Artist: Black Thought
Album: Streams of Thought, Vol. 2
Song Title: Soundtrack to Confusion
概要
『Streams of Thought, Vol. 2: Traxploitation』(2018年)に収録された本作は、名プロデューサーであるSalaam Remi(サラーム・レミ)とのコラボレーションから生まれたコンシャス・ヒップホップの真髄である。混迷を極める現代社会の「サウンドトラック」として機能するこの楽曲で、Black Thoughtは自らを羅針盤を持たぬ時代の指揮官に位置づけている。彼のペンは、個人的な成功と喪失の記憶から、歴史上の偉人、アメリカの黒人史、そして現代の銃社会や陰謀論に至るまで、極めて広範なトピックをシームレスに縫い合わせる。単なるビートメイキングを超えたサラーム・レミの重厚でソウルフルなプロダクションと、Black Thoughtの息継ぎすら許さない圧倒的なワードプレイが融合し、リスナーに深い知への探求を突きつける歴史的かつ哲学的なマスターピースとなっている。
和訳
[Intro]
This shit crazy
こいつは狂ってる
Two-fifteen
215
※フィラデルフィアの市外局番。Black Thoughtの地元へのシャウトアウト。
[Verse 1]
Uh, I'm here seated at the helm
ああ、俺はここで舵を握って座っている
The black soundtrack to confusion is the film
混迷に向けた黒いサウンドトラックこそが、この映画そのものだ
I'm channelin' uncertainty and usin' it to tell
俺は不確実性を呼び込み、それを語るために利用する
The story of winnin' in life, then losin' it as well
人生で勝利を収め、そして同時にそれを失う物語をな
The triumph was Makaveli inspired
その勝利はマキャヴェリに触発されたものだ
※ルネサンス期の思想家ニッコロ・マキャヴェリ、あるいは彼に傾倒し「Makaveli」を名乗った2Pacの闘争心や哲学に影響を受けていることを示唆する。
Awaken a sleepin' giant, commander Tariq ibn Ziyad
眠れる巨人を呼び覚ませ、指揮官ターリク・イブン・ズィヤードを
※8世紀にイベリア半島を征服したウマイヤ朝のベルベル人将軍。Black Thoughtのファーストネーム「Tariq(タリク)」と重ね合わせ、自らを歴史的な征服者として位置づけている。
Fresh from the fire and into formal attire
炎の中から抜け出し、フォーマルな装いへと身を包む
That's from a foreign designer
それは海外デザイナーの仕立てさ
I call the plug, supplier, but a high we got
プラグをサプライヤーと呼ぶが、俺たちが手に入れたこのハイな状態は
※「Plug(麻薬の密売人)」を「Supplier(供給者)」と言い換えているが、実際に得ているのはドラッグではなく、純粋な音楽や知性による高揚感である。
Try me not, that's the caveat
俺を試すな、それが警告だ
You'd probably get the same thing my last body got
お前も、俺が最後に殺った奴と同じ目に遭うだろうぜ
※ラップゲームにおいて彼に挑んだ者がどうなるか(Body=死体になる)という冷酷な警告。
Poet Laureate, swift chariot, the Maserat'
桂冠詩人、俊敏な戦車、マセラティ
※「Poet Laureate」は国から最高の栄誉を与えられた詩人のこと。古代の戦車(チャリオット)と現代の高級車マセラティを対比させつつ見事な脚韻を踏んでいる。
The one to watch, born the year of the ox
注目すべき男、丑年生まれさ
※Black Thoughtの生年(1971年)は正確には亥年だが、ヒップホップコミュニティでは頑強な肉体と労働倫理の象徴として「Ox(牡牛)」に自らを例えることが多い。
I got more than a reason to revel like Desus and Mero
俺にはデサス・アンド・メロみたいに大騒ぎする理由が山ほどある
