Artist: Wu-Tang Clan (feat. Uncle Pete & Popa Wu)
Album: Wu-Tang Forever
Song Title: Wu-Revolution
概要
1997年にリリースされたWu-Tang Clanの歴史的な2枚組アルバム『Wu-Tang Forever』のオープニングを飾る本作は、単なるラップ楽曲という枠を超えた、スピリチュアルで哲学的な宣言(マニフェスト)である。グループの精神的支柱でありメンターであった故・Popa Wuのスポークンワードと、ソウルフルなボーカルを添えるUncle Peteにより構成され、ビートは重厚かつシネマティックな仕上がりとなっている。
リリックの大部分は、Wu-Tang Clanの美学やストリート・ナレッジの思想的根幹を成す「Five-Percent Nation(5% Nation / 神と地球の国)」の教義そのものである。薬物や暴力、自己嫌悪といったストリートの「精神的奴隷」状態から抜け出し、有色人種自身が「神(God)」として覚醒せよという強烈なメッセージが込められている。後半で語られる「85%、10%、5%」のパラダイムは、ヒップホップ・リテラシーにおいて避けて通れない重要概念だ。アウトロでは定番のカンフー映画のサンプリングが挿入され、彼らの知識と音楽を世界中の若者に広めるというWu-Tang本来の目的が高らかに宣言されている。シーンにおける彼らの圧倒的な世界観とスタンスを再認識させる、極めて重要なイントロダクションである。
和訳
[Popa Wu]
These things just took over me
これらが俺を乗っ取っちまった
Just took over my whole body
俺の身体全体を支配したんだ
So I can't even see no more
だからもう何も見えやしない
I'm calling my Black woman a bitch
自分の黒人の女をビッチ呼ばわりし
I'm calling my peoples all kinds of thing that they not
同胞たちをありもしない言葉で罵っている
※Five-Percent Nation(以下、5% Nation)の教えでは、黒人女性は「Earth(地球)」として尊ばれるべき存在である。ここでは、ストリートの過酷な生活やドラッグによって本来の教えを見失い、自己嫌悪と互いを貶め合う状態に陥っている同胞の姿を嘆いている。
I'm lost brother, can you help me
俺は迷子だ、兄弟よ、助けてくれないか
Can you help me brother, please
兄弟、どうか助けてくれ
[Uncle Pete]
You see what we did, we lost the love
俺たちが何をしたか分かるか、愛を失ったんだ
I'm talking bout the love, the love of your own
愛について話してるんだ、自分自身への愛をな
[Popa Wu]
But brother, but brother, but brother, check this out
だが兄弟、兄弟よ、これを聞いてくれ
I still don't understand man, I'm all high off this shit man
俺にはまだ分からないんだ、このクスリで完全にハイになってるからな
[Uncle Pete]
Well, what I'm trying to say my brother
だから、俺が言いたいのは、兄弟よ
Why, why do we kill each other?
なぜ、なぜ俺たちは殺し合うんだ?
Look at our children, what kind of a future
子供たちを見てみろ、どんな未来があるってんだ
[Popa Wu]
This is the training that's gonna be given to you by the Wu
これはWuからお前たちに授けられる訓練だ
Brothers and sisters
兄弟、そして姉妹たちよ
The revolution, the revolution will be televised, televised, televised
革命は、革命はテレビ中継される、中継されるんだ
※ギル・スコット=ヘロンの1970年の名曲「The Revolution Will Not Be Televised(革命はテレビ中継されない)」へのオマージュと反転。情報化社会においては、ストリートの現実や意識の覚醒(革命)がWu-Tangの音楽を通じて世界中に発信されるという独自の宣言と解釈されている。
It's time to rise, and take our place so we can inherit the Universe
立ち上がり、自分たちの居場所を確保し、宇宙を受け継ぐ時だ
The planet Earth belongs to God
この地球は神のものだ
※ここでの「God」は白人社会が押し付けた神ではなく、5% Nationの教義に基づく「黒人男性自身が神(Blackman is God)である」という思想を指している。
This is 1997
今は1997年だ
Every square inch of it that he chose for himself, is the best part
彼が自ら選んだその1平方インチのすべてが、最高の場所なんだ
Behind every strong woman you'll find a strong man
強い女の背後には強い男がいて
And behind every strong man you'll find a strong woman
強い男の背後には強い女がいるものだ
The Universe is not completed without the Sun, Moon and stars
宇宙は太陽、月、そして星々なしでは完成しない
(Want to be free)
(自由になりたい)
That's man, woman and child
それは男、女、そして子供のことだ
※5% Nationの「Supreme Alphabet」における教義。Sun(太陽)は男性、Moon(月)は女性、Stars(星々)は子供を象徴し、この三位一体が宇宙の完成と調和を意味する。
