Artist: Logic
Album: Under Pressure
Song Title: Nikki
概要
Logicのデビューアルバム『Under Pressure』(2014年)に収録された本作は、ヒップホップにおける「ダブルミーニング(二重意味)」と「擬人化(Personification)」の極致とも言えるコンセプチュアルな傑作である。一聴すると「Nikki(ニッキー)」という名前の女性との有害な恋愛関係(Toxic relationship)から抜け出せないSad Boyの苦悩を歌ったR&Bテイストのラブソングに聞こえるが、曲の終盤で「Nikki」が「Nicotine(ニコチン)」の暗号であることが明かされる。アルバムの前半から「Bounce」などの楽曲で意図的に「Nikkiと一緒にいる」とネームドロップして伏線を張り巡らせてきた見事なストーリーテリングだ。さらに歌詞の中では、「Mary(マリファナ=Mary Jane)」や「Jack(ジャック・ダニエル=酒)」といった他のドラッグやアルコールも女性や友人の名前に見立てて登場させている。ラッパーとして成功し、ストレートエッジ(ドラッグフリー)なスタンスを保ちながらも、唯一タバコだけは断ち切れないという人間的な弱さとニコチン依存症の恐怖を、キング牧師の妻にまで例える異常な偏愛ぶりで描き出した、コアなヘッズから高く評価されるリリシズムの結晶である。
和訳
[Verse]
I can feel you in my lungs, feel you in my veins
俺の肺でお前を感じる、静脈の中でお前を感じる
Bloodstream only way to make it to my brain
血流に乗せるのが、俺の脳へとお前を届ける唯一の方法だ
※女性との肉体的なつながりを表現しているように見せかけ、実際はタバコの煙を肺に吸い込み、ニコチンが血流に乗って脳の報酬系を刺激する化学的なプロセスを描写している。
I tried some others but man they just not as good as you
他の奴らも試してみたが、なあ、お前ほど最高じゃないんだ
Going crazy 'cause I only feel this good with you
お前といる時だけこんなに気持ちよくなれるから、頭がおかしくなりそうさ
Maybe I'm just not as strong as I once was
おそらく俺は、昔のようには強くないんだろうな
When we're together lately I don't even feel a buzz
最近じゃ一緒にいても、バズすら感じないんだからな
※「buzz」は恋愛における胸の高鳴りを示すと同時に、ニコチン摂取時の軽い陶酔感(ヤニクラ)のこと。長年の喫煙により耐性がついてしまった依存症の状態。
I'm addicted to this shit like it was hard drugs (Drugs)
ハードドラッグみたいに、俺はこのクソに依存しちまってる(ドラッグ)
Nikki baby, I love you but now I gotta go
ニッキー・ベイビー、愛してるが、俺はもう行かなくちゃならない
'Cause in the end what happens you already know
だって最後にはどうなるか、お前もとっくに分かってるだろ
Probably wonder where I been at, I been laying low
俺がどこにいたか不思議に思ってるだろうな、俺は身を潜めていたんだ
But in my mind I'm wondering what I'm paying for (Paying for)
だが頭の中では、自分が何の代償を払っているのかと考えてる(代償を払ってる)
※「paying for」には、有害な関係による精神的な代償、タバコ代の出費、そして喫煙による健康寿命の短縮という多重の意味が込められている。
All these other bitches on my dick but I can't fuck with that
他のビッチどもが俺に群がってくるが、相手になんてしてられない
You're the only girl I need I gotta have you back
俺に必要なのはお前だけだ、お前を取り戻さなきゃならない
Even though you turn my lungs black (My lungs black)
たとえお前が、俺の肺を真っ黒に染め上げるとしてもな(俺の肺を真っ黒に)
Tell me where you been Jack (Been Jack)
どこにいたのか教えてくれよ、ジャック(ジャック)
※「Jack」は一般的な呼びかけであると同時に、ウイスキーの「ジャック・ダニエル」の擬人化という見方がファンコミュニティでは有力。
Uh, I know this shorty that go by the name of Mary
ああ、俺はメアリーって名前の小娘を知ってるぜ
※「Mary」はマリファナ(Mary Jane)の擬人化表現。
I used to fuck her way back when I didn't know a thing
何も知らなかった昔は、よくあいつとヤってたもんさ
※かつてマリファナを吸っていた過去の経験を、昔の女との関係に例えている。
Skipping school with all my homies on some truancy
ダチとみんなで学校をサボって、無断欠席してな
But when I ended things with her it was just you and me
だが、あいつとの関係を終わらせた時、残ったのはお前と俺だけだった
※Logicが音楽に集中するためにマリファナを完全に絶った(関係を終わらせた)後も、タバコ(ニコチン)だけは辞めることができなかった事実を語っている。
Doing me good, that's what I thought at first
俺をいい気分にしてくれる、最初はそう思ってた
Me and you together, swear to God that's all that worked
お前と俺の二人きり、神に誓って、それだけが上手くいってたんだ
Away from you though man it's just so hard to work (Hard to work)
だがお前から離れると、なあ、仕事をするのがひどく困難になる(ひどく困難になる)
※ニコチンが切れると集中力がなくなり、曲作り(work)に支障をきたす禁断症状のリアルな描写。
Uh, my heart is hard at work
ああ、俺の心臓は激しく鼓動している
We been together like ten years
俺たちは10年くらいの付き合いになるな
Goddamn, took me as a young man
クソッ、俺がまだ若かった頃に心を奪いやがって
Everyday I wonder who I am, who will I be, where will I go
毎日考えるんだ、俺は誰で、何になり、どこへ向かうのか
What will they write upon my grave?
