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The Big Bad Wolf - Vince Staples 【和訳・解説】

Artist: Vince Staples

Album: Cry Baby

Song Title: The Big Bad Wolf

概要

カリフォルニア州ロングビーチ出身のラッパー、ヴィンス・ステイプルズによる「The Big Bad Wolf」は、アメリカ社会における警察の暴力、司法の不平等、そして黒人に対する根深いレイシズムを冷徹に告発する強烈なコンシャス・ラップである。タイトルが示す「大きくて悪い狼」とは、童話『三匹の子豚』に登場する狼を国家権力や警察に見立てたものであり、黒人がどれだけ努力して生活を築き上げようとも、理不尽な権力が突然日常を吹き飛ばしにくるという構造的な恐怖を暗示している。
本作では、Slick Rickの1988年のクラシック「Children's Story」の有名な一節「Cops shot the kid(警官が子供を撃った)」をサンプリングし、時代が変わっても警察が黒人の子供を殺し続ける構図が変わっていないことを提示する。リリックにはN.W.A.や2Pacの映画『Juice』といった西海岸ヒップホップの系譜から、オバマ政権のドローン爆撃、トレイボン・マーティン射殺事件のジョージ・ジマーマンまで、歴史と政治の暗部を射抜く高度なリファレンスが密集している。不当な逮捕から終身刑を宣告されるまでの過程を一編のショートフィルムのように描き出し、抗えないシステムへの怒りと諦念を完璧なリリシズムで表現した名曲だ。

和訳

[Intro: Slick Rick]

This ain't funny, so don't you dare laugh
これは笑い事じゃない、だから絶対に笑うなよ
※Slick Rickの「Children's Story」の冒頭のセリフ。これから語られる凄惨なストリートの現実がフィクションではないことを警告している。

[Verse 1: Vince Staples]

Who drew that white man hangin' on the cross?
十字架に吊るされたあの白人を誰が描いた?
※キリスト教のイエス・キリストが白人として描かれている歴史的背景への疑問。宗教が白人至上主義を正当化するツールとして機能してきたことに対する批判的視点。

Don't put your right hand on the word of God
神の言葉に右手を置くな
※アメリカの法廷で聖書に手を置いて宣誓する司法制度の偽善を指摘している。人種差別的な法システムに「神の正義」など存在しないという皮肉。

I'm gettin' paid now, so I keep a thing 'round
今は稼いでるから、モノを持ち歩いてる
※「thing」は銃のこと。経済的に成功してもなお、自分の命や財産を守るために武装しなければならないストリートの現実。

And I shoot it fast, like a minute in New York
そしてニューヨークの1分みたいに素早く撃ち放つ
※「New York minute」は「あっという間」を意味するイディオム。

Live by the gun, die at the hands of the law
銃と共に生き、法の手に掛かって死ぬ
※「Live by the sword, die by the sword(剣に生きる者は剣に死ぬ)」の変形。ストリートでは敵対するギャングではなく、警察(法)によって殺されるという真理。

'Cause a badge and a gun make you more
バッジと銃が、お前をより偉大な存在にするからだ
※警察官のバッジと銃が、彼らに法を超越した特権階級の力を与え、殺人を正当化しているという告発。

[Refrain: Vince Staples]

Nigga, what are you gon' do when the shit crack off
事態が爆発したとき、お前はどうする?

And the big bad wolf come and blow down yours, huh?
そして大きな悪い狼が来て、お前の家を吹き飛ばす時にな
※童話『三匹の子豚』の狼(Big Bad Wolf)のメタファー。どれだけ自己防衛しても、巨大な国家権力が理不尽に全てを破壊しにくる恐怖。

[Chorus: Slick Rick]

Once upon a time not long ago
昔々、それほど昔じゃない頃

Rat-a-tat-tatted and all the cops scattered
ダダダッと銃声が鳴り、警官たちは散り散りになった

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid
警官が子供を撃った
※Kanye WestやNasも「Cops Shot the Kid」で引用したSlick Rickのサンプリング。警官による黒人少年の射殺という悲劇が、昔から現代に至るまでループし続けていることを示している。

Once upon a time not long ago
昔々、それほど昔じゃない頃

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

[Verse 2: Vince Staples]

Yeah, I'm a nigga with an attitude
ああ、俺は態度のでかい黒人だ
※伝説のラップグループ「N.W.A.(Niggaz Wit Attitudes)」のネームドロップ。「Fuck Tha Police」の精神を受け継ぎ、権力に媚びない姿勢を表明している。

Just tеll the truth and watch how quick they all get mad at you
真実を口にしてみろ、奴らがどれほど早く激怒するか見てみろ
※アメリカの人種差別の現実を語るだけで、白人社会や保守層が過剰に拒絶反応を示す社会の病理。

Don't wanna hеar another jingle from the jigaboos
ジガブーどもからの新しいジングルなんて聞きたくない
※「jigaboo」は黒人をステレオタイプ化して嘲笑する蔑称。白人社会に迎合し、エンタメとして道化を演じることで金を稼ぐ同業者(ラッパーたち)への痛烈な批判。

Don't wanna see another dry snitchin' interview
ドライ・スニッチのインタビューも二度と見たくない
※「dry snitching」はメディアやSNSで不用意に語り、間接的に警察に情報を漏らすこと。ストリートの掟を守らないラッパーへの苛立ち。