To all you fake-ass niggas who think you gonna survive out here
この世界を生き残れると思っているフェイクな奴らよ
Without your Black woman, you're wrong
自分の黒人の女なしでな、お前らは間違っている
They have attraction powers on the planet
彼女たちはこの地球上で引力を持っているんだ
※女性を「Earth(地球)」と見なす思想から、物理的な引力(Magnetic/Attraction)と、生命を育み家族を束ねる精神的な引力を結びつけている。
We are original man, the Asiatic Black man
俺たちはオリジナル・マン、アジア系黒人だ
The maker, the author, the cream of the planet Earth
創造主であり、筆者であり、地球上の至宝
Father of civilization and daughter of the Universe
文明の父であり、宇宙の娘だ
※「Asiatic Black man」は人類の祖としての黒人を指し、「Cream of the planet Earth」は選ばれた優れた存在であることを意味する。Wu-Tangの代表曲「C.R.E.A.M.」の語源にも通じる5% Nationの基礎教義からの引用。
The population was seventeen million, with the two million Indians
人口は1700万、そこに200万のインディアンが加わり
Making a total of nineteen million, four billion, four hundred million
合計で1900万、44億
All over the planet Earth
この地球全体でな
※イライジャ・ムハンマドの教えに基づく人口統計の引用。北米の黒人(1700万)と先住民(200万)、そして当時の非白人の世界人口(44億)という数値を提示し、有色人種こそが世界の大多数(オリジナル)であることを示している。
(Mandela, Mandela)
(マンデラ、マンデラ)
Arise you Gods, it's the time for the revolutional war
立ち上がれ神々よ、革命戦争の時だ
(Malcolm X, Malcolm X)
(マルコムX、マルコムX)
That's the mental war
これは精神の戦争だ
That's the battle between God and Devil
神と悪魔の戦いなんだ
Take the Devil off your plane
お前の領域から悪魔を追い出せ
Take him off your mental mentality, take him off your brain
精神構造から、お前の脳から悪魔を排除しろ
Leave all the cigarettes and guns, the alcohol and everything
タバコも銃も、酒も全ても捨て去れ
That's the mental devil that exists within your body
それこそがお前の体内に存在する精神的な悪魔だ
That's destroying and decaying your mind
それがお前の心を破壊し、腐敗させている
※5% Nationにおいて「悪魔(Devil)」とは、自分自身を破滅させる悪習(ドラッグ、酒、暴力、無知)という精神的なメタファーとしても解釈される。物理的な敵以上に、自己の内面にある弱さとの戦い(Mental War)を説いている。
The mind controls the body
精神が肉体を支配する
Everything within must come out
内にあるものはすべて外に出さなければならない
Don't look towards the sky 'cause there's no Heaven above
空を見上げるな、上に天国などないのだから
Don't look down beneath your feet, there's no hell below
足元を見下ろすな、下に地獄などないのだから
But Heaven and Hell exist within
天国と地獄は内面に存在する
Heaven is what you make it and Hell is what you go through
天国とは自分で創り出すものであり、地獄とは己が経験する試練のことだ
※死後の世界としての天国や地獄を否定し、それらは現在の精神状態や生活環境(ストリートの現実など)そのものであると説く、5% Nationの極めて重要な教え。
[Uncle Pete]
There is only one God
神はただ一人だけ
There is a whole new one, faith
全く新しいもの、信仰がある
There is a only one
ただ一つだけ
One revolution yeah
一つの革命が (Yeah)
[Popa Wu]
At one time it was told to me
かつて俺はこう教えられた
That man came from monkeys
人間は猿から進化したと
That we were swinging from trees
俺たちは木からぶら下がっていたのだと
I hardly can believe that unless I'm dumb, deaf and blind
自分が馬鹿で、耳が聞こえず、目が見えない限り、そんなことは到底信じられないね
※「Dumb, deaf and blind(口がきけず、耳が聞こえず、目が見えない)」は、5% Nationの用語で「真実の知識を持たない無知な人々(85%の大衆)」を指す決まり文句。
You ever heard about, the ape man and the ape woman
猿人や猿の女について聞いたことがあるか
You have a mankind, that has a beginning to him
人類というものには始まりがあり
And his ending, is about to come
