Artist: Ghostface Killah
Album: Ironman
Song Title: Poisonous Darts
概要
Ghostface Killahの記念すべきソロデビューアルバム『Ironman』(1996年)に収録された本作は、プロデューサーRZAの真骨頂である不穏で硬質なビートと、カンフー映画への深いオマージュが交差するハードコアな一曲である。曲全体を通じて、Ghostface特有の断片的ながらも色彩豊かでシュールな言葉遊びが展開され、ストリートの冷酷なサバイバルから5% Nation(ファイブ・パセンターズ)の教義までが目まぐるしく飛び交う。特に注目すべきは、ラストで放たれる「Source Awardsでの冷遇」に対する強烈な怒りのパンチラインだ。これはヒップホップ史において悪名高い1995年の『The Source Awards』における東西抗争の緊張感の中、Wu-Tang Clanが業界全体から過小評価されコケにされたと感じたことへの報復宣言であり、彼らの絶対的な独立心と好戦的なスタンスを象徴するトラックとなっている。
和訳
[Intro: Ghostface Killah]
Let's see you try the water technique
お前の水の技を試してみろ
※RZAが愛好するカンフー映画(『少林三十六房』や『Mystery of Chessboxing』など)の英語版吹き替えのセリフをサンプリング。水と土という自然界の相克を、MC同士のラップスキルの応酬になぞらえている。
Hai, ha, ha, ha, ha
※格闘時の掛け声。
The sky is high, the cloud is low
空は高く、雲は低い
Yeah
But my water technique is hard to beat
だが俺の水の技を破るのは難しいぞ
Word up
間違いない
But the earth can absorb water
しかし土は水を吸収する
Gotta zip my coat
コートのジッパーを閉めなきゃな
Hai, hai, ha
Yeah
The sky is high, the cloud is low
空は高く、雲は低い
Fuck 'em
クソ食らえだ
But my water technique is hard to beat
だが俺の水の技を破るのは難しいぞ
Yeah, check the fly shit
イカしたシットをチェックしな
But the earth can absorb water
しかし土は水を吸収する
Uh
Hai, hai
[Verse 1: Ghostface Killah]
What the fuck I got to lose, huh? Word to God, let's get it on
俺に失うものなんて何があるってんだ? 神に誓って、始めてやるよ
※ストリートから這い上がってきたハスラーとしての「背水の陣」の覚悟。
Clap your heels three times, grab the magic wand
かかとを3回鳴らして、魔法の杖を掴みな
※映画『オズの魔法使い』で主人公ドロシーが故郷に帰るための呪文(かかとを3回鳴らす)と魔法を引用し、自分のラップが別次元の魔法であると誇示している。
Nameless, these stonewashed cats, leave 'em brainless
名もなき時代遅れの野郎ども、そいつらの脳天をブチ抜いてやる
※「stonewashed」は80年代に流行したストーンウォッシュ加工のデニム。つまり「時代遅れでダサい連中」を意味する。
Somewhere out of this world, stranded on Uranus
この世界のどこか遠く、天王星にでも取り残されな
With coke and a dollar bill, stems and crack capsules
コカインと1ドル札、パイプの茎とクラックのカプセルと一緒にな
※コカインを吸うための丸めた紙幣やクラックパイプの部品(stems)。ゲットーのヤク中たちの悲惨な末路を描写。
Take a blast, boo, booby trap a cruise, it's natural
一服吸いなベイビー、クルーズ船にブービートラップを仕掛ける、ごく自然なことさ
Like soybean, burn like a laser beam
大豆みたいにナチュラルに、レーザービームのように焼き尽くす
My vaccine, I shoot it firm and it connects like sideburns
俺のワクチン、しっかりと打ち込めば、もみあげみたいに一直線に繋がるぜ
※自分の音楽(ドラッグに見立てたワクチン)をリスナーの静脈に打ち込み、もみあげから顎髭へ繋がるようにシーン全体を完全に掌握するという独特の比喩。
The segment, rap fragment
このセグメント、ラップの断片が
Comes together like magnets
