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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Duel of the Iron Mic - GZA (feat. Ol’ Dirty Bastard, Masta Killa & Inspectah Deck) 【和訳・解説】

Artist: GZA (feat. Ol’ Dirty Bastard, Masta Killa & Inspectah Deck)

Album: Liquid Swords

Song Title: Duel of the Iron Mic

概要

Wu-Tang Clanの頭脳であり、その比類なきリリシズムから「The Genius」と称されるGZAの歴史的名盤『Liquid Swords』(1995年)に収録された本作は、Wu-Tangの世界観を決定づけたクラシックである。RZAがプロデュースしたソウルフルでありながら不穏な空気を纏うビートの上で、GZA、Masta Killa、Inspectah Deckがそれぞれ全く異なるアプローチで言葉の刃を交える。さらに、コーラスではOl' Dirty Bastard(ODB)が野生的なシャウトを響かせ、楽曲に狂気と熱量を与えている。日本の時代劇映画『子連れ狼(Shogun Assassin)』などのサンプリングを随所に散りばめ、マイクを握るラッパーたちを、命がけの決闘に挑む剣豪や武術家に例えている。ストリートの残酷な現実、5% Nation(ファイブ・パセンターズ)の教え、そして東洋武術のメタファーが三位一体となった、90年代ニューヨーク・ハードコアの美学が凝縮された一曲である。

和訳

[Intro]

"Oh, mad one, we see your trap
「おお、狂える者よ、お前の罠は分かっている

You can never escape your fate
お前は決して自分の運命から逃れられない

Submit with honor to a duel with my son"
名誉をもって、私の息子との決闘を受け入れよ」

"I agree"
「承知した」

"I see you're using an old style
「どうやら、古い流派を使っているようだな

I wondered where you'd learned it from"
どこでそれを学んだのかと思っていたが」

"You know very well, it's yours too"
「よく知っているはずだ、それはお前の流派でもあるのだから」

"Heh, I had forgotten, will you show me?"
「ふん、忘れていたよ、私に見せてくれるか?」

"And what have you come for?"
「それで、お前は何のために来た?」

(Duel of the Iron Mic!)
(鉄のマイクの決闘だ!)

"You come here, since you're so interested—fight me"
「ここに来たのだ、そんなに興味があるのなら—私と戦え」
※映画『子連れ狼』の英語版『Shogun Assassin』やカンフー映画からのセリフのサンプリング。Wu-Tangのメンバー同士、あるいはシーンのラッパーたちとの「マイクを通じた命がけの決闘」の幕開けを宣言している。

[Verse 1: GZA]

Yo, picture bloodbaths in elevator shafts
ヨォ、エレベーターのシャフトでの血の海を想像してみな

Like these murderous rhymes tight from genuine craft
本物の職人技から生まれた、この殺人的でタイトなライムのようにな

Check the print, it's where veterans spark the letterings
印刷をチェックしろ、そこはベテランたちが文字(ライム)に火をつける場所だ

Slow-moving MCs is waiting for the editing
動きの遅いMCどもは、編集されるのを待ってるだけさ

The liquid soluble that made up the chemistry
この化学反応を作り出した水溶性の液体

A gaseous element that burned down your ministry
お前の教会(組織)を焼き尽くしたガス状の元素だ
※自身の変幻自在なフロウを液体やガスなどの化学物質に例え、相手の体制(ministry)を破壊するという極めて理知的なパンチライン。

Herbal vapors and biblical papers
ハーブ(マリファナ)の蒸気と、聖書の紙(巻紙)

Smoking Exodus, every square yard is plush
『出エジプト記』を吸い込む、すべての空間が豪華に満ちている
※旧約聖書で神の奇跡を描く『出エジプト記』をマリファナの煙に見立てる、GZA特有の神聖とストリートの融合。

Fuck the screw-faced photo sessions, facial expression leaves impression
険しい顔を作った写真撮影なんてクソ食らえだ、表情は印象を残す

