UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

UGMKM ARCHIVE

Find Music By Artist, Genre.

和訳・解説記事を、アーティスト名・ジャンルから探せます。

Till There Was You - The Beatles 【和訳・解説】

Artist: The Beatles

Album: With the Beatles

Song Title: Till There Was You

概要

ビートルズの2作目のアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』(1963年)に収録された、メレディス・ウィルソン作のブロードウェイ・ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』(1957年)の劇中歌のカバーである。ビートルズはアメリカの女性ジャズ・シンガー、ペギー・リーが1961年に発表したバージョンをベースにしている。ロックンロールやR&Bのカバーが主流だった初期の彼らにとって、このような洗練されたスタンダード・ナンバーをレパートリーに加えることは、親世代を含む幅広い層の支持を獲得する上で極めて戦略的な意味を持っていた。実際に1963年の「ロイヤル・バラエティ・パフォーマンス」(英国王室主催のチャリティ・コンサート)や、1964年のアメリカ進出を決定づけた「エド・サリヴァン・ショー」の初出演時にも披露されている。ポール・マッカートニーの甘いクルーナー・ボイスと、ジョージ・ハリスンによる見事なアコースティック・ギターのソロが堪能できる、彼らの多様な音楽的素養を証明する歴史的な一曲である。

和訳

[Verse 1]

There were bells on a hill
丘の上で鐘が鳴っていた

But I never heard them ringing
だけど、僕にはその響きがまったく聞こえなかった

No, I never heard them at all
そう、少しも聞こえはしなかったんだ

'Til there was you
君がそこにいてくれるまでは
※ポールが得意とする、古き良きスタンダード・ポップス特有の甘く丁寧な歌唱法(クルーナー・スタイル)が存分に発揮されている。1963年のロイヤル・バラエティ・パフォーマンスにおいて、ジョンが「安い席の人は拍手を、宝石をつけている人はジャラジャラ鳴らして」という有名なブラックジョークを放った直後に演奏されたのがこの曲であり、不良性と上品さを巧みに使い分ける彼らの卓越したセルフプロデュース能力が窺える。

[Verse 2]

There were birds in the sky
空には鳥たちがいた

But I never saw them winging
だけど、僕には彼らが羽ばたく姿が見えなかった
※熱心なファンの間でよく語り草になるのが、ここでのポールの発音である。「saw(ソー)」を「saur(ソアー)」のように、語尾に「R」の音を過剰に巻き舌で発音している。これはリバプール訛り(スカウス)の影響、あるいは洗練されたアメリカ英語を意識しすぎた結果生じた独特の癖だと解釈されている。

No, I never saw them at all
そう、少しも目に入らなかったんだ

'Til there was you
君がそこにいてくれるまでは

[Bridge]

Then there was music and wonderful roses
そして音楽が溢れ、素晴らしいバラが咲き誇った
※この曲ではリンゴ・スターが通常のドラムセットではなくボンゴを叩いており、ラテン・ジャズのような上品で落ち着いたビートを生み出している。激しいロックンロールからこうしたムーディーな楽曲まで、リズムセクションの質感を瞬時に切り替えられるリンゴの器用さが光るセクションである。

They tell me in sweet fragrant meadows
甘く香る草原の中で、それらが僕に語りかけてくる

Of dawn and dew
夜明けと、朝露のことを

[Verse 3]

There was love all around
あたり一面に愛が溢れていた

But I never heard it singing
だけど、僕にはその歌声が聞こえなかった

No, I never heard it at all
そう、少しも聞こえはしなかったんだ

'Til there was you
君がそこにいてくれるまでは

[Guitar Solo]

※ジョージ・ハリスンによる、ナイロン弦のクラシックギター(ホセ・ラミレス)を用いた非常に流麗なソロ。ジャズ特有の複雑なテンション・コードの進行を完璧になぞりながら、メロディアスに弾きこなすこのプレイは、当時のジョージがすでに高度な音楽理論とテクニックを習得していたことを証明しており、多くのギター愛好家や研究者から初期の最高傑作の一つとして絶賛されている。

[Bridge]

Then there was music and wonderful roses
そして音楽が溢れ、素晴らしいバラが咲き誇った

They tell me in sweet fragrant meadows
甘く香る草原の中で、それらが僕に語りかけてくる

Of dawn and dew
夜明けと、朝露のことを

[Verse 3]

There was love all around
あたり一面に愛が溢れていた

But I never heard it singing
だけど、僕にはその歌声が聞こえなかった

No, I never heard it at all
そう、少しも聞こえはしなかったんだ

'Til there was you
君がそこにいてくれるまでは

[Outro]

'Til there was you
君がそこにいてくれるまでは
※最後にポールが高いファの音をドラマチックに長く引き伸ばし、ジャズでよく用いられる複雑で美しい和音(メジャーセブンス)と共に静かに曲が締めくくられる。労働者階級の若きロック・バンドが、一流のエンターテイナーとしての風格を世界に見せつけた、優雅で完璧なエンディングである。