UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

UGMKM ARCHIVE

Find Music By Artist, Genre.

和訳・解説記事を、アーティスト名・ジャンルから探せます。

WHACK JOB - Tierra Whack 【和訳・解説】

Artist: Tierra Whack

Album: Whack’s Museum

Song Title: WHACK JOB

概要

フィラデルフィア出身の異才ラッパー、Tierra Whackによる本楽曲は、Griselda Recordsのメインプロデューサーとして知られるConductor Williamsがビートを手掛けている。奇抜でコンセプチュアルなビジュアルアートとポップなサウンドで名を馳せた彼女だが、この楽曲では一転して、ブーンバップ・テイストのザラついたビート上で、純粋なリリシストとしての牙を剥き出しにしている。彼女のバックグラウンドにあるフィリー特有のストリートのメンタリティ、身内を失った痛切な痛み、そしてシーンのトップに君臨する自信が、幾重にも張り巡らされたダブルミーニングと痛快なパンチラインによって見事に表現された1曲である。ヒップホップヘッズに「彼女は本物のMCである」と再認識させる重要なスタンス表明となっている。

和訳

[Intro]

Con— Con—

They said I should rap more, yeah, uh
もっとラップすべきだって言われたわ、yeah、uh
※ここから彼女の本格的なラップスキルの誇示が始まるという宣言。

What more can I ask for? Yeah (Conductor)
これ以上何を望めって言うの?Yeah(Conductor)
※ビートメイカーであるConductor Williamsの象徴的なプロデューサータグ。

[Verse]

They call me whack, luckily, it's my government
奴らはアタシをワックだって呼ぶけど、幸いにもそれが本名だからね
※「ワック(Whack: ヒップホップ用語で「ダサい、偽物」)」と批判するヘイターたちへの意趣返し。彼女の法的な本名(government name)が実際に「Tierra Whack」であることを逆手にとった見事なライン。

One of a kind, ya label been tryna double it
アタシは唯一無二、あんたらのレーベルは二番煎じを作ろうと必死だけどね
※各メジャーレーベルが彼女のような奇抜でヒットする女性アーティストのクローンを作ろうとしている業界の現状をディスっている。

I'm the catch, the snow fall as I shovel it
アタシこそが極上の獲物、雪が降るそばからアタシが掻き分けていく
※「The catch」は魅力的な人物や逸材を指す。「雪かき(shovel snow)」は冬のフィラデルフィアの情景であると同時に、ストリートの隠語ではコカイン(スノー)を捌く(ハッスルする)ダブルミーニングとして機能している。

Stumbled upon the money then suddenly fell in love with it
金に出くわして、いつの間にかすっかり惚れ込んじゃったのさ

Late night, cuddle it, bury it and I smother it
深夜に抱きしめ、土に埋めて、窒息するくらい隠し込む
※金を愛するあまり、ストリートのハスラーのように現金を秘密の場所に隠し持っているというメタファー。

Neighbor seen what happen, but no, she won't utter it
隣人は何が起きたか見てたけど、いや、彼女は絶対に口を割らない
※フッドにおける「密告しない(No Snitching)」の掟を示している。

Skrrt, skrrt on 'em, she ain't have to unbutton it
あいつらを置き去りにしてやる、彼女はボタンを外す必要なんてなかったのさ
※「unbutton(服のボタンを外す)」は、業界の重役に対して性的アピールや枕営業をすることを暗示している。彼女は純粋なスキルだけで成功を掴んだため、そうした行為は不要だったという誇りを示している。

Working hard leads to satisfying consequences
懸命に働けば、満足のいく結果がついてくる

You dead wrong if you think my time not expensive
アタシの時間が安っぽいと思ってるなら、あんたは完全に間違ってるよ

No, I'm not dismissive, I use all my senses
いや、テキトーに扱ってるわけじゃない、アタシはすべての感覚を使ってる

My flows are extensive, to God, I'm submissive
アタシのフロウは無限大、神に対してだけは従順なのさ

I just lost three relatives and, on God, I miss 'em
最近3人の身内を亡くしたばかりでさ、神に誓って彼らが恋しいよ
※彼女のパーソナルで痛切な一面。成功の裏で抱える私生活での悲劇を赤裸々に吐露している。

Once you famous, everything becomes sacrificial
一度有名になっちまえば、すべてが犠牲になっちまうんだ

You make the same mistake twice, it isn't accidental
同じミスを二度繰り返すなら、それはもう偶然じゃない

Tae pack a pistol if I ever have a issue
もしアタシに問題が起きれば、Taeがハジキを構えてくれる
※「Tae」は彼女の信頼する身内・クルーの一員。フッドの仲間が常に彼女を護衛しているというストリートの絆。

Bonafide like a grissle, head on a swivel
軟骨みたいに本物さ、常に周囲に目を配ってる
※「head on a swivel」は、常に首を振って周囲の危険を警戒するというストリートやスポーツにおける定番の表現。

I'm the goat, show me who I need to go at
アタシが史上最高、誰を狩ればいいのか教えてみな
※「goat」はG.O.A.T.(Greatest Of All Time)。

Shouldn't have to say it, you should already know that
いちいち言わせるな、そんなこととっくに知ってるはずだろ

Dinner at the crown club, we dining with the owners
クラウン・クラブでディナー、オーナーたちと一緒に食事してるんだ

