UGMKM

Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Knew Better - JID & Lil Yachty 【和訳・解説】

Artist: JID & Lil Yachty

Album: GDLU (Preluxe)

Song Title: Knew Better

概要

JIDのプレアルバム『GDLU (Preluxe)』に収録された本楽曲「Knew Better」は、同じアトランタ出身でありながら全く異なるスタイルでシーンを牽引するLil Yachtyとの待望のコラボレーションである。プロデューサーであるChristoが手掛けたバンガービートに乗せ、Lil Yachtyはトラップミュージックの退廃的なドラッグカルチャーや女性関係、そして自らの成功を独特のサイケデリックなフロウで描写する。一方、JIDは圧倒的な言語感覚とリリシズムを駆使し、ストリートの冷酷な現実から黒人社会が抱える歴史的・構造的な抑圧までを鋭く抉り出す。楽曲の終盤でJIDが放つ「The south has somethin' to say(南部には言いたいことがある)」というフレーズは、1995年のソース・アワードでOutkastのAndre 3000が残した伝説的なスピーチからの引用であり、アトランタのヒップホップレガシーを彼らが次世代として完璧に継承していることを証明する記念碑的な1曲だ。

和訳

[Intro]

I'll, one day, take over the w—
いつか俺がこの世界を乗っ取る
※曲の冒頭を飾るサンプリング。JIDがヒップホップシーン、あるいは世界そのものを支配するという野心を示唆している。

[Verse 1: Lil Yachty]

(Ruff, ruff, ruff)

Third quarter, three orders, back on the fence
第3クォーター、3つの注文、またフェンスの上に戻ってきた
※バスケットボールやアメフトの試合の後半戦(第3クォーター)に例え、ビジネスやハスリングが佳境に入っている状態。「fence」はストリートでのディールや、どちらに転ぶか分からない境界線にいることを意味する。

New order, old testaments, I don't like estimates
新たな秩序、旧約聖書、俺は推測が好きじゃない
※「old testaments」は聖書。宗教的な絶対の真理と「estimates(見積もり/推測)」を対比させ、不確実な噂や曖昧なビジネスではなく、確実な事実と結果だけを求めるハスラーのスタンス。

Need precision, dividends, on paper (Ruff, ruff)
紙面上の正確さと配当金が必要だ
※口約束ではなく、契約書(on paper)に記された正確な利益(dividends)を要求している。

Ridin' on scrapers, bandana 'round tapers
スクレイパーを乗り回し、テーパーフェードにバンダナを巻く
※「scrapers」は大きなホイールを履いたカスタムカー(元はカリフォルニアのベイエリア発祥のスラング)。「tapers」は黒人の定番ヘアスタイルであるテーパーフェード。ストリートのアイコニックなルックを表現。

Geekin' on X, break the pill like a wafer (Phew, ski, ski)
エクスタシーでキマって、錠剤をウェハースみたいに割る
※「X」はエクスタシー(MDMA)。ドラッグを日常的なお菓子(ウェハース)のように簡単に消費する退廃的なライフスタイル。

Brown sugar dipped in an apple, Ole Quaker
リンゴをディップしたブラウンシュガー、クエーカーオーツみたいにな
※シリアルブランド「クエーカー(Ole Quaker)」の人気フレーバーであるアップル&シナモンやブラウンシュガー味からの連想。甘いドラッグ(リーンなど)と薬物のメタファー。

Codeine and codeine, and codeine, and codeine
コデイン、コデイン、コデイン、コデイン
※咳止めシロップ(コデイン)から作られるドラッグ「リーン」への異常な依存。

And codeine in assembly, diamonds like shakеr
コデインが大量に並び、ダイヤモンドはシェイカーのように揺れる
※大量のドラッグと、身につけたジュエリー(ダイヤモンド)が踊るように煌めくフレックス。

Brown paper bag hold some soul exchangеrs (Phew)
茶色い紙袋には魂を引き換える金が入ってる
※「soul exchangers」は現金のこと。ストリートにおいて大金は命や魂と引き換えに手に入れるものであるというダークな真理。

