UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

UGMKM ARCHIVE

Find Music By Artist, Genre.

和訳・解説記事を、アーティスト名・ジャンルから探せます。

Drake vs Kendrick Lamar 完全時系列解説:全関連楽曲・勢力図・パンチラインで読む2024年最大のヒップホップ内戦

目次

 

概要

2024年のDrakeとKendrick Lamarのビーフは、単なるディス曲の応酬ではない。 それは、Drakeという2010年代以降最大級のポップラップスターが、 Kendrick Lamar、Future、Metro Boomin、The Weeknd、A$AP Rocky、Rick Ross、Ye、そしてWest Coastの象徴性によって包囲されていく過程だった。ただし、このビーフを「Kendrickが勝った」「Drakeが負けた」だけで片付けると、かなり雑になる。 実際には、J. Coleの撤退、FutureとMetroの不信、The WeekndのOVOからの距離感、A$AP RockyとRihanna周辺の個人的文脈、 Rick Rossによるミーム化、Yeの手のひら返し的乱入、21 SavageのDrake側寄りの調停、そしてDrakeのICEMAN期の再起まで、 2024年以降のヒップホップ地図全体が動いている。本稿では、関連楽曲を時系列順に追いながら、 「その時点で誰がどの立場にいたのか」「どの曲が何を変えたのか」「重要パンチラインは何を意味していたのか」 「BBL Drizzyとは何だったのか」「2025〜2026年にこのビーフはどう残り続けたのか」を徹底的に整理する。

勢力図

Kendrick側
  • Kendrick Lamar
    ビーフの主役。 「Like That」で“Big 3”を拒否し、「Euphoria」「6:16 in LA」「Meet the Grahams」「Not Like Us」でDrakeを段階的に追い込んだ。 Kendrickの狙いは、Drakeを単なるライバルとして倒すことではなく、Drakeという存在をカルチャー上の問題として提示することだった。
  • Future
    2024年本戦の空気を作った最重要人物の一人。 『WE DON’T TRUST YOU』というタイトル自体が、Drakeへの不信を示す暗号として機能した。 FutureはKendrickほど言葉で説明しないが、アルバムの場所と人選によって「Drakeを信用していない」というメッセージを出した。
  • Metro Boomin
    Futureと共に包囲網の土台を作ったプロデューサー。 Drakeに「黙ってドラムを作っていろ」という趣旨で煽られた後、Metroはラップではなく「BBL Drizzy」というビートとミームで反撃した。 この“ラップしない反撃”が、2024年のビーフをネット参加型の戦争へ変えた。
  • The Weeknd
    Drakeと長い歴史を持つ元近距離の存在。 『WE STILL DON’T TRUST YOU』でFuture/Metro側に立ったように見えたことは、Drakeにとって非常に痛かった。 これは「敵が増えた」以上に、「昔の近い人がDrakeではない側に立った」という心理的ダメージだった。
  • A$AP Rocky
    「Show of Hands」でDrakeへ向けたと読めるラインを投下。 Rihannaをめぐる過去の文脈、Drakeの過去曲での示唆、Rocky自身の私生活的勝利が重なり、 Rockyの参戦はラップの技術戦というより、Drakeの個人的な痛点を突くものだった。
  • Rick Ross
    「Champagne Moments」でDrakeへ即反応。 Rossはビーフ本筋の主役ではないが、Drakeを“笑える対象”へ変えていく流れにおいて重要だった。 「BBL Drizzy」という呼び名の拡散にも関わり、Drakeへの嘲笑をネット規模に広げた。
Drake側
  • Drake
    ほぼ単独で応戦した中心人物。 「Push Ups」「Taylor Made Freestyle」「Family Matters」「The Heart Part 6」で戦ったが、味方の少なさが目立った。 2024年のDrakeは、Kendrick個人だけでなく、元仲間、業界、ファンコミュニティ、そしてネットミーム全体を相手にしていた。
中立・途中離脱・複雑な立場
  • J. Cole
    「First Person Shooter」で“Big 3”構図を提示した人物。 「7 Minute Drill」で一度Kendrickに返したが、すぐに謝罪し、ビーフから撤退した。 Coleは負けたというより、自分の美学とこの戦争の暗さが合わないと判断したように見える。
  • Lil Wayne
    本戦には直接出てこなかったが、2025年のSuper Bowlがニューオーリンズ開催だったことで、Wayneが選ばれなかった件が議論になった。 Drakeの師匠的存在であるWayneが前線に出なかったことも、Drakeの孤立感を強めた。
  • 21 Savage
    21 Savageは、単純な中立ではない。 彼はDrake側寄りの調停者である。 Drakeとは『Her Loss』で強固なコンビを築き、Drakeの横に立つ存在として広く認識されている。 さらにビーフ後の最新アルバム『WHAT HAPPENED TO THE STREETS?』でも、Drakeを「MR RECOUP」に迎えている。ただし21は、Metro Boominとも切れない。 Metroとは『Savage Mode』シリーズ以来の深い関係があり、同じアルバムにはMetro参加曲「GANG OVER EVERYTHING」も収録されている。 つまり21は、Drakeを見捨てず、Metroも切らない。 この配置こそが重要だ。 21はどちらか一方に寝返ったのではなく、Drake側の友人でありながら、Metroとの外交ルートも維持するAtlantaのハブだった。さらに21は、Drakeに対してKendrickへ返答するなと助言していた。 彼の論理は冷静だ。 Drakeはすでにトップであり、勝っても立場が上がらない。 むしろ、世間がDrakeの敗北を見たがっている以上、勝っても悪者にされる。 これはKendrick側に寄った発言ではなく、Drakeを守るための判断だった。
  • Ye / Kanye West
    Yeは、単純にKendrick側とは言えない。 2024年4月、Yeは「Like That Remix」でDrakeとJ. Coleを攻撃し、Futureに呼ばれてスタジオに入ったこと、 その場がDrake排除の空気で盛り上がっていたことを語った。 この時点では、Yeは明らかにAnti-Drake側に乗っている。しかしYeは、Kendrickに忠誠を誓った味方ではない。 Yeにとって重要だったのは、Kendrickの思想ではなく、Drakeを攻撃できる瞬間だった。 YeとDrakeには長年の因縁があり、Pusha T騒動、Free Larry Hooverでの一時和解、そして再び敵対という複雑な歴史がある。 つまりYeは、Kendrick軍の兵士ではなく、Drakeを叩けるタイミングに乱入した第三勢力だった。さらにYeは、KendrickがDrakeを倒したことを認める一方で、Drakeを完全には見捨てていない。 DrakeをNBAのスーパースターになぞらえ、復活可能性を示唆するような発言もしている。 したがってYeの立場は「Kendrick側」ではなく、「Anti-Drakeに一時参戦した手のひら返し型の第三勢力」と見るのが正確だ。

