Artist: Daniel Caesar
Album: Freudian
Song Title: Freudian
概要
2017年に発表されたデビューアルバム『Freudian』の表題曲であり、10分を超える壮大なクロージング・トラック。前半(Part I)はゴスペルクワイアを大々的にフィーチャーし、愛する恋人や母親に対する贖罪と感謝を捧げる賛美歌のような構成を持つ。かつての収録曲「Neu Roses」のリリックを意図的に反復しつつ、対象を恋人から母親へとシフトさせることで、フロイトの精神分析における「エディプス・コンプレックス(母親への無意識の愛憎)」を見事に表現している。また、盟友Sean Leonのスポークンワードを経て展開される後半(Part II)では、一転して不穏なビートに乗せ「Human sacrifice(人身御供・自己犠牲)」というテーマが浮上する。名声を得たことで膨らんだエゴ、過ちから逃げ続ける自らの弱さを赤裸々に告白し、アルバム全体のテーマである「無意識下の罪悪感と愛」を深く総括する、現代R&Bシーンにおける歴史的な名曲だ。
和訳
[Part I]
[Intro]
Oh
[Verse 1: Daniel Caesar]
You are the reason
君が理由だ
The reason I sing
俺が歌う理由
I have to preserve you
君を守らなきゃいけない
'Cause you're my everything, mm
だって君は俺のすべてだから、mm
Babe, I know I fucked up
ベイビー、俺がやらかしたのは分かってる
Fucked with some empty cups
空っぽのグラスたちとヤっちまったんだ
※アルバム収録曲「Neu Roses (Transgressor's Song)」からの引用。自身の浮気を告白する罪悪感のフレーズを再び持ち出すことで、アルバム全体の物語をループさせている。
But you got your friends too
でも君にも友達がいるだろ
Better believe in it
信じた方がいい
Truth ― I'm up on my luck
本当のところ、俺は運に恵まれているのに
Can't stop runnin' amok
暴走を止められないんだ
But you got your friends too
でも君にも友達がいるだろ
[Chorus: Daniel Caesar]
I just want to thank you for savin' my life, yes
ただ俺の命を救ってくれたことに感謝したいんだ、yes
I just want to thank you for all your advice
ただ君のすべてのアドバイスに感謝したいんだ
[Bridge: Choir]
Woah-oh, (Hmm) oh
Woah, woah, wow
[Verse 2: Daniel Caesar & Choir]
You are the reason (Ooh), the reason I'm alive
あなたが理由だ (Ooh)、俺が生きている理由
I must bring you honor (Honor, oh), if I don't, I'll die
あなたに名誉をもたらさなきゃいけない(名誉を、oh)、もしできなければ俺は死ぬ
Ma', I know I brought shame (Ma', I know I brought shame)
母さん、俺が恥をかかせたのは分かってる(母さん、俺が恥をかかせたのは分かってる)
※Verse 1の「Babe(恋人)」から「Ma'(母親)」へと対象が変化している。フロイト心理学の核である「母親への執着(エディプス・コンプレックス)」を暗示し、恋人への罪悪感と母親への罪悪感がシームレスに重なり合う構成となっている。
Put a mark on your name (Put a mark on your name)
あなたの名前に傷をつけてしまった(あなたの名前に傷をつけてしまった)
But you got your thangs too (You got your thangs too)
でもあなたにも抱えているものがあるだろ(あなたにも抱えているものがあるだろ)
Better believe it (You got your thangs too), I'm
信じた方がいい(あなたにも抱えているものがあるだろ)、俺は
Risin' up from the flames (Risin' up from the flames)
炎の中から立ち上がるんだ(炎の中から立ち上がるんだ)
The phoenix that I became (The phoenix that I became)
不死鳥に生まれ変わったんだ(不死鳥に生まれ変わったんだ)
But you got your thangs too (You got your thangs)
でもあなたにも抱えているものがあるだろ(あなたにも抱えているものがあるだろ)
Oh, help me sing
ああ、俺と一緒に歌ってくれ
[Chorus: Daniel Caesar & Choir]
I just want to thank you for givin' me life, yes
ただ俺に命を与えてくれたことに感謝したいんだ、yes
I just want to thank you for all your advice
ただあなたのすべてのアドバイスに感謝したいんだ
[Interlude: Choir & Daniel Caesar]
Send me kisses when it's grey skies
空が灰色の時はキスを送ってくれ
Its been so long, look how time flies
ずいぶん長く経った、時が経つのは早いものだ
If you love me, won't you let me know?
もし俺を愛しているなら、教えてくれないか?
I've been tryna learn to let you go
ずっとあなたを手放す方法を学ぼうとしてきたんだ
Call my name whenever tears fall
涙がこぼれる時はいつでも俺の名前を呼んでくれ
When you face your fears, you'll stand tall, oh-woah (Ooh)
恐怖に立ち向かう時、あなたは堂々と立ち上がるんだ、oh-woah (Ooh)
Send me kisses when it's grey skies
空が灰色の時はキスを送ってくれ
(Can't you see?)