I'ma shoot shit like a Globetrotter (Phew)
グローブトロッターズみたいにガンガン撃ちまくるぜ
※「Globetrotter」は曲芸的なプレーで有名なエキシビション・バスケットボールチーム「ハーレム・グローブトロッターズ」。彼らの派手なシュートと、銃器を乱射すること(shoot)を掛け合わせたパンチライン。

Hoes wild away, still toes around me (Damn)
ビッチどもが荒れても、まだ俺の周りには足元に群がってる
※女性たちがどれだけ騒ごうと、自分の権力や財力の前では結局ひれ伏す(toes around me)という傲慢な描写。

I'm a big-toe stepper, don't check on lil' bros
俺は親指で踏み込む大物だ、弟分のチェックなんてしない
※「stepper」はストリートで躊躇なく引き金を引く者や、行動を起こす者。自分はボスであり、下っ端(lil' bros)の動向をいちいち気にする立場ではない。

And don't check, I hope you took all of your valuables
確認するなよ、貴重品は全部持って逃げた方がいいぜ
※これから強盗や襲撃が始まるため、無駄な抵抗をせずに逃げろという警告。

If your ho double-take, dog, she's an animal
お前の女が俺を二度見したら、そいつはただの動物だ
※自分の魅力や財力に惹かれて二度見(double-take)するような尻軽な女性は、本能だけで動く動物に過ぎないという痛烈な女性蔑視的ジョーク。

I would, I would, I would, I would
俺なら、俺なら、俺なら、俺なら

Trade in my BM, mad all my new hoes look just like her
子供の母親と交換する、俺の新しい女たちが皆あいつにそっくりで腹が立つ
※「BM」はBaby Mama(結婚していない子供の母親)。新しい女性と次々に関係を持っても、結局は元パートナーと同じようなタイプばかり選んでしまう自分への呆れ。

Told her she's the beta
彼女には自分は二番手だと言ってやった
※ソフトウェアの「ベータ版(未完成/テスト版)」に掛け、彼女が自分にとって本命(アルファ)ではないことを冷酷に告げている。

Twin 'nem'll go step for Lil' Miles like a theta
双子の仲間がリル・マイルスのためにテータのように踏み込む
※「Lil Miles」はLil Yachtyの本名(Miles)。「theta」は黒人学生の友愛組織(フラタニティ)が行う激しいステップダンス。仲間たちが自分のためにいつでも暴力的な行動(step)を起こすという結束の強さ。

Look like Beyonce, just wanna cater (Ruff, ruff, ruff)
ビヨンセみたいな見た目で、ただ尽くしたいって言ってる
※ビヨンセが在籍したDestiny's Childのヒット曲「Cater 2 U」のリファレンス。完璧な美女が自分に奉仕(cater)したがっているという自慢。

Duckin' off with her, I'm out in Decatur
彼女と身を隠して、俺はディケーターにいる
※アトランタ東部の都市ディケーター。Yachtyの地元周辺エリア。

The gentrified part, not Panola, know better (What the fuck?)
パノラじゃなくて、ジェントリフィケーションされた安全なエリアだ、分かってるだろ
※「Panola」は治安の悪いフッドのエリア。成功した今は危険な場所ではなく、富裕層向けに再開発(ジェントリフィケーション)された安全な場所にいるという現実的なフレックス。

If you knew better, you'd prolly do better
もしもっとよく知っていれば、お前ももっとうまくやれるだろうに
※著名な黒人詩人マヤ・アンジェロウの格言「When you know better, you do better(より良く知れば、より良く行動できる)」からの引用。無知なヘイターたちへの教訓。

Twin turbo, two twins, knock 'em down like Twin Towers (Ski, ski, ski)
ツインターボ、二人の双子、ツインタワーみたいになぎ倒す
※車のツインターボエンジン、二人の女性(双子)、そして9.11のワールドトレードセンター(ツインタワー)崩壊を掛け合わせた、過激で破壊的なパンチライン。