前史:2011〜2023年

2011年:Drake feat. Kendrick Lamar「Buried Alive Interlude」

DrakeとKendrickの関係は、最初から敵対的だったわけではない。 KendrickはDrakeの『Take Care』に収録された「Buried Alive Interlude」で登場し、 Drakeの大きなプラットフォームの中で自分の存在感を示した。ただし、今聴き返すとこの曲はすでに不穏だ。 KendrickはDrakeの成功世界に入り込みながら、その華やかさや虚栄に対する違和感を語っている。 つまりKendrickは初期から、Drake的な成功に魅了されつつも、それを完全には信じていなかった。

2012年:A$AP Rocky feat. Drake, 2 Chainz & Kendrick Lamar「F**kin’ Problems」

この曲は、今となっては奇跡の集合写真である。 Drake、Kendrick、A$AP Rockyが同じ曲にいて、まだ全員が同じメインストリームの波に乗っていた。しかし2024年の視点で見ると、この曲は後の敵対関係の予告にも見える。 Rockyは後にDrakeと個人的な文脈で緊張し、KendrickはDrake最大の敵になる。 2012年には仲間に見えた配置が、10年以上かけて敵対図へ反転した。

2012年:Kendrick Lamar feat. Drake「Poetic Justice」

Kendrickの『good kid, m.A.A.d city』にDrakeが参加した「Poetic Justice」は、両者の蜜月の象徴だ。 Kendrickはコンセプトアルバムの中にDrakeを招き、DrakeはメロディとR&B的な滑らかさで曲に色を加えた。だが、この曲も今聴くと対比が強い。 Drakeは恋愛、メロディ、ポップ感覚のスター。 Kendrickは物語、地域性、アルバム全体の構造で勝負するラッパー。 2024年のビーフは、この二つのラッパー像の衝突だったとも言える。

2013年:Big Sean feat. Kendrick Lamar & Jay Electronica「Control」

空気が変わったのは「Control」だった。 KendrickはDrake、J. Cole、A$AP Rocky、Big Seanら同世代の名前を挙げ、全員を倒すと宣言した。 これは単なるディスではなく、王位継承宣言だった。Kendrickはこの時点で、Drakeと仲良く並ぶ気などなかった。 “Big Three”の一員になりたかったのではなく、自分だけが王だと言いたかった。 この思想が、2024年の「Like That」で再爆発する。

2013年:Drake「The Language」
Drakeは「The Language」でKendrickへの反応と読めるサブリミナルを投げた。 Drakeのやり方は、名前を出して正面から殴るというより、相手の格を少しずつ下げるような間接攻撃だった。この時点で、DrakeはKendrickを“脅威”として認識していた。 Drakeには数字とヒットがある。 しかしKendrickには、Drakeが手に入れにくい批評的正統性とリリシストとしての信頼があった。 その差が、後のビーフの核になる。

本戦:First Person Shooter以降の楽曲別タイムライン

2023年10月6日:Drake feat. J. Cole「First Person Shooter」

「First Person Shooter」は、2024年の直接的な導火線である。 J. Coleはこの曲で、Drake、Kendrick、自分を現代ラップの三強として並べる。 一見するとリスペクトだが、Kendrickにとっては受け入れがたい構図だった。

重要パンチラインの要旨

  • “Big Three”構図: Drake、J. Cole、Kendrickを同じ階層に置く主張。
  • ラップ界の頂点争いをスポーツ化するライン: 三者を比較可能なランキングの中に置き、誰が今のトップかを競技のように語る。

解説

ここでの問題は、J. ColeがKendrickを貶したわけではないことだ。 むしろ称えている。 しかしKendrickは2013年の「Control」時点で、同世代と“並ぶ”のではなく“上に立つ”と宣言していた。 だから「Big 3」という言葉は、Kendrickにとってリスペクトではなく、Drakeと同列に押し込められる枠組みに見えた。

筆者の見方では、「First Person Shooter」はJ. Coleの善意が生んだ最悪の火種だった。 Coleは三人を称えたつもりだった。 しかしKendrickは、その三人横並びの世界観そのものを破壊しに来る。

