Artist: Awich & RZA
Album: Okinawan Wuman
Song Title: Kaiju Of Okinawa (Skit)
概要
Awichのアルバム『Okinawan Wuman』に収録されたこのスキット(インタールード)は、Wu-Tang Clanの頭脳でありヒップホップ界の生ける伝説であるRZAが、沖縄の嘉手納基地を訪れた際のリアルな所感を独白として記録したものである。極東最大規模の米軍基地から飛び立つ軍用機の耳を劈くような轟音を、日本の特撮映画を象徴する「怪獣(Kaiju)」に例えるRZAの視点は、Wu-Tangが長年カンフー映画や東洋文化から受けてきたインスピレーションの延長線上にある。同時に、第二次世界大戦における凄惨な沖縄戦の記憶と、現在もなお続く米軍の駐留という沖縄が抱える複雑な現状を、外部からの視点でありながら極めて鋭く、そしてリスペクトを持って切り取っている。Awichが本作で提示する「Okinawan Wuman(沖縄の女)」としての強靭なアイデンティティと、彼女が拠点とするこの島が内包する圧倒的なエネルギーと矛盾を、レジェンドの語りによって見事に立体化させたヒップホップ・ドキュメンタリー的な一幕である。
和訳
[Verse 1]
This here is the Kadena air base
ここは嘉手納空軍基地だ
※沖縄県の中部に位置する、極東最大の面積を誇るアメリカ空軍基地。Awichの地元(フッド)の一部であり、彼女の音楽性やスタンスに多大な影響を与えた重要な場所である。
The far east largest U.S. military base
極東最大のアメリカ軍基地だ
Today, there are 29,000 troops on Okinawa
今日、沖縄には2万9千人の軍隊が駐留している
※沖縄の限られた土地に集中する米軍基地問題という地政学的な現実を、ヒップホップにおける「ストリートのリアル(The Real)」として提示している。数字を出すことで、その異常な密度と緊張感を強調している。
(United we stand)
(団結して我々は立つ)
※アメリカの国家的な愛国スローガン「United we stand, divided we fall(団結すれば立ち、分裂すれば倒れる)」からの引用。バックグラウンドで流れるこのフレーズは、強大な軍事力や国家権力の象徴として不気味に響きつつ、ヒップホップカルチャーにおける「クルーの結束」という概念へのアイロニーとしても機能していると解釈できる。
You know, being here
こうしてここにいると
I can actually feel the history of the bloodiest battles of World War II
第二次世界大戦における、最も凄惨な戦闘の歴史を肌で感じることができる
※1945年の沖縄戦のこと。「鉄の暴風」と呼ばれた激しい地上戦のトラウマと記憶が、現在の基地の風景と地続きであることをRZAが鋭く指摘している。ヒップホップ界きっての思索家である彼ならではの深い洞察である。
The sound of these planes
この軍用機が発する轟音は
They serve as a constant reminder of the U.S. presence
アメリカの存在を常に思い知らせる役割を果たしている
Sounds like a monster
まるでモンスターのようだ
Like a dragon
まるでドラゴンのようだ
※Wu-Tang Clanの精神性を形成するカンフー映画や東洋思想へのリファレンス。彼らにとってドラゴンは強大な力や畏怖の象徴である。
Like “Kaiju”
まるで「怪獣」みたいにな
※ヒップホップシーンにおいて、ゴジラに代表される日本の「Kaiju」は、圧倒的な力や破壊の象徴としてしばしば引用される。ここでは、沖縄の空を支配する米軍機の圧倒的な質量と轟音、そしてそれがもたらす恐怖と日常的なプレッシャーを「Kaiju」という言葉に見事に集約している。
Ha-ha-ha, “Flying Kaiju”
ハハハ、「空飛ぶ怪獣」だ
(And reach for the star)
(そして星へ手を伸ばす)
※過酷な現実(怪獣の支配する空)の下にありながらも、高みを目指すAwichや沖縄の人々のレジリエンス(回復力)とハッスルを象徴するサブリミナルなメッセージとして機能している。「星(star)」はアメリカ国旗(星条旗)の星と、スーパースターとしての成功のダブルミーニングとも捉えられる。