磁石みたいに引き寄せ合って一つになる
Attract heads, captured like Dragnet
ヘッズたちを惹きつけ、ドラグネットみたいに捕らえるのさ
※『Dragnet』はアメリカの往年の有名刑事ドラマ。リスナーの耳を確実に逮捕(キャッチ)するというパンチライン。
Going through mad phases of all ages
あらゆる時代の狂ったフェーズを通り抜けてきた
Killa Beez locked the fuck up behind cages
キラー・ビーズの兄弟たちは檻の中にブチ込まれてる
※「Killa Beez(殺人蜂)」はWu-Tang Clanとその関連アーティスト、取り巻きたちの総称。刑務所(cages)に収監されている仲間への言及。
The Genovese swallowed this line and caught a freeze
ジェノヴェーゼ一家もこのラインを食らって凍りついたぜ
※ニューヨークの5大マフィアの一つ、ジェノヴェーゼ・ファミリー。本物のイタリアン・マフィアすらも震え上がるほど、自分のリリックが冷酷でリアルだという誇示。
Press caller ID for me to quote more degrees
ナンバーディスプレイを押せ、俺にもっと深い真理を語らせるためにな
※「degrees」は5% Nationの教えにおける「知識」や「段階的な真理」を意味する。
The fortune teller tuck a sleeping gas umbrella
占い師が睡眠ガスの仕込まれた傘を隠し持ってる
Award winning dining in the back of Marabella
マラベラの裏口で賞を獲るような極上のディナーを味わう
Now, who don't believe that cash must rule?
さあ、金がすべてを支配するってことを信じねえ奴は誰だ?
※Wu-Tangの代表曲「C.R.E.A.M. (Cash Rules Everything Around Me)」の精神を再確認している。
I don't eat meat, I slap blood out of Perdue
俺は肉は食わねえ、パーデューのチキンから血を叩き出してるんだ
※イスラムや5% Nationの戒律により豚肉などを食べない食生活への言及。「Perdue」はアメリカの大手鶏肉ブランド。
Keep a wireless mic, mic's on, strike the session
ワイヤレスマイクを持て、マイクの電源はオンだ、セッションをぶちかませ
It's over, I'll fire this and glow like fluorescent
これで終わりだ、これに火をつけて蛍光灯みたいに光り輝いてやる
[Bridge: Method Man]
The sky is high, the cloud is low
空は高く、雲は低い
Peace to y'all, let's get our rhyme on
お前らみんなにピース、俺たちのライムを始めようぜ
But my water technique is hard to beat
だが俺の水の技を破るのは難しいぞ
Yeah, peace to y'all, let's get our rhyme on
ああ、みんなにピース、俺たちのライムを始めようぜ
But the Earth can absorb water
しかし土は水を吸収する
Hai, hai
[Verse 2: Ghostface Killah]
Yo, yo, mountains of blow like snow, constant cash flow
ヨォ、ヨォ、雪のようなコカインの山、絶え間なく金が流れ込んでくる
※「blow」はコカインのストリート・スラング。
Rocking a Shaft afro, Tony got mad glow with hoes
シャフトみてえなアフロでキメて、トニーは女たちと一緒にヤバいほど輝いてるぜ
※「Shaft」はブラックスプロイテーション映画の金字塔『黒いジャガー(Shaft)』の主人公。「Tony」はGhostfaceの別名であるTony Starksのこと。
Mega powder dripping from they nose
女どもの鼻からは大量の粉が垂れ落ちてる
Fucking Jet magazine bitches with wide pussy pose
ジェット誌に載るようなビッチどもが股を広げたポーズをとるのをヤるんだ
※「Jet magazine」はアフリカ系アメリカ人向けの老舗ライフスタイル雑誌。
Centerfold the whole night, deadly venom horror snake bites
一晩中センターフォールドの見開き状態だ、猛毒を持つヘビのホラーな噛みつきさ
Only Built 4 Cuban Link kings who shoot dice