Badder than Shabazz and Coretta, I'm a real deal activist
シャバズやコレッタよりもヤバい、俺は本物のアクティヴィストだ
※マルコムXの妻ベティ・シャバズ(Betty Shabazz)と、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの妻コレッタ・スコット・キング(Coretta Scott King)という公民権運動の偉大な女性たちをネームドロップ。ストリートでのサバイバルを独自の人権闘争(activist)に例えている。

I'm sippin' mud, need a shower (Oh, my—)
泥水をすすってるから、シャワーが必要だ
※「mud」は色が濁ったコデインシロップ(リーン)。ドラッグに溺れる不健康な状態を泥まみれに例えている。

Fuck a ghost, I'm a real deal black nigga
幽霊なんてクソくらえ、俺は正真正銘の黒人だ
※「ghost」はロールス・ロイス・ゴースト(高級車)のことでもある。物質的な見栄や見えない脅威(幽霊)よりも、自分がストリートを生き抜くリアルな黒人であるというアイデンティティの誇示。

Standin' and livin' outside with the power (That's a fact)
外に立って、権力を持って生きている
※安全な場所に隠れるのではなく、危険なストリート(outside)で堂々と権力を握っている。

MDMA on my tongue kinda sour
舌の上のMDMAが少し酸っぱい
※ドラッグ摂取の生々しい感覚の描写。

Far from a coward, prestigious as Howard (Ruff, ruff, ruff, ruff)
臆病者とは程遠い、ハワード大学みたいに名門だ
※アメリカ屈指のHBCU(歴史的黒人大学)であるハワード大学(Howard University)。自分のストリートでのプロップス(評価)が、名門大学並みに高いという比喩。

In the two-door, doin' two hunnid an hour
2ドアの車で、時速200マイルで飛ばす
※スーパーカーでの危険な暴走。

Headed down Broward, pour up a four, Zay Flowers
ブロワードに向かいながら、4オンスのシロップを注ぐ、ゼイ・フラワーズみたいにな
※フロリダ州のブロワード郡(Broward)へ向かう道中。「pour up a four」は4オンスのリーンを作ること。NFLのワイドレシーバーであるゼイ・フラワーズ(Zay Flowers)の背番号が「4」であることに掛けた高度なネームドロップ。

[Chorus: Lil Yachty & JID]

Mm, if you knew better, you'd do better, ha
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに

If you knew better, you'd do better, ha
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに

If you knew—, uh (Do better, ruff, ruff, ruff)
もし知っていれば...(うまくやれよ)

If you knew better, you'd do better, ha
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに

If you knew better, you'd do better, kid (Look)
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに、坊や

If you knew better, you'd do better, dude (Hop in the—)
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに、お前ら

If you knew better, you'd do better, ha (Watch, watch, watch)
もっとよく知っていれば、もっとうまくやれるだろうに

[Verse 2: JID]

Look, uh, hop in the whip
見な、車に乗り込むぜ

Crank the bitch as loud as it can get, you can make a lil' vehicle flip
ボリュームを限界まで上げろ、小さな車ならひっくり返るくらいにな
※重低音を響かせて車をバウンスさせるアトランタ特有のカーカルチャーの描写。

Bought my mama crib off of the "lyrical miracle spiritual" shit (Hmm)
「リリカル・ミラクル・スピリチュアル」なんて揶揄されるラップスキルで、母親に家を買ってやったぜ
※「lyrical miracle spiritual」は、韻を踏むことばかりに執着し中身がない(あるいは時代遅れな)ラッパーを馬鹿にするネットスラング。JIDは自分がその圧倒的な「リリシズム」を武器にして、実際に大金を稼いで母親に家(crib)を買った事実でヘイターたちを黙らせている。

Imperial, get the grrt, scratch off the serial (Fah, fah, yeah)
インペリアルだ、銃を取ってシリアルナンバーを削り落とせ
※「grrt」や「Fah」は銃声のアドリブ。犯罪に使った銃器の足がつかないようにシリアルナンバーを削るストリートの隠蔽工作。「Imperial」は高品質や王道を示す。

Told her take if you too territorial (Yeah, fuck)
縄張り意識が強すぎるなら、持って行けと彼女に言った
※束縛や独占欲(territorial)が強すぎる女性に対して、冷めた態度で突き放している。