Try to keep a shark nigga guessing
鮫のような野郎どもには、常に推測させておくのさ
※写真で凄んで見せるような見掛け倒しのラッパーを否定し、本物はポーカーフェイスで相手を翻弄する(guessing)というスタンス。

Give crazy shouts, son, here's the outcome
狂ったように叫んでみな、小僧、これがその結末だ

Cut across the semi-gloss rhymes you floss
お前が見せびらかす、中途半端な光沢のライムを切り裂いてやる

Shit is outdated, just like neckloads of Sterlings
お前のシットは時代遅れだ、首の周りにじゃらじゃら下げたスターリングシルバーや

Suede-fronts, bell-bottoms, and tri-colored Shearlings
スエードのフロント、ベルボトム、それに3色のムートンコートみたいにな
※80年代の古いファッションを引き合いに出し、相手のラップスタイルがすでに陳腐化していることを痛烈にディスしている。

I ain't particular, I bang like vehicular homicides
俺は相手を選ばねえ、車での轢き逃げみたいにブチ当たるぜ

On July 4th from Bed-Stuy
7月4日、ベッド・スタイからのな
※ブルックリンの悪名高い地区Bed-Stuy(ベッドフォード・スタイベサント)と、独立記念日(7月4日)の混沌とした暴動や事故を引き合いに出したバイオレンス描写。

Where money don't grow on trees and there's thieving MCs
そこでは木に金はならず、泥棒みたいなMCたちがいる

Who cutthroat to rake leaves
葉っぱ(札束)をかき集めるために、喉をかき切る奴らさ

They can't breathe, blood splash, rushing fast like running rivers
奴らは息もできない、血が飛び散り、流れる川のように速く押し寄せる

I be that whiskey in your liver
俺はお前の肝臓を蝕むウイスキーだ
※自身のライムが相手の内部に侵入し、アルコールのようにジワジワと確実にダメージを与え(酔わせ)、機能不全に陥らせるという見事な比喩。

[Chorus: Ol' Dirty Bastard]

Duel of the Iron Mic!
鉄のマイクの決闘だ!

It's the fifty-two fatal strikes!
52の致命的な一撃だ!
※トランプの52枚のカード、あるいはストリートの格闘術「52 Blocks(黒人刑務所発祥の防御術)」を掛けた言葉。

[Verse 2: Masta Killa]

This is not an eighty-five affair made clear
これは85%の連中のための出来事じゃねえ、はっきりさせておくぜ
※5% Nationの思想で、世の中の85%は「真理を知らずに操られている大衆」とされる。自分たちのヒップホップは真理を理解する者のためのものだという宣言。

When the gods get on to perform, storms brew up
神々がパフォーマンスを始めれば、嵐が巻き起こる
※「Gods」は黒人男性(Wu-Tangのメンバー)のこと。

Wu's up, causing the crowd to self-destruct
ウータンの登場だ、群衆を自滅させるほどにな

Killa Beez are stinging something while I reveal
俺が真理を明かす間、キラー・ビーズが何かを刺し殺している

Science that's heavily guarded by the culprit
罪人によって厳重に守られていた科学(真理)をな

Bombing your barracks with aerodynamic swordplay
空気力学的な剣術で、お前の兵舎を爆撃する

Poison darts by the doorway
出入り口には毒の吹き矢だ

Minds that's laced with explosive doses
爆発的な用量が仕込まれた精神

Damaging lyrical launcher
破壊的なリリックのランチャーだ

Lunge at the youthful offender then injure any contender
若き犯罪者に突進し、いかなる挑戦者も負傷させる

Testing the murderous Masta could lead to disaster
殺人的なマスタ(Masta Killa自身)を試そうとすれば、大惨事を招くことになるぜ

Dynamite thoughts explode through your barrier, rips the retina
ダイナマイトのような思考がお前の障壁を突破して爆発し、網膜を引き裂く

Who can withstand the astonishing, punishing stings to the sternum?
胸骨へのこの驚異的で過酷な刺し傷に、誰が耐えられるというんだ?

