Artist: Freddie Gibbs & Madlib
Album: Piñata
Song Title: Knicks
概要
アルバム『Piñata』(2014)に収録された本楽曲は、Freddie Gibbsが幼少期から現在に至るまでの自身のハスラー人生を、NBAの象徴的な試合(ニューヨーク・ニックス戦)を時系列の基準点として振り返る、非常に映画的でノスタルジックな一曲だ。MadlibがサンプリングしたThe Ovationsの「You Caught Me By Surprise」のメロウなソウル・ビートに乗せ、1995年のマイケル・ジョーダンの伝説的な「ダブル・ニッケル(55得点)ゲーム」と、2005年のレブロン・ジェームズの56得点ゲームという2つの時代を軸に、5ドルのパケ(nickel bags)を売り捌いていた少年時代と、警察への憎悪に満ちた過酷な現在が対比される。インディアナ州ゲーリーというゲットーで生まれ育ち、ドラッグディールと暴力から抜け出せなかった男の哀愁と、NBAという黒人カルチャーの英雄たちへの憧憬が完璧に交差する名曲である。
和訳
[Intro]
You caught me by surprise
お前は俺を驚かせたな
※The Ovationsのボーカル・サンプリング。突然の出来事や運命の急転を暗示している。
[Verse 1]
Pippen on the assist
ピッペンのアシスト
I'm watching Jordan drop a double nickel on the Knicks
ジョーダンがニックス相手にダブル・ニッケルを叩き込むのを見てるんだ
※1995年3月28日、MLBへの挑戦からNBAに復帰したばかりのマイケル・ジョーダン(当時背番号45)が、マディソン・スクエア・ガーデンでのNYニックス戦で55得点(ダブル・ニッケル)を記録した伝説の試合。Gibbsの少年時代の原風景。
That was '95, couple of us ain't live til '96
あれは95年のことだ、俺たちのうち何人かは96年まで生き延びられなかった
Gangbanging, 'caine slanging had us caught up in a twist
ギャング稼業とコカインの密売が、俺たちをトラブルに巻き込んだんだ
We was middle school fools, life was rushing past me
俺たちは中学生のバカガキで、人生は俺の横を猛スピードで通り過ぎていった
Fresh up out Tolleston bus, fighting up at Pulaski
トルストンのバスから降りたばかりで、プラスキの連中と喧嘩してたな
※トルストン(Tolleston)とプラスキ(Pulaski)は、どちらもGibbsの地元インディアナ州ゲーリーにある中学校の名前。他校の生徒とのストリートファイトの思い出。
Uncle hit me off with a zip, now I get some cash, G
叔父さんが1オンスのウィードを恵んでくれた、これで俺も現金を稼げるぜ、なあ
※「zip」は1オンス(約28グラム)の麻薬。親族からドラッグをもらい、ハスラーとしてのキャリアをスタートさせたことの告白。
"Well where you get some money for Nikes?" my mama asked me
「ナイキを買うお金なんてどこで手に入れたの?」と母さんが聞いてきた
Uhh, I got it selling nickel bags
ああ、5ドルのパケを売って稼いだのさ
※「nickel bags」は5ドル分の少量の麻薬。ジョーダンの「ダブル・ニッケル(55得点)」と、自分が売っていた「ニッケル(5ドル)」のバッグを掛けた見事なワードプレイ。
Stress, weed, million seeds, where the liquor at?
ストレス、ウィード、無数の種、酒はどこだ?