They been murderin' niggas for more than way down at memorials ('Cause I'm from the Eastside)
奴らは記念碑のずっと下にあるもの以上の理由で黒人を殺し続けてきた(俺はイーストサイドの出身だからな)
※アトランタ東部(Eastside)の過酷な現実。名誉や記念碑に残るような大義名分ではなく、些細なトラブルや縄張り争いなどの無意味な理由で命が奪われ続けている悲劇を憂いている。

See the murals, it's a debt that was paid
壁画を見ろよ、あれは命で支払われた借金だ
※ストリートで命を落としたギャングや仲間たちは、建物の壁画(murals)として描かれ追悼される。その壁画は、彼らがストリートというシステムに「命」で払った代償(debt)であるという痛切なメタファー。

With life layin' in the bed that was made
自分で作ったベッドに横たわる命と共にな
※英語の格言「You made your bed, now lie in it(自業自得だ、自分で蒔いた種は自分で刈れ)」の引用。ギャングライフを選んだ結果としての死を冷酷に描写。

Now, who funny? Too sunny, who brung the shade?
さて、誰が笑える? 眩しすぎるな、誰が影を持ってきた?
※「shade」は日陰という意味と、スラングで「中傷・ディス(throw shade)」を意味する。自分がトップに立ち眩い光を放っているのに、影(ヘイターからのディス)を落としているのは誰だと挑発している。

You runnin' blue, come in, Bubonic plague
お前はブルーになってる、入ってこい、ペストのようにな
※「blue」は恐怖で青ざめること、またはクリップス(Crips)のギャングカラー。「Bubonic plague」は黒死病(ペスト)。シーンに致命的な疫病のような影響をもたらす恐ろしい存在としての自分。

New money, power, and respect, I could make 'em sick
新しい金、権力、そしてリスペクト、俺は奴らを吐き気にさせることができる
※The Loxのクラシック曲「Money, Power & Respect」のリファレンス。JIDが手にした莫大な成功が、嫉妬するヘイターたちを病気にさせる(sick)という皮肉。

A new Patek, put the puke on the face (Eugh, eugh)
新しいパテック、文字盤にゲロをぶちまける
※「Patek」は超高級時計のパテック・フィリップ。「put the puke on the face」は、時計の文字盤(face)に大量のダイヤモンドを敷き詰める(アイスアウトする)ことのスラング。前行の「吐き気(sick)」からの言葉遊び。

It's the Crucible, d-d-d-d-doomdayin'
これはるつぼだ、ドゥームズデイが迫っている
※「Crucible」は溶鉱炉やるつぼ、またアーサー・ミラーの「るつぼ(魔女狩りを描いた戯曲)」を指す。過酷な試練の場と、世界の終わり(doomsday)が来るような混沌としたヒップホップシーンの現状。

I'm Duke Nukem Route, put a juke on the jakes
デューク・ニューケムのルートを行く、サツをフェイントでかわす
※「Duke Nukem」は過激で暴力的なFPSゲームの主人公。「jakes」は警察。「juke」はアメフトなどで相手を騙すフェイント。警察の追跡をゲームの主人公のように鮮やかにかわす描写。

Fast, gotta get the cash, do the dash
速くだ、金を手に入れて、全速力で逃げる
※ストリートの強盗やハスリングの基本原則(ヒット・アンド・ラン)。

Nigga hit the gas, start Britney Spears dancin'
アクセルを踏み込め、ブリトニー・スピアーズみたいに踊り出すぜ
※「hit the gas」は車のアクセルを強く踏むこと。車体がスピンして暴れ回る様子を、ポップスターのブリトニー・スピアーズの激しくアイコニックなダンスに例えているユーモラスな表現。

Open chest, took one to the chin, I'm a champion
胸を張り、顎に一発喰らっても、俺はチャンピオンだ
※ボクシングのメタファー。業界の厳しい批判やストリートのトラブル(顎への一撃)を受けても倒れない、打たれ強さと王者の証明。

