Artist: Ghostface Killah (feat. Raekwon)
Album: Ironman
Song Title: 260
概要
Ghostface Killahのソロデビューアルバム『Ironman』(1996年)に収録された本作は、盟友Raekwonをフィーチャリングに迎え、Wu-Tang Clanが得意とする極めて映画的でスリリングなストーリーテリングが展開される一曲だ。RZAがプロデュースを手掛け、アル・グリーンの「You Ought to Be with Me」をサンプリングしたソウルフルで哀愁漂うビートに乗せ、二人はライバルディーラーのアジトを襲撃する強盗計画を鮮明に描写していく。5% Nation(ファイブ・パセンターズ)の教義であるSupreme Alphabetを用いた暗号のようなスラング、ストリートの生々しい固有名詞、そして緊迫した襲撃シーンからの「天井裏からコカインではなくチーズの塊が出てくる」というブラックユーモアあふれる見事なオチまで、まるで1本の短編マフィア映画を観ているかのような没入感を生み出している。90年代ニューヨークのアンダーグラウンドなハスラー稼業の現実と滑稽さを描いた、ヒップホップ史に残る傑作ストーリーテリング・トラックである。
和訳
[Intro: The Education of Sonny Carson movie clip]
"I got–I got to take him off of here...
「あいつを、あいつをここから排除しなきゃならねえ…
※1974年のブラックスプロイテーション映画『The Education of Sonny Carson』からのサンプリング。邪魔な敵を消す計画を練る不良たちの会話を引用し、これから始まる襲撃ストーリーの幕開けを演出している。
That's right – I got to take him off of here
そうだ、あいつをここから消してやるんだ
'Cause there's only one and that's me
なぜならトップに立つのは一人だけ、それは俺だからだ
You understand?
わかるか?
'Fore all that fighting, you understand
喧嘩になる前にな、わかるだろ
That sucker think he good, that sucker think he can whoop me
あのクソ野郎は自分が優秀だと思ってる、俺をぶちのめせると思ってるんだ
And I know he can't whoop me, I'll...
あいつに俺は倒せねえ、俺が…
Aye, boy, the nigga whole style is chump
おい、あいつのスタイルは完全にマヌケだぜ
You understand?
わかるか?
Let me get mines first
まずは俺の取り分を確保させろ
Then after I get mines, you can do what you want to do..."
俺が自分の分を手に入れたら、お前は好きなようにすればいいさ…」
[Intro: Ghostface Killah]
Yeah, scandalous...
ええ、スキャンダラスだ…
※Ghostfaceが悪びれた様子もなく冷酷なハスラーとしてのスタンスを示す。
Yeah, miraculous, the arsonists...
ええ、奇跡的だぜ、俺たちは放火魔だ…
[Verse 1: Ghostface Killah]
Yo, kicked down the door in the spot – 260, 2L
ヨォ、現場のドアを蹴り破ったぜ、260番地の2L号室だ
※曲のタイトルでもある「260」という部屋番号。襲撃のターゲットの居場所。
"I heard they had O's for sale"
「あいつらがOを売りに出してるって聞いたぜ」
※「O's」はオンス(ounces)の略で、大量の麻薬(主にコカイン)を意味する。
I heard the same shit; money drive a burgundy whip
俺も同じ噂を聞いたよ、あいつはバーガンディ色の車を乗り回してる
※「whip」は車のスラング。「money」は「あの男」や「金持ちの野郎」を指す代名詞。
Keep a low fade, his license plates is engraved "PAID"
低いフェードカットにしてて、ナンバープレートには『PAID(支払い済み/大金持ち)』って刻まれてる
"Where's the cat from?" Think he's from New Jerusalem
「その野郎はどこの出身だ?」ニュージャージーから来たらしいぜ
※「New Jerusalem」は5% Nationの隠語でニュージャージー州(New Jersey)を指す。
Pretty Rick did his thing for him, but he was using him
プリティ・リックがあいつのために動いてたが、ただ利用されてただけだ
Boss Sun's younger physical, you know the god
ボス・サンの弟分さ、お前もあの神を知ってるだろ
※「physical」は5% Nationのスラングで「肉体・人間・兄弟」を意味する。「god」は黒人男性への敬称。
He go with Tip, the one who called Lover of God
あいつはティップとつるんでる、神の恋人って呼ばれてた女だ
Y Equality Self, I know the Master Allah Now
Y、Equality、Self、俺はMaster、Allah、Nowの野郎を知ってるぜ
※5% Nationの教義「Supreme Alphabet(最高アルファベット)」を用いた暗号。頭文字をつなげると「Y-E-S M-A-N(イエスマン)」となり、ターゲットが誰かの腰巾着(イエスマン)であることを示しているヒップホップ屈指の巧妙なワードプレイ。
It's time to get the God U and blow like mines
今こそGodとUを手に取って、地雷みたいにブッ放す時だ