※ブロンクス出身のコメディアン・デュオ「Desus & Mero」。ストリート上がりで深夜のトークショーのホストにまで上り詰めた彼らのように、成功を祝う権利があるということ。
Lyrical religious hero on Jesus' level
イエスと同レベルにいる、リリカルで宗教的なヒーローさ
The reason none of these heathens is even as thorough
この異端者どもの誰一人として、俺ほど徹底していない理由がそこにある
We bare arms like Idris or Venus de Milo
イドリスやミロのヴィーナスのように、俺たちは腕を露出させる
※「Bare arms(腕を露出する)」と「Bear arms(武装する)」のダブルミーニング。彫刻「ミロのヴィーナス」は両腕がないことで有名。また、肉体美で知られる俳優のイドリス・エルバにも掛けている秀逸なワードプレイ。
My blood is different than the blood that you bleed if it's yellow
俺の血は、黄色い血を流すお前らとは違うんだ
※「Yellow」は臆病者を指すスラング。恐怖で血の気が失せた臆病者たちと、ストリートを生き抜く自分の血の質の違いを誇示している。
I'm colder than Paul Robeson leadin' Othello
オセロを演じるポール・ロブソンよりも冷酷だぜ
※ポール・ロブソンは20世紀前半に活躍した伝説的な黒人俳優・歌手。シェイクスピアの『オセロ』の主演で絶賛された彼の重厚で圧倒的な演技力(Cold)と、自身のラップを比較している。
I'm older than the barcode, it ain't easy to tell though
バーコードよりも年老いているが、見た目じゃなかなかわからないだろうな
※バーコードの普及(1970年代)より前に生まれたベテランであることを示しつつ、ラップスキルや精神性が全く老け込んでいないことをアピールしている。
The rap John Henry, they send me deep in the railroad
ラップ界のジョン・ヘンリーさ、連中は俺を鉄道の奥深くへと送り込む
※アメリカの民間伝承の英雄ジョン・ヘンリー。蒸気ドリル(機械)とトンネル掘り(肉体労働)で対決し勝利した黒人労働者。機械化や商業主義に魂を売ったラップシーンにおいて、生のスキルだけで立ち向かう自身の姿を重ね合わせている。
I'm heavy metal, the rock roller, the rebel without a pause
俺はヘヴィーメタル、ロックの体現者、立ち止まることのない反逆者さ
※Public Enemyのクラシック「Rebel Without a Pause」の引用。
Perspective is bipolar as ever
視点は相変わらずバイポーラだ
※双極性障害(Bipolar)のように、極端な視点や感情の起伏を行き来する複雑な内面。
I gotta cross the bridge and then burnt it into ash
橋を渡りきり、そしてそれを燃やして灰にしなければならなかった
※「Burn bridges(人間関係や退路を断つ)」という慣用句。過去を切り捨てて前に進むハスラーとしての決意。
A reoccurin' dream and then turnt it into cash
繰り返し見る夢、それを現金に変えたんだ
The reoccurin' theme is the hurt lives in the past
繰り返されるテーマは、痛みが過去の中に生きているということ
But undeniable lessons I learned live in the stash
だが、俺が学んだ否定できない教訓は、隠し財産の中に生きている
Uh, the breadwinner, the dead center, the head-spinner
ああ、一家の大黒柱、ど真ん中、頭を回転させる者
I heard life is a bitch, I went to bed wit' her
人生はビッチだと聞いたから、俺はそいつとベッドを共にしてやった
※Nasのクラシック「Life's a Bitch」を踏まえた定番フレーズ。過酷な運命(ビッチ)に屈するのではなく、それを征服して自分のものにしたというストリートの美学。
I once was told to know thy self
かつて「汝自身を知れ」と教えられた
How can I grow myself, if I don't know myself?
自分自身を知らずして、どうやって自分を成長させられる?
