Artist: Ghostface Killah (feat. Masta Killa, Inspectah Deck, RZA & Raekwon)
Album: Ironman
Song Title: Assassination Day
概要
Ghostface Killahのソロデビューアルバム『Ironman』(1996年)に収録された本作だが、驚くべきことに彼自身のラップは一言も入っていない。代わりにWu-Tang Clanの精鋭であるInspectah Deck、RZA、Raekwon、Masta Killaがマイクをリレーする、言わば「裏のポッセ・カット」である。RZAがプロデュースしたこのビートは、重く冷たいストリングスとミニマルなドラムが支配し、暗殺者が息を潜めるような緊迫感に満ちている。冒頭に映画『ユージュアル・サスペクツ』の絶望的なシーンをサンプリングし、ストリートでの死と隣り合わせのサバイバルを暗示。リリックでは、5% Nation(ファイブ・パセンターズ)の教義であるSupreme AlphabetやSupreme Mathematicsを駆使しつつ、体制への怒り、ヒップホップ・シーンにおける他を圧倒するスキル、そして容赦ない暴力描写が交錯する。Wu-Tangのダークでソリッドな側面が凝縮された、ヒップホップ史に残るドープな名曲である。
和訳
[Intro: The Usual Suspects sample]
What? Ayo
何だって? おい
"There's no coke!
「コカインなんてねえぞ!
What?!
何だって?!
You heard me, you dumb fuck, there's no coke!
聞こえただろ、このクソマヌケ、コカインはねえんだよ!
What the fuck do you mean there's no coke?!?
コカインがねえってどういう意味だ、クソが?!
I've been up and down this ship
この船の中を上から下まで探し回ったんだ
I've been in every fucking room
ありとあらゆる部屋に入った
There's gotta be coke!
コカインがあるはずなんだよ!
There is nothing! Nothing!"
何一つねえ! 何もねえんだ!」
※1995年の映画『ユージュアル・サスペクツ』からのサンプリング。大量の麻薬を強奪するために船を襲撃したものの、何も見つからず罠にはめられたことに気づく絶望的なシーンを引用している。
{*heavy panting*}
{*激しい息遣い*}
"Help, please!"
「助けてくれ、頼む!」
{*panting continues*}
{*息遣いが続く*}
[Chorus: Masta Killa & Inspectah Deck]
"It's assassination day, I—"
「暗殺の日だ、俺は—」
"Help me!" {*gunshot*} (Madman)
「助けて!」 {*銃声*} (マッドマン)
"It's assassination day, I—" (In the cut)
「暗殺の日だ、俺は—」 (身を潜めている)
"It's assassination day, I—" (RZArector)
「暗殺の日だ、俺は—」 (RZAレクター)
"It's assassination day, I—" (Uh, uh)
「暗殺の日だ、俺は—」
"It's assassination day, I—" (Yo, uh)
「暗殺の日だ、俺は—」
[Verse 1: Inspectah Deck]
I move through the Third World, my third eye's the guidin' light
俺は第三世界を通り抜ける、第三の眼が導く光だ
※「Third World」は貧困にあえぐゲットーやストリートの過酷な環境を指す。「third eye」は5% Nationの教えや東洋思想における精神的な覚醒、真理を見抜く目を意味する。
Invite the fight, we all die tonight!
争いを招き入れろ、今夜俺たちは皆死ぬんだ!
The life I live's a 25-to-life bid
俺の生きる人生は、25年から終身刑の判決みたいなもんだ
※ゲットーでの出口のない生活そのものが、重罪の懲役刑(25 to life)のようであるという比喩。
Parole reneged, I stroll the globe fugitive
仮釈放は取り消しだ、俺は逃亡者のように地球を歩き回る
Cream is short, Cee-Cipher-Power stalk, plus the fiend talk
金は足りねえ、サツが付き纏い、ヤク中どもが噂をする
※「Cream」は金(Cash Rules Everything Around Me)。「Cee-Cipher-Power」は5% NationのSupreme Alphabetで「C-O-P(警官)」を意味する暗号。
3G's the cost in Supreme Court
最高裁での代償は3000ドルだ
White lies and blackmail land me back in jail
白々しい嘘と脅迫が、俺を再びムショに送り込む
We're all for sale, a stolen goal but it fail
俺たちはみんな売り物だ、盗まれたゴールだが失敗に終わる
※資本主義社会や刑務所ビジネスにおける、黒人の構造的な搾取(奴隷制の延長)を批判している。
Stranded on the front line, I shine to the dumb and blind
最前線に取り残され、俺は愚かで盲目な奴らに向けて輝く
※「dumb and blind」は5% Nationで真理を知らない大衆(85%)を指す。彼らを啓蒙(shine)するという宣言。
It comes time I take back what was once mine
かつて俺のものだったものを取り戻す時が来た
Crunch time in the first quarter, from the worst slaughter
第1クォーターの勝負所だ、最悪の虐殺から立ち上がる
Devils poisonin' the birth water
