Artist: Kendrick Lamar
Album: good kid, m.A.A.d city
Song Title: Sherane a.k.a Master Splinter’s Daughter
概要
2012年にリリースされたKendrick Lamarの歴史的メジャーデビューアルバム『good kid, m.A.A.d city』のオープニングを飾る重要曲である。本作は、アルバム全体を貫く「コンプトンという狂った街(m.A.A.d city)で育つ善良な少年(good kid)の1日」というコンセプチュアルな物語のプロローグとして機能している。タイトルの「Master Splinter」とは『ミュータント・タートルズ』に登場するネズミのキャラクターであるが、ストリートにおいて「ネズミ(Rat)」は裏切り者や小悪党を意味し、シェレーンという少女が若きケンドリックを罠(セットアップ)に嵌める存在であることを暗示している。10代の性衝動に突き動かされて母親のミニバンで危険なエリアへ向かう少年の青臭い語り口と、不穏なベースライン、そして日常の滑稽さと死の危険が隣り合わせにあるゲットーのリアルを見事に描写した、ヒップホップ屈指のストーリーテリングである。
和訳
[Intro]
Lord God, I come to you a sinner
主なる神よ、私は罪人としてあなたの元へ参りました
※キリスト教における「罪人の祈り(Sinner's Prayer)」。アルバムの終盤でも反復されるこの祈りは、暴力と誘惑に満ちたコンプトンで生き抜くための精神的な救済と、このアルバム全体が「過去の罪の告白」であることを示している。
And I humbly repent for my sins
そして、自らの罪を謙虚に悔い改めます
I believe that Jesus is Lord
イエスが主であると信じます
I believe that You raised him from the dead
あなたがイエスを死者の中からよみがえらせたと信じます
I would ask that Jesus come to my life
イエスが私の人生に来てくださるようお願いします
And be my Lord and Savior
そして、私の主であり救い主となってくださることを
I receive Jesus to take control of my life
私の人生を導くために、イエスを受け入れます
And that I may live for him from this day forth
今日から彼のために生きることができるように
Thank you, Lord Jesus, for saving me with your precious blood
主イエスよ、あなたの尊い血で私を救ってくださり、ありがとうございます
In Jesus' name, amen
イエスの御名において、アーメン
[Verse]
I met her at this house party on El Segundo and Central
俺があいつと出会ったのは、エル・セグンドとセントラルの交差点近くのハウスパーティーだった
※コンプトンに実在する交差点。自身のフッドのリアルな地理を提示して物語の解像度を上げている。
She had the credentials of strippers in Atlanta
あいつはアトランタのストリッパーみたいな風格を持ってた
Ass came with a hump, from the jump she was a camel
ケツがこんもり盛り上がってて、最初からラクダみたいな女だった
I want to ride like Arabians, push an '04 Mercedes-Benz
俺はアラブ人みたいに乗りこなしたかった、04年式のメルセデス・ベンツを転がすように
"Hello, my name is Kendrick," she said, "No, you're handsome"
「やあ、俺はケンドリックだ」と言うと、彼女は「ううん、あなたはハンサムね」と返してきた
Whispered in my ear, disappeared, then found her dancin'
俺の耳元でそう囁いて姿を消し、気づけばあいつは踊っていた
Ciara had played in the background
バックグラウンドではシアラが流れていた
※2004年頃の時代背景を示すネームドロップ。シアラは当時「Goodies」や「1, 2 Step」で大ヒットしていたR&Bシンガー。
The parade music we made had us all wearin' shades now, cool
俺たちが作ったパレードの音楽で、みんなサングラスをかけてた、クールだ
"Where you stay?" She said, "Down the street from Dominguez High"
「どこに住んでるんだ?」と聞くと、彼女は「ドミンゲス高校から通りを下ったところよ」と答えた
Okay, I know that's borderline Compton or Paramount
なるほど、そこはコンプトンとパラマウントの境界線あたりだって俺には分かっていた
"Well, is it Compton?" "No," she replied
「それって、コンプトンなのか?」と俺が聞くと、「違うわ」と彼女は答えた
Then quickly start battin' her eyes
そしてすぐに瞬きをして色目を使ってきた
I strictly had wanted her thighs around me
俺はただ純粋に、彼女の太ももを俺の腰に巻きつけたかったんだ
Seventeen with nothin' but pussy stuck on my mental
17歳、俺の頭の中には女の股のことしかへばりついていなかった
My motive was rather sinful, "What you tryna get into?"
