Artist: Vince Staples
Album: Cry Baby
Song Title: Blackberry Marmalade
概要
カリフォルニア州ロングビーチ出身の冷徹なリアリスト、ヴィンス・ステイプルズによる本楽曲「Blackberry Marmalade」は、アメリカ社会における人種的搾取と音楽産業の偽善を鋭くえぐり出す問題作である。ゲットーの過酷な現実とギャング文化を冷静に観察してきた彼のペルソナは本作でさらに研ぎ澄まされ、白人支配層(Cracker)が黒人の文化や命をどのように消費してきたかを容赦なく告発している。祖母との温かい記憶を象徴する「ブラックベリー・マーマレード」と、いつ警察や国家権力に撃ち殺されるか分からないという極限のパラノイアが見事な対比を描き出す。アメリカの構造的差別に対するシニカルな諦念と、それでも自らのフッド(ロングビーチ)の誇りを失わない彼のスタンスが、ミニマルで緊迫感のあるビートの上で不気味なほどの静けさを持って語られる。ヒップホップにおけるプロテスト・ソングの新たな到達点とも言える、重厚かつ知的なリリシズムが光る一曲だ。
和訳
[Intro]
Oh
Oh
[Verse 1]
Empires built on bloodstained ground
血塗られた大地の上に築き上げられた帝国たち
※ネイティブアメリカンの虐殺や黒人奴隷の搾取の上に成り立つアメリカという国家の歴史的背景を指している。
Kanye West, I pray they all fall down (Uh-huh)
カニエ・ウェスト、俺はそれらがすべて崩れ落ちることを祈ってる
※カニエ・ウェストの初期の代表曲「All Falls Down」の巧妙な引用。資本主義や白人至上主義というアメリカの「帝国」が崩壊することを冷ややかに願っている。
London Bridge, they're tryna cross you now (Uh-huh)
ロンドン橋、奴らは今お前を渡ろうとしている
※マザーグースの童謡「ロンドン橋落ちた」と絡め、歴史的な植民地主義の象徴が崩壊する様を暗示している。
Don't crash out, Dirty Diana (Dirty Diana)
破滅するなよ、ダーティ・ダイアナ
※マイケル・ジャクソンの名曲「Dirty Diana」の引用。名声や白人社会の誘惑に絡め取られて自滅していく者たちへの警告。
I got the hammer
俺はハンマーを持ってる
※「hammer」はストリートのスラングで銃(拳銃)のこと。理不尽な社会で生き残るための冷酷な武装。
I know it's polarizin' (You know)
それが賛否両論を呼ぶってことは分かってる
※銃の所持やギャングスタとしての暴力性が、メインストリーム社会から批判(polarizing)されることを自覚している冷静な視点。
I miss my nana
ばあちゃんが恋しいよ
She used to tell me 'bout her
彼女は昔、俺に話してくれたんだ
[Chorus]
Blackberry marmalade and sweet tea
ブラックベリーのマーマレードとスイートティー
※アフリカ系アメリカ人の伝統的な南部文化や家庭の温かさ(ソウルフード)を象徴するアイテム。過酷なストリートの現実と対極にある郷愁。
Beats the summer blaze, they say
夏の猛暑も吹き飛ばすって言うけどな
※「summer blaze」は単なる夏の暑さだけでなく、ストリートでの銃撃戦(blaze)や過酷な環境のメタファーでもある。
Honesty's the best policy, okay (Say it)
正直は最善の策だ、分かったよ
※アメリカ社会が掲げる道徳的スローガンをシニカルに反芻している。
Blackberry marmalade and sweet tea
ブラックベリーのマーマレードとスイートティー
Beats the summer blaze, they say
夏の猛暑も吹き飛ばすって言うけどな
Honesty's the best policy, okay (Say it)
正直は最善の策だ、分かったよ
[Post-Chorus]
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
※国家権力(警察)やストリートの暴力に対する、シンプルだが最も切実な黒人青年の恐怖と懇願。祖母との温かい記憶の直後に配置されることで、その残酷さが際立つ。
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
[Verse 2]
Anti-establishment, crackers on that shadiness (You know it)
反体制だ、白人どもが胡散臭い真似をしてる
※「Cracker」は貧しい白人、転じて白人支配層を指す軽蔑的なスラング。アメリカのシステムそのものに対する直接的な敵意の剥き出し。
Crackers watched me work and break my back and said they gave me this (You know it)
白人どもは俺が骨身を削って働くのを見て、俺にこれを与えてやったのは自分たちだと言い放った
※音楽産業における白人エグゼクティブの傲慢さの告発。アーティスト自身の血の滲むような努力を、自分たちの手柄として搾取する構造。
Crackers tapped my pockets with taxes, said they made me rich (Yeah)
白人どもは税金で俺のポケットから搾取し、俺を金持ちにしてやったのは自分たちだと言った
Cracker jacked the sound and soul, then boxed me in and shelved my shit, like Black men (Uh, uh)
白人どもはサウンドと魂をハイジャックし、俺を箱に閉じ込め、俺の作品をお蔵入りにした、黒人に対するいつものやり方でな
※「Cracker jacked」は有名なスナック菓子(Cracker Jack)と「Carjack(強奪する)」を掛けた高度なワードプレイ。ブルースからヒップホップに至るまで、黒人の文化(sound and soul)を白人が奪い、都合の悪いアーティストを飼い殺し(shelved)にする音楽業界の歴史的搾取を痛烈に批判。
Don't let 'em trouble you (Don't let it trouble you)