Tisha Campbell, I'm still here, I'm still standin' (Oh, shit)
ティシャ・キャンベル、俺はまだここにいる、まだ立ってるぜ
※90年代のシットコム『Martin』などで知られる黒人女優のティシャ・キャンベル(Tisha Campbell)。彼女が様々な業界の困難を乗り越えて生き残っていることと、自身の不屈の精神を重ねている。

After the storm clear, wash the blood off the curb
嵐が去った後、縁石の血を洗い流す
※「嵐」は激しい銃撃戦や抗争。翌朝には何事もなかったかのように血を洗い流す、ストリートの冷酷な日常風景。

Only to find the sun burnt the city to dirt
太陽が街を焦土に変えてしまったのを知るだけだ
※暴力を洗い流しても、結局は厳しい現実(焼け付く太陽)がゲットーを荒廃させ続けているという虚無感。

Now, we outside thuggin', gotta hit 'em where it hurt
今、俺たちは外でサグな生き方をしてる、奴らの痛いところを突かなきゃな
※生き残るためには、敵の最大の弱点を容赦なく攻撃しなければならないというストリートの掟。

God heard the people prayin' for mercy
神は人々が慈悲を祈るのを聞いた
※絶望的な状況下での黒人社会の祈り。

See it from the outside, even look at the surface
外から見てみろ、表面を見るだけでもいい
※深く考察しなくても、少し客観的に社会を見れば異常な構造に気づくはずだという促し。

You'll see a certain people assemble and subservient
特定の連中が集まり、従属させられているのが分かるだろう
※「特定の連中」とはマイノリティや黒人のこと。社会システムによって意図的に一箇所(ゲットー)に集められ、権力に従属(subservient)させられている人種差別の現実を鋭く告発している。

You'll circle around the Earth, you seein' the same circle
地球を一周しても、同じ循環を見ることになる
※人種差別や貧困の連鎖はアメリカだけでなく、世界中どこへ行っても繰り返されている普遍的な問題であるというマクロな視点。

Determined to still kill and destroy, and it's still kinda work from back to
いまだに殺しと破壊に固執し、昔からずっと同じやり方が続いている
※人類の歴史は破壊の連続であり、支配の構造は昔から何一つ変わっていないという悲観論。

Whippin' a slave to w—, whippin' the work in the kitchen
奴隷を鞭打っていた時代から、キッチンで麻薬をかき混ぜる時代へ
※「whip」は奴隷への鞭打ちと、コカインを調理してクラックを作る(whip the work)ことのダブルミーニング。白人の鞭打ちによる物理的な奴隷制から、現代ではドラッグビジネスという経済的・自己破壊的な奴隷制へと形を変えただけで、黒人が苦しむ構造は本質的に同じであることを指摘する天才的なパンチライン。

Trip off a kitten to close the curtain
猫のせいでつまずき、幕を下ろす
※「kitten」は猫、またはスラングで女性のこと。些細なトラブルや、女性関係のもつれが原因で命を落とし、人生の幕が下りてしまうストリートの脆さ。

It's certain this shit is a curse and it's very personal
間違いなくこれは呪いだ、そして極めて個人的な問題だ
※世代を超えて続く貧困と暴力は、黒人社会全体にかけられた「呪い」であり、JID自身にとっても身近で切実な個人的(personal)な問題である。

So I'm puttin' it in a verse, you hearin' it first
だから俺はこれをヴァースに込める、お前らが最初に聴くんだ
※この重いテーマや真実をメディアや政治家ではなく、ラッパーである自分が音楽を通じて直接リスナーに届けるというコンシャスな使命感。

See you at church, nigga (Oh)
教会で会おうぜ
※これだけ深い説教(preach)をしたのだから、次は教会で会おうというユーモアと、死後の世界(葬式=教会)を暗示するダークな結び。

[Verse 3: Lil Yachty, Lil Yachty & JID]

Uh (Ayy, ayy, ayy)

The Devil saw some people startin' to give in (Yup)
悪魔は、人々が屈服し始めているのを見た
※誘惑やドラッグ、システムに負けて魂を売り渡す人々。

Applyin' pressure, tried to squeeze out some sins (Phew)
プレッシャーをかけ、罪を絞り出そうとした
※ストリートの過酷な環境(プレッシャー)が、人々を犯罪(罪)へと駆り立てる構造。

