Artist: JAY-Z
Album: Reasonable Doubt
Song Title: D’Evils
概要
1996年にリリースされたデビューアルバム『Reasonable Doubt』に収録されている本作は、東海岸の伝説的プロデューサー、DJ Premierが手掛けた冷徹かつ哲学的な名曲である。タイトル「D'Evils」は「The Evils(悪)」と「Devils(悪魔)」を掛け合わせた造語であり、ストリートにおける金、権力、そして欲望が人間の魂をいかに蝕み、堕落させていくかを描いている。フックではSnoop Doggの「Murder Was the Case」と、Mobb DeepのProdigyが客演したLL Cool J「I Shot Ya (Remix)」の不気味なフレーズをスクラッチでサンプリングし、イルミナティや秘密結社といったオカルト的なメタファーを用いて、ハッスル(裏ビジネス)に魂を売った男のパラノイアを見事に表現している。親友を裏切り、殺し合いに発展していく過程を淡々と描写するリリシズムと、ヒップホップ史に残る圧倒的なパンチラインの数々は、マフィオソ・ラップの到達点として現在でもコアなファンから絶大な支持を集めている。
和訳
[Hook: Snoop Dogg & Prodigy]
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
※Snoop Doggの楽曲「Murder Was the Case」からのサンプリング。死の淵に立たされた男の神への祈りを引用している。
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
※Mobb DeepのProdigyによるLL Cool J「I Shot Ya (Remix)」のヴァースからのサンプリング。ヒップホップ界隈で頻繁に語られる、成功と引き換えに魂を要求する秘密結社(イルミナティ)のメタファー。
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Secret society, tryna keep they eye on me"
「秘密結社、奴らは俺から目を離さないようにしている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"I can't die, I can't die, I can't die"
「俺は死ねない、死ねない、死ねないんだ」
[Verse 1: Jay-Z]
Uh, yeah
This shit is wicked on these mean streets
この非情なストリートでは、マジで全てが狂ってるぜ
None of my friends speak, we're all tryna win
友達は誰も口をきかなくなった、皆勝とうと必死だからな
But then again, maybe it's for the best though
だが、見方を変えれば、それがベストなのかもしれない
'Cause when they're seein' too much
なぜなら、奴らが色々と知りすぎちまうと
You know they're tryna get you touched
お前の命を狙おうとしてくるからな
※「get you touched」は殺される、傷つけられるという意味のストリート・スラング。
Whoever said illegal was the easy way out
違法な手段が手っ取り早い逃げ道だなんて言った奴は
Couldn't understand the mechanics
この仕組みを理解しちゃいない
And the workings of the underworld, granted
裏社会の働きってやつをな、間違いないぜ
Nine-to-five is how you survive, I ain't tryna survive
9時から5時の仕事はただ生き延びるためのものだ、俺はただ生き延びようとしてるんじゃない
I'm tryna live it to the limit and love it a lot
限界まで人生を謳歌して、心から愛そうとしてるんだ
Life ills poisoned my body, I used to say fuck mic skills
人生の病理が俺の体を蝕んだ、かつてはマイクのスキルなんてクソくらえだと言ってたよ
I never prayed to God, I prayed to Gotti
俺は神に祈ったことはない、俺が祈ったのはゴッティさ
※「Gotti」はNYの悪名高いマフィアのボス、ジョン・ゴッティ。ストリートのハスラーにとっての神は、宗教的な存在ではなく裏社会で権力を握る絶対的なボスであったというマフィオソ・ラップの真髄。
That's right, it's wicked – that's life, I live it
その通りだ、狂ってる、だがそれが人生だ、俺はそう生きている
Ain't askin' for forgiveness for my sins, ends
自分の罪に対する許しなんて乞わない、目的のためさ
※「ends」は目的、または金(Make ends meetからの派生)を指す。
I break bread with the late heads
俺は死んだダチたちとパンを分け合う
※「break bread」は食事を共にする、利益を分け合うという意味。すでに亡くなった(late)ストリートの仲間たちに思いを馳せている。
Pickin' their brains for angles on all the evils that the game'll do
このゲームがもたらす全ての悪に対する見解を、彼らの脳から引き出そうとしてるんだ
It gets dangerous, money and power is changin' us
危険な状態になってきた、金と権力が俺たちを変えていく
And now we're lethal, infected with D'evils
そして今や俺たちは致命的だ、悪魔たちに感染しちまったからな
※「D'evils」は「The Evils(悪)」と「Devils(悪魔)」を掛けた造語。金や権力への執着がもたらす精神の腐敗を病気(感染)のように例えている。
[Hook: Snoop Dogg & Prodigy]
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Secret society, tryna keep they eye on me"
「秘密結社、奴らは俺から目を離さないようにしている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"I can't die, I can't die, I can't die"
「俺は死ねない、死ねない、死ねないんだ」
[Verse 2: Jay-Z]
Yeah, yeah
We used to fight for building blocks
昔は積み木を奪い合って喧嘩したものだ
Now we fight for blocks with buildings that make a killin'
今じゃ大金を生み出す建物が並ぶブロックを巡って殺し合っている
※「building blocks(子供の積み木)」と「blocks with buildings(建物の立ち並ぶストリートの区画)」を反転させ、無邪気な子供時代から血生臭い縄張り争いへの変化を描いた見事なワードプレイ。「make a killin'」は大儲けすることと、文字通りの「殺し」のダブルミーニング。
The closest of friends when we first started
始めたばかりの頃は一番の親友だった
But grew apart as the money grew, and soon grew black-hearted
だが金が増えるにつれて心が離れ、すぐに腹黒くなっちまった
Thinkin' back when we first learned to use rubbers
初めてコンドームの使い方を学んだ時のことを思い出すよ
※「rubbers」はコンドーム。
He never learned, so in turn I'm kidnappin' his baby's mother
奴は全く学ばなかった、だからそのお返しに、俺は奴の子供の母親を誘拐している
※コンドームの使い方を学ばなかった=避妊せずに子供を作った。その結果できた「子供の母親(baby's mother)」を誘拐して身代金を要求するという、元親友同士の冷酷な抗争の描写。
My hand around her collar, feedin' her cheese
彼女の首根っこを掴み、チーズを食わせる
※「cheese」は現金。彼女に現金を渡し(食わせ)、裏切らせようと交渉している。
She said the taste of dollars was shitty, so I fed her fifties
ドル札の味はクソだと言いやがったから、俺は50ドル札を食わせてやった
※少額の紙幣(1ドル札など)では情報を吐かなかったため、より高額な50ドル札を提示(feed)したというハスラーの交渉術。
About his whereabouts I wasn't convinced
奴の居場所については、まだ納得がいかなかった
I kept feedin' her money 'til her shit started to make sense
彼女の話の辻褄が合うようになるまで、俺は金を食わせ続けた
Who could ever foresee?