The low-hangin' fruit for bottom feeders, no top-shelf
底辺を漁る奴らには低く垂れ下がった果実、最上級の品はない
I chase demons for a lotta reasons, not just health
健康のためだけじゃない、多くの理由があって俺は悪魔を追い払っているんだ
Seated at the throne, summonin' the ghosts like a seance
王座に座り、降霊術のように幽霊たちを召喚する
I never take a day off work, it never pay off
俺は一日たりとも仕事を休まない、休んだところで割に合わないからな
I wish for more peace on this Earth and never chaos
この地球にもっと平和を願う、決して混沌ではなく
As long as classrooms gettin' sprayed with the ARs
教室がARライフルで乱射され続けている限りはな
※アメリカ社会において後を絶たない学校での銃乱射事件への痛烈な社会批判。
Yeah
[Verse 2]
Revelation of a blessin' in disguise
変装した祝福の啓示
※「Blessing in disguise(不幸に見えて実はありがたいこと)」という慣用句。
I looked hate in the face and read the message in his eyes
俺は憎悪の顔を真っ直ぐに見据え、その目にあるメッセージを読み取った
They clickbaited a nation and requested the response
奴らは国家をクリツクベイトで煽り、反応を要求した
※分断を煽るメディアの扇情的な手法や、政治的なプロパガンダへの批判。
And dictated the makings of another renaissance
そしてもう一つのルネサンスの形成を独裁した
But wait, the fate of it's what the government decides
だが待て、その運命を決めるのは政府だ
And I don't mean the state, I mean this government of ours
国家のことじゃない、俺たち自身の政府(自己統治)のことだ
※外部の権力に運命を委ねるのではなく、ブラックコミュニティ自身、あるいは個人としての「自己統治(Government)」が運命を切り開くというコンシャスな思想。
The mark, Ark of the Covenant requires
その標は、契約の箱が要求しているものだ
Frauds, I'm makin' a mockery of 'em with the bars alone
詐欺師ども、俺はライムだけで奴らを嘲笑ってやる
The population of the world has grown
世界の人口は増え続けた
And more people in the streets than live in gorgeous homes
豪華な家に住むよりも、ストリートに溢れる人々の方が多い
A lotta heavy conflict zones, the swords are shown
多くの重い紛争地帯、そこでは剣が抜かれている
I'm tryna study all the language on the Georgia Stones
ジョージア・ガイドストーンに刻まれた全ての言語を研究しようとしてるんだ
※ジョージア州に存在した謎のモニュメント(2022年に破壊)。人口削減や新世界秩序に関するガイドラインが8つの言語で刻まれており、陰謀論の対象となっていた。世界の真理や裏の構造を読み解こうとする探求心のメタファー。
To quote the classic joint, “What a fool believes”
クラシックな名曲から引用するなら、「愚か者が信じるもの」さ
※ドゥービー・ブラザーズの1978年のヒット曲「What a Fool Believes」からの引用。
And what the teachers of the school believes
そして、学校の教師たちが信じているものは
Is very different from what the thieves
泥棒たちが信じるものや
And the class in rule believes
支配階級が信じているものとは、全くの別物だ
※教育システムによって一般に教えられる歴史や常識が、実際に世界を操る者たち(支配階級)の持つ真実とは乖離しているという構造的欺瞞を突いている。
I'm tryna give y'all some jewelries
お前らにいくつか宝石を与えようとしているんだ
※「Jewelry(Jewel)」はヒップホップスラングで「価値のある知識や教訓(Drop jewels)」を意味する。
We under pressure like a diamond mine
俺たちはダイヤモンド鉱山のようにプレッシャーに晒されている
※強大な圧力(抑圧や社会的なプレッシャー)の中でこそ、ダイヤモンド(美しく強靭なアートや魂)が形成されるというストリートの哲学。
Huntin' it somethin' like a phenomenon
それを現象のように追い求めている
And we losin' light like M. Night Shyamalan
そしてM・ナイト・シャマランのように光を失っていく
※映画監督M・ナイト・シャマラン。彼の作風のダークさや予期せぬ恐ろしい展開と、社会の希望(光)が失われていく様子を掛けている。
Them people searchin' for somethin' with body armor on
連中はボディーアーマーを着込んで、何かを探し回っている
※重武装した警察やSWATがゲットーをパトロールし、常に標的を探している様子。
You never know who they wantin', that's why we on the law
奴らが誰を狙っているかなんて誰にもわからない、だから俺たちは法に触れるギリギリにいる
Preparin' me, that isn't necessary
俺の準備をするってか、そんな必要はねえ
What I'm haunted by is knowin' where the bodies are buried
俺が取り憑かれているのは、死体がどこに埋められているかを知っているからだ
※「Know where the bodies are buried」は「組織の裏の秘密やスキャンダルを知っている」という意味の慣用句。社会や業界の暗部を知りすぎていることへの重圧。
Yet, I'm taunted by the omen
それでも、俺は不吉な予感に嘲笑われている
Knowin' my adversary, I'm gone 'til Neveruary
自分の敵を知り尽くしているからこそ、俺はネバーアリーまで消えるさ
※「Neveruary」は「Never」と「February / January」などを合わせた造語で、「絶対に訪れない時」を意味する。強大すぎる敵(システムや権力)の性質を理解しているため、手の届かない次元へと姿を消すという神出鬼没な立ち回り。
It's on, it's gettin' heavy for real
始まってるぜ、マジで深刻な事態になってきた