2024年3月22日:Future & Metro Boomin feat. Kendrick Lamar「Like That」

ここが開戦日である。 Future & Metro Boominの『WE DON’T TRUST YOU』に収録された「Like That」で、Kendrickは“Big Three”という枠組みを破壊した。

重要パンチラインの要旨

  • “Big 3”否定: 三強ではなく、自分だけが頂点だという主張。
  • DrakeとJ. Coleをまとめて標的化: 「First Person Shooter」で提示された平和な三者比較を、Kendrickが一発で壊す。
  • Prince / Michael Jackson的な比較構造: DrakeがMichael Jackson的なポップスター性を自分の武器にするなら、KendrickはPrince的な対抗軸で自分を置く。

解説

「Like That」の強さは、Kendrickのヴァースだけではない。 FutureとMetroのアルバム上で行われたことが決定的だった。 Kendrickは単独でDrakeに宣戦布告したのではなく、Drakeに不満を抱えるFuture/Metro陣営のステージに立ってDrakeを撃った。

この時点でDrakeは、Kendrick一人ではなく、過去の協力者ネットワーク全体を相手にすることになった。 「Like That」はKendrickのディスであると同時に、Drake包囲網の号砲だった。

2024年4月5日:J. Cole「7 Minute Drill」

J. Coleは「7 Minute Drill」でKendrickへ返答した。 しかしこの曲は、出した瞬間からCole本人の美学と噛み合っていなかった。 攻撃しているのに、本気で憎んでいるように聞こえない。

重要パンチラインの要旨

  • Kendrickのアルバム評価への攻撃: Kendrickのディスコグラフィーには過大評価や退屈な作品がある、という方向で攻める。
  • 活動ペースへの攻撃: Kendrickは作品間隔が長く、常に前線で戦っているわけではないという主張。
  • 自分は本気を出していないという逃げ道: Cole自身がこの戦いに完全には乗り切っていない雰囲気を残す。

解説

「7 Minute Drill」は、パンチライン単位ではKendrickへの攻撃になっている。 しかし、曲全体からは迷いが見える。 ColeはKendrickを本気で憎んでいない。 だから、Kendrickの存在を否定するよりも、無理に減点しようとしているように聞こえてしまった。

その後、ColeはDreamville Festivalで謝罪し、曲をストリーミングから削除した。 これによって“Big Three内戦”は終わり、Drake vs Kendrickの一騎打ちへ変わる。

2024年4月12日:Future & Metro Boomin feat. The Weeknd「All to Myself」

The Weekndの「All to Myself」は、直接的なディス曲というより、関係史の終わりを告げる曲として重要だ。 The WeekndはかつてDrakeと非常に近い位置にいた。 だからこそ、この曲がFuture/Metro側のアルバムにあること自体がメッセージだった。

重要パンチラインの要旨

  • OVOに取り込まれなかったことの肯定: The WeekndがDrakeの傘下に入らず、自分の道を選んだことを勝利として示す。
  • OVO周辺への不信: Drake本人だけでなく、彼の周辺にある空気や人間関係への違和感を匂わせる。
  • Drakeとの過去の距離感を反転: かつて近かったからこそ、今は離れたこと自体が攻撃になる。

解説

The Weekndが刺さるのは、彼がDrakeの元近距離人物だからだ。 彼がFuture/Metro側に現れたことで、Drake包囲網は単なるラップバトルではなく、 “昔の関係者たちの離反”という空気を帯びた。

2024年4月12日:Future & Metro Boomin feat. A$AP Rocky「Show of Hands」

A$AP Rockyの「Show of Hands」は、Drakeへの個人的な一撃として機能した。 RockyとDrakeには、Rihannaをめぐる長い文脈がある。 そのため、Rockyの参戦は単なるサブリミナル以上の意味を持った。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeの過去の恋愛・執着への攻撃: Rihanna周辺の文脈を背負ったまま、RockyがDrakeへ勝ち誇る構図。
  • “欲しかったものを自分が持っている”という無言の勝利: ラップの言葉以上に、人生の配置そのものがパンチラインになる。
  • Drakeの私生活的プライドへの一撃: Kendrickの文化批判とは別角度で、Drakeを個人的に傷つける。

解説

Rockyの攻撃は、ラップ技術よりも“立場”で効いている。 Drakeが過去に執着しているように見える相手を、Rockyは現在の家族と生活の中で獲得している。 そのため、短いラインでもDrakeのプライドに響く。

2024年4月15日:Rick Ross「Champagne Moments」

Rick Rossは「Champagne Moments」でDrakeへ即反応した。 この曲は、Kendrickほど構造的ではない。 しかし、Drakeを“怖い相手”から“いじれる相手”へ変える役割を果たした。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeの見た目や美容整形疑惑を使った嘲笑: 後の「BBL Drizzy」ミームの土台になる。
  • Drakeの出自・カルチャー性への攻撃: Drakeがヒップホップ文化の中心にいることへの違和感を下世話な形で表現する。
  • “Drakeは本物ではない”という印象付け: Kendrickの文化批判とは別方向から、Drakeのイメージを崩す。

解説

Rossの攻撃は、深い思想というよりも、あえて下品でミーム化しやすい。 だから効いた。 ラップバトルでは、相手を論破するだけではなく、笑いものにすることも勝利条件になる。 Rossはこの点で、Kendrickとは別角度からDrakeを傷つけた。