Why every time a nigga in the news, he in a noose?
なぜニュースに出る黒人はいつも、首吊り縄をかけられているんだ?
※メディアで報じられる黒人が常に犯罪者として社会的に抹殺される(リンチされる)構図への怒り。

It makes me sick, I'm with the shit that Pac was on in Juice
吐き気がする、俺は映画『ジュース』の2Pacと同じモードだ
※1992年の映画『Juice』で2Pacが演じた狂気的で暴力的なキャラクター「ビショップ」に自らを重ねている。社会の不条理に対する怒りが臨界点に達している心理状態。

I'm jumping off the roof, I'm feelin' bulletproof
屋上から飛び降りる、防弾になった気分だ
※映画『Juice』の象徴的なシーンのリファレンスと、精神的な無敵状態の表現。

Assassinatin' who? Who the fuck you think you talkin' to?
誰を暗殺するって? 誰に向かって口を利いてると思ってるんだ?

[Verse 3: Vince Staples]

Drop bombs like Barry O, you hear me comin'
バリー・Oのように爆弾を落とす、俺が来るのが聞こえるだろ
※「Barry O」はバラク・オバマ元大統領のこと。オバマ政権下で多用された中東への無人機(ドローン)爆撃を皮肉り、アメリカという国家の暴力性を指摘している。

Up the street, my trunk jumpin' like a put-on
通りを上る、俺のトランクがフェイクみたいに跳ねてる

I put the hood on, it's plenty Zimmermans among us
フードを被る、俺たちの周りには沢山のジマーマンがいる
※2012年にフード付きパーカーを着ていた非武装の黒人少年トレイボン・マーティンを射殺した自警団員ジョージ・ジマーマンへの言及。ただフードを被っているだけで命を奪われるアメリカの狂気。

But that ain't new, been gunnin' for us since Columbus
だがそれは新しいことじゃない、コロンブスの時代から俺たちを狙ってきた
※現代の警察の暴力やレイシズムが、アメリカ大陸発見(コロンブス)以降の植民地主義や先住民虐殺から地続きの歴史であることを喝破している。

Drop that noose, you should be swingin' in the jungle, black man
その首吊り縄を落とせ、お前はジャングルで揺れているべきだ、黒人よ
※レイシストから投げつけられるヘイトスピーチの視点をあえて借りることで、社会の醜悪さを鏡のように突きつける強烈なライン。

What's your master plan?
お前のマスタープランは何だ?

[Refrain: Vince Staples]

What are you gon' do when the shit crack off
事態が爆発したとき、お前はどうする?

And the big bad wolf come and blow down yours, huh?
そして大きな悪い狼が来て、お前の家を吹き飛ばす時にな

[Chorus: Slick Rick]

Once upon a time not long ago
昔々、それほど昔じゃない頃

Rat-a-tat-tatted and all the cops scattered
ダダダッと銃声が鳴り、警官たちは散り散りになった

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid
警官が子供を撃った

Once upon a time not long ago
昔々、それほど昔じゃない頃

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid, cops shot the kid
警官が子供を撃った、警官が子供を撃った

Cops shot the kid, I still hear him scream
警官が子供を撃った、俺にはまだ彼の悲鳴が聞こえる

[Outro: Vince Staples]

This is for the Black man tryna make a dollar out a dime
これは10セントから1ドルを稼ごうとする黒人のためのものだ
※2Pacも名曲「Keep Ya Head Up」で用いた、持たざる者が知恵と努力で富を築く(Make a dollar out of 15 cents)ヒップホップ特有のハッスルのスローガン。

Need a CAT scan? Nigga must've lost his fuckin' mind
CTスキャンが必要か? あいつは完全に頭がおかしくなったに違いない

Let's get active, I've got more than money on the line
行動を起こそう、俺には金以上のものが懸かっている

Got these babies, and I'll die for their motherfuckin' pride (Hooray, hooray, hooray)
子供たちがいる、奴らのプライドのためなら俺は死ねる(万歳、万歳、万歳)
※次世代に誇りと未来を残すためなら、自分の命すら犠牲にするという決意。

Nigga, goddamn, I just seen a Johnny hit the lights
クソッ、ジョニーがパトランプを点灯させるのを見た
※「Johnny(Johnny Law)」は警察を指すスラング。警察に車を止められる瞬間の絶望感。

Nigga, goddamn, now this cracker readin' me my rights
クソッ、今このクラッカーが俺に権利を読み上げてる
※「cracker」は白人(この場合は白人警官)の蔑称。「権利を読み上げる」は逮捕時に行われるミランダ警告のこと。

Nigga, goddamn, they just gave me twenty-five to life
クソッ、奴らは俺に25年から終身刑を宣告した
※「twenty-five to life」は殺人などの第一級重罪に科される刑期。不当な逮捕から、黒人というだけで重い刑罰を科される司法の不平等の結末。

If you love me, send a kite, goodnight
俺を愛してるなら、カイトを送ってくれ、おやすみ
※「kite」は刑務所内で密かにやり取りされる手紙のスラング。社会から完全に隔離された壁の中で、愛する者からの手紙だけを待ち続けるという、美しくも絶望的なエンディング。