Artist: Black Thought
Album: Streams of Thought, Vol. 3: Cane & Able
Song Title: I’m Not Crazy (First Contact)
概要
Black Thoughtが全編のプロデュースにSean Cを迎え、2020年にリリースしたEP『Streams of Thought, Vol. 3: Cane & Able』のオープニングを飾るイントロダクション的なトラックだ。本作の最大の特徴は、ネイティブ・アメリカンの詩人であり著名な人権活動家であった故ジョン・トルーデル(John Trudell)の痛烈なスピーチがサンプリングされている点にある。クリストファー・コロンブスのアメリカ大陸「発見」という西洋中心主義的な歴史観を「ウイルスの到来」と定義づけ、先住民が持っていた人間としての根本的な尊厳と対比させている。さらに、カリフォルニアの山火事や、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動の背景にある現代の警察の暴力(Police Brutality)の生々しい音声をシームレスに織り交ぜることで、数百年前の植民地支配から現代の抑圧に至るまでの歴史的な連続性を容赦なく突きつける。Black Thoughtのコンシャスなスタンスと、アルバム全体に流れる「闘争と覚醒」のテーマを凝縮した重厚な幕開けである。
和訳
[Intro: Black Thought, John Trudell]
Twenty-one pounds, twenty-one pounds, twenty-one pounds, twenty-one pounds, twenty-one pounds
21ポンド、21ポンド、21ポンド、21ポンド、21ポンド
※「21ポンド」はBlack Thoughtの地元フィラデルフィアの市外局番「215」を表す彼特有のシグネチャー・フレーズ。
Yeah
イェー
So, when Columbus got here, he got off the boat and he said to the first people he saw: "Who are you?" And the first people he saw said: "We're human beings."
それで、コロンブスがここに到着した時、彼は船を降りて、最初に目にした人々に「お前たちは誰だ?」と尋ねた。すると、彼が最初に目にした人々はこう答えたんだ。「私たちは人間です」と。
※ネイティブ・アメリカンの活動家ジョン・トルーデルのスピーチからのサンプリング。先住民にとっては自分たちを部族名や人種ではなく、単なる「自然と共存する人間」として認識していたことを示している。
[Verse: Black Thought, John Trudell]
They say the world keep turnin', California's burnin'
世界は回り続けているというが、カリフォルニアは燃え盛っている
※気候変動によって毎年のように深刻化するカリフォルニアの山火事と、社会的な混沌や暴動を掛けている。
Who reignited the thirst for knowledge over the learnin'?
ただの学習を超えた、真の知識への渇望に再び火をつけたのは誰だ?
※学校教育(Learnin')で教えられる白人中心の歴史ではなく、隠された真実の歴史(Knowledge)を探求する姿勢を指している。
Oh wise and powerful, black scholar holdin' a sermon
おお、賢明で力強い、説教を行う黒人学者よ
The Gods is proud of you with your sword raised in a turban
ターバンを巻き、剣を掲げるお前を、神々は誇りに思っている
※イスラム教やムーア人の影響を受けた初期のブラック・ナショナリズムの精神。知識(学者)と武力(剣)の両方で戦う姿勢のメタファー。
Columbus said: "Oh, Indians"
コロンブスは言った。「おお、インディアンか」と
※前述のトルーデルのスピーチの続き。コロンブスがインドに到達したと勘違いし、先住民に「インディアン」という誤ったレッテルを貼った歴史的無知を非難している。
The return of the prodigal sire accountable
放蕩な君主の帰還、その責任を問われる
※「Prodigal(放蕩な)」は新約聖書の「放蕩息子のたとえ話」を連想させつつ、シーンに帰還した王(Black Thought)が、再びその言葉で責任を全うすることを意味する。
For makin' remarks, remarkable
注目に値する発言をしたことの責任をな
I hear some artists withdrew and I was responsible
何人かのアーティストが身を引いたと聞いたが、俺がその原因だぜ
※Black Thoughtの圧倒的なラップスキルの前に、他のMCたちが戦意喪失してしまったという強烈なボースト。
A vessel partial for sendin' that holy gospel through
あの神聖な福音を届けるために、偏愛された器さ
※ヒップホップの真髄や歴史の真実(福音)を大衆に伝えるために、ヒップホップの神に選ばれた伝道者としての自負。
Columbus is every descendant of the tribe of Europe that came
コロンブスとは、ここへやって来たヨーロッパの部族のすべての末裔のことだ
This is a mentality that came, the "Columbus Mentality" we name it
これは持ち込まれた精神性であり、私たちはそれを「コロンブス・メンタリティ」と呼んでいる
But in about discovering this it's, you know almost like this is when the virus got here
これを発見したということについて言えば、ご存知の通り、まるでウイルスがここに到達した時のようなものなんだ
※白人植民地主義者の「発見」や「開拓」という美化された言葉の裏にある、先住民の虐殺、搾取、そして病原菌の持ち込みという歴史的惨劇を「ウイルスの到達」と表現している。
We go to war when peaceful solution's impossible
平和的な解決が不可能な時、俺たちは戦争へと向かう
A mountain is not to be confused with an obstacle
山を、単なる障害物と混同してはならない
※目の前にそびえ立つ困難(黒人が直面するシステム上の抑圧)は、乗り越え、登り詰めるべき壮大な挑戦(山)であるという哲学。
Anyway, when Columbus got here
とにかく、コロンブスがここに到着した時
And he didn't know what it meant to be a human being.
彼は「人間であること」の意味を知らなかったのだ
[Outro]
Easy, stop fucking resisting, back up, back up
落ち着け、抵抗してんじゃねえ、下がれ、下がれ
※警察官が市民に対して過剰な武力を行使している際の、リアルで緊迫した現場の音声サンプリング。
What the fuck, I'm standing right here
何だってんだ、俺はただここに立ってるだけだぞ
I'm not moving, I'm just standing still
動いてない、ただじっと立ってるだけじゃないか
Back up, back up
下がれ、下がれ
Love, patience, brotherhood and unity
愛、忍耐、兄弟愛、そして団結
We try and we try and we try, if they become a threat
私たちは何度も、何度も、何度も試みる、もし奴らが脅威となるのなら
※暴力的で抑圧的なシステムに対して、黒人コミュニティが連帯し、愛と忍耐をもって対抗し続けなければならないという決意のメッセージ。