2024年4月19日:Drake「Push Ups」

Drakeの最初の本格反撃が「Push Ups」だ。 この曲でDrakeは、Kendrick、Future、Metro Boomin、Rick Ross、The Weekndらをまとめて攻撃した。 初動としてはかなり強い。

重要パンチラインの要旨

  • Kendrickの身体的特徴を使った小型化: Kendrickを“巨大な敵”ではなく、Drakeから見て小さな相手として扱う。
  • Kendrickの契約・ビジネス面への攻撃: Kendrickが完全に自由な王ではなく、業界構造の中で動いている存在だと示す。
  • Metroへの“プロデューサーに戻れ”攻撃: Metroをラッパー同士の戦いから排除し、裏方として黙らせようとする。
  • Future、Ross、Weekndへの広範囲射撃: Drakeを取り囲む人物たちをまとめて格下化しようとする。

解説

「Push Ups」はDrakeらしい。 余裕があり、嫌味があり、複数の敵をまとめて相手にするスター性がある。 DrakeはKendrickを身体的にも商業的にも小さく見せようとし、Metroには「ラッパーの戦いに口を出すな」という構図を作る。

ただし、この曲には大きな失敗もある。 Drakeは敵を広げすぎた。 Kendrickだけに集中すればよかったのに、Future、Metro、Ross、Weekndまでまとめて撃ったことで、 「Drakeが全員から嫌われている」という物語を自ら補強してしまった。

2024年4月19日:Drake「Taylor Made Freestyle」

「Taylor Made Freestyle」は、Drakeにとって最もリスクの高い一手だった。 Drakeは2PacとSnoop Doggを模したAI音声を使い、Kendrickに早く返答しろと煽った。

重要パンチラインの要旨

  • 2Pac/Snoopの声を借りたWest Coastからの圧力: Kendrickの地域的・精神的ルーツを逆手に取り、返答を迫る。
  • Taylor Swiftリリース週への言及: Kendrickがポップ業界のスケジュールを気にしているかのように見せる。
  • Kendrickの沈黙を臆病さとして演出: 返事が遅いことを弱さに変換しようとする。

解説

筆者の断定では、これはDrakeの悪手である。 2PacはWest Coastの象徴であり、Kendrickにとって精神的な祖先のような存在だ。 その声をAIで借りて、KendrickにWest Coastの魂を説く。 技術的には話題性があっても、文化的には踏み越えすぎた。

ここでDrakeは、「KendrickにWest Coastを説教するカナダ人」という最悪の構図を自分で作ってしまった。 後の「Not Like Us」がDrakeを“自分たちではない存在”として切り離すとき、このAI問題は大きな伏線になっている。

2024年4月21日:Ye, Future, Metro Boomin & Ty Dolla $ign「Like That Remix」

Yeは「Like That Remix」で参戦した。 ここでYeは、Drakeの契約、業界内での立場、UMGとの関係を攻撃し、Drakeを“巨大企業に支えられた王”として描いた。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeのレーベル/契約構造への攻撃: Drakeの成功を個人の力だけではなく、巨大資本と業界構造に支えられたものとして描く。
  • J. Coleへの失望・格下化: ColeがKendrickとのビーフから撤退した空気も含めて、Big Three構図をさらに崩す。
  • Anti-Drake連合への便乗: Ye自身のDrake因縁を、2024年の流れに接続する。

解説

YeはKendrickの味方というより、Drakeを攻撃できる場に乗った乱入者だった。 YeのDrakeへの感情は、KendrickのDrake批判とは別の場所から来ている。 彼はKendrickの物語に参加したというより、自分のDrake因縁を2024年の流れに接続した。

2024年4月30日:Kendrick Lamar「Euphoria」

Kendrickの本格反撃が「Euphoria」だ。 この曲は、単なる返答ではなく、Drakeという存在を複数の角度から解体する長尺の起訴状だった。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeの人格そのものへの嫌悪表明: ラップスキルではなく、Drakeという人間の振る舞い、話し方、存在感そのものを拒絶する。
  • Drakeの黒人文化との距離感への攻撃: Drakeが複数の地域・文化を横断して成功してきたことを、器用さではなく“利用”として描く。
  • 父親像・家族像への攻撃: Drakeのパブリックイメージに対し、家庭や責任という重い軸を持ち込む。
  • Sexyy Red周辺のライン: Drakeが女性ラッパーや女性的なイメージをどう扱っているかを、嘲笑とジェンダー的揺さぶりの両面で攻撃する。
  • Toronto/OVO周辺への牽制: Drake個人だけでなく、彼の周辺環境にも疑念を投げる。

解説

「Euphoria」でKendrickがやったのは、Drakeを“強い敵”として描くことではない。 Drakeを“信用できない人物”として再定義することだった。 ここが重要だ。 KendrickはDrakeのヒット曲、人気、数字を正面から否定するのではなく、 「その成功はカルチャー的に信頼できるのか?」と問うた。

筆者の断定では、「Euphoria」はビーフの設計図である。 まだ決定打ではない。 しかしKendrickはこの曲で、後に「6:16 in LA」「Meet the Grahams」「Not Like Us」で展開する論点をすべて配置した。

2024年5月3日:Kendrick Lamar「6:16 in LA」

「6:16 in LA」は、Drakeのtimestampシリーズを反転させたタイトルからして強い。 KendrickはDrakeのフォーマットを奪い、その中でDrake陣営の内部不信を煽った。

