Artist: JAY-Z (feat. Mary J. Blige & Pain In Da Ass)
Album: Reasonable Doubt
Song Title: Can’t Knock the Hustle
概要
JAY-Zの1996年のデビューアルバム『Reasonable Doubt』のオープニングを飾る本作は、彼がストリートのハスラーからヒップホップ界の帝王へと成り上がる第一歩を刻んだ記念碑的楽曲である。プロデューサーのKnobodyは、Meli'sa Morganの1986年のR&Bクラシック「Fool's Paradise」をサンプリングし、洗練されたマフィオソ・ラップの世界観を見事に構築した。客演には「クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル」ことMary J. Bligeを迎え、ストリートの生々しい現実とメインストリーム向けのキャッチーさを融合させている。冒頭では映画『スカーフェイス』にインスパイアされたPain In Da Assによるスキットが挿入され、ドラッグディーラーとしての冷酷な過去と、手段を選ばず成功を掴み取る「ハッスル」の美学を提示。単なるサグライフの誇示ではなく、抜け出せないシステムへの抵抗と野心を詩的なリリシズムで昇華した、90年代東海岸ヒップホップを代表するクラシックである。
和訳
[Skit: Pain In Da Ass]
Ah shit, okay, okay, alright
クソッ、よし、わかった、いいだろう
Big man! You wanna make some big bucks, huh?
大物気取りか!大金を稼ぎたいんだろ、え?
Let's see how tough you are
お前がどれだけタフか見せてもらおうか
You know something about cocaine? Digame!
コカインについて何か知ってるのか?言ってみろ!
※「Digame」はスペイン語で「言ってみろ(Tell me)」の意。映画『スカーフェイス』におけるマニーやトニー・モンタナの喋り方を模倣した、Pain In Da Assによるマフィア風の演技である。
You kidding me or what man?
ふざけてるのか、あぁ?
There's a bunch of Colombians coming in Friday - new guys
金曜にコロンビア人の連中が来る、新顔だ
They said they got two keys for us, for openers
挨拶代わりに2キロ用意したってよ
※「keys」はキログラム(kilos)の略で、ドラッグの取引単位を指すストリートスラング。
Pure cocaine, you tell 'em, capiche?
純度100パーセントのコカインだ、奴らにそう伝えろ、分かったな?
※「capiche」はイタリア語由来のスラングで「理解したか?」の意。マフィア映画の定番フレーズ。
I want you to go over there
お前はそこへ行け
And if it is what they say it is, you buy it, you bring it back
もし奴らの言う通りの代物なら、買って持ち帰ってこい
You can do that you make five grand
それができたら5000ドルやる
Meet them at the Bodegas, noon Friday
金曜の正午、ボデガで奴らと会え
※「Bodega」はNYなどの中南米系移民が多く住む地域にある小規模な食料品店・日用品店のこと。
You get the buy money then
そこで買い付けの金を渡す
Oh and chico, if anything happens to the buy money
ああ、それとなチコ、もしその金に何かあったら
※「chico」はスペイン語で「坊や」の意。
Eh, pobrecito
ええと、可哀想にな
※「pobrecito」はスペイン語で「哀れな奴」「可哀想に」の意。
JAY-Z's gonna stick your heads up your asses faster than a rabbit gets fucked
ウサギがヤるより早く、JAY-Zがお前らの頭をケツの穴に突っ込んでやるからな
※ウサギの交尾が非常に速いことを用いたジョーク。失敗すればJAY-Zによって即座に無惨な制裁を下されるというマフィア的な脅し。
[Intro: Jay-Z]
(Just talk about)
(とにかく語ろう)
Bounce.. bounce, bounce, Jay-Z huh?
バウンス…バウンス、バウンス、JAY-Zだろ?
