Artist: The Beatles
Album: With the Beatles
Song Title: Devil in Her Heart
概要
ビートルズのセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963年)に収録された本作は、アメリカのデトロイト出身の無名ガールズ・グループ、ザ・ドネイズ(The Donays)が1962年に発表した「Devil in His Heart」のカバーである。ブライアン・エプスタインのレコード店(NEMS)でこのマニアックな輸入盤を発見したジョージ・ハリスンがリード・ボーカルを担当し、原曲の「彼(His)」を「彼女(Her)」に変更して歌っている。録音は1963年7月に行われ、ジョン・レノンとポール・マッカートニーによる「彼女は悪魔だ」という警告のバック・コーラスに対し、ジョージが「いや、彼女は天使だ」と反論する見事な掛け合いのボーカル・アレンジが構築された。初期ビートルズの卓越したコーラス・ワークと、無名のアメリカンR&Bまでも貪欲に吸収するジョージの深い音楽的探求心を象徴する一曲である。
和訳
[Chorus]
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
※ジョンとポールによる忠告のコーラス。主人公をたぶらかす「悪女(ファム・ファタール)」というR&B特有のクリシェであるが、リバプールの若きロックンローラーたちが歌うことで独特のシニカルなユーモアが生まれている。
But her eyes, they tantalize
だけどあの子の瞳は、俺をじらして魅了するんだ
(She's going to tear your heart apart)
(君の心をズタズタに引き裂くつもりだぜ)
Oh, her lips, they really thrill me
あぁ、あの子の唇に俺は本当にゾクゾクさせられるんだ
[Verse 1]
I'll take my chances, for romance is
一か八か賭けてみるさ、だってロマンスは
So important to me
俺にとってすごく大切なものだから
She'll never hurt me, she won't desert me
あの子が俺を傷つけるはずないし、見捨てたりもしない
She's an angel sent to me
俺に遣わされた天使なんだよ
※「chances / romance is」「hurt me / desert me」というリズミカルな脚韻。ジョージの少し鼻に掛かった素朴な歌声が、恋に盲目になっている純情な青年という主人公のキャラクターに圧倒的な説得力を与えている。
[Chorus]
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
No, no, this, I can't believe
いや、いや、そんなの俺は信じられないね
(She's going to tear your heart apart)
(君の心をズタズタに引き裂くつもりだぜ)
No, no, nay will she deceive
いや、いや、あの子が騙すわけないさ
※「nay」は否定を強調する古風な表現、あるいは北部イングランドの訛り的なニュアンスとして用いられている。
[Verse 2]
I can't believe that she'll ever, ever go
あの子がどこかへ行っちまうなんて、絶対に信じられない
Not when she hugs me and says she loves me so
あんなにきつく抱きしめて、愛してるって言ってくれるんだから
She'll never hurt me, she won't desert me
あの子が俺を傷つけるはずないし、見捨てたりもしない
Listen, can't you see?
なあ、わからないのか?
[Chorus]
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
Oh, no, no, no, this, I can't believe
あぁ、いや、いや、いや、そんなの俺は信じられないね
(She's going to tear your heart apart)
(君の心をズタズタに引き裂くつもりだぜ)
No, no, nay will she deceive
いや、いや、あの子が騙すわけないさ
[Verse 3]
Don't take chances if your romance is
賭けに出るもんじゃないぞ、もし君のロマンスが
※ここだけコーラス側の「忠告」の視点が主旋律に混ざっている、あるいは主人公が自分自身に問いかけているような特殊な展開。オリジナル版の歌詞を踏襲した結果ではあるが、ジョージがこれを一人で歌いきることで、主人公の内なる葛藤のようなニュアンスを帯びている。
So important to you
君にとってすごく大切なものなら
She'll never hurt me, she won't desert me
あの子が俺を傷つけるはずないし、見捨てたりもしない
She's an angel sent to me
俺に遣わされた天使なんだよ
[Chorus]
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
No, no, no, no, this, I can't believe
いや、いや、いや、いや、そんなの俺は信じられないね
(She's going to tear your heart apart)
(君の心をズタズタに引き裂くつもりだぜ)
No, no, nay will she deceive
いや、いや、あの子が騙すわけないさ
[Outro]
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
'Cause she's an angel sent to me
だって、あの子は俺に遣わされた天使なんだから
(She's got the devil in her heart)
(あの子の心には悪魔が棲んでいるのさ)
No, she's an angel sent to me
いや、あの子は俺に遣わされた天使なんだ
※フェードアウト間際まで、周囲の忠告(悪魔)と本人の妄信(天使)の平行線が続く。ラテン風のパーカッション(リンゴ・スターによるマラカス)とジョージの弾くソリッドなギターが、この奇妙なラブソングに軽快なグルーヴを与え、ビートルズの卓越したカバー・センスの真骨頂を示して曲は幕を閉じる。