重要パンチラインの要旨

  • OVO内部に味方はいないという示唆: Drakeの周囲に裏切り者や情報提供者がいるかのような心理戦。
  • Drakeのtimestampシリーズを奪う構造: Drakeの得意フォーマットでDrakeを攻撃する。
  • 宗教的・内省的なトーン: 単なる悪口ではなく、自分は正しい裁きを行っているという雰囲気を作る。

解説

「6:16 in LA」の狙いは、Drake本人を直接倒すこと以上に、OVO内部へ疑念を植え付けることだった。 「お前の周りには本当に味方がいるのか?」という問いを投げることで、KendrickはDrakeのチームそのものを揺らした。

ファン考察的に言えば、「6:16 in LA」はディス曲というより心理工作である。 KendrickはDrakeに向かってラップしているようで、実際にはDrakeの周囲の人間と視聴者に向かって、 Drakeは孤立している、という物語を刷り込んでいる。

2024年5月3日:Drake「Family Matters」

Drake側の最大火力が「Family Matters」だ。 Drakeはこの曲で、Kendrickの私生活、周辺人物、そしてKendrickの聖人イメージに対して重い攻撃を仕掛けた。

重要パンチラインの要旨

  • Kendrickの家庭・パートナー関係への攻撃: Kendrickの道徳的イメージを崩すため、家庭の問題を持ち込む。
  • Kendrickの周辺人物への攻撃: Dave Freeなど、Kendrickの近い関係者まで巻き込むことで心理的ダメージを狙う。
  • Drake包囲網全体への反撃: Kendrickだけでなく、A$AP Rocky、Rick Ross、The Weeknd、Future方面にも弾を撃つ。
  • “お前らは全員自分より下”という王者目線: Drakeが複数の敵を一気に相手にするスター性を演出する。

解説

曲としての「Family Matters」は強い。 ビートスイッチ、MV、攻撃対象の広さ、Drakeの余裕あるラップ。 すべてが“これで勝負を決める”という作りになっている。

しかし、ここにもDrakeの敗因がある。 Drakeはまた敵を広げすぎた。 そして何より、Kendrickが「Family Matters」の直後に「Meet the Grahams」を落としたことで、Drakeの大砲はすぐに煙を消された。 「Family Matters」は本来なら勝負を決める曲だったが、結果的にはKendrickの次の攻撃を引き立てる前座になってしまった。

2024年5月3日深夜:Kendrick Lamar「Meet the Grahams」

「Meet the Grahams」は、このビーフで最も不気味な曲である。 KendrickはDrake本人だけでなく、Drakeの家族へ手紙を書くような形式で曲を構成した。 これにより、ビーフは通常のラップバトルから心理ホラーへ変わった。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeの家族へ直接語りかける構成: 相手本人ではなく、家族に向けた手紙形式で心理的圧力をかける。
  • Drakeの父親像への攻撃: Drakeをアーティストではなく、家族や責任の問題として裁く。
  • Drakeの人格・依存・周辺環境への攻撃: 華やかなスター像の裏にある空虚さや倫理的問題を描く。
  • 隠された家族に関する主張: 事実確認とは別に、Drakeにはまだ秘密があるという疑念を物語として植え付ける。

解説

この曲の恐ろしさは、内容だけではない。 形式が恐ろしい。 KendrickはDrakeを一人のアーティストとしてではなく、家庭、血筋、倫理、人格の問題として扱った。 Drakeのポップスター性を、暗く、重く、逃げられないものへ変換した。

筆者の断定では、「Meet the Grahams」は「Family Matters」を殺した曲である。 Drakeが映像付きの大作で勝負をかけた直後、Kendrickは真っ黒な音像と手紙形式で、その祝祭感を完全に消した。 ここで勝敗の流れは決まった。

2024年5月4日:Kendrick Lamar「Not Like Us」

決定打が「Not Like Us」だ。 DJ MustardプロデュースのWest Coastバウンスに乗せて、KendrickはDrakeを“自分たちとは違う存在”として切り離した。

重要パンチラインの要旨

  • Drakeを“自分たちではない存在”として分類するフック: 勝敗をラップスキルではなく、カルチャーへの所属問題に変える。
  • OVOを地図・シンボルとして攻撃する構造: OVOのブランドやフクロウのイメージを、Kendrick側の物語に取り込んで嘲笑する。
  • Atlantaとの関係性への批判: DrakeがAtlantaのラッパーやサウンドを利用して成功してきたという見方を提示する。
  • West Coastの地域アンセム化: Drakeへのディスを、LAとWest Coast全体の合唱へ変える。

解説

この曲の強さは、ディス曲なのに踊れることだ。 「Meet the Grahams」がDrakeを暗闇に落とした曲なら、「Not Like Us」はその上で街全体に勝利宣言を叫ばせた曲である。 KendrickはDrakeを論破しただけではない。 Drakeをクラブで笑われる存在にした。

「Not Like Us」は怒りの曲ではなく、祝祭の曲だった。 ここが決定的だ。 相手を怒りで攻撃するのではなく、相手をネタ化し、地域アンセム化し、全員で合唱する。 これは2020年代型の完全勝利である。

2024年5月5日:Drake「The Heart Part 6」

Drakeの最終反論が「The Heart Part 6」だった。 タイトルはKendrickの「The Heart」シリーズを借りたもので、DrakeはKendrick側の主張を否定し、 自分たちが情報戦を仕掛けたという趣旨の反論を行った。