俺の動機はかなり罪深かった、「これから何をするつもりだ?」
She didn't tell, just gave me her Nextel
彼女は答えず、ただネクステルの番号を俺に渡した
※Nextelは2000年代半ばのアメリカで若者を中心に大流行したトランシーバー機能付きの携帯電話。
Dropped the number, we chirped the whole summer, and, well
番号を交換して、俺たちは夏の間ずっとチャープで会話した、そして、まあ
※「chirp」はNextelのトランシーバー機能で発信するときに鳴る「ピピッ」という電子音のことで、転じて「連絡を取り合う」という当時のスラング。
The summer had passed, and now I'm likin' her
夏が過ぎて、俺は彼女のことを好きになっていた
Conversation we havin' probably enticin' her
俺たちの会話は、おそらく彼女をそそらせていた
Who can imagine? Maybe my actions'll end up wifin' her
誰が想像できただろう? 俺の行動が、結果的に彼女を妻にすることになるかもしれないなんて
Love or lust, regardless, we'll fuck 'cause the trife in us
愛か性欲か、そんなの関係なく俺たちはヤるだろう、俺たちの中にある下劣さがそうさせるからな
It's deep-rooted, the music of bein' young and dumb
深く根付いているんだ、若くて馬鹿であることの音楽が
Is never muted, in fact, it's much louder where I'm from
決してミュートされることはない、それどころか、俺の地元ではずっとうるさく鳴り響いている
We know a lot 'bout each other, her mother was a crack addict
俺たちは互いのことをよく知っていた、彼女の母親はクラック中毒者だった
She live with her granny and her younger two brothers
彼女はおばあちゃんと、2人の弟と一緒に住んでいた
Her favorite cousin Demetrius is irrepetible
彼女の大好きな従兄弟のディミトリアスは、評判の悪い要注意人物だった
Family history of gangbangin' did make me skeptical
ギャングバンギングの家族の歴史は、俺を疑い深くさせた
※ギャングに関わりの深い家系の女と親密になることは、命を落とす危険なトラブルに巻き込まれる可能性が高いというストリートの常識。
But not enough to stop me from gettin' a nut
だが、俺が射精するのを思いとどまらせるほどじゃなかった
"I wanna come over, what's up?"
「そっちに行きたいんだが、どうだ?」
That's what I told her soon as this episode
俺は彼女にそう告げた、このエピソードが
Of Martin go off, I'm tryna get off
『マーティン』のエピソードが終わり次第、俺はヤりに行くつもりだと
※『Martin』はマーティン・ローレンス主演の90年代の大人気黒人シットコム。
I was in heat like a cactus
俺はサボテンみたいに熱く発情していた
My tactics of bein' thirsty probably could hurt me
女に飢えている俺のこの戦術は、おそらく自分自身を傷つけることになりかねない
※「thirsty」は性的に飢えている、ガツガツしている状態。
But fuck it, I got some heart
だが知ったこっちゃない、俺にも度胸くらいある
Grabbed my mama keys, hopped in the car, then, oh boy
お袋の車の鍵を掴み、車に飛び乗った、それから、ああ
So now I'm down Rosecrans in a Caravan
そして今、俺はキャラバンに乗ってローズクランズ通りを下っている
※ダッジ・キャラバン(ファミリー向けのミニバン)。若き日のケンドリックが「ギャングの車」ではなく「母親のミニバン」を勝手に乗り回しているという、イキりきれないリアルな状況を描写している。「Rosecrans」はコンプトンを東西に貫く主要な大通り。
Passin' Alameda, my gas meter in need of a pump
アラメダ通りを過ぎる頃、ガスメーターは給油を求めていた
I got enough to get me through the traffic jam
渋滞を切り抜けるくらいのガソリンは残っている
At least I hope, 'cause my pockets broke as a promise, man
少なくともそう願いたい、だって俺のポケットは破られた約束みたいに空っぽだからな
I'm thinkin' 'bout that sex
俺はあのセックスのことばかり考えている
Thinkin' 'bout her thighs or maybe kissin' on her neck or maybe what position's next
彼女の太ももや、首元にキスすること、あるいは次はどんな体位にするかをな
Sent a picture of her titties, blowin' up my texts
彼女の胸の写真を送ってきて、俺の携帯のメッセージを吹き飛ばすほど鳴らしてくる
I looked at 'em and almost ran my front bumper into Corvette
それに見とれて、フロントバンパーを危うくコルベットにぶつけるところだった
Enthused by the touch of a woman, she's a masseuse
女の感触に夢中になってる、彼女はマッサージ師だ
And I'm a professional pornstar when off the Goose
そして俺はグースを飲めばプロのポルノスターさ
※「the Goose」は高級ウォッカのグレイグース(Grey Goose)。若者の背伸びした酒。
I had a fifth in the trunk like Curtis Jackson for ransom
俺は身代金目的のカーティス・ジャクソンみたいに、トランクにフィフスを積んでいた
※「a fifth」は1/5ガロンの酒のボトル。「Curtis Jackson」は50 Centの本名。かつて彼が身代金目的でトランクに監禁されたというストリートの噂と、「トランクに酒(50 Centにかけて)を入れている」という高度なダブルミーニング。
I'm hopin' to get her loose like an Uncle Luke anthem
アンクル・ルークのアンセムみたいに、彼女をリラックスさせたいと願ってるんだ
※Uncle Lukeはマイアミ・ベースのパイオニアである2 Live Crewのリーダー。過激で性的にオープンなダンス・アンセムで知られる。
I'm two blocks away, two hundred and fifty feet
あと2ブロックだ、距離にして250フィート
And six steps from where she stay, she wavin' me 'cross the street
彼女のいる場所まであと6歩、通りの向こうで彼女が俺に手を振っている
I pulled up, a smile on my face, and then I see
車を停め、俺の顔には笑顔が浮かぶ、そして俺は目にした
Two niggas, two black hoodies, I froze as my phone rang
2人の黒人、2つの黒いパーカーを、電話が鳴る中、俺は凍りついた
※シェレーンの従兄弟や家族(ギャング)による罠(セットアップ)に嵌められた決定的な瞬間。ここでビートが途切れ、甘い青春の妄想からコンプトンの冷酷な現実へと引き戻される。
[Outro]
Please leave your message for three-two-three
323へのメッセージを残してください
※「323」はロサンゼルスの市外局番。
Record your message after the tone
発信音の後にメッセージを録音してください
Kendrick, where you at?