Shocked in the hip-hop livestock
ヒップホップの家畜どもはショックを受けている

Seeking for a serum to cure 'em
奴らを治すための血清を探し求めてな
※フェイクなラッパーたちを「家畜」と呼び、自分たちの放つ毒(フロウ)への解毒剤はないと言い放つ。

[Verse 3: Inspectah Deck]

Thugs kill for drugs plus the young bucks bust
サグどもはドラッグのために殺し合い、若いガキどもが銃をブッ放す
※ここからInspectah Deckのヴァース。GZAやMasta Killaの抽象的・武術的なメタファーから一転し、ゲットーの冷酷な現実をカメラのレンズのように写実的に描き出す。

Ducking handcuffs, throats get cut when dough rush
手錠を躱し、大金が転がり込めば喉がかき切られる

Out of town foes look shook but still pose
よそから来た敵はビビり上がってるが、それでもイキったポーズをとる

We move like real pros through the streets we stroll
俺たちは歩き慣れたストリートを、本物のプロみたいに動くのさ

Bullet holes lace the windows in one-six-oh
160番地の窓には、弾痕が飾りみたいに並んでる
※「160」はスタテンアイランドのパークヒル・プロジェクト(Wu-Tangの地元)の番地。

Soul Controller avenues that's the dream that's sold
魂の支配者たちの通り、それが売り物にされた夢だ

Building lobbies are graveyards for small-timers
ビルのロビーは、三下どもにとっては墓場さ

Bitches caught in airports, ki's in their vaginas
ビッチどもは空港で捕まる、アソコの中にキロ単位のコカインを隠してな
※「ki's」はキロ(kilo)グラムのコカイン。運び屋(ミュール)として利用される女性たちの悲惨な末路。

No peace, yo, the police mad corrupt
平和なんてねえよ、警察は腐りきってる

You get bagged up, depending if you're passing the cut
お前はブチ込まれるぜ、取り分(賄賂)を渡すかどうか次第でな

Plus, shorty's not a shorty no more, he's living heartless
それに、あのガキはもうただのガキじゃねえ、心を失って生きている

Regardless of the charges, claims to be the hardest
どんな罪状を突きつけられようと、自分が一番のハードコアだと主張するんだ

Individual, critical thoughts, criminal-minded
個々の、批判的な思考、犯罪者のマインド

Blinded by illusion, finding it confusing
幻想に目を奪われ、それが混乱に満ちていることに気づくのさ

[Chorus: Ol' Dirty Bastard]

Duel of the Iron Mics!
鉄のマイクの決闘だ!

This that fifty-two fatal strikes!
これが52の致命的な一撃だ!

Duel of the Iron Mics!
鉄のマイクの決闘だ!

It's that fifty-two fatal strike, nuh!
これが52の致命的な一撃だ!

[Outro]

"Huh, Master, he must be dreaming, heh
「ふん、師匠、あいつは夢でも見ているに違いありません

Well, if he is dreaming then he must be asleep
まあ、夢を見ているのなら、眠っているのだろう

And if he's asleep, then I will wake him up!"
そして眠っているのなら、私が叩き起こしてやる!」

"At the height of their fame and glory, they turned on one another
「名声と栄光の頂点で、彼らは互いに牙を剥いた

Each struggling in vain for ultimate supremacy
それぞれが究極の覇権を求めて、虚しい闘いを繰り広げた

In the passion and depth of their struggle
その闘いの激しさと深淵の中で

The very art that had raised them to such Olympian heights was lost
彼らをオリンポスの高みへと引き上げた、まさにその芸術そのものが失われてしまったのだ

Their techniques vanished"
彼らの技術は、消え去ったのである」
※カンフー映画のナレーションのサンプリング。ヒップホップシーンにおけるMC同士のビーフや、金と名声に目が眩んで本来の芸術性(アート)を失っていくラッパーたちの末路を、武術家たちの衰退に重ね合わせた皮肉と警告のメッセージで曲を締めくくっている。