重要パンチラインの要旨
  • Kendrick側の主張を否定する防御ライン: それまでのKendrickの攻撃に対し、事実ではないと反論する。
  • 偽情報を流したという情報戦の主張: Kendrickが掴んだ情報は自分たちが仕掛けたものだ、という逆転を狙う。
  • Kendrickの過去作品・トラウマ表現への攻撃: Kendrickが作品で扱ってきた重いテーマを、ビーフの中で揺さぶる。
  • “もう疲れた”ように聞こえるトーン: 勝ちに行く曲というより、ダメージコントロールに聞こえてしまう。

解説

この曲は反撃として機能しきらなかった。 Drakeは説明しすぎた。 ラップバトルにおいて、説明は弱さに見えることがある。 Kendrickが「Not Like Us」で大衆を踊らせた後に、Drakeが理屈で返したため、どうしても防戦に見えた。

筆者の断定では、「The Heart Part 6」は敗戦処理の曲である。 曲名でKendrickのシリーズを奪おうとしたが、逆にKendrickの土俵に入ってしまった印象が強くなった。

2024年5月5日:Metro Boomin「BBL Drizzy」

「BBL Drizzy」は、初見だとかなり分かりにくい。 なぜならこれは、普通のディス曲ではなく、 Rick Rossのあだ名いじり、Drakeの身体イメージへの嘲笑、Metro BoominへのDrakeの煽り、 AI生成ソウル曲、SoundCloudのビート配布、X/TikTokの参加型ミームが全部つながった特殊な事件だからだ。

そもそも“BBL Drizzy”とは何か

“Drizzy”はDrakeのニックネームである。 “BBL”は美容整形の一種を指す略語としてネット上で使われる言葉だ。 つまり“BBL Drizzy”は、Drakeの身体イメージや美容的な噂を茶化すためのあだ名である。

ただし、ここで大事なのは、その噂が事実かどうかではない。 ラップビーフにおいて重要なのは、相手をどういうキャラクターとして大衆に記憶させるかである。 Rick RossはDrakeを“強い王”ではなく、“美容や外見をいじられる有名人”としてネタ化した。 この時点で、Drakeの威圧感は少し崩れた。

Rick Rossが作った言葉を、King WilloniusがAIソウル化した

“BBL Drizzy”という言葉が広がった後、コメディアン/クリエイターのKing Willoniusが、 その言葉を元にAI生成のヴィンテージ風R&B/ソウル曲を作った。 ここが非常に2024年的である。 ただのラッパー同士のディスではなく、ファン、クリエイター、AIツールがビーフに参加し始めた。

このAI生成曲は、Drakeを直接ラップで攻撃するというより、 昔のソウル曲のような甘い質感でDrakeを茶化すものだった。 つまり、怒りではなく、笑いと違和感でDrakeを削るタイプの攻撃である。

Metro Boominが“ビートを作れ”への返答としてビート化した

Drakeは「Push Ups」でMetroに対して、余計なことを言わずにビートを作っていろという趣旨の煽りを投げた。 Metroはそれに対して、本当にビートを作った。 ただしそれは、Drakeを笑いものにするためのドラムだった。

MetroはKing WilloniusのAI生成曲をサンプリング/再構成し、「BBL Drizzy」というビートをSoundCloudに投稿した。 そして、誰でもこのビートに乗ってDrakeをディスできるようにし、優秀な投稿には賞金やビート提供をするというチャレンジ形式にした。

ここが決定的に強い。 Metroは自分で長いディス曲を書いたわけではない。 代わりに、ネット中のラッパー、一般人、ミーム職人にDrakeを攻撃させる“土台”を作った。 つまり「BBL Drizzy」は一曲ではなく、Drakeを笑うための参加型プラットフォームだった。

なぜDrakeに効いたのか

Drakeは本来、ネットミームを扱うのが非常に上手いアーティストである。 自分がネタにされることも、ダンスも、キャッチーなフレーズも、SNSでの拡散も、Drakeは長年自分の武器にしてきた。 しかし「BBL Drizzy」では、その武器をMetro側に奪われた。

Kendrickが「Not Like Us」でDrakeを大衆合唱の対象にしたのに対して、 Metroは「BBL Drizzy」でDrakeをネット参加型の大喜利対象にした。 この二つが同時に起きたことで、Drakeは“怖い敵”ではなく“みんなでいじる対象”になってしまった。

ラップビーフにおいて、これは非常に危険である。 相手に怒られるより、笑われる方がダメージが大きい場合がある。 「BBL Drizzy」は、Drakeの威厳を削るミームとして機能した。

2024年5月24日:Sexyy Red feat. Drake「U My Everything」

ビーフ本戦後、DrakeはSexyy Redの「U My Everything」で「BBL Drizzy」ビートを逆利用した。 これは非常にDrakeらしい一手だった。 自分を笑うために作られたビートを、あえて自分の客演に取り込む。 つまり、ミームを拒否するのではなく、自分で再利用してしまう。ただし、この動きが完全な反撃になったかというと微妙だ。 確かにDrakeは器用にミームを回収した。 しかし「Not Like Us」の文化的勝利を覆すほどのインパクトはなかった。 むしろ、Drakeがまだビーフの文脈から抜け出せていないことを示す曲でもあった。

勝利の固定化:Pop Out、MV、GNX、Grammy、Halftime Show

2024年6月19日:The Pop Out: Ken & Friends

KendrickはLos Angelesで「The Pop Out: Ken & Friends」を開催し、「Not Like Us」をWest Coast全体の勝利宣言へ変えた。 このライブは単なるコンサートではない。 Drakeに対する地域的な判決だった。