一体誰がこんなことを予想できただろうか?
We used to stay up all night at slumber parties
昔はお泊まり会で一晩中起きていたものだ
Now I'm tryna rock his bitch to sleep
今じゃ俺は奴のビッチを永遠の眠りにつかせようとしている
※「rock to sleep」は子供をあやして寝かしつけることと、殺害する(永遠の眠りにつかせる)ことの恐ろしいダブルミーニング。スランバーパーティー(お泊まり会)という子供時代の無邪気な夜と対比させている。
All the years we were real close
俺たちが本当に親しかったあの長い年月
Now I see his fears through her tears
今、彼女の涙の向こうに奴の恐怖が見える
Know she's wishin' we were still close
彼女が「あなたたちがまだ親しければよかったのに」と願っているのは分かってる
Don't cry, it is to be
泣くのはよせ、こうなる運命だったんだ
In time I'll take away your miseries and make it mine
やがて俺がお前の苦しみを取り去り、俺のものにするさ
D'evils
悪魔たちめ
[Hook: Snoop Dogg & Prodigy]
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Secret society, tryna keep they eye on me"
「秘密結社、奴らは俺から目を離さないようにしている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"Illuminati want my mind, soul and my body"
「イルミナティが俺の精神、魂、そして肉体を求めている」
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"I can't die, I can't die, I can't die"
「俺は死ねない、死ねない、死ねないんだ」
[Verse 3: Jay-Z]
Uh, uh, yeah
My flesh no nigga could test, my soul is possessed
俺の肉体を試せる奴なんていない、俺の魂は取り憑かれている
By D'evils in the form of diamonds and Lexuses
ダイヤモンドとレクサスの形をした悪魔たちにな
The Exorcist got me doin' sticks
エクソシストが俺に強盗をさせている
※「The Exorcist」は悪魔祓いのことだが、ここでは自分を支配する欲望の化身(あるいは悪霊そのもの)を指す。「doin' sticks」は強盗(stick-ups)を行うこと。
Like, "Homie, you don't know me
「なぁ兄弟、俺のことは知らないだろうが
But the whole world owe me, strip!"
全世界が俺に借りがあるんだ、身ぐるみ脱ぎな!」ってな具合にな
Was thought to be a pleasant guy all my fuckin' life
生まれてからずっと、俺はいい奴だと思われていた
So now I'm down for whatever, ain't nothin' nice
だから今は何だってやってやる、いいことなんて一つもないさ
Throughout my junior high years it was all friendly
中学時代は全てが友好的だった
But now this higher learning got the Remy in me
だが今、この高等教育のおかげで、俺の中にレミーが流れ込んでいる
※「higher learning」は大学などの高等教育と、ストリートの過酷な現実から学ぶ教訓のダブルミーニング。「Remy」は高級コニャックのレミーマルタン。
Liquor's invaded my kidneys
酒が俺の腎臓を侵略しちまった
Got me ready to lick off – Momma, forgive me
いつでもぶっ放す準備ができている、母さん、許してくれ
※「lick off」は銃を発砲すること。
I can't be held accountable, D'evils beatin' me down, boo
俺のせいじゃないんだ、悪魔たちが俺を打ちのめしてるんだよ、ベイビー
Got me runnin' with guys, makin' G's, tellin' lies that sound true
仲間たちとつるみ、大金を稼ぎ、本当のように聞こえる嘘をつかせるんだ
Come test me, I never cower
試してみろよ、俺は絶対に怯まない
For the love of money, son, I'm givin' lead showers
金への愛のためにな、坊や、鉛のシャワーを降らせてやるぜ
※「lead showers」は銃弾(鉛)の雨を降らせるということ。
Stop screamin', you know the demon said it's best to die
叫ぶのはやめな、悪魔も死ぬのが一番だって言ってたのを知ってるだろ
And even if Jehovah witness, bet he'll never testify
そしてたとえエホバが目撃したとしても、絶対に証言なんてしないと賭けてもいい
※「Jehovah witness(エホバの証人)」というキリスト教系の宗教団体の名前と、「エホバ(神)が事件を目撃(witness)して法廷で証言(testify)する」という高度な言葉遊び。「snitch(密告)」を絶対に許さないストリートの掟において、神ですら沈黙するという究極の脅し文句であり、ヒップホップ史上最も美しく恐ろしいパンチラインの一つとしてファンの間で語り継がれている。
D'evils
悪魔たちめ
[Outro: Snoop Dogg]
"Dear God, I wonder, can you save me?"
「親愛なる神よ、あなたは俺を救ってくれるだろうか?」
"I can't die, I can't die, I can't die"
「俺は死ねない、死ねない、死ねないんだ」
