Artist: Black Thought
Album: Streams of Thought, Vol. 2
Song Title: Long Liveth
概要
2018年にリリースされたBlack Thoughtとサラーム・レミ(Salaam Remi)のコラボレーションEP『Streams of Thought, Vol. 2: Traxploitation』に収録された一曲。ザ・ルーツのフロントマンとして長年シーンの最前線に立ち続けてきた彼が、自らのキャリアを振り返りつつ、現在のヒップホップシーンにはびこるフェイクなラッパーたちを容赦なく切り捨てる。タイトルの「Long Liveth」は「Long live the King(王万歳)」などの古い英語表現に由来し、自らがラップゲームにおける揺るぎない「王」であることを宣言している。ピューリッツァー賞やダライ・ラマ、そしてストリートの生々しい記憶までをシームレスに繋ぎ合わせる圧倒的なワードプレイは、彼が単なるラッパーではなく、最高峰の「言語芸術家」であることを証明している。ブーンバップの重みとコンシャスな哲学が見事に融合した傑作である。
和訳
[Intro]
Uh, yo
[Verse 1]
Greetings and salutations, I'm runnin' outta patience
ご挨拶と敬礼を、俺はもう我慢の限界だ
So everything in moderation, even moderation
だから何事もほどほどに、ほどほどにすることすらもな
※オスカー・ワイルドの有名な格言「Everything in moderation, including moderation(何事もほどほどに、ほどほどにすることも含めて)」からの引用。過剰なシーンに対する皮肉。
Check every single allegation for re-calibration
再調整のために、すべての申し立てをひとつ残らずチェックしろ
Call that the big pay back, it's debt consolidation
それを大いなる復讐と呼ぶ、借金のおまとめ払いさ
※ジェームス・ブラウンのクラシック「The Payback」を引き合いに出し、シーンのフェイクな連中へのツケをまとめて回収するという意思表示。
The credit fell, what the hell, too much béchamel
信用は地に落ちた、なんてこった、ベシャメルソースが多すぎる
※ベシャメルソース(ホワイトソース)の白さと、ヒップホップシーンが白人化(商業化・ポップ化)して本来の味や信用を失っていることへの強烈な皮肉。
Well, F-M-L, they desecrated the decibel
まあ、F-M-Lだ、奴らはデシベルを冒涜しやがった
※「F-M-L」は「Fuck My Life(最悪だ)」の略。質の低い音楽が鳴り響く状況への怒り。
Go check the mail then let me know if it's heads or tails
郵便をチェックしてこい、そして表か裏か教えてくれ
My ears burn like desert trails and Jezebels
俺の耳は砂漠の道やイゼベルのように燃えている
※「耳が燃える」は誰かが自分の噂をしているという英語の慣用句。イゼベルは聖書に登場する悪女の象徴。
Uh, somebody must be talkin' 'bout me
ああ、誰かが俺の噂をしてるに違いない
For carryin' a big stick and walkin' loudly
大きな棍棒を持ち、大きな音を立てて歩いているからな
※セオドア・ルーズベルト大統領の有名な外交方針「Speak softly and carry a big stick(穏やかに話し、大きな棍棒を持て)」をもじり、自分は声高に歩く絶対的強者だと誇示している。
Articles in the Times and the New Yorker 'bout me
タイムズ誌やニューヨーカー誌にも俺の記事が載る
My killer instinct is like Orchid, probably
俺のキラー・インスティンクトは、たぶんオーキッドみたいなもんだ
※格闘ゲーム『Killer Instinct』のキャラクター、オーキッド(Orchid)のこと。自身の闘争本能の鋭さを表現。
I'm a Pulitzer Prize Fighter how I vaporize writers
俺はピューリッツァー賞のファイターさ、ライターどもを蒸発させてやるんだ
※ピューリッツァー賞(優れたジャーナリストや著作家に贈られる最高賞)と、プライズファイター(賞金稼ぎのボクサー)を掛け合わせた見事なワードプレイ。
Shut 'em down at one time, synchronize silence
一度に奴らを黙らせる、沈黙を同期させるんだ
Make the audience forget you, call it Alzheimer's
観客にお前のことを忘れさせる、それをアルツハイマーと呼ぶのさ
Child rhymers don't come at the old timers
子供のライマーどもは、オールドタイマーに刃向かってくるな
Whether your fan base is lil' mommas or Obamas
お前のファン層が若いギャルだろうが、オバマ一家だろうが関係ねえ
How you claim to have somethin' in check with no commas?
コンマもねえのに、どうやって何かを掌握してるなんて主張できるんだ?
※「Commas」は銀行口座の残高のカンマ(大金)を意味する。大金も稼いでいないのに偉ぶる若手への痛烈な皮肉。
You and Mary got the same request, it's No Drama
お前とメアリーは同じ願いを持っている、「ノー・ドラマ」ってな
※メアリー・J. ブライジの2001年の大ヒット曲「No More Drama」の引用。俺とビーフを起こすような面倒事はご免だろ、というメッセージ。
I'm the pinnacle of language, yes, the Dalai Lama
俺は言語の頂点、そうさ、ダライ・ラマだ
Who the clown talkin' down to the twenty-one pound?