Kendrickが上手かったのは、一人で勝ったように見せなかったことだ。 West Coastのアーティスト、ダンサー、観客、街全体を巻き込み、 「これはKendrick個人ではなく、LAとWest Coastの声である」という形にした。

2024年7月4日:「Not Like Us」Music Video

「Not Like Us」のMVは、勝利の視覚化だった。 OVOの象徴であるフクロウを連想させるモチーフを使い、KendrickはDrakeのブランドそのものを映像で処理した。

曲、ライブ、MVが揃った時点で、「Not Like Us」は単なるディス曲ではなく、2024年の文化的事件になった。 Drakeは曲に負けただけではない。 自分のブランドロゴ、過去の人間関係、地域性、ファンのノリまで、すべてをKendrick側に再編集された。

2024年11月:Kendrick Lamar『GNX』

『GNX』は、ビーフ後のKendrickの勝利後モードを示すアルバムだった。 「wacced out murals」「squabble up」「heart pt. 6」などは、2024年の騒動を背後に置いたうえで、 Kendrickが次のフェーズへ進んだことを示している。

特に「heart pt. 6」は重要だ。 Drakeが「The Heart Part 6」というタイトルを使った後に、Kendrickが自分のシリーズとして「heart pt. 6」を提示したことで、 Drakeに奪われかけたタイトルを取り戻したように見える。 これは静かな勝利宣言である。

2025年2月:グラミー賞とSuper Bowl LIX Halftime Show

「Not Like Us」は2025年のグラミー賞で主要部門を含む5冠を獲得した。 これはディス曲として異例の成果であり、Kendrickの勝利をファンコミュニティの判断から、音楽業界の公式評価へ押し上げた。

さらにKendrickはSuper Bowl LIX Halftime Showで「Euphoria」や「Not Like Us」を含むセットを披露した。 Samuel L. JacksonがUncle Sam的な役割で登場し、SZAやSerena Williamsもステージに関わった。 これは、Drakeとのビーフを個人的な揉め事ではなく、アメリカ文化、黒人表現、ショービジネス、支配と抵抗のゲームとして演出するものだった。

Serena Williamsの登場は、ファン考察的にはあまりに強烈だった。 SerenaはCompton出身であり、Kendrickの地域性と結びつく存在であると同時に、過去にDrakeとの文脈も語られてきた人物だ。 そのSerenaが「Not Like Us」の場面で踊る。 これは偶然ではなく、Kendrick側の演出として読むべきだ。

法廷編:Drake vs UMG

2025年以降、Drakeは「Not Like Us」をめぐってUMGを相手取る法的アクションへ進んだ。 ここで重要なのは、DrakeがKendrick本人ではなく、UMGを相手にしたことだ。 これはもはやラップバトルではなく、レーベル、配信、プロモーション、巨大プラットフォームをめぐる戦いである。

ただしヒップホップの文脈では、この訴訟はDrakeにとって不利に見える。 ラップバトルに負けた後に法廷へ行く動きは、ファン文化の中では“負けを認めた”ように受け取られやすい。 法的には合理的な行動であっても、カルチャー上の印象戦ではKendrickをさらに勝たせてしまった。

ICEMAN:ビーフは再熱するのか

周辺人物の徹底整理

Future:沈黙の発火装置

Futureは、Kendrickほど長い説明をしない。 しかし『WE DON’T TRUST YOU』と『WE STILL DON’T TRUST YOU』というタイトルを連続で出した時点で、彼のメッセージは十分だった。 FutureはDrakeに対する不信を、言葉ではなくアルバム単位の空気で表現した。

Futureの重要性は、Drakeのかつての盟友だった点にある。 DrakeとFutureは2010年代のヒップホップにおいて巨大な成功を共有していた。 そのFutureがMetroと組み、Kendrickを呼び、The WeekndやA$AP Rockyまで巻き込む。 これは、Drakeの旧ネットワークがDrakeに向けて反転した瞬間だった。

Metro Boomin:ラップしない戦争設計者

Metro Boominは、このビーフで最も現代的な戦い方をした。 彼はラップでDrakeを倒そうとしなかった。 代わりに、Futureとのアルバムを作り、Kendrickを配置し、ネットミームとして「BBL Drizzy」を投下した。

DrakeはMetroを裏方に押し込もうとしたが、Metroはその裏方性を武器にした。 ラッパーではないからこそ、彼は“ビート”という形でDrakeをネット全体へ投げ渡せた。

The Weeknd:OVO XOの幻影が崩れた瞬間

The WeekndとDrakeの関係は、このビーフの中でも特に長い影を持っている。 DrakeはThe Weekndを早くから紹介し、The WeekndはDrakeの『Take Care』に大きな影響を与えた。 しかしThe WeekndはOVOに正式所属せず、自分の道を選んだ。

「All to Myself」が刺さるのは、この過去があるからだ。 The WeekndがFuture/Metro側に立ち、OVOに人生を預けなかったことを肯定するようなニュアンスを出す。 それは、Drakeにとって「逃した才能」からの反撃でもある。

A$AP Rocky:Drakeの個人的コンプレックスを突いた男

A$AP Rockyは、Kendrickのような中心的リリシストではない。 しかしDrakeに対しては、非常に個人的な角度から刺さる存在だった。 Rihannaをめぐる文脈、過去の交友関係、そしてDrakeの過去曲での示唆。 Rockyの「Show of Hands」は、これらを一気に回収する形で機能した。

