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9th vs. Thought - Black Thought 【和訳・解説】

Artist: Black Thought

Album: Streams of Thought, Vol. 1

Song Title: 9th vs. Thought

概要

The Rootsの絶対的フロントマンであり、ヒップホップ史上最高のリリシストの一人として名高いBlack Thoughtが、サンプリング・ヒップホップの巨匠9th Wonderとタッグを組んだ2018年のEP『Streams of Thought, Vol. 1』におけるハイライトとなる一曲だ。タイトル「9th vs. Thought」が示す通り、9th Wonderが叩き出すドープでソウルフルなブーンバップ・ビートに対し、Black Thoughtが一切のフック(サビ)を挟まずに神懸かったライミングで応戦するという、プロデューサーとトップMCによる高次元な「異種格闘技戦」の様相を呈している。リリックの端々には、パン・アフリカニズムの思想、安易なトレンドやドラッグに流される現代のラップシーンに対する辛辣な批判、そして自身が築き上げてきたベテランとしての圧倒的な自負が散りばめられている。また、幕間に挿入されるアフリカ系アメリカ人の歴史学者ジョン・ヘンリック・クラークの演説サンプリングは、人種差別の本質的な欺瞞を暴き出しており、単なるエゴトリップを超えたコンシャスなブラック・アートとしての圧倒的な強度を本作に与えている。真のヒップホップ・ヘッズたちを熱狂させた、純度100%のマスターピースである。

和訳

[Intro]

Twofifteen
215
※「215」はブラック・ソートの地元、ペンシルベニア州フィラデルフィアの市外局番。

Twenty-one pound
21ポンド

Uh
アー

[Verse 1]

I'm not a typical arrogant American on prescribed medicine
俺は処方薬漬けになった、典型的な傲慢なアメリカ人じゃねえ
※パーコセットやザナックスなどの処方薬(リーンを含む)を乱用し、それを吹聴する現代の若手ラッパー(サウンドクラウド・ラッパーなど)たちのステレオタイプを真っ向から否定している。

I'm sick as I ever been
俺のヤバさは史上最高に達しているぜ
※「Sick」には「病気」という意味と「最高/ヤバい」というスラングの意味があり、前の行の「薬漬け(病人)」という文脈を逆手にとったダブルミーニング。

Rollin' out of the dealership in a McLaren
マクラーレンに乗ってディーラーから飛び出す

These rappers is Peter Pan, I'm Pan-African
昨今のラッパーどもはピーターパンだ、俺はパン・アフリカニストさ
※精神的に成長せず子供のまま(ネバーランド)でいる若手ラッパーたちを「ピーターパン」と揶揄し、自身の成熟した思想的スタンスである「パン・アフリカニズム(アフリカ系民族の連帯と解放を目指す思想)」と「Pan」で鮮やかに踏んで対比させた秀逸なパンチライン。

Space invader blackin' 'em
スペースインベーダーのように、奴らを黒く塗りつぶす
※「Blacking out」は意識を失う、あるいは完全に圧倒するという意味。宇宙からの侵略者のごとくシーンを制圧する表現。

Mixin' Alexander McQueen with Haider Ackermann
アレキサンダー・マックイーンとハイダー・アッカーマンをミックスして着こなす
※共に世界的なハイブランド。ストリートのチンピラではなく、洗練された大人の美学を持つことを示している。

Real rapture in the form of a living man
生身の男の姿をした、真の携挙さ
※「Rapture」はキリスト教における終末時の「携挙(信者が天に引き上げられること)」、または「歓喜」を意味する。彼のラップを聴くことが神聖な昇天体験であることを示唆している。

I don't give a damn, not a mortal could test me
知ったこっちゃねえ、ただの人間が俺を試すことなんてできねえよ

See, I don't get examed
いいか、俺がテストされることなんてないんだ

I'm a high priest and a wild beast
俺は高位の祭司であり、野生の獣だ

Once warrior, now chief—the mouthpiece of the foul East
かつては戦士、今は酋長。薄汚れた東海岸の代弁者さ
※ザ・ルーツとしてキャリアを積んできた彼が、今や東海岸(East Coast)ヒップホップを牽引する絶対的な首領(Chief)であることを宣言している。

And I'ma rock 'em, sock 'em robot HOF, I drop bombs
「ロックエム・ソックエム・ロボット」の殿堂入りプレイヤーみたいに、爆弾を落としてやる
※「Rock 'Em Sock 'Em Robots」はリング上でロボット同士が殴り合うアメリカの有名なアナログ対戦玩具。HOFは「Hall of Fame(殿堂入り)」。ラップゲームという格闘技で相手の首を吹き飛ばす最強の存在だという比喩。

