Artist: Olivia Dean
Album: The Art of Loving
Song Title: I’ve Seen It
概要
オリヴィア・ディーンのアルバム『The Art of Loving』を総括するような、アコースティックで温かみのあるバラードである。本作において彼女は、「愛(it)」という形のない概念が、人々の生活や街の風景の中でどのように存在しているかを観察者の視点から優しく歌い上げている。ロンドンの地下鉄で見かける恋人たち、破綻しかけた関係、友人たちとの食卓、老いていく両親など、愛は決してロマンチックな恋愛関係だけにとどまらず、日常のあらゆる場面に宿っていることを描写している。そして最後に、ずっと外の世界に探し求めていた「愛」が、実は最初から自分自身の内側に存在していたことに気づく。愛とは対象を見つけることではなく、自分の中にある愛する能力(技術)そのものであるという、アルバムのテーマを見事に美しく完結させた名曲だ。
和訳
[Verse 1]
I've seen it last for thirty years
それが30年続くのも見てきた
※「it(それ)」とは本作のテーマである「愛」のこと。老夫婦の長年連れ添った深い愛情を指している。
Seen it bloom, then end in tears
花開いてから、涙で終わるのも見てきた
※恋愛の始まりの美しさと、破局の悲しみ。
I've seen it after school and in the park
放課後や公園でもそれを見てきた
※学生たちの初々しい恋や、家族が公園で過ごす無邪気な愛の形。
Sat right across me on the Tube
地下鉄で私の真向かいに座っているのも
※「the Tube」はロンドンの地下鉄の愛称。UK出身の彼女らしい表現で、日常の何気ない風景の中に愛が存在していることを描写している。
Seen it miss a stop or two
一駅か二駅、乗り過ごすのも見てきた
※相手との会話に夢中になるあまり、降りるべき駅を通り過ぎてしまう恋人たちの微笑ましい様子。
Seen it trying not to fall apart
崩れ落ちないように耐えているのも見てきた
※破綻しかけている関係を必死に繋ぎ止めようとする、切実で苦しい愛の形。
[Verse 2]
I've heard it laced in every song
すべての歌にそれが織り込まれているのを聞いてきた
※世界中のありとあらゆる音楽が、愛をテーマにして歌い継がれてきたことへの言及。
And still the words all come out wrong
それでも、言葉はいつも間違って出てきてしまう
※どれだけ数え切れないほどの歌が作られても、愛という感情を完璧に表現する言葉は未だに見つからないというもどかしさ。
It doesn't always answer when you call
呼べば必ず答えてくれるわけじゃない
※愛は自分の思い通りにコントロールできるものではないという現実の直視。
Brings out the worst, brings out the best
最悪な部分を引き出し、最高な部分も引き出す
※愛が人に与える両極端な影響。人を狂わせることもあれば、この上なく優しくさせることもある。
I understand it less and less
だんだん理解できなくなっていく
I guess I'm not supposed to know it all
きっと、すべてを知るようにはできていないんだわ
※愛という壮大で複雑な概念を、一人の人間が完全に理解することは不可能であるという謙虚な悟り。
[Verse 3]
I've seen it dance with friends around the table
それがテーブルの周りで友達と踊っているのも見てきた
In Eleanor, Rosie and Louise
エレノア、ロージー、そしてルイズの中に
※愛がロマンチックな恋愛だけでなく、友人たち(シスターフッド)との温かい時間の中にも存在していることの証明。具体的な名前を出すことで、極めてパーソナルで親密な空気感を作り出している。
And it makes me cry to think that I am able
そして、私にもできるのだと考えると涙が出るの
To give it back the way it givеs to me
それが私に与えてくれるのと同じように、私もお返しができるなんて
※自分が愛を受け取るだけの存在ではなく、他者へ愛を与える力を持っていることへの感動と、愛の循環への感謝。
[Verse 4]
I've seen it grow old and forget
それが歳を取り、忘れていくのを見てきた
※老いて記憶が薄れていく姿や、かつての情熱が静かな愛情へと変化していく様子。
Until it's just a silhouеtte
ただのシルエットになるまで
Till someone picks it up and sends it on
誰かがそれを拾い上げ、次へと受け継いでいくまで
※肉体が滅びたり関係が終わったりしても、愛そのものは記憶や影響として次の世代へと継承されていくという普遍的なテーマ。
I've seen the films, I've read the books
映画でも見てきたし、本でも読んできた
My mum and dad, they got me hooked
私のお父さんとお母さんが、私をその気にさせたの
※「hooked」は夢中にさせる、虜にさせるという意味。両親の愛し合う姿を見て、自分も愛というものを信じ、求めたくなったという彼女のルーツの告白。
The fairy tale, the search goes on and on
おとぎ話みたいに、探し求める旅はいつまでも続く
[Verse 5]
The more you look, the more you find
探せば探すほど、たくさん見つかる
It's all around you all the time
それはいつでも、あなたの周りのあらゆるところにあるの
Catches your eye, you blink and then it's gone
目を奪われたかと思うと、まばたきした瞬間に消えてしまう
※愛の儚さと移ろいやすさを美しく描写している。
Brings out the worst, brings out the best
最悪な部分を引き出し、最高な部分も引き出す
I know it's somewhere in my chest
それが私の胸のどこかにあるって分かっている
I guess it's been inside me all along
ずっと最初から、私の中にあったんだわ
※アルバム『The Art of Loving』の結論とも言える完璧なパンチライン。外の世界にばかり探し求めていた愛は、実は常に自分自身の内側(自分を愛する心や、他者を愛する能力)に存在していたという究極の気づきに辿り着き、静かに楽曲が幕を閉じる。
