, I try to be mean
強くあろうとして、意地悪になろうとするけど
But even after all this, you're still everything to me
これだけのことがあっても、あなたは今でも私のすべてなの
And I know you don't care, I guess that that's fine
あなたが気にも留めていないことは知ってる、それはそれで構わない
But you know I can't let it go, I've tried, I've tried, I've tried for so long
でも手放せないことなんて、あなたが一番わかってるはずよ、何度も、何度も、ずっと努力してきたのに
It takes strength to forgive, but I'm not quite sure I'm there yet
許すには強さがいるけれど、私がまだその境地に達しているか自信がない
It takes strength to forgive, but
許すには強さがいるけれど、でも
※「but(でも)」という言葉で楽曲が唐突に途切れる。心の整理がつかず、どうしても許すことができないという恨みの「未解決感」を、楽曲の構成そのもので表現した見事なエンディングである。