※同じくSupreme Alphabetの暗号。「G(God)-U(Universe)-N(Now)」で「GUN(銃)」。銃を取ってカチコミに行く合図。
But on the low, I heard he got Born Original sent back
だが内緒の話、あいつがボーン・オリジナルを刑務所に送り返したらしいぜ
※「sent back」は刑務所に逆戻りさせる(密告する)こと。
In a drive-through of Kentucky Fried, shot up his Ac'
ケンタッキーフライドチキンのドライブスルーで、あいつのアキュラが蜂の巣にされたんだ
※「Ac'」は高級車ブランドのアキュラ。ストリートの日常に潜む暴力の生々しい描写。
We got to get him, dunn – aliens is snatching our bread
俺たちであいつを殺るしかねえぜ、ダン。エイリアンどもが俺たちのシノギを奪ってやがる
※「dunn」はNY特有のスラングで「兄弟・仲間」。「aliens」は外部からやってきて自分たちの縄張りを荒らすよそ者のドラッグディーラーを指す。
UFOs moving in with bigger plans than Feds, yo
UFOがサツよりもでかい計画で入り込んできてるんだ
※よそ者たち(エイリアン)の乗る車や勢力を「UFO」に例え、警察(Feds)のガサ入れよりも彼らの侵略の方が脅威だと語っている。
Knock on Daddy-O's door, get the scope
ダディオの家のドアを叩いて、スコープ付きのライフルを借りよう
He's not home, he took Ishmael to Park Slope
あいつは留守だ、イシュマエルを連れてパークスロープに行っちまった
※Park Slopeはブルックリンの地名。
There go the dreads, yo, swindle two bags of that skunk
そこにドレッドヘアの奴らがいるぜ、あのスカンクを2袋ちょろまかしてやれ
※「skunk」は匂いの強い上質なマリファナ。
That get you crashed out, had you laid out like bums
そいつを吸えばぶっ倒れて、浮浪者みたいに横たわることになるぜ
"Peace Kiana, what's up with your girlfriend Wanda?
「ピース、キアナ、お前のダチのワンダはどうしてる?
※ターゲット周辺の女性から情報を聞き出すシーン。
She drive a cream Honda, with legs like Jane Fonda"
あいつはクリーム色のホンダに乗ってて、ジェーン・フォンダみたいに綺麗な脚をしてる女だ」
"I just left her, she took Regine to Pathmark
「さっき別れたところよ、彼女はレジーナを連れてパスマークに行ったわ
※Pathmarkはアメリカ北東部で展開していたスーパーマーケットチェーン。
Then jetted to Canal to get her man some Clarks
それから男にクラークスを買ってあげるために、キャナル・ストリートへ急いで向かったわよ
※Canal StreetはNYの偽物や安い品物が集まる通り。クラークス(Clarksのワラビーブーツ)はWu-Tangの象徴的アイテム。
She should be back in ninety minutes, Ghostface,"
90分後には戻ってくるはずよ、ゴーストフェイス」
God forbid she safe, BCW was watching the kids
彼女が無事であることを神に祈るぜ、児童福祉局がガキどものことを見張ってたからな
※BCW(Bureau of Child Welfare=児童福祉局)。ドラッグの売買をしている親から子供を保護(引き離す)ために当局が動いているという、ゲットーの厳しい現実。
[Verse 2: Raekwon & Ghostface Killah]
Two hours later, scheming like DeNiro in Casino
2時間後、映画『カジノ』のデ・ニーロみたいに計画を練る
※マフィア映画の傑作『カジノ』でのロバート・デ・ニーロの緻密な手口になぞらえている。
Son better have more coke than Al Pacino
あの野郎、アル・パチーノ以上にコカインを隠し持ってなきゃ許さねえぜ
※映画『スカーフェース』で麻薬王を演じたアル・パチーノへのリファレンス。
Kiana ain't tellin' no lies, last year she did a sting and a half
キアナは嘘をつくような女じゃねえ、去年あいつは1年半ムショに入ってたんだ
※「sting and a half」は刑務所での刑期(1年半)を示すスラング。
With Tymeek, bought him a aircraft
タイミークと一緒にな、あいつに航空機を買ってやったらしい
But anyway, yo, Daddy-O home, we need the shotties nid-dow
まあそれはいい、ヨォ、ダディオが家に戻ったぜ、今すぐショットガンが必要だ
※「nid-dow」はNow(今)を加工したWu-Tang特有のスラング(ピッグ・ラテン風の言葉遊び)。
When we get back, throw you a thid-dou
無事に戻ってきたら、お前に1000ドル投げてやるよ
※「thid-dou」もThousand(千)を加工したスラング。武器を貸してくれたダディオへの報酬。
Later that night, stay mesmerized
その日の夜遅く、意識を研ぎ澄ませたまま
"Yo, go get the green 5, meet you on the corner of Now Y
「ヨォ、緑の5シリーズを取ってこい、ニューヨーク・アベニューの角で待ち合わせだ
※「green 5」はBMW 5シリーズ。「Now Y」はNY(ニューヨーク)の言葉遊び。
You ready? You got the E&J and the machete?"