Any flow I got come at you like .coms
俺のどんなフロウも、ドットコム・バブルみたいに押し寄せてくるぜ

You should know I'm not, for the run of the mill drill
わかってるはずだ、俺はそこらへんのありふれたドリル・ミュージックなんかじゃねえってことにな
※「Run of the mill(ありふれた)」という表現を使い、暴力的な描写ばかりが先行し均質化してしまったドリル・ラップと自身の芸術性を明確に区別している。

I'm still trill, the flame thrower, the real deal
俺は今でも最高にリアルで、火炎放射器のごとき本物さ
※「Trill」は「True」と「Real」を合わせた南部発祥のヒップホップスラング。

I don't coincide with the oddness
奇をてらった連中とは相容れないね

Your highness is where the pantheon of the gods is, I promise
この陛下が居る場所こそが神々のパンテオンだ、約束するぜ
※「Your highness(陛下)」と自称し、自らが神々(ラップゴッド)の殿堂に座する存在であると断言している。

I'm known for being brutally honest
俺は残酷なまでに正直なことで知られてるんだ

If lyricism is spiritual to you, then rewind this
もしお前にとってリリシズムがスピリチュアルなものなら、この曲を巻き戻して聴きな

I'ma kill 'em, but it ain't about to be with kindness
奴らを殺ってやるが、親切心でやるわけじゃねえ
※「Kill them with kindness(優しさで相手を負かす)」という慣用句をもじり、実際に容赦のないリリックで同業者を抹殺すると宣言している。

I believe the industry about to see a conquest
音楽業界はまさに征服を目の当たりにするはずだ

Changin' of the mindset
マインドセットの変革さ

Money just a concept, never been a object
金なんてのはただの概念だ、目的になったことなんて一度もねえ
※拝金主義が蔓延するヒップホップシーンにおいて、金銭ではなくアートと精神的価値を追求するコンシャスなラッパーとしての確固たるスタンス。

Even when my mother was livin' up in the projects
俺の母親が公営団地で暮らしていた頃でさえな
※「Projects(低所得者向け公営住宅)」の過酷な貧困環境にいた時でさえ、金に魂を売ることはなかったという矜持。

Now my ratin' is higher than young Richard Pryor get
今じゃ俺の評価は、若かりし頃のリチャード・プライヤーよりも高いぜ
※リチャード・プライヤーは人種問題やタブーを鋭く切り取り、コメディ界に革命を起こした伝説的な黒人コメディアン。彼のように、社会に強烈なインパクトを与える存在になっているというメタファー。

Still speakin' my mind, just in a different dialect
今でも自分の心の内を語っている、ただ方言が違うだけさ
※昔から本質は変わっていないが、時代や知識の蓄積とともに表現のレベル(方言/言葉遣い)が高度に進化したことを示している。

[Interlude 1]

It takes two to make anthropology
人類学を成立させるには二つの存在が必要だ

The student and the studied
学ぶ者と、研究される者である

That being the case, it is time for the studied to examine the student and to evaluate its own self
そうであるならば、今こそ研究される者が学ぶ者を調査し、自己を評価する時なのだ
※アフリカ系アメリカ人の歴史学者・パンアフリカニズムの先駆者であるジョン・ヘンリック・クラーク博士の演説のサンプリング。これまで白人(学ぶ者)によって一方的に分析・定義されてきた黒人(研究される者)が、主体性を取り戻し、逆に白人社会やシステムを分析・評価すべきだという強力なメッセージ。

[Verse 2]

I said, I seen it all, I had it all and I ain't mad at all
言ったろ、俺は全てを見てきたし、全ても手に入れた。ちっとも怒ってなんかいねえよ

This rapper toss gravitas like a cannonball
このラッパーは威厳を大砲の弾みたいに投げつけるんだ

Stayin' up all night, throwin' my sleep pattern off
一晩中起きて、自分の睡眠パターンを狂わせてる

I need a doctor on call to keep Adderall
アデロールを切らさないように、いつでも呼べる医者が必要だ
※アデロール(ADHD治療薬・中枢神経刺激薬)。集中力を高め、徹夜でリリックを書き続けるために処方薬が必要なほどのワーカホリックぶりを表現している。

Position of my commission is trilateral
俺の委員会のポジションは三極委員会レベルだ
※「Trilateral Commission(三極委員会)」は日米欧のグローバルエリートによる国際会議。自身のラップゲームにおける影響力が、世界を裏で操るエリート機関に匹敵するという壮大なメタファー。

You fuckin' with me, you trippin' for tryin' that at all
俺に盾突くなんて、そんなことを試みる時点でお前は狂ってるぜ