奴らは俺の墓石になんて刻むんだろうな?
A free man born as a king, who died as a slave
王として自由な男として生まれたが、奴隷として死んでいったとな
But everything he gave her was for nothing though
だが、彼が彼女に捧げたすべては無駄だったのさ
Oh no I can't fade that shit I gotta let you go
いやダメだ、こんなクソみたいな結末は受け入れられない、お前を手放さなきゃ
You got me tripping like a flight to Vegas
お前は俺を、ベガスへのフライトみたいにトリップさせる
All this shit you got me doing man it's outrageous
お前のせいで俺がやらかしてること、なあ、マジで異常だぜ
All I know is I'm living the life I never would
分かってるのは、想像もしていなかったような人生を俺が生きているってことだけだ
Finally let you go, I thought I never could
ついに手放したよ、絶対に無理だと思っていたのにな
Don't get me wrong, can't forget the times shared
勘違いするな、一緒に過ごした時間は忘れられない
Seem like everywhere I go, I always know you're there
どこへ行こうと、いつもお前がそこにいるような気がするんだ
※禁煙を試みるも、街中のコンビニや他人の喫煙など、タバコが存在する環境から逃れられない依存症の呪縛。
Tried to run but my legs won't
逃げようとしたが、脚が動かない
I look away but my head don't
目を逸らしても、頭が離れようとしない
I love it when you're fresh
お前がフレッシュな時のことが大好きなんだ
※新しいタバコの箱を開ける時のメタファー。
I love it when I take your top off and we share the same breath
お前のトップを脱がせて、同じ息を共有する瞬間が大好きなんだ
※タバコの箱の上部(トップ)を開け、火をつけて煙(息)を吸い込む動作を、女性の服を脱がせてキスをする情熱的な行為に見立てた、ヒップホップIQの極めて高いパンチライン。
I hate it that I need you, Nikki
お前を必要としている自分が憎いよ、ニッキー
But I love it when I feed you, Nikki
だが、お前に餌を与える時が愛おしいんだ、ニッキー
※タバコに火を点ける(餌を与える=燃やす)ことの表現。
I hate that I bleed for you
お前のために血を流すのが憎い
Uh, I long and I need for you
ああ、俺はお前を待ち焦がれ、必要としている
But I love it when I taste you (Taste you)
だが、お前を味わう時が大好きなんだ(お前を味わう)
Nothing can replace you (Replace you)
何ものもお前の代わりにはなれない(お前の代わりには)
I wish I could erase you, you’re everywhere I go
お前を消し去れたらいいのに、お前は俺の行く先々にいる
But you're everywhere I long to be
だが、俺が切望する場所のすべてにお前がいるんだ
And all these other people that don't seem to understand
そして、分かろうとしない他の奴らはみんな
I'm just a man they always ask what’s wrong with me
俺はただの男なのに、奴らはいつも俺のどこがおかしいのかと聞いてくる
Man you're everything I crave
なあ、お前が俺の渇望するすべてなんだ
You're the only thing I let in that would put me in the grave
俺を墓場に送るものの中で、俺が唯一体内に受け入れた存在さ
I'm a king, you're my Coretta
俺はキングで、お前は俺のコレッタだ
※マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)と、その最愛の妻コレッタ・スコット・キングへのリファレンス。自らをヒップホップの王(King)に見立て、タバコを生涯の伴侶(Coretta)に例えた美しいが病的なメタファー。
But lately, I been feeling like a slave for the nicotine (Nicotine, nicotine)
だが最近じゃ、ニコチンの奴隷になったような気分なんだよ(ニコチン、ニコチン)
※ここで初めて「Nikki=Nicotine(ニコチン)」であるという壮大なギミックの種明かしがされる。
[Break]
Slave for the—
奴隷さ—
Said, I'm a slave for the nicotine (Nicotine, nicotine)
言っただろ、俺はニコチンの奴隷なんだ(ニコチン、ニコチン)
Been a slave for ya
お前の奴隷だった
I'm a muthafuckin' slave for ya
俺はお前のクソみたいな奴隷さ
Slave for the nicotine (Nicotine, nicotine)
ニコチンの奴隷だ(ニコチン、ニコチン)
Nikki, Nikki, slave for ya
ニッキー、ニッキー、お前の奴隷さ
I'm a slave for ya Nikki
お前の奴隷なんだよ、ニッキー
I'm a muthafuckin' slave for ya
俺はお前のクソみたいな奴隷さ
[Outro: Thalia]
All handwriting on the album's artwork was done by Big Lenbo—
このアルバムのアートワークにある手書きの文字はすべて、ビッグ・レンボによって書かれたものです—
※アルバムのガイド音声であるThaliaの解説。Big LenboはLogicの無名時代からの盟友であり、自身の家の地下室をLogicに貸し与えて彼を支えた最重要人物。アートワークに有名デザイナーではなく身内のRattPackのメンバーを起用しているという、彼のフッドへの忠誠心とファミリーへの愛を示している。