Circo loco off the ten, bobbleheaded, buddy in the pen
10ミリの薬で頭が狂う、首を振ってる、ダチは刑務所の中だ
※「Circo loco」はクレイジーな状態(スペインの有名なパーティーの名前でもある)。「off the ten」はパーコセット10mgなどのオピオイド系鎮痛剤。「bobbleheaded」は薬物で首が座らずフラフラしている様子。「pen」は刑務所(penitentiary)。仲間の投獄と薬物依存の現実。

Got his ass beat so bad, converted to Islamic ways (What?)
死ぬほどボコボコにされて、イスラム教に改宗したらしいぜ
※アメリカの刑務所内では、身の安全を守るために強大な勢力を持つネーション・オブ・イスラムやブラック・ムスリムなどの宗教団体に改宗する者が多い。そのリアルな刑務所事情をシニカルに描いている。

I don't remember you back in the days
昔のお前のことなんて覚えてない
※成功してから急に「昔からのダチだ」とすり寄ってくる連中への拒絶。

Callin' my first name won't make me remember
下の名前で呼んだって、思い出すわけないだろ
※親しげに本名で呼んで距離を詰めようとする偽善者への冷ややかな態度。

You niggas rather dick-ride and dismember (Ruff)
お前らは他人に媚びへつらい、バラバラにする方を選ぶ
※「dick-ride」は成功者に媚び諂うこと。裏では仲間を裏切り、コミュニティを分裂(dismember)させる業界のヘビのような人間たちへのディス。

You niggas rather fall off than contender (Ruff, ruff, ruff)
お前らは挑戦者になるよりも、落ちぶれる方を選ぶ
※リスクを取ってトップに挑む(contender)気概もなく、現状維持のまま消えていく(fall off)ラッパーたちへの軽蔑。

You niggas rather lose spot than follow the agenda
お前らはアジェンダに従うよりも、自分のポジションを失う方を選ぶ
※ビジネスのルールや目的(agenda)を理解せず、無駄なプライドで自滅していく愚かさ。

You niggas— Tyson, y'all tender
お前らはマイク・タイソンじゃない、柔らかいチキンナゲットみたいなもんだ
※「Tyson」は最強のボクサーであるマイク・タイソンと、有名な鶏肉メーカーのタイソン・フーズ(Tyson Foods)のダブルミーニング。「tender」はひ弱(柔らかい)という意味と、鶏肉のチキンテンダーを掛けており、敵の弱さを嘲笑している。

I'll pull out the fender, I personally sent the work back to the sender (Okay)
フェンダーを引き抜く、俺は個人的にブツを送り主に送り返してやった
※車のフェンダーを壊すような荒事。不良品のドラッグ(work)や、仕掛けてきたビーフに対して、自らの手で確実に報復(送り返す)したというハスラーの武勇伝。

I am an organic holyfied sinner (Okay)
俺はオーガニックで神聖化された罪人だ
※人工的なフェイクではなく、生まれつき(organic)ストリートの罪を背負いながらも、音楽を通じて神聖な存在にまで昇華したという自己定義。

I am a granter, put shit on my mama, and mind, I'm a bad man (Okay)
俺は願いを叶える者だ、母親にかけて誓う、気をつけろよ、俺は悪党だからな
※他人の命を奪うこと(死の願いを叶える)ができる危険な存在であるという脅し。

If it's not you, then it's me, I'd be damned
お前じゃないなら俺のせいだ、たまったもんじゃない
※ストリートの「殺るか殺られるか」のパラノイア。

I got kids who need pops, so I'm payin' (Ski)
俺には父親を必要としている子供たちがいる、だから金を払ってる
※「pops」は父親。自分が死ねば子供が父親を失うため、安全を買うため、あるいは養育費として大金を稼いで払っているという責任感。

And if it's smoke, I need work the same night
もし揉め事があるなら、その日の夜に終わらせる必要がある
※「smoke」はビーフや銃撃戦。「work」は片付ける(殺害する)こと。報復を先延ばしにせず、即座にカタをつける冷酷なギャングスタのルール。

