Artist: Vince Staples
Album: Cry Baby
Song Title: 7 In The Morning
概要
カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルズによる「7 In The Morning」は、世界的な戦争の残酷さと、ストリートのギャング抗争を重ね合わせた極めてコンシャスで反戦的なメッセージを持つ楽曲である。本作では「聖地」や「弾頭」といったワードから紛争地帯の子供の視点を借りつつ、彼らが憧れるアメリカン・ドリーム(ハリウッドやレイカーズのパレード)の虚像を強烈な皮肉として提示している。エドウィン・スターの歴史的な反戦歌を引用しながら、国家や宗教を理由に同胞を殺し合う人間の根源的な強欲さ、そして「死」をエンターテインメントとして消費する大衆の狂気を鋭くえぐり出す。軍隊の行進を模した不気味なコーラスの反復は、思考を停止して「アンクル・サム(アメリカ政府)」の命令に従う兵士たちや、システムに組み込まれたストリートの若者たちへの冷徹な警鐘として響く。常に社会の傍観者として冷めた視点を持つヴィンスのペルソナが、グローバルなスケールで不条理を切り取った重厚な一曲だ。
和訳
[Verse 1]
7 in the morning, death is in the air
朝の7時、死の気配が漂っている
Decibels from warheads, deafening my ears
弾頭からの爆音が、俺の耳を劈く
Desecrated holy land, the devil's near
冒涜された聖地、悪魔はすぐそばにいる
※「holy land(聖地)」という表現から、中東などの終わらない紛争地帯を連想させる。同時に、自分の故郷(フッド)が暴力によって血に染まる様子を戦争に例えたダブルミーニングとしても機能している。
Devastated, questioning if Heaven's real
打ちのめされ、天国なんて本当に存在するのかと疑い始める
7 in the morning, tryna get to noon
朝の7時、なんとか正午まで生き延びようとしている
※未来の夢を見る余裕すらなく、ただ数時間先まで生き残ることだけが目的となっている極限のサバイバル状態。
Staring out my window, watching the platoon go
窓の外を見つめながら、小隊が通り過ぎていくのを見ている
[Chorus]
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
※軍隊の行進の掛け声。無感情に、機械的に行進する兵士たちの足音を不気味に表現しており、システムに組み込まれて命令通りに動く人間の恐ろしさを表している。
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
[Verse 2]
The man on the moon said it'd be over any day now
月に行った男は、こんな日々ももうすぐ終わると言っていた
※「The man on the moon」はアメリカの宇宙開発(アポロ計画)の象徴であり、巨大な力を持つ超大国アメリカそのものを指す。大国が介入してくれば平和が訪れるという、紛争地帯の住民に与えられた無責任な希望的観測。
America will be here soon to make a way out
アメリカがもうすぐここにやって来て、逃げ道を作ってくれると
And put us on a plane to L.A.
そして俺たちをL.A.行きの飛行機に乗せてくれるんだってな
We'll get to live in Hollywood and see a Laker parade
ハリウッドに住んで、レイカーズの優勝パレードを見られるようになるって
※ハリウッドの華やかな生活や、ロサンゼルス・レイカーズのパレードといった「アメリカン・ドリーム」のステレオタイプ。爆撃が続く現実との残酷すぎるコントラストを描き出している。
Can't wait to march down Figueroa
フィゲロア通りを行進するのが待ちきれないよ
※「Figueroa」はロサンゼルスの主要な通り。優勝パレードでの平和で熱狂的な「行進」を夢見ているが、直後のラインでその意味が反転する。
Mimicking the movement of the soldiers
兵士たちの動きの真似をしながらな
※平和なパレードの行進を夢見ていたはずが、現実で目にしている「兵士の行進」の模倣にすり替わってしまう。暴力の連鎖から子供たちの精神が逃れられないことの悲劇。
Staring out my window, 7 in the morning, going
窓の外を見つめる、朝の7時、進んでいく
[Chorus]
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
[Verse 3]
War, what is it good for?
戦争、それがいったい何の役に立つんだ?
※ソウル・シンガー、Edwin Starrが1970年に発表した歴史的な反戦歌「War」の有名なフレーズ「War, what is it good for? Absolutely nothing」からの引用。
And what's the point of peace if we can break it?
壊すことができるのなら、平和に何の意味があるんだ?
All the wars we wage as nations over money or location or religious ideation
俺たちが国家として引き起こす戦争のすべては、金や領土や宗教的な思想のせいだ
Humans cheering in the crowd, proud of their gladiators
群衆の中で歓声を上げる人間たち、自分たちの剣闘士を誇りに思っている
※戦争や殺し合いを、古代ローマのコロッセオにおける剣闘士(グラディエーター)の死闘のように、安全な場所からエンターテインメントとして消費する大衆の狂気を告発している。
Why is death our entertainment? I don't understand
なぜ死が俺たちの娯楽なんだ? 俺には理解できない
※国際的な戦争だけでなく、ヒップホップにおけるギャングの抗争やラッパーの死を「リアルなエンタメ」として消費する音楽ファンに対する、ヴィンス特有の鋭い批判。
Primal greed, we always feel the need to have the upper hand
原始的な強欲さ、俺たちは常に優位に立たなければならないと感じている
Murdering our brothers for the love of Uncle Sam
アンクル・サムへの愛のために、兄弟たちを殺し合っている
※「Uncle Sam」はアメリカ合衆国政府の擬人化。国家や愛国心という名目のもとで搾取され、同じ境遇の者(あるいはストリートの黒人同士)が殺し合わされている構造的矛盾への痛烈な皮肉。
Marching like a soldier, waiting on commands going
兵士のように行進しながら、命令を待っている
[Chorus]
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
Left, left, left, right, left
左、左、左、右、左
[Instrumental Outro]