Rockyの攻撃は、ラップバトルというより“人生の配置”で勝っていることを見せるものだった。 Drakeが過去に執着しているように見える相手を、Rockyは現在の家族と生活の中で獲得している。 そのため、Rockyのショットは短くてもDrakeのプライドに響いた。

Ye:乱入、攻撃、評価、手のひら返し

Yeは、この記事で必ず複雑に扱うべき人物である。 「Like That Remix」では明確にDrakeを攻撃し、Drakeの契約やUMGとの関係を揶揄した。 また、Futureに呼ばれてスタジオに入ったこと、現場がDrake排除の空気だったことも語っている。

しかしYeは、Kendrick側の忠実な味方ではない。 Yeは常にYe側である。 2024年にはAnti-Drakeの流れに乗ったが、その後はKendrickがDrakeを倒したことを認めつつ、Drakeの復活可能性も語る。 つまりYeは、Drakeを叩きながらも、Drakeの才能と影響力を完全には否定していない。

21 Savage:Drake側寄りの調停者、そしてAtlantaの外交官

21 Savageは、このビーフで最も誤解されやすい人物だ。 彼は完全中立ではない。 Drakeとは『Her Loss』で強いコンビを築き、ビーフ後の『WHAT HAPPENED TO THE STREETS?』でも「MR RECOUP」で再合流している。 これは明確に、21がDrakeを切っていないことを示している。

しかし21はMetro Boominも切らない。 同じアルバムにMetro参加曲「GANG OVER EVERYTHING」がある。 この配置は非常に象徴的だ。 21はDrakeとMetroを同じアルバム内に置くことで、ビーフ後の人間関係を自分の場で再整理している。

さらに21は、Drakeに対してKendrickへ返答するなと助言していた。 その理由は、Drakeがすでにトップにいるため、勝っても得るものがないというものだった。 世間がDrakeの敗北を見たがっている以上、勝っても負ける。 これはDrakeへの裏切りではなく、むしろ近い友人だからこその助言である。

全関連楽曲リスト:時系列順

  1. 2011:Drake feat. Kendrick Lamar「Buried Alive Interlude」
  2. 2012:A$AP Rocky feat. Drake, 2 Chainz & Kendrick Lamar「F**kin’ Problems」
  3. 2012:Kendrick Lamar feat. Drake「Poetic Justice」
  4. 2013:Big Sean feat. Kendrick Lamar & Jay Electronica「Control」
  5. 2013:Drake「The Language」
  6. 2023:Drake feat. J. Cole「First Person Shooter」
  7. 2024:Future & Metro Boomin「We Don’t Trust You」
  8. 2024:Future & Metro Boomin feat. Kendrick Lamar「Like That」
  9. 2024:J. Cole「7 Minute Drill」
  10. 2024:Drake「Push Ups」
  11. 2024:Rick Ross「Champagne Moments」
  12. 2024:Drake「Taylor Made Freestyle」
  13. 2024:Ye, Future, Metro Boomin & Ty Dolla $ign「Like That Remix」
  14. 2024:Future & Metro Boomin feat. The Weeknd「All to Myself」
  15. 2024:Future & Metro Boomin feat. A$AP Rocky「Show of Hands」
  16. 2024:Kendrick Lamar「Euphoria」
  17. 2024:Kendrick Lamar「6:16 in LA」
  18. 2024:Drake「Family Matters」
  19. 2024:Kendrick Lamar「Meet the Grahams」
  20. 2024:Kendrick Lamar「Not Like Us」
  21. 2024:Metro Boomin「BBL Drizzy」
  22. 2024:Drake「The Heart Part 6」
  23. 2024:Sexyy Red feat. Drake「U My Everything」
  24. 2024:Kendrick Lamar「wacced out murals」
  25. 2024:Kendrick Lamar「squabble up」
  26. 2024:Kendrick Lamar「heart pt. 6」
  27. 2025:Kendrick Lamar Super Bowl LIX Halftime Show
  28. 2025:Drake「What Did I Miss?」
  29. 2025:Drake「That’s Just How I Feel」
  30. 2025:21 Savage feat. Drake「MR RECOUP」
  31. 2025:21 Savage feat. Metro Boomin「GANG OVER EVERYTHING」
  32. 2026:Drake『ICEMAN』

最終評価:これはDrake時代の終わりだったのか

Drake vs Kendrickは、2020年代のヒップホップにおける最大の価値観戦争だった。 Drakeはストリーミング時代の最強ポップラップスターであり、国境、ジャンル、地域、シーンを横断して成功するタイプの王だった。 Kendrickは地域性、リリシズム、黒人文化、倫理、アルバム芸術性を背負うタイプの王だった。

2024年、この二つの王権が正面衝突した。 Drakeは数字、ヒット、ブランド、ネット反応で戦った。 Kendrickは言葉、物語、地域、文化的正統性で戦った。 最終的に勝ったのはKendrickだった。 なぜなら彼は、Drakeの最大の武器である大衆性まで奪ったからだ。

 KendrickがDrakeを文化的に裁いた一方で、MetroとRossはDrakeを笑いものにした。 この二つが同時に起きたことで、Drakeはシリアスな反論も、ミーム的な反撃も、どちらも苦しくなった。

結論はこうだ。 2024年のラップバトルにおいて、Kendrick LamarはDrakeを倒した。 しかも、ただ倒したのではない。 Drakeという時代そのものを、観客全員が歌えるフックに変えて終わらせた。

そして2026年、DrakeはICEMANとして、その凍った傷跡を抱えながら再び王座へ戻れるかを試されている。

出典