悪魔どもが生命の水を毒で汚染している
※「Devils」は白人至上主義的な政府や権力者。ゲットーの環境や資源が意図的に破壊されていることへの告発。
The Earth daughter rest her head on my chest
地球の娘が俺の胸に頭を休める
※「Earth」は5% Nationにおける「黒人女性」の呼称。
Through the struggle, we cuddle under half-moon crest
闘いの中、俺たちは半月の紋章の下で寄り添う
※「half-moon crest」はイスラムの象徴である三日月。彼らの信仰や思想に基づく連帯を示している。
While the press plant fear and exploit the gun blastin'
マスコミが恐怖を植え付け、銃声を搾取する一方で
Central broadcastin' is shacklin', nerves are unfastened
中央の放送局が思考を縛り付け、神経をかき乱す
Trapped in deep water, gaspin'
深い水底に閉じ込められ、あえぎながら
I clash with the titans for my half on the action
俺は自分の取り分のためにタイタンどもと激突する
※「titans」は支配層や巨大な権力。抑圧から這い上がるための壮絶な闘争を描写。
[Verse 2: RZA]
Yo, I stop producers' careers, the weak spot was their ears
ヨォ、俺はプロデューサーどものキャリアを終わらせる、奴らの弱点はその耳だ
※RZA自身のプロデューサーとしての絶対的な自信。他のビートメイカーの耳(センス)が甘いことを突いている。
Scorpion darts hits the mark, pierce the heart with silver spears
サソリのダーツが的を射抜き、銀の槍で心臓を貫く
You're bewildered, my unsaturated, low-filtered
お前は当惑している、俺の不飽和でフィルターを通さない言葉にな
Devils still feel this, shielded lyric built tilted
悪魔どももこれを感じ取る、守りを固めたリリックは斜めに構築されている
※「tilted(傾いた、常識から外れた)」角度から真理を構築し、敵(Devils)の虚を突くというアプローチ。
MCs upon their axis, their body hazard tactic
MCたちは自らの軸の上にいる、奴らの身体を危険に晒す戦術だ
Lactic acid, desert dry cactus practice
乳酸が溜まる、砂漠のように乾いたサボテンの訓練だ
※過酷な環境での修行や、独自のスタイルを磨き上げるための痛みを伴うプロセス。
You can never match this, invincible, Wu-Tang indispensable
これには絶対に敵わねえ、無敵で、不可欠なウータンだ
One Nation Under God, indivisible
神の下にある不可分のひとつの国家
※アメリカ合衆国の「忠誠の誓い」の引用だが、ここでは5% NationとWu-Tang Clanの絶対的な団結と独立性を示している。
With liberty and justice, the mic is in my clutches
自由と正義と共に、マイクは俺の掌中にある
Thug who bring ruckus leave in crutches
騒ぎを起こすサグ野郎は、松葉杖をついて帰ることになる
Unforgivable snakes face the double-edged sword, starts to swivel
許されざる蛇どもが諸刃の剣に直面し、首が回り始める
※蛇は裏切り者や偽物の象徴。Wu-Tangの剣術(鋭いリリック)による処刑の描写。
Decapitates the head, makes the projects more livable
首を跳ね飛ばし、プロジェクトを少しは住みやすくしてやる
※「projects」は低所得者公営住宅。害悪な奴らを排除してフッドを浄化するという過激な自警思想。
Interchangeable, caution: flammable
入れ替え可能だ、警告する、引火性ありだぜ
My chamber is ninety-nine plus one unnameable angles
俺のチェンバーは99に加えて、1つの名状しがたい角度を持っている
※「chamber」はWu-Tangの武術の型や武器。「99」はイスラム教におけるアッラーの99の美名(属性)を示唆し、さらにもう1つの未知の力を持つという神秘的なパンチライン。
And strangles, microphone cord starts to dangle
そして首を絞める、マイクのコードがぶら下がり始める
Silent as the gases that pass throughout your anal
お前のケツの穴から抜けるガスみたいに無音でな
※RZA特有のオフビートで突拍子もないユーモア。サイレントキラーの比喩だが、意図的に下品な表現を混ぜ込んでいる。
We creep through your doors, seep out like sweat through the pores
俺たちはお前のドアをすり抜け、毛穴から滲み出る汗のように浸透する
Destroy your internal organs with the biological warfare
生物兵器でお前の内臓を破壊し尽くす
[Verse 3: Raekwon]
First of all, before we move on, this shit is like a Yukon, don
まず第一に、先に進む前にな、このシットはユーコンみたいなもんだぜ、ドン
※GMC・ユーコン(大型SUV)のように、自分たちの音楽や存在感が重厚で巨大な威圧感を持っているということ。
Spread it out like Grey Poupon
グレープーポンのように塗り広げてやる
