Artist: Radiohead
Album: OK Computer
Song Title: Lucky
概要
本作「Lucky」は、『OK Computer』(1997年)の終盤に配置された、アルバムの壮大なクライマックスを担う楽曲だ。元々は1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の救済チャリティ・アルバム『The Help Album』のためにたった5時間で録音されたものであり、結果的にこれが次作『OK Computer』の重厚でメランコリックなサウンドスケープを決定づける重要な転換点となった。飛行機墜落事故という絶望的な状況から生還した主人公が、極限のトラウマから逃れるために「自分は国に必要とされるスーパーヒーローだ」という誇大妄想的な万能感にすがりつく悲劇を描いている。冒頭のエド・オブライエンによる不気味なギタースクラッチ音から、ジョニー・グリーンウッドのむせび泣くようなギターソロに至るまで、死の淵に立つ人間の狂気と至福が入り混じる危うい精神状態を完璧に音響化したマスターピースである。
和訳
[Verse 1]
I'm on a roll, I'm on a roll this time
今度こそ絶好調だ、俺は波に乗っている
※「on a roll」は連勝中や絶好調を意味するイディオム。飛行機事故という死の淵に立たされながら、奇跡的に生き延びた(あるいは生き延びると信じ込んでいる)ショックから生じた、異常な高揚感と万能感を表している。
I feel my luck could change
運命が変わりそうな気がするんだ
※死の直前という極限状態において、現実逃避として湧き上がる根拠のない希望。
Kill me, Sarah, kill me again with love
俺を殺してくれ、サラ、その愛でもう一度俺を殺してくれ
※「サラ」という具体的な固有名詞の正体についてはファンの間でも様々な考察が飛び交っている。一説ではチャリティ・アルバム制作時に連絡を取り合ったWar Childのスタッフの名前とも言われるが、物語上は主人公をこの絶望的な現実から救済(あるいは安楽死)してくれる愛する女性、または天使のような存在のメタファーとして機能している。
It's gonna be a glorious day
輝かしい一日になるはずさ
※絶望的な状況下での不自然なほどのポジティブさ。皮肉にも悲劇的な結末を予感させる。
[Chorus]
Pull me out of the aircrash
この墜落事故から俺を引きずり出してくれ
※トム・ヨークが長年抱えていた乗り物(特に飛行機と自動車)に対する強烈な恐怖症が反映されている。「Airbag」と対をなすモチーフ。
Pull me out of the lake
この湖から俺を引き上げてくれ
※墜落した機体が冷たい湖に沈んでいくという絶望的な情景。現実と妄想の狭間で、救助を懇願する生々しい叫び。
'Cause I'm your superhero
だって俺は、君のスーパーヒーローなんだから
※トラウマによる精神の防衛機制。無力な自分を受け入れられず、自分が特別な存在(ヒーロー)であるからこそ助かるべきだという悲しい誇大妄想。
We are standing on the edge
俺たちは今、崖っぷちに立っている
※生死の境目、あるいは正気と狂気の境界線(edge)に立たされている緊迫感。
[Verse 2]
The head of state has called for me by name
国家元首が俺を名指しで呼んでいる
※万能感はついに国家レベルの誇大妄想へと発展する。ただの一市民が、世界の運命を握る重要な存在であると思い込む異常な精神状態。
But I don't have time for him
だが、あいつの相手をしている暇はない
※権力者すらも自分の下に見るほどの肥大化したエゴ。
It's gonna be a glorious day
輝かしい一日になるはずさ
※現実の惨状を覆い隠すための、狂気を孕んだポジティブな予感の反復。
I feel my luck could change
運命が変わりそうな気がするんだ
※助けが来ることを信じて疑わない、悲痛な自己暗示。
[Chorus]
Pull me out of the aircrash
この墜落事故から俺を引きずり出してくれ
※(再度繰り返される救済への懇願)
Pull me out of the lake
この湖から俺を引き上げてくれ
※(冷たい死のイメージへの抗い)
'Cause I'm your superhero
だって俺は、君のスーパーヒーローなんだから
※(肥大化したエゴと本質的な無力さの残酷な対比)
We are standing on the edge
俺たちは今、崖っぷちに立っている
※(境界線上での綱渡り)
[Guitar Solo]
[Outro]
We are standing on the edge
俺たちは今、崖っぷちに立っている
※楽曲はジョニー・グリーンウッドのエモーショナルでむせび泣くようなギターソロと共にクライマックスを迎え、主人公が最終的に救出されたのか、それとも湖の底へ沈んでいったのかは明かされないまま、圧倒的なメランコリーの中に消えていく。