No next day, no timeout, no delayin'
翌日への持ち越しはなし、タイムアウトもなし、遅れは許されない
※ストリートの抗争にスポーツのようなルールや猶予は存在しない。

They live on the 'net, they be playin' (Phew)
奴らはネットに生きていて、お遊びばかりしてる
※SNS上だけでタフに振る舞うネットギャングスタたちへの呆れ。

I be preachin', pimpin', and poppin' it (Yeah)
俺は説教し、ピンプのように振る舞い、弾をぶっ放す
※知的なメッセージ(preach)、女や金を操るハスラー(pimp)、そして暴力を振るうシューター(poppin')という3つの顔を併せ持つ多面性。

Shit be poppin', droppin', and lockin' it (Yeah)
すべてが弾け、落ち、そしてロックされる
※銃撃(pop)、敵が倒れる(drop)、そしてエリアを支配する(lock)。またはヒップホップダンスのポップ、ドロップ、ロックの言葉遊び。

And my right hand on the west-side, it's a FN, and I'm cockin' it (Woohoo)
ウェストサイドにいる俺の右腕、FNの銃だ、俺はそいつを装填する
※「FN」はベルギーの銃器メーカーFNハースタル社製の拳銃。信頼できる右腕(仲間)とはすなわち常に携帯している銃そのものであるというストリートの孤独。

I'm shootin' this shit with a stock on it (Grrah)
ストックをつけて撃ちまくるぜ
※「stock」は銃の反動を抑える銃床。ハンドガンをアサルトライフルのように改造し、命中率と殺傷力を高めたガチの殺戮モード。

I'm shootin' this shit, I'm Stojakovic
俺は撃ちまくる、ペジャ・ストヤコビッチみたいにな
※NBAサクラメント・キングスなどで活躍した伝説的な3ポイントシューター、ペジャ・ストヤコビッチ(Peja Stojaković)を引用し、自分の射撃の腕前を誇示。

I could never switch up, I ain't Dončić
俺は絶対に裏切らない、ドンチッチじゃないからな
※NBAダラス・マーベリックスのスター、ルカ・ドンチッチ(Luka Dončić)の得意技である「スイッチ(ディフェンダーを入れ替えさせる戦術)」に掛け、自分は仲間やフッドを決して裏切らない(switch upしない)と宣言している。

Country nigga in the summertime
夏場の田舎者の黒人
※南部(アトランタ)出身の泥臭いルーツ。

Rockin' Chrome leather, look like bondage (Us)
クロムハーツのレザーを着こなす、まるでボンテージみたいにな
※高級ブランドのクロムハーツ(Chrome Hearts)のハードなレザージャケットやパンツを、SMのボンテージのようだと自虐しつつ、独自のファッションセンスを誇示。

With a bad bitch, where'd you find it? I'm on timin'
イケてるビッチと一緒だ、どこで見つけたって? 俺はタイミングを見計らってるんだ
※誰も手を出せないような極上の女性を連れている。すべては完璧な計算とタイミングによるものだという余裕。

[Verse 4: JID & Lil Yachty]

Look, uh

The name and collection, know the gang I'm in (It's the BlakkBoyz)
名前とコレクション、俺がどのギャングにいるか知ってるだろ(BlakkBoyzだ)
※「BlakkBoyz」はJIDやChristoなどが所属するクリエイティブ/プロデューサー集団。彼らの名がシーンで確固たるブランドになっている。

The time you should take, typa time I'm on
お前が費やすべき時間、俺が生きている時間
※他人が無駄に過ごす時間を、自分は高みを目指すために費やしているという意識の差。

Beautiful world with a bunch of ugly events
醜い出来事だらけの美しい世界
※自然や人生の美しさと、人間の業やストリートの醜悪な暴力が混在する世界の二面性。

Typa shit the gang like to shine a light on
俺のギャングが光を当てたがるようなことさ
※JIDたち(BlakkBoyz)は、目を背けたくなるようなゲットーの醜い真実にあえて光を当て、アート(音楽)として昇華するというマニフェスト。