I mess around, make the call, get the gat involved
ちょっと本気を出して電話一本入れりゃ、銃沙汰になるんだぜ
※普段はコンシャスなスタンスだが、いざとなればストリートのネットワークを使い、力行使(Gat=銃)も辞さないというフッドのボスとしての凄み。

I know people, it's a small world after all
顔が広くてな、結局のところ世界は狭いってことさ

My credit card say it's onward at the mall
俺のクレジットカードはモールで「さらに前へ」って言ってるぜ

My broad lookin' like she Cinderella at the ball
俺の女は、舞踏会のシンデレラみたいに輝いてる

Reborn every January like a Capricorn
毎年1月になるたび、山羊座のように生まれ変わる
※ブラック・ソートの誕生日は10月3日(天秤座)だが、ここでは年が明けるごとに常にフレッシュな状態に生まれ変わる(あるいは山羊=GOAT:Greatest Of All Timeのダブルミーニング)ことを示唆している。

From downtown, no Ryan Lewis and Macklemore
ダウンタウンからだ、ライアン・ルイスやマックルモアの話じゃねえぞ
※Macklemore & Ryan Lewisのヒット曲「Downtown」を引用。彼らの歌うポップなダウンタウンではなく、フィリーのリアルで危険なダウンタウン(ゲットー)の出身であることを強調する強烈なネームドロップ。

It's yours truly, I'm Paul Mooney, I'm George Clooney
敬具を込めて、俺はポール・ムーニーであり、ジョージ・クルーニーさ
※白人社会への強烈な風刺で知られた過激な黒人コメディアン「ポール・ムーニー」と、ハリウッドの白人エリート俳優「ジョージ・クルーニー」を並べることで、ブラック・ラジカルな精神を持ちながらも世界的な名声と洗練を獲得している自身の二面性を表現。

I'm fully immersed in the craft, bringin' awards to me
クラフトに完全に没頭し、数々の賞を自分に引き寄せる

The bass player said he gon' sue me
ベースプレイヤーが俺を訴えるって言ってきたがな

I gave the finger to him, the Lord gave a round of applause to me
俺は中指を立ててやったよ、そしたら神様が俺に拍手喝采を送ってくれたんだ
※法的トラブルやヘイターからの攻撃に対して屈しない姿勢。業界の人間(ベースプレイヤー)には嫌われても、神(あるいはヒップホップの神髄)は自分の姿勢を讃えているという確信。

My soul winnin', I've been goaltendin'
俺の魂は勝ち続けてる、ゴールテンディングでな
※「Goaltending」はバスケットボールの反則行為(落ちてくる軌道にあるボールをブロックすること)。他者のシュート(成功)をことごとくブロックし、俺だけが勝ち進んでいるという無双状態の比喩。

Cold sentence, scroll pennin', nigga gone 'til it's no limit
冷酷な宣告、巻物を書き綴る、ノー・リミットになるまで突き進むぜ

The vision came to me so vivid
そのビジョンは、極めて鮮明に俺の元へ降りてきた

My observation was if money for the takin', I'ma go and get it
俺の観察結果はこうだ。もしそこにある金が奪えるなら、俺が奪いに行く

Y'all know my everyday lay no costume
俺の毎日のスタイルはコスプレなんかじゃねえってこと、お前らも知ってるだろ

I murk rappers and they can't play no possum
ラッパーどもを皆殺しにする、奴らは死んだふりすらできやしないぜ
※「Play possum」は「死んだふりをする」という意味。俺のライムを食らえば、死んだふりどころか本当に息の根を止められるという圧倒的スキルの誇示。

Another studio but it's the same old outcome
スタジオが変わっても、結果はいつも同じさ
※どこに行こうと、常に最高傑作を生み出すという職人としての自信。

I told my nigga Spon Vicious, "Baby, we got one"
ダチのス・ポン・ヴィシャスに言ったんだ、「ベイビー、こいつは傑作だぜ」ってな

Listen
聞けよ

[Interlude 2]

Accurate scholarship and free, dedicated artists would reveal a singularly important thing
正確な学問と、自由で献身的な芸術家たちは、極めて重要な一つの事実を明らかにするだろう

Racism was and is not only a mark of ignorance
人種差別とは、過去も現在も、無知の表れであるというだけでなく

It was and is a monumental fraud
過去も現在も、途方もない詐欺行為なのだ
※再びジョン・ヘンリック・クラークの演説。白人至上主義的な歴史観が、いかに科学的・歴史的根拠のない「詐欺」であるかを断罪し、コンシャスなラップアルバムの幕引きとして重厚な余韻を残している。