(Just talk about)
(とにかく語ろう)
Yeah, yeah, yeah, Roc-A-Fella y'all, ha ha
(Yeah, yeah, yeah) ロッカフェラだぜ、お前ら (ha ha)
Bounce, bounce, bounce, Roc-A-Fella y'all
バウンス、バウンス、バウンス、ロッカフェラだぜ、お前ら
Check, check
チェック、チェック
[Verse 1: Jay-Z]
Yo, I'm making short term goals when the weather folds
ヨォ、季節が変わる頃には短期的な目標を立てる
Just put away the leathers, and put ice on the gold
レザーの服をしまって、ゴールドチェーンにダイヤをちりばめるんだ
※「ice」はダイヤモンドのこと。夏に向けて服装を変え、ジュエリーを身につけてストリートで目立つ準備をする様子を描いている。
Chilly with enough bail money to free a Big Willie
ビッグ・ウィリーを釈放できるほどの保釈金を持って冷酷にキメる
※「Big Willie」は大金持ちや権力者を指すスラング。ここでは俳優のウィル・スミス(Big Willie)とのダブルミーニングという説もあるが、大物を保釈できるほどの莫大な現金を常に持ち歩いているというハスラーとしての余裕を示している。
High stakes, I got more at stake than Philly
ハイリスクだ、フィリー以上のものを懸けてるぜ
※「Philly」はフィラデルフィアの略称だが、ここではフィラデルフィアにある名物ステーキ「フィリーチーズステーキ(Philly Cheesesteak)」の「steak」と、「賭け金・リスク」を意味する「stake」をかけた言葉遊び。
Shopping sprees, cop in three
爆買いの連発だ、3つまとめて買っちまう
Deuce fever IS's fully loaded, ah, yes
フル装備のレクサスISに熱狂してる、あぁ、最高だ
※「Deuce」は2(ここでは車のモデルなどを指す場合がある)、「IS」はレクサス(Lexus)の車種。成功者の象徴としての高級車を誇示している。
Bouncing in the Lex Luger, tires smoke like Buddha
レックス・ルガーでバウンスし、タイヤからはブッダのように煙が上がる
※「Lex Luger」はプロレスラーの名前だが、ここでは愛車のレクサス(Lexus)と拳銃のルガー(Luger)をかけた隠語。「Buddha」は上質なマリファナを指すスラングであり、急発進するタイヤの煙をマリファナの煙に例えている。
50 G's to the crap shooter, niggas can't fade me
クラップスのギャンブラーに5万ドル賭ける、誰も俺を消せやしない
※クラップス(サイコロを使ったギャンブル)に5万ドル(50 G's)という大金を平気で賭ける度胸をアピールしている。
Chrome socks beaming, through my peripheral I see you scheming
クロームメッキのホイールが輝く、視界の隅でお前らが企んでるのが見えるぜ
※「Chrome socks」は車のクロームリム(ホイール)のこと。周囲の嫉妬や裏切りの気配を常に警戒している様子。
Stop dreaming, I leave your body steaming
夢見るのはやめな、お前の死体から湯気が立つことになるぞ
※銃撃によって流れた血が温かく、死体から湯気が立つ様子を描写したマフィオソ・ラップ特有の冷酷な表現。
Niggas is fiending, what's the meaning?
奴らは血眼になってる、一体どういう意味だ?
I'm leaning on any nigga intervening with the sound of my money machining (brrrr)
俺の札束を数える機械の音を邪魔する奴には、誰であろうと圧力をかける (brrrr)
※「money machining」は札束を数える機械(マネーカウンター)のこと。直後の「(brrrr)」はその機械の作動音のアドリブ。
My cup runneth over with hundreds
俺のグラスは100ドル札で溢れかえっている
※旧約聖書(詩篇第23篇)の「My cup runneth over(私の杯は溢れる=恵みで満たされている)」を引用し、神の恵みではなく100ドル札の束で満たされていると皮肉交じりに表現している。
I'm one of the best niggas that done it, six digits and running
俺はこれを成し遂げた最高の男の一人だ、6桁の額を稼ぎ続けてる
※「six digits」は10万ドル単位の金額。
Y'all niggas don't want it! I got the Godfather flow, the Don Juan DeMarco
お前らには手に負えないぜ!俺はゴッドファーザーのフロウ、ドン・ファン・デマルコを持ってるんだ
※マフィア映画『ゴッドファーザー』のような威厳と、ジョニー・デップ主演の映画『ドンファン』の主人公のような女性を惹きつける魅力を併せ持っているという宣言。
Swear to God, don't get it fucked up!
神に誓って、勘違いするんじゃねえぞ!
[Chorus 1: Mary J. Blige & Jay-Z]
I'm taking out this time (Yeah, yeah, what)
今こうして時間を取っているのは (Yeah, yeah, what)
To give you a piece of my mind
私の考えをあなたに伝えるためよ
('Cause you can't knock the hustle)
(俺のハッスルを邪魔することは誰にもできないからな)
※「knock the hustle」は「必死に稼ぐこと(ハッスル)を非難する・邪魔する」の意。ストリートでの生き残りをかけた努力を他人がとやかく言う資格はないという、本作のコアとなるスタンス。
Who do you think you are?
自分のことを何様だと思ってるの?