※「million seeds」は質の低いマリファナ(種や茎ばかりで吸う部分が少ない)のこと。ゲットーの貧しい娯楽。
Mad Dog 20/20 kept a nigga loose
マッドドッグ20/20が、俺をリラックスさせてくれた
※「MD 20/20」はアルコール度数が高く安価なフレーバーワイン。貧困層の若者の間で定番の安い酒。
Murder was the case except a nigga taste the gin and juice
ジン・アンド・ジュースを味わった奴以外は、殺人が日常茶飯事だったな
※Snoop Doggの「Murder Was the Case」と「Gin and Juice」という90年代西海岸のクラシック曲のタイトルを引用し、当時の物騒なストリートの空気を表現。
'Cause then we gon' be riding on some bullshit
だってその頃の俺たちは、クソみたいな抗争に乗り出そうとしてたからな
Shoot up a nigga crib, that's some hood shit
奴の家に銃弾をぶち込む、それがフッドのやり方さ
And I can give a fuck who in the house sleep
家の中で誰が寝ていようが、知ったこっちゃなかった
Waking up the neighbors, shoot my trey eight at the police, bitch
近所の連中を叩き起こし、サツに向かって38口径をブッ放すんだ、ビッチ
※「trey eight」は.38口径のリボルバー。
[Chorus]
Uhh, yeah, I got it selling nickel bags, bitch
ああ、そうさ、俺は5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
Uhh, yeah, I got it selling nickel bags
ああ、5ドルのパケを売って稼いだのさ
Uhh, bitch, I got it selling nickel bags, bitch
ビッチ、俺は5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
Yeah, I got it selling nickel bags
ああ、5ドルのパケを売って稼いだのさ
[Verse 2]
Uhh, chilling with a bitch
ああ、ビッチとくつろいでる
Watching LeBron put up 56 on the Knicks
レブロンがニックス相手に56得点叩き出すのを見てるんだ
※2005年3月20日、若きレブロン・ジェームズ(当時クリーブランド・キャバリアーズ)がトロント・ラプターズ相手に56得点を記録した試合を指していると思われるが、リリックではテーマに合わせて対戦相手を「ニックス」と表現している(あるいは記憶の混同を利用したギミック)。10年が経過し、スーパースターの世代交代が起きている。
In 2005, police killed my nigga in 2006
2005年のことだ、そして2006年に警察が俺のダチを殺した
Only thing he losing is his pension, ain’t that 'bout a bitch?
あの警官が失ったのは年金だけだ、クソみたいな話だろ?
※黒人を殺害した白人警官が、殺人罪に問われることなく懲戒免職(年金の剥奪)程度で済まされたという、アメリカの司法システムにおける人種差別への強烈な怒り。
If I see that ho, I got a slug for him
もしあのクソ野郎を見かけたら、奴のために銃弾を用意してあるぜ
I wanna kill him slow like I ain't got no love for him
一切の慈悲もなく、奴をゆっくりと殺してやりたい
I wanna torture and burn him, drag him to hell with me
奴を拷問して燃やし、一緒に地獄へ引きずり込んでやりたいんだ
This for my nigga just lurking, working that scale with me
これは俺と一緒に潜み、秤を使ってたダチのための報復さ
In these last days, on my last page
この終わりの日々に、俺の人生の最後のページに
Fuck a job, I'm whipping this butter cause crime pays
まともな仕事なんてクソ食らえだ、犯罪の方が割に合うから、俺はこのバターをかき混ぜてる
※「whipping this butter」はコカインを調理してクラック(バターのように黄色っぽくなる)にすること。「Crime Pays」は後にMadlibとのコラボアルバム第2弾『Bandana』の楽曲タイトルにもなる、Gibbsの重要な人生哲学。
In these last days, on my last page
この終わりの日々に、俺の人生の最後のページに
Fuck a job, I'm serving these cluckers cause crime pays
まともな仕事なんてクソ食らえだ、犯罪の方が割に合うから、俺はこのヤク中どもに売ってるんだ
※「cluckers」はクラック中毒者のこと。
I'm a lunatic by nature
俺は生まれつきの狂人さ
Yeah, kidnap a family for his paper
ああ、奴の金のために家族を誘拐してやる
Yeah, and if you make it through the day, bro
ああ、もしお前が今日一日を生き延びられたら、兄弟
