Artist: JAY-Z
Album: Reasonable Doubt
Song Title: Politics as Usual
概要
1996年のデビューアルバム『Reasonable Doubt』に収録された本作は、JAY-Zがストリートの冷酷なハスラーからヒップホップ界のビジネスマンへと変貌を遂げる過渡期を象徴する一曲である。プロデューサーのSki Beatzが、フィラデルフィア・ソウルの名グループThe Stylisticsによる「Hurry Up This Way Again」を絶妙にサンプリングし、極上のメロウ・グルーヴを構築。その洗練されたトラックに乗せて、JAY-Zはドラッグディールの生々しい現実と、高級車、宝石、ラスベガスでのマネーロンダリングといった豪奢なマフィオソ・ライフスタイルを冷徹かつ滑らかにスピットしている。違法なストリートのシノギや生死を懸けたドラマさえも、彼にとっては単なる「いつものビジネス(Politics as Usual)」であるという達観したスタンスが、彼の天性のカリスマ性と圧倒的なリリシズムを見事に浮き彫りにしている90年代イーストコースト・クラシックだ。
和訳
[Intro]
You know how we do
いつものやり方を知ってるだろ
Roc-A-Fella... forever...
ロッカフェラ…永遠にな…
[Verse 1]
You can catch me
お前は俺の姿を見つけるかもしれないぜ
Skatin' through your town, puttin' it down, y'all relatin'
お前の街をスケートするように滑らかに駆け抜け、ブツを捌く、お前らも共感するだろ
No waitin', I'll make your block infrared hot: I'm like Satan
待たせやしない、お前のブロックを赤外線スコープのように熱くしてやる、俺はまるでサタンだ
※「infrared」は銃の赤外線レーザー照準器と熱をかけている。街を暴力とドラッグの熱で支配する様を悪魔(Satan)に例えている。
Y'all feel a nigga's struggle, y'all think a nigga love to
お前らは俺の苦しみを実感する、俺が好き好んでやってると思うか
Hustle behind the wheel, tryin' to escape my trouble
ハンドルを握ってハッスルし、トラブルから逃れようとしているのを
Kids stop they greetin' me, I'm talking suite to keys
ガキ共は立ち止まって俺に挨拶する、俺はスイートルームからキロ単位のブツの話をしてるんだ
※「suite to keys」はホテルのスイートルームの鍵(suite keys)と、ドラッグの取引単位であるキログラム(keys)のダブルミーニング。ストリートのキッズからリスペクトを集める大物ディーラーとしての地位を示唆している。
Cursin' the very God that brought this grief to be
この悲しみをもたらした神そのものを呪いながらな
My life is based on sacrifices, jewels like Isis
俺の人生は犠牲の上に成り立っている、アイシスのような宝石を身につけてな
※「Isis」は古代エジプトの女神であり、古代の遺物のような豪奢なジュエリー(あるいは当時の有名なジュエラー)を暗示している。
And fools that think I slip, you fuck around
俺がミスると思ってる馬鹿どもよ、ふざけた真似をしてみろ
You get your guys hit, they built me to be filthy
お前の仲間が撃たれることになるぜ、ストリートが俺を冷酷な人間に仕立て上げたんだ
※「filthy」はここでは大金持ち(filthy rich)と、汚れ仕事をする極悪人という両方のニュアンスを含んでいる。
On some I-do-or-die shit, for real
マジで、やるかやられるかの世界で生きてるんだ
The price of leather's got me, deeper than ever and
レザーの値段が上がって、俺は今まで以上に深くのめり込んでいる
Just think, winter's here, I'm tryin' to feel mink, nig-ga
考えてもみろ、冬が来たんだ、俺はミンクのコートを感じたいのさ
※「leather」「mink」と冬の高級素材を引き合いに出し、よりランクの高い贅沢(ミンク)を手に入れるために、さらに危険なハッスルへと足を踏み入れるストリートの尽きない欲望を描写している。
[Chorus]
Politics as usual
いつものビジネスさ
※「Politics as usual」は「日常茶飯事」「いつもの駆け引き」の意。生死を懸けたストリートの闘争や違法なシノギすらも、彼にとっては単なる「日々の業務(ビジネス)」に過ぎないという冷徹なハスラーの美学。
[Verse 2]
I took my Frito to Tito in the district
ダイヤの地区にいるティトのところに俺のフリートを持っていった
※「Frito」はFrito-Layのコーンチップスから転じた札束(金)の隠語。「Tito」はNYのダイヤモンド地区(Diamond District)に実在した有名な宝石商、Manny ("Tito")のこと。稼いだ大金を宝石に変えるハスラーの日常を描いている。
Blessed me with some VS
最高のVSクラスのダイヤで祝福してくれたぜ
※「VS」はVery Slightly Includedの略で、透明度が高く不純物が少ない高級なダイヤモンドのクラリティ・グレードを指す。
Somethings I can live with: stop frontin'
俺が納得できるシロモノだ、強がるのはやめな
And for the dough I raise, gotta get shit appraised
稼いだ金のために、しっかり鑑定させないとな
No disrespect to you, make sure your word is true
悪気はないが、お前の言葉が本当か確かめさせてもらう
I'm takin' wages down in Vegas just in case Tyson
ベガスに大金を持ち込むぜ、タイソンが
※ラスベガスでのギャンブルを通じてマネーロンダリングを行うというラインの始まり。
Have a major night off, that's clean money, the tax write-off
大きな試合を休んだ時のためにな、あれはクリーンな金だ、税金対策になる