Baby, one day you'll be a star
ベイビー、いつかあなたはスターになるわ
[Verse 2: Jay-Z]
Last seen out of state where I drop my sling
最後に目撃されたのは州外だ、そこでブツを捌いてきた
※「drop my sling」はドラッグの取引(密売)を指す隠語。地元NYを離れて遠征し、大規模な取引を行っていた過去を示唆している。
I'm deep in the South, kicking up top game
俺はディープ・サウスに潜り込み、極上のゲームを展開してる
※「South」はアメリカ南部(バージニアやノースカロライナなど)のこと。NYのディーラーが南部へ降りてドラッグを高値で売るという、当時のストリートの現実的なビジネスモデルを描写している。
Bouncing on the highway, switching four lanes
ハイウェイをバウンスしながら、4つの車線を縫うように走る
Screaming through the sunroof, "Money ain't a thang"
サンルーフから叫ぶんだ、「金なんて大した問題じゃねえ」ってな
※このフレーズは後に、Jermaine Dupriとのコラボ曲「Money Ain't a Thang」へと繋がるJAY-Zのアイコニックなマントラの一つである。
Your worst fear confirmed, me and my fam roll tight like The Firm
お前の最悪の恐怖が現実になったな、俺とファミリーはザ・ファームのように固く結ばれてる
※「The Firm」はNas、AZ、Foxy Brown、Cormegaからなるヒップホップ・スーパーグループ、あるいはジョン・グリシャムの小説/映画『ザ・ファーム 法律事務所』に登場するような強固な組織を指すダブルミーニング。
Getting down for life, that's right, you better learn
一生を懸けてやり遂げる、その通りだ、お前らも学んだ方がいい
Why play with fire? You burn
なぜ火遊びなんてするんだ?火傷するぜ
We get together like a choir, to acquire what we desire
俺たちは聖歌隊のように団結し、求めるものを手に入れる
We do dirt like worms, produce G's like sperm
俺たちはミミズのように土まみれの汚れ仕事をし、精子のようにギャングスタを生み出す
※「dirt」は土と違法行為(汚れ仕事)のダブルミーニング。「G's」は数千ドル(千=Grand)の金、もしくはギャングスタ(Gangstas)の意。
'Til legs spread like germs
病原菌のように脚が広がるまでな
※病原菌(germs)が感染拡大(spread)することと、女性が脚を開く(spread legs)ことをかけた、やや露骨なワードプレイ。
I got extensive hoes with expensive clothes
高価な服を着た女たちを大勢はべらせてる
And I sip fine wines and spit vintage flows
そして俺は高級ワインを嗜み、ヴィンテージ物のフロウを吐き出すんだ
What y'all don't know?
お前ら何も分かってないのか?
Yeah, yeah, yeah, yeah, 'cause you can't knock the hustle
(Yeah, yeah, yeah, yeah) 俺のハッスルを邪魔することなんてできないからな
[Chorus 2: Mary J. Blige & Jay-Z]
But until then lately, I'm the one who's crazy?
でも最近まで、おかしかったのは私の方なの?
'Cause that's the way you're making me feel
あなたが私にそんな思いをさせているからよ
('Cause you can't knock the hustle)
(俺のハッスルを邪魔することは誰にもできないからな)
The way you make me feel
あなたが私に抱かせるこの感情
I'm just trying to get mine, I don't have the time
俺は自分の取り分を手に入れようとしてるだけだ、時間はないんだ
To knock the hustle for real
他人のハッスルを非難してる暇なんてマジでないぜ
[Verse 3: Jay-Z]
Yo, y'all niggas lunching, punching the clock
ヨォ、お前らは昼飯を食いながらタイムカードを押してるだけだ
※「lunching」は食事をすることと、頭がおかしい(out to lunch)のダブルミーニング。平凡な労働(punching the clock)に甘んじているヘイターたちを見下している。
My function is to make much and lay back munching
俺の役割は大金を稼いで、リラックスしながらご馳走を平らげることだ
Sipping Remy on the rocks, my crew something to watch
ロックでレミーを飲みながらな、俺のクルーは見逃せない存在だぜ
※「Remy」は高級コニャックのレミーマルタン(Rémy Martin)のこと。
Nothing to stop, unstoppable
止めるものは何もない、誰にも止められない
Scheme on the ice, I gotta hot your crew
ジュエリーを奪おうと企むなら、お前のクルーを撃ち抜いて熱くしてやる
※「ice」はダイヤモンド。「hot」は銃撃して熱い弾丸を撃ち込む、あるいは状況を危険にするという意味のストリートスラング。
I gotta, let you niggas know the time like Movado
モバードのように、お前らに今の時間を教えてやらなきゃな
※「Movado(モバード)」はスイスの高級時計ブランド。時計だから時間を教えるというシンプルな言葉遊び。
My motto, stack rocks like Colorado
俺のモットーは、コロラドのように岩を積み上げることだ
※「rocks」はコカインの塊(クラック)のこと。コロラド州のロッキー山脈(Rocky Mountains)に引っ掛けて、麻薬で莫大な利益を積み上げる様子を例えている。
Waddle off the champagne, Cristals by the bottle
シャンパンで酔ってふらつく、クリスタルをボトルごと空けるんだ
※「Cristal」は高級シャンパンのルイ・ロデレール・クリスタル。JAY-Zはこの後長くクリスタルを愛飲しヒップホップ界で大流行させた。
It's a damn shame what you're not though, (Who?) me!