(見えないのか?)
It's been so long, look how time flies
ずいぶん長く経った、時が経つのは早いものだ
(I'm spending all)
(俺はすべてを費やしている)
If you love me, won't you let me know?
もし俺を愛しているなら、教えてくれないか?
(This time)
(この時間を)
I've been tryna learn to let you go
ずっとあなたを手放す方法を学ぼうとしてきたんだ
Call my name whenever tears fall
涙がこぼれる時はいつでも俺の名前を呼んでくれ
(Come with me)
(俺と一緒に来てくれ)
When you face your fears, you'll stand tall, oh-woah
恐怖に立ち向かう時、あなたは堂々と立ち上がるんだ、oh-woah
(I hope we can) Oh-woah (Rewind)
(できればいいのに)Oh-woah(巻き戻せたら)
[Verse 3: Daniel Caesar]
Know I'd take a bullet for you
君のためなら銃弾だって受けるつもりだと分かってくれ
No, you don't know what I go through
いや、君は俺がどんな苦しみを味わっているか知らないんだ
And I know you think you're kind of nice
それに、君は自分のことを結構いい人間だと思っているんだろう
Do you remember when I saved your life?
俺が君の命を救った時のことを覚えているか?
Don't come at me on some weak shit
くだらない言い訳で俺に突っかかってこないでくれ
It's time you stopped displaying weakness, oh-oh, oh
もう弱さをひけらかすのはやめる時間だ、oh-oh, oh
※相手に対する献身と同時に、恩着せがましさや見下すような攻撃性が顔を出している。彼の作品に度々登場するトキシックな男性性やエゴイスティックな一面が強く表れたヴァース。
[Outro: Sean Leon]
Ahem, hey mama
コホン、なぁ母さん
※トロント出身のラッパー/シンガーであり、Daniel Caesarの初期からの協力者であるSean Leonのスポークンワード。彼自身もR&Bシーンにおける重要なクリエイターである。
It's your second son, still the same, ain't changed, mama
あなたの次男だよ、まだ同じだ、何も変わってないよ、母さん
Made some change (Made some change)
いくらかの金は稼いだ(いくらかの金は稼いだ)
※「change(変わる)」と「change(小銭、お金)」のダブルミーニング。
Times have changed on me
時代は俺に対して変わってしまった
Times have changed (Minds have changed)
時代は変わったんだ(心も変わってしまった)
And mine feels strange, mama
そして俺の心はおかしく感じるんだ、母さん
I feel ashamed (What could I say to you?)
恥ずかしいよ(あなたに何て言えばいいんだ?)
(Face to face with my fate, I lost my faith)
(自分の運命と直面して、俺は信仰を失ってしまった)
Face to face with my fate, mama, I lost my faith (Faith)
自分の運命と直面して、母さん、俺は信仰を失ってしまったんだ(信仰を)
※ゴスペル(信仰)をルーツに持ちながら、音楽業界の成功と共に世俗の罪(不純な恋愛、富の追求など)に塗れ、宗教的な信仰心を失っていく苦悩を吐露している。
[Part II]
[Instrumental Intro]
[Verse: Daniel Caesar]
Isn't it nice?
素晴らしいことじゃないか?
Human sacrifice
人間の生贄なんて
※Part IIはビートが切り替わり、よりダークでサイケデリックなトーンになる。「Human sacrifice」は、名声やエゴのために自分自身の純粋な部分、あるいは愛する人を犠牲にしてしまったことへの自嘲的なメタファー。
The universe got it, I got too excited
宇宙がそれを受け取った、俺は興奮しすぎてしまったんだ
And now we're taking life
そして今、俺たちは命を奪っている
Isn't it nice?
素晴らしいことじゃないか?
Human sacrifi―
人間の生贄―
I hate consequences, that shit's too expensive
結果なんて嫌いだ、その代償は高すぎる
You keep chasing delight
君は快楽ばかりを追い求め続ける
Isn't it nice?
素晴らしいことじゃないか?
Human sacrifice
人間の生贄なんて
I take the easy way out, every time
俺はいつだって、楽な逃げ道を選んでしまう
I don't deserve my own life
俺は自分の命を生きる資格なんてないんだ
Isn't it nice?
素晴らしいことじゃないか?
Human sacrifice, oh yes
人間の生贄なんて、oh yes
[Outro: Daniel Caesar]
They say I'm a martyr
奴らは俺を殉教者だと呼ぶ
Charge that to my ego
それを俺のエゴのせいにしてくれ
I just want all the lights
俺はただ、すべての光を浴びたいだけなんだ
※殉教者(自己犠牲を払う聖人)のように振る舞っているが、その本質はただ名声(all the lights)を渇望するエゴの塊に過ぎないという痛烈な自己批判。アルバム全体を通して描かれた「聖(ゴスペル)」と「俗(人間のエゴ)」のコントラストが、この最後の一行で極めて冷酷に、そして美しく完結する。