奴らに心を乱されるな
American front on you (It's gonna be okay)
アメリカはお前に牙を向いてくる
I know it befuddle you
それがお前を混乱させるのは分かってる
But don't let it get to you (Don't let it get to you)
だがそれに精神を削られるな
Just know that they miserable (Know that they miserable)
奴らが惨めな存在だってことだけを知っておけ
And know that behind every smile
そしてどんな笑顔の裏でも
They thinkin' 'bout killin' you (Say it)
奴らはお前を殺そうと考えてるってことをな
※映画『ゲット・アウト』のように、表面上はリベラルで友好的な白人層すらも、潜在的には黒人の存在を脅かしているという究極のパラノイアと真理の提示。
[Bridge]
N-I-G-G-A (Say it)
N-I-G-G-A
※偽善的な白人リスナーに対し、内心で思っているNワードを「言ってみろ(Say it)」と挑発する強烈な皮肉。
N-I-G-G-A (It's o— it's okay to say)
N-I-G-G-A
N-I-G-G-A (Just say it, please)
N-I-G-G-A
N-I-G-G-A (I won't tell anybody)
N-I-G-G-A
[Verse 3]
Ghetto nigga, gangsta nigga, dangerous nigga, famous nigga
ゲットーのニガ、ギャングスタのニガ、危険なニガ、有名なニガ
※アメリカ社会における黒人男性へのステレオタイプを連続して羅列し、カテゴライズへの嫌悪感を示している。
Bougie nigga, Louis nigga, Prada nigga, Gucci nigga
気取ったニガ、ルイのニガ、プラダのニガ、グッチのニガ
Artist nigga, heartless nigga, honest nigga, smartest nigga
アーティストのニガ、冷酷なニガ、正直なニガ、最も賢いニガ
Say it how I mean it, and I call it like I saw it (Say it)
俺は本心で言うし、見たままを言葉にするんだ
Scholar nigga, proper nigga, kill a nigga, rob a nigga
学者のニガ、礼儀正しいニガ、ニガを殺すニガ、ニガを奪うニガ
Conscious nigga, pompous nigga, South and Orizaba nigga
意識高いニガ、傲慢なニガ、サウスとオリザバのニガ
※「South and Orizaba」はヴィンス・ステイプルズが育ったロングビーチのストリート(交差点)の名称。彼が所属していたクリップス(Naughty Nasty Gangster Crips)の縄張り近辺であり、どんな肩書きがつけられようと自分のルーツはここにあるという強烈なレペゼン。
Californiacated nigga, highly elevated nigga
カリフォルニアに染まったニガ、極めて高みに登ったニガ
Ain't you glad I made it, nigga?
俺が成功して嬉しいだろ、ニガ?
Go on 'head, say it (Bitch)
さあ、続けて言ってみろよ
Thuggish nigga, ruggish nigga, coveted, beloved nigga
サグなニガ、ラギッシュなニガ、切望されるニガ、愛されるニガ
※Bone Thugs-N-Harmonyの歴史的名曲「Thuggish Ruggish Bone」からの引用。
Kiss a nigga, hug a nigga, if you fine, then fuck a nigga
ニガにキスしろ、ニガを抱きしめろ、お前がイケてるならニガとヤれ
※黒人文化を消費し、性的に対象化しながらも、人間としての尊厳は認めない白人社会のダブルスタンダードへの批判。
Master never love a nigga, always tryna cuff a nigga
主人は決してニガを愛さない、いつだってニガに手錠をかけようとする
※「Master」は奴隷の所有者と、現代の警察・刑務所産業複合体のダブルミーニング。白人支配層は黒人をエンタメとして消費しても愛することはなく、隙あらば逮捕(cuff)してシステムに組み込もうとするという冷徹な分析。
Obama, Kamala nigga, who the fuck you calling nigga?
オバマ、カマラのニガ、お前は一体誰に向かってニガって呼んでるんだ?
※バラク・オバマ元大統領やカマラ・ハリス副大統領といった社会的頂点を極めた黒人政治家の名前を挙げる。どれだけ社会的に成功しようと、レイシストの白人から見れば結局「全員同じNワード」に過ぎないという、アメリカの絶望的な構造に対する究極のパンチライン。
[Chorus]
Blackberry marmalade and sweet tea
ブラックベリーのマーマレードとスイートティー
Beats the summer blaze, they say
夏の猛暑も吹き飛ばすって言うけどな
Honesty the best policy, okay (Say it)
正直は最善の策だ、分かったよ
Blackberry marmalade and sweet tea
ブラックベリーのマーマレードとスイートティー
Beats the summer blaze, they say
夏の猛暑も吹き飛ばすって言うけどな
Honesty the best policy, okay (They lying)
正直は最善の策だ、分かったよ(奴らは嘘をついている)
※最後の「They lying」により、アメリカの謳う正義や道徳が黒人にとっては完全な嘘っぱちであることが決定づけられる。
[Post-Chorus]
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
Promise me you won't gun me down
俺を撃ち殺さないって約束してくれ
[Outro]
N-I-G-G-A
N-I-G-G-A
N-I-G-G-A