Yeah, I pray to God I ain't stank ya, bitch
ああ、俺がお前を殺して死臭を放たせていないことを神に祈りな、ビッチ
※「stank」は死体が腐敗して臭いを放つこと(殺すこと)のスラング。
[Chorus]
Got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
Uhh, I got it selling nickel bags, bitch
ああ、俺は5ドルのパケを売って稼いだのさ、ビッチ
Yeah, I got it selling nickel bags, bitch
そうさ、5ドルのパケを売って手に入れたんだ、ビッチ
Real killer, drug dealer
本物の殺し屋、麻薬密売人だ
I got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
Real killer, drug dealer
本物の殺し屋、麻薬密売人だ
I got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
[Outro]
I got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売って手に入れたんだ、ビッチ
I got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売って手に入れたんだ、ビッチ
Real killer, drug dealer
本物の殺し屋、麻薬密売人だ
I got it selling nickel bags, bitch
5ドルのパケを売ってそれを手に入れたんだ、ビッチ
Yeah, 17th Ave nigga, Virginia Street
ああ、17番街だ、バージニア・ストリートだ
※Gibbsの地元であるゲーリーのストリート名。
This ain't 2300 Jackson Street, nigga
ここはジャクソン・ストリート2300番地じゃねえぞ、なあ
※「2300 Jackson Street」は、同じくゲーリー出身の世界的スター、マイケル・ジャクソン(ジャクソン5)の生家がある住所。同じ街の出身でも、自分はポップスターのような華やかな世界ではなく、泥沼のギャングスタであることを強調している。
Real shit, nigga
これがリアルってやつだ
This ain't no motherfuckin' museum, no motherfuckin' exhibit nigga
ここはクソみたいな博物館でも、展示場でもねえんだよ、なあ
※ジャクソン家の生家が観光名所になっていることに対する、ストリートの現実からの皮肉。
Uh, I'm really out here givin' it to these niggas, I'm out here feedin' these young niggas, nigga
Uh、俺はマジでここで奴らにブツを捌き、ここの若い連中を食わせてやってるんだ、なあ
I got it selling nickel bags
俺は5ドルのパケを売って稼いだんだ
Giving out turkeys, nigga
感謝祭には七面鳥を配ってるぜ、なあ
※ストリートで成功したギャングやドラッグディーラーが、貧しい地元住民に食料(七面鳥など)を配って還元する(フッドのロビンフッド的な)習慣。
Building up courts nigga, you know what I'm sayin'?
バスケットコートも建て直してやってる、俺の言ってること分かるか?
Fuck with the youngest nigga
若い奴らの面倒を見てやってるんだ
What'cha doin' nigga?
お前は何をしてるんだ?
All for a motherfuckin' nickel bag, nigga
すべてはたかが5ドルのパケから始まったんだよ、なあ
Shoutout to my nigga Carmelo, nigga
俺のダチ、カーメロにシャウトアウトだ、なあ
※当時ニューヨーク・ニックスの絶対的エースだったカーメロ・アンソニーへのシャウトアウト。
Get that shit next year, nigga
来年こそはあれ(優勝)を掴み取れよ、なあ
That block man, that was some bullshit
あのブロック(ブロックショット)は、マジでクソみたいな判定だったな
※2013年のプレーオフなど、ニックスが敗退した際の不当な判定やプレイに対するバスケファンとしての愚痴。
Shoutout to my nigga Iman Shumpert man
ダチのイマン・シャンパートにもシャウトアウトだ
※当時ニックスに所属していたディフェンスの名手、イマン・シャンパートへの言及。
I got it selling nickel bags
俺は5ドルのパケを売って稼いだんだ
I got it selling nickel bags
俺は5ドルのパケを売って稼いだんだ
Lambo! We killed ya'll niggas in the 90's nigga!
ランボ! 90年代に俺たちはお前らをブッ殺してやったよな!
※「Lambo」はGibbsの長年のマネージャー(Ben "Lambo" Lambert)。彼と一緒に、90年代のブルズ(ジョーダン)がニックスを倒した日々を懐かしんでいる。
MJ, nigga
MJ(マイケル・ジョーダン)だ、なあ
Fadeaway, nigga
フェイダウェイ(シュート)だぜ、なあ
That nigga got us selling nickel bags, bitch
あの男のせいで(MJの靴を買うために)、俺たちは5ドルのパケを売るハメになったんだよ、ビッチ
