Artist: The Beatles
Album: With the Beatles
Song Title: Roll Over Beethoven
概要
ビートルズのセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963年)に収録された本作は、ロックンロールの偉大なる創始者の一人、チャック・ベリーが1956年に発表した代表曲のカバーである。リード・ボーカルとリード・ギターを担当するのはジョージ・ハリスン。元々はジョン・レノンがハンブルク時代から好んで歌っていたレパートリーだったが、アルバム制作にあたりジョージに主役の座が譲られた。ジョージの敬愛するチャック・ベリーへのオマージュが全編に溢れており、彼のソリッドでキレのあるギター・リフと、若きロックンローラーとしての矜持を感じさせるボーカルが見事な化学反応を起こしている。クラシック音楽(ベートーヴェンやチャイコフスキー)という旧世代の権威を蹴散らし、新しい若者文化である「リズム・アンド・ブルース」の到来を高らかに宣言するこの曲は、初期ビートルズが持つ野蛮なエネルギーと反逆性を象徴する歴史的なトラックである。
和訳
[Verse 1: George Harrison]
Well, gonna write a little letter
さあ、ちょっとした手紙を書くとするか
Gonna mail it to my local DJ
地元のDJに送るんだ
It's a rocking little record
ゴキゲンにロックする小さなレコードでさ
I want my jockey to play
俺のお気に入りのDJにスピンしてほしいんだ
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
※「Roll over」は墓の中で眠る偉人たちが、新時代のロックンロールの凄まじい熱気に驚いて「墓の中で寝返りを打つ」という比喩である。旧世代の権威であるクラシック音楽への痛快な宣戦布告となっている。
Gotta hear it again today
今日もまたあの曲を聴かなきゃならないんだ
[Verse 2: George Harrison]
You know my temperature's rising
体温がどんどん上がっていくのがわかるだろ
And the jukebox blows a fuse
ジュークボックスのヒューズも飛んじまうぜ
My heart's beating rhythm
俺の心臓はリズムを刻み
And my soul keeps singing the blues
魂はブルースを歌い続けるんだ
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
And tell Tchaikovsky the news
チャイコフスキーにもこのニュースを伝えてやれ
※ベートーヴェンに並ぶクラシックの巨匠チャイコフスキーの名を出すことで、反逆のスケールを広げている。ジョン・レノンがこの曲を愛唱していた理由も、このインテリジェンスと野蛮さが同居するチャック・ベリー特有の言語感覚にあったと推測される。
[Verse 3: George Harrison]
I've got a rocking pneumonia
ロックンロール肺炎に罹っちまった
I need a shot of rhythm and blues (Woo)
リズム・アンド・ブルースの注射が必要なんだ (Woo)
※ヒューイ・"ピアノ"・スミスの1957年のヒット曲「Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu」からの直接的な引用。当時のR&Bフリークたちにしか通じないマニアックな符丁である。
I think I caught it off the writer
曲を書いた奴からうつされたんだと思うぜ
Sitting down by the rhythm revue
リズム・レビューのそばに座っていたからさ
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Rocking in two by two
2人1組で踊り狂おうぜ
[Bridge: George Harrison]
Well, if you feel it and like it
そうさ、もし感じて気に入ったなら
Well, get your lover and reel and rock it
恋人を捕まえて、激しくロックして踊るんだ
Roll it over and move on up
ひっくり返して、もっと気分を上げていけ
Just a trifle further and reel and rock it
もう少しだけ先へ進んで、激しくロックして踊るんだ
Roll it over
ひっくり返して
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Rocking in two by two (Woo)
2人1組で踊り狂おうぜ (Woo)
[Guitar Solo]
※ジョージ・ハリスンによる、チャック・ベリーのシグネチャー・フレーズへのリスペクトに満ちたギター・ソロ。ダブルストップやチョーキングを多用したプレイスタイルは、当時のイギリスのギタリストたちにとって憧れの的であった。
[Verse 4: George Harrison]
Well, early in the morning, I'm a-giving you the warning
そうさ、朝っぱらから俺はお前に警告しておくぜ
Don't you step on my blue suede shoes
俺のブルー・スエード・シューズを踏みつけるなよ
※ジョージが深く敬愛するカール・パーキンスの「Blue Suede Shoes」への明確なオマージュである。ジョージは一時「カール・ハリスン」という偽名を名乗るほどパーキンスに傾倒していた。
Hey, diddle, diddle, I'll play my fiddle
ヘイ、ディドゥル、ディドゥル、俺のフィドルを弾いてやる
※イギリスで古くから親しまれているマザーグース「Hey Diddle Diddle」の言葉遊び。子守唄の牧歌的な世界観をロックンロールの文脈でぶち壊すという、ベリーのシニカルなユーモアをジョージが小粋に歌いこなしている。
Ain't got nothing to lose
失うものなんて何もないのさ
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
And tell Tchaikovsky the news
チャイコフスキーにもこのニュースを伝えてやれ
[Verse 5: George Harrison]
You know she winks like a glowworm
あの子はツチボタルのように瞬きをして
Dance like a spinning top
コマのようにくるくると踊るんだ
She's got a crazy partner
あの子にはクレイジーなパートナーがいて
Oughta see 'em reel and rock
奴らが激しく踊るのを見るべきさ
As long as she got a dime
あの子が10セント硬貨を持っている限り
※10セント硬貨はジュークボックスを動かすための代金。当時の若者たちの遊び場であったダイナーやクラブの生き生きとした風景を切り取っている。
The music will never stop
音楽が鳴り止むことは絶対にないんだ
[Outro: George Harrison]
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Roll over, Beethoven
寝返りを打てよ、ベートーヴェン
Dig to these rhythm and blues
このリズム・アンド・ブルースを深く感じてくれ
※「Dig」は当時のジャズやR&B特有のスラングで「理解する、心底楽しむ」の意。アウトロにかけてのジョージのシャウトとハンドクラップの応酬は、アメリカから輸入された黒人音楽を、リバプールの白人の若者たちが自分たちのアイデンティティとして完全に吸収し、血肉へと昇華させた歴史的瞬間を克明に捉えている。