※マイク・タイソンのボクシングの試合(ベガス開催)に違法に稼いだ大金を賭けることで、勝利金を合法的な「クリーンな金(Clean money)」として洗浄し、税務署の目を逃れるストリートの知恵を語っている。
You ain't seen money in your life, when it
お前は人生で本物の金を見たことがないんだろ
Comes to this cheese y'all like Three Blind Mice
このチーズとなれば、お前らはまるで三匹の盲目のネズミだ
※「cheese」は金(札束)のスラング。マザーグースの有名な童謡「Three Blind Mice(三匹の盲目ネズミ)」を引用し、ネズミ(ヘイターやフェイクラッパー)にはこの金が見えていない、つまり金の稼ぎ方を知らないと嘲笑している巧みなパンチライン。
I'm smokin' bros who pump Willie, I expose
ウィリーを気取ってる奴らを煙に巻いて、俺が暴いてやる
※「pump Willie」の「Willie」は大金持ち(Big Willie)のこと。大物を装っているだけのフェイクな連中を暴く(expose)という宣言。
The furthest you Chiles been is the Poconos
お前らガキ共が行ったことある一番遠い場所なんて、せいぜいポコノ山地だろ
※「Poconos」はペンシルベニア州の保養地。自分は全米や海外を飛び回る大物だが、小物どもは近場のリゾート止まりであるとスケールの違いを見せつけている。「Chiles」は子供(children/child)の意。
My portfolio reads: leads to Don Corleone, nigga please
俺のポートフォリオにはこう書かれてる、「ドン・コルレオーネへ繋がる」ってな、頼むぜ
※映画『ゴッドファーザー』のマフィアのボス、ドン・コルレオーネを引き合いに出し、自身のビジネスと人脈が裏社会の頂点レベルに達していると豪語している。
10-year felon, heavy on the wrist, I faze yous
10年の重罪犯、手首には重みがある、俺はお前らを怯ませる
※「heavy on the wrist」は重厚な高級時計やブレスレットを身に着けていることを指す。
With the diamond flooded Jesus and blind your facials
ダイヤが敷き詰められたジーザス・ピースで、お前らの目をくらませてやる
For life... it's right, Jigga, I keep it tight, nig-ga
一生な…その通りだ、ジガ、俺は隙を見せないぜ
[Chorus]
Politics as usual
いつものビジネスさ
[Verse 3]
You feel my triumph never - feel my pain
お前らは俺の勝利しか見ない、決して俺の痛みを感じることはない
I'm lyin' low in the leathers, I am, the best that's ever came
俺はレザーのシートに深く身を沈める、俺は史上最高の存在だ
The game changes like my mind just ain't right
ゲームは変わる、まるで俺の気が狂っちまったかのようにな
Rewind get this dough, I guess it ain't your night
時間を巻き戻してこの金を手にする、お前の夜じゃなかったってことだ
Suckin' me in like a vacuum, I remember
掃除機のように俺を吸い込んでいく、覚えているぜ
Tellin' my family: "I'll be back soon"; that was December
家族に「すぐ戻る」と言い残したことを、あれは12月だった
'85 and Jay-Z rise 10 years later
1985年のことだ、そして10年後、JAY-Zは這い上がった
※1985年にストリートのハッスル(ドラッグ密売)に本格的に足を踏み入れ、そこから10年後の1995〜96年(本作のリリース時)にラッパーとしての成功を手にしたという自身のキャリアのリアルなタイムラインを明かしている。
Got me wise still can't break my underworld ties
賢くはなったが、未だに裏社会との繋がりは断ち切れない
I wear black a lot, in the Ac', act a lot
黒い服ばかり着て、アキュラに乗って、よく演技をする
※「Ac'」はホンダの高級車ブランド、アキュラ(Acura)。黒い服はマフィアやハスラーの象徴的なスタイル。
Got matchin' VCR's, a huge Magnavox
セットのVCRに、巨大なマグナボックスのテレビを持ってる
※「Magnavox」はアメリカの老舗家電ブランド。当時は巨大なテレビとビデオデッキ(VCR)を揃えることがストリートの成功者のステータスであった。
Ten inch, green like spinach, pop wines that's vintage
10インチのモニター、ほうれん草みたいな緑色の札束、ヴィンテージのワインを空ける
※「green like spinach」の「spinach(ほうれん草)」は緑色、つまりアメリカの紙幣(現金)を指すストリート・スラング。
It's a lot of big money in my sentence
俺の言葉には、大金が詰まってるんだ
※「sentence」は文章(リリック)と、刑期(prison sentence)のダブルミーニング。ストリートのライフスタイルを語るリリックが莫大な金を生むことと、その裏にある逮捕・投獄のリスクを同時に示している高度なライン。
Hittin' towards a mil', lip a, written I kill like that
ミリオンに向かって突き進む、口走る言葉、書いたリリックで俺は殺しをやるんだ
※「mil'」は100万ドル(ミリオン)。
Check baby one-two cat, yeah, I do that
チェック・ベイビー・ワン・ツー、イェー、俺のやり方さ
Ain't no stoppin' the champagne from poppin'
シャンパンの栓が抜かれるのを止めることはできない
The drawers from droppin', the law from watchin', I hate 'em
女のパンティが落ちるのも、サツが見張るのもな、奴らは大嫌いだが
※「The drawers」は下着(パンティ)。「the law」は警察。成功に伴って群がる女性と、常に監視してくる警察の両方から逃れられないハスラーの運命を歌っている。
[Chorus]
Politics as usual
いつものビジネスさ