21ポンドを見下してるピエロはどこのどいつだ?
※「21ポンド」はフィラデルフィアの市外局番「215」。地元フィリーを軽視する連中への警告。
I gotta send him some rounds to simmer him down
奴を大人しくさせるために、何発かラウンドを送り込んでやらなきゃな
※「Rounds」は銃弾と、ボクシングのラウンドのダブルミーニング。
'Cause you're not worthy to even touch the hem of the gown
お前はガウンの裾に触れる価値すらないんだからな
The brim of the crown, motherfucker, remember the sound
王冠の縁にもな、クソ野郎、このサウンドを覚えておけ
It's like
まるで
[Break]
Hey, yo
Yo
[Verse 2]
Since the second grade I been gainfully employed
小学2年の頃から、俺は実入りのいい仕事をしてきた
Hustlin' for change everyday from three to four
毎日3時から4時まで、小銭を稼ぐためにハッスルしてたんだ
When other kids was into playin' games and bein' bored
他のガキどもがゲームで遊んで退屈してた時にな
Goin' against the grain's what I painfully enjoyed
流れに逆らうことこそ、俺が痛みを伴いながらも楽しんだことだ
When they was into race cars, trains, TV and toys
奴らがレーシングカーや電車、テレビやオモチャに夢中だった時
I was thinkin' fat gold chains and freakazoids
俺は太いゴールドチェーンやフリーカゾイドのことを考えていた
※「Freak-A-Zoid」はMidnight Starの1983年のエレクトロ・ファンクのヒット曲。幼少期からヒップホップカルチャーやブラックミュージックに魅了されていたことを示している。
Fillin' the deeper void, listenin' to that Indecent Noise
より深い虚無感を埋めるため、あの下品なノイズを聴いていた
※初期のヒップホップは大人たちから「ノイズ」と呼ばれ、社会的に顔をしかめられる音楽だった。
People used to tell me, "Boy, your brain gon' be destroyed"
みんなよく俺に言ったよ、「坊主、お前の脳みそは破壊されちまうぞ」ってな
Left hand to the law, right hand to Allah
左手は法に、右手はアッラーに
※裁判での宣誓(左手を聖書に置く)と、イスラム教への信仰。ストリートの掟やアメリカの司法制度と、神への信仰の間で揺れ動く黒人の生き様。
Both hands to applaud who brought sand to the shore
両手は、岸に砂を運んできた者に拍手を送るため
※ヒップホップの基盤を作った先人たちへの深い敬意。
Confessin' all your sins to the dope man through a door
ドア越しに、麻薬の売人へ自分のすべての罪を告白する
※教会の懺悔室(ドア越しに神父に罪を告白する)と、ゲットーで売人からドラッグを買う行為を重ね合わせた強烈なメタファー。
I seen a preacher man sniffin' cocaine through a straw
俺は牧師がストローでコカインを吸うのを見たぜ
※聖職者すらもドラッグに溺れるストリートの腐敗と絶望。
We almost had it all, just one more cannon ball
俺たちはもう少しですべてを手に入れられた、あともう一発のキャノンボールがあれば
And two more Geritol with one more Adderall
そしてあともう2錠のジェリトールと、あともう1錠のアデロールがあればな
※ジェリトール(ビタミン・鉄分補給剤)とアデロール(ADHD治療薬・中枢神経刺激薬)。限界を超えて過酷な環境を生き抜くため、薬やサプリメントに依存せざるを得ないハスラーの現実。
I got the game sewn like the tailor of Panama
俺はこのゲームを完璧に縫い上げた、パナマの仕立て屋のようにな
※ジョン・ル・カレのスパイ小説および映画『テイラー・オブ・パナマ(The Tailor of Panama)』。ラップゲームの裏側を巧妙に仕切るフィクサーとしての自分。
Now I go by the name of an untamed animal
今や俺は、飼い慣らされない獣という名で通っている
Wonderin' how I can evolve to prestigious and less vicious
どうすればもっと名誉ある、そして凶暴ではない存在へと進化できるのかと考えてるよ
A more visceral individual, best wishes
より本能的な個人へとな、幸運を祈るぜ
Just on principle, I been answerin' death wishes
ただの信条として、俺は死の願いに応え続けてきた
※自分に挑んでくる(=死を願っている)フェイクなラッパーたちを、容赦なくラップで葬り去ってきたということ。
What the Lord giveth is a king, long liveth
主が与え給うたのは王だ、長生きせんことを
※「The Lord giveth and the Lord taketh away(主は与え、主は奪う)」という聖書の言葉と、「Long live the King(国王陛下万歳)」を組み合わせた、圧倒的な王者の宣言。