お前がそうじゃないのは本当に残念なことだな、(誰がって?)俺のことだよ!
Slick like a gato, fucking Jay-Z
猫のように滑らかで狡猾な、ヤバいJAY-Z様だ
※「gato」はスペイン語で猫。ストリートをしなやかに生き抜く様を猫に例えている。
My pops knew exactly what he did when he made me
俺の親父は、俺を作った時に自分が何をしているのか完全に分かっていたはずだ
Tried to get a nut, and he got a nut, and.. what!?
一発ヤろうとして、頭のぶっ飛んだヤツを授かったんだ、文句あるか!?
※「get a nut」は射精する(セックスする)というスラング。「got a nut」のnutは狂人や変人(クレイジーな奴)を意味し、親父の性欲の結果として俺というヤバい才能が生まれたという下ネタ交じりのジョーク。
Straight bananas; can a nigga see me?
マジで狂ってるぜ、誰が俺のレベルに達せるんだ?
※「bananas」はクレイジーであることを意味するスラング。「see me」は「俺と張り合う、対等になる」の意味。
Got the US Open, advantage Jigga
全米オープンを手に入れた、アドバンテージはジガにある
Serve like Sampras, play fake rappers like a campus
サンプラスのようにサーブを決め、フェイクなラッパーたちをキャンパスのように手玉に取る
※「US Open」「advantage」「Serve」「Sampras(ピート・サンプラス:テニスの伝説的プレイヤー)」とテニス用語を連続して使用。「Serve」にはテニスのサーブと、ドラッグを客に売り捌く(サーブする)ことのダブルミーニングが含まれる。「campus」は、大学のキャンパスのように新米ラッパーたちを遊び場として扱うというメタファー。
Le Tigre, son, you're too eager
ル・ティグレを着てる坊や、お前はがっつきすぎだ
※「Le Tigre」は1980年代に人気だったアパレルブランド。時代遅れの服を着ている若手ラッパー(son)の焦りを嘲笑している。
You ain't having it? Good! Me either
納得いかないか?上等だ!俺も同じだ
Let's get together and make this whole world believe us, huh?
俺たちで組んで、この世界全体に俺たちのことを信じさせようぜ、なぁ?
At my arraignment, screaming
罪状認否の法廷で、俺は叫ぶんだ
All us blacks got is sports and entertainment, until we even
俺たち黒人に残されたのは、平等になるまでスポーツとエンターテインメントしかないってな
※黒人がアメリカ社会で合法的に富と地位を得る手段が、スポーツ選手かミュージシャン(エンターテインメント)に限られているという、人種的・構造的な不平等に対する強烈な社会批判(コンシャスな視点)が込められたライン。
Thieving, as long as I'm breathing
息をしている限り、手段を選ばず奪い取るさ
Can't knock the way a nigga eating, fuck you even!
俺のメシの食い方に文句は言わせない、お前らなんてクソ食らえだ!
※「eating」は食事をすることから転じて、金を稼いで生活すること。違法であれ何であれ、自分が生き抜くための手段(ハッスル)を非難する偽善者たちへの怒りでヴァースを締めくくっている。
[Chorus 1 & 2: Mary J. Blige]
I'm taking out this time, to give you a piece of my mind
今こうして時間を取っているのは、私の考えをあなたに伝えるためよ
Who do you think you are?
自分のことを何様だと思ってるの?
Baby, one day you'll be a star
ベイビー、いつかあなたはスターになるわ
But until then lately, I'm the one who's crazy?
でも最近まで、おかしかったのは私の方なの?
'Cause that's the way you're making me feel
あなたが私にそんな思いをさせているからよ
I'm just trying to get mine, I don't have the time
俺は自分の取り分を手に入れようとしてるだけだ、時間はないんだ
To knock the hustle for real
他人のハッスルを非難してる暇なんてマジでないぜ