そしてその終わりが、今まさに近づいている
※ダーウィンの進化論を白人社会が黒人のルーツを貶めるための洗脳として否定し、オリジナル・マン(黒人)は猿から進化したのではなく最初から完成された「神」であったと主張するアフロセントリックな視点。
[Uncle Pete]
If you take one step, I will take one with you
お前が一歩を踏み出すなら、俺も共に一歩を踏み出そう
Through the storm and pain, swim the deepest sea, with you my brother
嵐と苦痛を抜け、最も深い海を泳ごう、お前と共に、兄弟よ
I know you got to be strong, gotta hold on
お前は強くなきゃいけない、持ち堪えなきゃいけないんだ
[Popa Wu]
Now the story is about to close
さて、物語は終わりに近づいている
It was a hundred percent of us
俺たちの100%が
That came on the slave ships
奴隷船に乗ってやってきた
85% of our people was uncivilized
俺たちの同胞の85%は野蛮にされた
Poison animal eaters
毒にまみれた動物を食らう者たちだ
※「Poison animal」とは主に豚肉を指す。イスラムの教えに基づく食のタブーであり、劣悪な環境で身体に悪い食べ物を強要された奴隷の歴史と、現代のゲットーの貧しい食環境を嘆いている。
They're slaves of the mental powers
彼らは精神的な力の奴隷だ
They don't know who the true and living God is
彼らは真の生ける神が誰なのかを知らない
And their origins in the world
そしてこの世界における自分たちの起源すらも
So they worship what they know not
だから得体の知れないものを崇拝し
And they're easily lead in the wrong direction
簡単に見当違いの方向へ導かれてしまう
Ought to be lead in the right
正しい方向へ導かれるべきなのに
And now you got the 10% who are rich slave makers of the poor
そして、貧しい者たちから搾取する裕福な奴隷商人である、10%の奴らがいる
※「10%」は知識を独占し、権力や宗教を使って無知な大衆(85%)をコントロールし搾取するエリート層(政治家、偽の宗教指導者、メディアなど)を指す。
Who teach the poor lies that make the people believe
貧しい者たちに嘘を教え込み、信じ込ませる奴らだ
That the all mighty true and living God is a spook in the sky
全能の真の生ける神は空にいる幽霊のような存在であり
And you can't see him with the physical eyes
物理的な目では見ることができないのだと
※キリスト教などで説かれる「目に見えない神(Spook in the sky)」を、10%のエリートが大衆を支配し思考停止させるための「嘘」として痛烈に批判している。
They're also known as blood suckers of the poor
奴らは貧困層の血を吸うダニ(ブラッドサッカー)としても知られている
And then you got the 5%
そして、5%の者たちがいる
Who are the Poor Righteous Teachers
彼らこそが「清貧なる正義の教師」だ
※「5%」は真実を知り、85%の無知な人々を目覚めさせる使命を持った者たち。Wu-Tang Clanのメンバー自身やPopa Wuも、ヒップホップを通して教えを広めるこの5%に属するという自負がある。
Who do not believe in the teachings of the 10%
10%の教えなど信じない者たち
Who is all wise and know who the true and living God is
全てに賢明であり、真の生ける神が誰であるかを知っている者たちだ
And teach that the true and living God is a supreme being black man from Asia
そして真の生ける神とは、アジアから来た至高の存在たる黒人男性であると教えるのだ
Otherwise known as civilized people
別名、文明化された人々
Also Muslims, and Muslim's sons
また、ムスリムであり、ムスリムの息子たちでもある
Peace we out
ピース、これで失礼するよ
※「Peace」は5% Nation特有の敬意を込めた別れの挨拶。
[Cut to Kung-Fu clip]
I have given it much thought
随分と思考を巡らせたよ
It seems, disaster must come
どうやら、災厄は避けられないようだ
At best, only postponed
良くても、先延ばしにされるだけだ
Shaolin Kung-Fu
少林カンフーだ
※カンフー映画からのサンプリング。Wu-Tang Clanを「少林(Shaolin = スタテンアイランドの隠語)」の僧侶に見立てている。ヒップホップ・シーンにおける「災厄(コマーシャル主義やストリートの堕落)」から生き残るための武器としての暗喩。
To survive must now be taught, to more young men
生き残るためには、もっと多くの若者にこれを教えなければならない
We must expand, get more pupils
我々は拡大し、より多くの弟子を持たねばならない
So that the knowledge will spread
この知識が広まっていくようにな
※彼らの音楽を通じたストリート・ナレッジ(知識)の伝承と、Wu-Tang帝国の世界的拡大を予告する象徴的なエンディング。