準備はいいか? E&Jの酒とマチェーテ(山刀)は持ったか?」
※E&Jは安価なブランデーの銘柄。酒で気合を入れ、凶器を持って襲撃に向かう。
We going upstairs, I hope one nigga is heavy
階段を上がるぜ、中にいる野郎が大物であることを願うよ
We walked in, both of us, looked like terrorists
俺たち二人が踏み込んだ、その姿はまるでテロリストのようだった
Masks on, second floor, dunn, yo – I handle this
マスクを被り、2階へ、行くぜ兄弟、ここは俺が仕切る
Kick in the crib, the whole shit look graphical
部屋のドアを蹴り破ると、すべてがグラフィックみたいに鮮明に見えた
Natural, fucking a white bitch, actual
当然のように、白人のビッチとヤッてる最中だった、マジでな
Fiends chanting, "Do your thing, Chef, handle it!"
ヤク中どもが叫ぶ、「やっちまえ、シェフ、片付けてくれ!」
※ChefはRaekwonのニックネーム。ターゲットからヤクを買っていた常連客たちすらも、Raekwonに加勢して略奪をそそのかしている。
I shot him in the neck, it ricocheted and hit Carolyn
あいつの首を撃ったら、弾が跳ね返ってキャロリンに当たっちまった
※白人の女(キャロリン)に流れ弾が当たるというカオスな状況。
Ran to the back analyzing, much disguising
状況を分析しながら奥の部屋へ走り、姿を隠した
Surprise! He coming in their eyes and tranquilized, then bugging
サプライズだ! あいつは女の顔に射精して放心状態になり、パニックになってやがった
※襲撃の瞬間のターゲットの滑稽で情けない姿を暴露する強烈なディス。
Throwing the twin cousins at his nugget, fuck it
双子のイトコをあいつの頭に突きつけてやった、クソ食らえだ
※「twin cousins」は2丁の拳銃のこと。「nugget」は頭を指すスラング。
Meet shottie waddy slug body hobby
ショットガンの弾が身体をブチ抜く趣味の時間を楽しめ
"Where the drugs, where the ounces you be bouncing?"
「ドラッグはどこだ、お前が捌いてるオンスの薬はどこにある?」
Fake cats announcing on the block, you're lounging
フェイクな野郎どもがストリートでお前がくつろいでるって言いふらしてたぜ
"Where the blow at?" "I ain't got shit, stop fronting"
「コカインはどこだ?」「何も持ってねえよ、強がるのはやめろ」
"Yo, Chef, throw the joint in his mouth, money'll stop stunting"
「ヨォ、シェフ、あいつの口に銃口を突っ込んでやれ、そしたらイキるのをやめるだろうぜ」
"Bitch, hold that pit, before I push your wig back"
「ビッチ、そのピットブルを押さえておけ、お前のカツラを吹き飛ばす前にな」
※「push your wig back」は頭を撃ち抜くことを意味するストリートの定番スラング。
"Chef, stop waving that, show him where the paper at"
「シェフ、銃を振り回すのはやめて、金のある場所を案内させろ」
Come here, Valerie, you know the God, he need a salary
こっちへ来いヴァレリー、お前も神(俺)を知ってるだろ、神には給料が必要なんだよ
Put down the pipe, here's two tickets to a coke gallery
クラックパイプを置け、コカインのギャラリーへのチケット2枚だ
It's in the kitchen in the ceiling
キッチンの天井裏にあるんだ
Baby girl kept squealing
あの小娘はずっと悲鳴を上げ続けていた
Only found a white block of cheese from New Zealand
見つかったのは、ニュージーランド産の白いチーズの塊だけだった
※曲のクライマックス。大量のコカイン(白いブロック)が隠されていると信じて天井裏を探ったら、出てきたのは本物の「白いチーズ」だったという見事なオチ。張り詰めた緊張感から一転してコメディに落とし込む、Wu-Tang特有のシニカルなユーモア。
[Outro: Ghostface Killah]
Oh... shit! Yo, yo... where that shit at, yo?
ああ… クソッ! ヨォ、ヨォ… ブツはどこにあるんだよ、ヨォ?
Yo, Chef, where that shit? What? What? Aiyyo...
ヨォ、シェフ、ブツはどこだ? なんだよ? なんだよこれ? アイヨー…
※チーズを見つけてパニックになり、空振りに終わった強盗たちの混乱した叫びで曲が幕を閉じる。