※Grey Pouponは高級マスタードのブランド。上流階級の象徴でもあり、自分たちの影響力やハスリングの規模を広げる隠喩。
Splurgin', mergin' in the suburbs
金を使いまくり、郊外のエリアに合流していく
Usin' this just like an adverb, action word, flowin' like a blackbird
これを副詞のように使いこなし、アクションワードだ、ブラックバードのように飛び回る
God came in, aimin' like Terry Bradshaw
神がやって来たぜ、テリー・ブラッドショーみたいに的確に狙い澄ましてな
※「God」はRaekwon自身。NFLの名クォーターバック、テリー・ブラッドショーのパスの正確さを、自分の銃撃やリリックの精度に重ねている。
He hit the crash bar, stay relaxed, God, his shit is smashed, pah
あいつがクラッシュバーにぶつかった、リラックスしろよ神、あいつのモノは粉々だぜ
You handle this just like algebra
お前はこれを代数みたいに処理する
※複雑なドラッグの計算やシノギの管理、または5% Nationの「Supreme Mathematics」を指す。
UFO spot 'em like Galaga, holdin' like bullet-proof Acuras
ギャラガみたいにUFOが奴らを捕捉し、防弾仕様のアキュラのように持ち堪える
※ナムコのアーケードゲーム『ギャラガ』のトラクタービームで敵を捕らえる動きの引用。
"You so fly" — Yeah, right! You wanna get me high, yo, Bobby
「お前イカしてるな」— ああ、そうさ! 俺をハイにさせたいんだろ、ヨォ、ボビー
※BobbyはRZAの本名(Robert Diggs)。女からの誘惑、または敵の甘い言葉をいなす場面。
You hear how I'm shootin' it like they blue-tops, no
俺がブルートップのバイアルみたいにブッ放すのが聞こえるか、いや
※「blue-tops」は青いキャップが付いたクラック・コカインの容器。ドラッグを捌くように言葉(または弾丸)をばら撒く。
You won't play me like your lady
お前の女みたいに、俺を弄ぶことはできねえぜ
Pay me 380, spit it at you like a baby, final destination Haiti
俺に380払え、赤ん坊みたいにお前にツバを吐きかける、最終目的地はハイチだ
※「380」は.380口径の銃。銃弾を吐き出し(spit)、敵を死(ヴードゥー教や黒魔術のイメージから、死後の世界=ハイチ)へと送るという暗殺の宣告。
[Verse 4: Masta Killa]
War's extremely serious, and it saddens me
戦争は極めて深刻なものだ、そして俺を悲しませる
To have to take tings to deadly measures
事態を致命的な手段に持ち込まなければならないことがな
※Masta Killaの冷静で哲学的なスタンス。不必要な殺生は好まないが、避けられない戦いには冷酷な覚悟を持っている。
And have you measured and shot for no pay
お前のサイズを測り、無報酬で撃ち殺すことになる
※死体を入れる棺桶のサイズを測る(measured for a coffin)ことの暗喩。
It's assassination day, I stalk my enemy like prey
暗殺の日だ、俺は獲物を狙うように敵を追跡する
Tranqued by deceptional sounds that deceives
欺瞞に満ちた偽りの音に麻痺させられ
And lures MCs to the lair
MCたちを隠れ家へと誘い込む
With a mic-like bait, then awaits to be bitten by greed
マイクという餌を使ってな、そして強欲によって食いつかれるのを待つ
Temptation tempts my victim to proceed
誘惑が俺の犠牲者を先へと進ませるのだ
※音楽業界の罠や、名声に目が眩んだフェイクなMCたちが自滅していく様子を、狩猟の罠になぞらえている。
Forward, ignorance wouldn't allow retreat
前へ進め、無知ゆえに退却は許されない
You'd rather pursue death than admit defeat
敗北を認めるくらいなら、死を追求する方がマシだと言うのだろう
Now, who's best to describe for what I specialize in?
さて、俺の専門分野を最も的確に描写できるのは誰だ?
Murderous rhymin', constantly inclinin'
殺人的なライミング、絶えず傾斜していく
※「inclining」はスキルが常に上昇し、鋭さを増し続けている状態。
My mind spits with an enormous kickback
俺の精神は巨大な反動を伴って言葉を吐き出す
Your brain then absorbs the impact
そしてお前の脳がその衝撃を吸収するのだ
Disorderly conduct from the crowd is the feedback
群衆からの無秩序な熱狂、それがフィードバックだ
※リリックの威力が観客を暴動レベルで熱狂させる様子を、銃の反動や物理的な衝撃(kickback, impact)として表現している。
[Chorus: Masta Killa]
"It's assassination day, I—"
「暗殺の日だ、俺は—」
"It's assassination day"
「暗殺の日だ」
"It's assassination day"
「暗殺の日だ」
"It's assassination day, I stalk my enemy—"
「暗殺の日だ、俺は敵を追跡する—」
"It's assassination day, I stalk my enemy—"
「暗殺の日だ、俺は敵を追跡する—」