The flames, I was walkin' through the flames, the fire
炎だ、俺は炎と火の中を歩いていた
※地獄のような過酷な環境や試練をくぐり抜けてきた過去。

Lookin' for angels, all I could see was the cranes in the sky
天使を探していたが、見えたのは空のクレーンだけだった
※ソランジュ(Solange)のグラミー賞受賞曲「Cranes in the Sky」からの美しいサンプリング/引用。救い(天使)を求めて空を見上げても、アトランタの街の再開発(ジェントリフィケーション)を進める無機質な建設クレーンしか見えないという、現代のゲットーの喪失感と虚無感を見事に表現したパンチライン。

And the vision that God, my brothers, and sisters, and ancestors combined
そして神、兄弟姉妹、先祖たちが結びついたヴィジョン
※自らの血肉に刻まれた黒人の歴史、家族、そして信仰が一体となった壮大な霊的ヴィジョン。

Another plane, it's playin' with my mind
別の次元が、俺の心を弄んでいる
※「plane(次元/飛行機)」と「playin'」の言葉遊び。スピリチュアルな覚醒状態が、彼の精神を現世から別の次元へと引き上げている。

We stand at the dawn of a new era defined by three letters
俺たちは3つの文字によって定義される新時代の夜明けに立っている
※「three letters(3つの文字)」は「JID」のこと。彼自身がヒップホップの新たな時代(new era)を定義する存在であるという究極のセルフボースト。

The alpha, the line, the lead shepherd
アルファ、血統、そして導く羊飼い
※「alpha(群れのボス、始まり)」、「line(血統、先陣)」、「shepherd(迷える羊を導く指導者)」。自分がシーンの絶対的なリーダーであり、人々を導くメシア的な存在であることを宣言している。

So who tryna defy the word?
それで、誰がこの言葉に逆らおうって言うんだ?
※「the word(神の言葉/JIDのリリック)」に対する絶対の自信。

I turn this bitch into fireworks, right now, nigga, fuck the fourth of July
今すぐここを花火大会にしてやるよ、独立記念日なんてクソくらえだ
※「fireworks」は銃撃戦の隠語。アメリカの独立記念日(7月4日)は花火で祝われるが、1776年当時、黒人はまだ奴隷であったため「黒人にとっての本当の独立ではない」という歴史的矛盾を突き(フレデリック・ダグラスの有名な演説の思想)、白人の祝日など知ったことかと一蹴している。

Fuck what they talkin' about, I'll punch you and your word of mouth
奴らが何を言おうと知ったことか、お前とその口コミごとぶっ飛ばしてやる
※ネットの噂や評論家の御託(word of mouth)は通用しない。物理的な暴力(あるいは圧倒的なラップスキル)で黙らせるという強烈な意思。

The south has somethin' to say, I'm sayin' it now
南部には言いたいことがある、俺が今それを言ってるんだ
※1995年のソース・アワードで、当時東海岸と西海岸の抗争に隠れて見下されていた南部(アトランタ)のOutkastのAndre 3000が放った歴史的スピーチ「The South got something to say(南部にも言いたいことがある)」をサンプリング。かつてAndreが切り開いた道を、今JIDが次世代として引き継ぎ、世界に向けて発信しているという胸熱な宣言。

Displayin' the power, the slave gave me the brain, hours of pain
権力を誇示する、奴隷の先祖が俺に知恵を授けた、何時間もの苦痛の果てにな
※現在の自分の才能と権力は、奴隷として何百年も苦痛を強いられた先祖たちの犠牲とDNA(知恵)の上に成り立っているという、黒人としての誇りと鎮魂。

I'll call it God Likes Ugly, it's all the same shit
それを『God Loves Ugly』と呼ぼう、全部同じことさ
※ミネアポリスのヒップホップデュオ、Atmosphereの2002年のクラシックアルバム『God Loves Ugly』のリファレンス。この腐敗し、血塗られ、醜悪なストリートの現実も、闘いの歴史も、神は愛している。美しさも醜さも結局は表裏一体(same shit)であるという深遠な結論で曲を締めくくる。

[Outro]

Christo
クリスト
※プロデューサーであるChristoのプロデューサータグ。