ケンドリック、どこにいるの?
Damn, I'm sittin' here waitin' on my van
ったく、私はここで自分のバンを待ってるのよ
You told me you was gon' be back in fifteen minutes
15分で戻ってくるって言ったじゃない
Man, I gotta go up to the county buildin', man, these kids ready to eat
ねえ、郡の役所に行かなきゃならないのよ、この子たちはお腹を空かせてるのに
I'm ready to eat, shit
私もお腹ペコペコよ、もう
I gotta get them food stamps, come on now
フードスタンプをもらいに行かなきゃいけないの、いい加減にして
※「food stamps」は低所得者向けの食料配給券。当時のケンドリックの家庭の厳しい経済状況を示すリアルな描写。
You on your way or what?
今向かってるの? どうなの?
I hope you ain't out there messin' with them damn hoodrats out there, shit
そこらのクソみたいなフッドラットどもとつるんでないでしょうね、まったく
※「hoodrat」はゲットーの素行の悪い女や不良を指すスラング。ここではシェレーンのことを指している。
'Specially that lil' crazy-ass girl Sherane
特にあのイカれた小娘のシェレーンよ
And plus you got school tomorrow
それに明日は学校があるのよ
You keep fuckin' around in them streets, you ain't gon' pass to the next grade
ストリートでふざけたことばっかりやってたら、次の学年に進級できないわよ
Eleventh grade
11年生にね
※11年生は高校のジュニア(日本の高2相当)。ケンドリックがまだ未熟な少年であることを強調している。
(Is that Kendrick on the phone?)
(電話はケンドリックか?)
Your daddy callin' about some damn dominoes (Let me holler at him)
あなたのお父さんが、あのくだらないドミノのことで呼んでるわ(俺に代われ)
He want to holler at you too, go ahead, Kenny, go'n, shit
彼もあなたに言いたいことがあるみたいよ、ほら、ケニー、ほら、もう
Hello? Yak, where my motherfuckin' dominoes at?
もしもし? ヤック、俺のマザーファッキンなドミノはどこだ?
※「Yak」はケンドリックのあだ名。「ドミノ」は黒人の家庭や近所付き合いでよく遊ばれる定番のテーブルゲーム。
(Kenny), What?
(ケニー)、何だ?
I'm on his voicemail, damn fool (Oh), shit
留守番電話になってるじゃないか、このバカ(ああ)、クソ
Yak, where my motherfuckin' dominoes at?
ヤック、俺のマザーファッキンなドミノはどこだ?
This the second time I asked you to bring my fuckin' dominoes
俺のクソみたいなドミノを持ってこいって言うのはこれで2回目だぞ
Just give me the damn phone, shit, don't hang up, damn, let me
電話を貸してよ、クソ、切らないでよ、もう、私に
Kendrick, when you get this message, man, call me back (Keep losin' my goddamn dominoes, we gon' have to go in the backyard)
ケンドリック、このメッセージを聞いたら折り返しなさい(俺のドミノを失くし続けやがって、裏庭に出なきゃならねえぞ)
※「go in the backyard」は裏庭で殴り合いの喧嘩(親からの物理的な制裁)をするという父親の脅し。
I need to know when you gon' bring back my damn car (And squab, homie)
いつ私の車を返してくるのか知りたいのよ(そして殴り合うんだ、なあ)
※「squab(squabble)」は殴り合いの喧嘩のこと。
This man fussin' 'bout some damn dominoes
この人、くだらないドミノのことで大騒ぎして
It ain't all that serious, fuck, damn dominoes
そんなに大したことじゃないのに、クソ、ドミノなんて
Shit, I'ma miss my damn appointment, fuck
クソッ、約束の時間に遅れちゃうじゃない、もう
Fuck some damn dominoes, nobody wanna hear that
ドミノなんて知るもんですか、誰もそんな話聞きたくないわよ
Nobody wanna hear your ass
誰もあなたの話なんて聞きたくないのよ
Matter fact, cut my motherfuckin' oldies back on
それより、俺のマザーファッキンなオールディーズをかけ直せ
※「oldies」は昔のソウルミュージックなど。ギャングやゲットーの上の世代が好んで聴く音楽。
You killin' my motherfuckin' vibe
俺のマザーファッキンなバイブスを台無しにしてるぞ
※このセリフが、次曲のタイトルでありアルバムの象徴的なアンセム「Bitch, Don't Kill My Vibe」のテーマへと直接繋がっていく。