Rappers is my sons, Phoenix, Arizona
他のラッパーどもはアタシの息子、まるでアリゾナ州フェニックスだね
※ヒップホップ特有の「Sons(息子=自分より格下のラッパー)」という表現と、NBAチームの「フェニックス・サンズ(Phoenix Suns)」をかけたクラシックなパンチライン。

Performed at the Moma, he digging my persona
MoMAでライブした時、彼もアタシのペルソナを気に入ってたよ
※MoMA(ニューヨーク近代美術館)。彼女のアート性の高さは現代アート界隈でも高く評価されている。

I told him bear with me like Corona, that's a bar, yeah
「私に我慢して」って言ったの、コロナみたいにね、これぞパンチラインでしょ、yeah
※「bear with me(我慢して付き合って)」というフレーズの発音が「beer with me(ビールを一緒に飲んで)」に聞こえることを利用し、次の「Corona(コロナビール)」へと繋げる極めて高度なワードプレイ。自ら「that's a bar(今のヤバいパンチラインだろ)」と自画自賛している。

I'm beyond reach, going far, yeah, aw, yeah
アタシは手の届かないところにいる、遥か遠くまで行くよ、yeah、aw、yeah

I been dragging niggas like all year
今年一年中、あいつらを引きずり回してやってたよ
※SNSや音楽シーンにおいて、他のラッパーたちを圧倒(ドラッグ)し続けている様。

Too ahead like a shower cap, I'm so sick of the model rap
シャワーキャップみたいに頭のてっぺんにいる、モデル崩れのラップにはウンザリなんだよ
※「Too ahead(進みすぎている)」と「A head(頭)」をかけた言葉遊び。シャワーキャップが頭(A head)にかぶるものであることから。ルックスだけでラップスキルがない「モデルあがりのラッパー」への痛烈なディス。

Turnt, you know a bottle cap, you softer than a sour patch
ハイになってる、ボトルキャップみたいにね、あんたはサワーパッチよりもヤワじゃん
※「Turnt」はパーティーなどで最高にハイになっている状態。ボトルキャップを回して開ける(Turn)ことと掛けている。「Sour Patch」はアメリカで人気のある柔らかいグミキャンディーで、相手のラッパーとしての軟弱さを揶揄している。

Sweating me for a follow back, can't believe you outside with that
フォロバしてほしくて焦ってやがる、そんなんで外を歩けるなんて信じられないね
※SNS上の薄っぺらい人間関係や承認欲求にすがるフェイクな連中を嘲笑している。

If I leave today, I promise you gon' be out of whack
もしアタシが今日ここを去ったら、あんたらは絶対に調子を狂わせるって約束するよ
※「out of whack」は「調子がおかしい、正常に機能しない」という意味のイディオム。同時に、Tierra "Whack"という存在がいなくなる(Whackが不在になる)という秀逸なダブルミーニング。

No pun intended, I want it tinted, my heart is in it
ダジャレのつもりはないけどね、スモークガラスにしたいんだ、アタシの心は本気だよ

Got no limit, never timid, I get you finished
限界なんてない、臆病になんてならない、あんたを完全に終わらせてやる

Ya list trash if I wasn't in it
アタシが入ってないようなあんたらのリストなんてゴミ同然さ
※ヒップホップメディアやファンがよく作る「トップラッパーランキングリスト」に自分がいないなら、そのリスト自体が無価値だという強烈なボースト。

Coming with it, ain't nobody fucking with it, yeah
ブチかましてやる、誰もアタシには太刀打ちできないよ、yeah

They can't see me, even with flash photography
フラッシュを焚いて写真を撮っても、奴らにはアタシの姿は捉えられない
※彼女のラップスキルやクリエイティビティが常人の理解の範疇を超えている(見えないレベルにある)という表現。

Got a bag on me, I ain't talking colostomy
大金が入ったバッグを持ってる、人工肛門のバッグの話じゃないよ
※「bag」はヒップホップスラングで大金のこと。これを医療用の「colostomy bag(人工肛門用のパウチ)」と対比させた、少しグロテスクでブラックジョークの効いたライン。

What I gotta be, hold it down like some got to be
アタシがどうあるべきか、しかるべき形できっちりシメてやる

Playing both sides, isosceles, uh-huh, philosophy
両面をプレイする、二等辺三角形みたいにね、uh-huh、それが哲学さ
※「isosceles(二等辺三角形)」は二つの等しい辺(側面)を持つ。メインストリームのポップさとアンダーグラウンドのハードコアさ、あるいはアートとストリートの両方の側面(both sides)を完璧なバランスで成立させている彼女自身のスタンスを数学的な比喩で表している。

Kerrivah on the side of me, obviously
Kerrivahがアタシの隣にいる、当然でしょ
※KerrivahはTierraの身内・チームの一員。

There's nobody you can find as hot as me
アタシほどイケてる奴なんて、どこを探しても見つからないよ

For Kenete, I do you sloppily, yeah
Keneteのためなら、あんたを容赦なく叩きのめすよ、yeah
※Keneteも彼女の信頼する側近の一人。身内への絶対的な忠誠心と、彼らを脅かす者には容赦なく(sloppily=血まみれに、あるいは手段を選ばず)攻撃を仕掛けるというストリートの掟で曲を締めくくっている。