『キューバン・リンク』のためだけに造られた王たちがサイコロを振る
※盟友Raekwonの歴史的名盤『Only Built 4 Cuban Linx...』へのシャウトアウト。マフィオソ・スタイルの頂点に立つ彼らの結束を示している。
Holding money bags, convertible Benz with feathered bags
札束の袋を抱え、フェザーバッグを積んだコンバーチブルのベンツを乗り回す
With the mongoose, your man's got two seeds down in Baghdad
マングースと一緒に、お前のダチはバグダッドに2人のガキを作ったらしいな
※「mongoose」はBMXの自転車ブランド、またはヘビ(敵)を殺す天敵のこと。「seeds」は子供の隠語。
You onion-head niggas spread out and parlay
オニオンヘッドのクソ野郎どもは散らばって賭けでもしてな
※「onion-head」は頭のデカい間抜け、アホを嘲笑するスラング。「parlay」はギャンブルで利益を次々に賭けていくこと。
Yo, Rae, these icks-days get crashed with ash trays
ヨォ、レイ、このチキン野郎どもは灰皿で叩き潰してやるよ
※「icks-days」は「Dicks(クソ野郎)」をピッグ・ラテン(英語の言葉遊び・暗号)で言い換えたスラング。Raekwon(Rae)に呼びかけ、敵を暴力的に排除すると宣言している。
I pull stings like guitar strings down in Spain
俺はスペインでギターの弦を弾くように、裏で糸を引いてるんだ
※「pull strings」は黒幕として操るという意味。スパニッシュ・ギターの弦(strings)と掛けたワードプレイ。
I'm so hyped, jakes labeled god, "Crack cocaine"
俺はハイパーすぎるからな、サツどもは神である俺に「クラック・コカイン」ってレッテルを貼りやがった
※「jakes」は警察のスラング。自身のラップのエネルギーと中毒性が本物のクラックレベルであるという比喩。
Y Equality Self, god, yeah, yeah you know it kid
Y・エコー・セルフだ、神よ、ああ、わかってるだろ
※5% Nationの「Supreme Alphabet」を用いた暗号。頭文字を繋げると「Y-E-S」になり、同意や真理の肯定を示している。
Ricky fucked up a G-Pack, blow his wig
リッキーの野郎がGパックをしくじりやがった、あいつの頭を吹き飛ばせ
※「G-Pack」は1000ドル(1 Grand)分の価値がある麻薬の束。ドラッグのシノギでミスをした部下への冷酷な処刑命令(blow his wig = 頭を撃ち抜く)。
He's rocking Wu Wear, the latest in fleece uniform
あいつは最新のウー・ウェアーのフリース・ユニフォームを着こなしてる
He's a newborn, look at money, swearing like he on
まだ新顔のくせに、あの野郎を見ろよ、一人前気取りで誓ってやがる
But, anyway, back to furry Kangols, Jamaican Wallabees
だがまあいい、毛皮のカンゴールとジャマイカン・ワラビーの話に戻ろう
※90年代のWu-Tangの象徴的ファッションであるKangolのハットとClarksのワラビーブーツ。
My back is on the wall, bombing devils with trick-nology
俺は背水の陣だ、トリック・ノロジーを操る悪魔どもを爆撃してやる
※「trick-nology」は5% Nationの用語で、白人(devils)が黒人を支配・搾取するために使う欺瞞的な技術や嘘のシステムのこと。それに徹底抗戦するというレベル・ミュージックとしての姿勢。
My heart is cold like Russia, got jerked at The Source Awards
俺の心はロシアみたいに冷たいぜ、ソース・アワードでコケにされたからな
※ヒップホップファンの間で語り継がれる歴史的ライン。1995年の『The Source Awards』はDeath Row(西海岸)とBad Boy(東海岸)の対立が表面化した伝説の式典だが、Wu-Tang Clanもまた賞を逃し、業界の政治的な動きによって意図的に冷遇された(jerked)と感じていた。その恨みをストレートに吐露している。
Next year, two hundred niggas coming with swords
来年は、200人のダチが剣を持って乗り込んでやるよ
※業界の権威に対する宣戦布告。Wu-Tangの軍団を率いて、ヒップホップシーンを武力(圧倒的なスキル)で制圧するという、曲を締めくくるにふさわしい過激なパンチライン。
