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VCRs - JID & Vince Staples 【和訳・解説】

Artist: JID & Vince Staples

Album: God Does Like Ugly

Song Title: VCRs

概要

J.I.Dの『God Does Like Ugly』に収録された「VCRs」は、ロングビーチの冷徹な語り部であるVince Staplesを客演に迎え、黒人コミュニティの歴史的トラウマとストリートでの生存競争をシネマティックに描き出した傑作である。イントロでは、ローズウッド、オスカービル、タルサといった、かつて白人の暴動により破壊された黒人の繁栄した街(ブラック・ウォール街など)への言及から始まり、深い歴史的悲劇を提示する。本編では、J.I.DとVince Staplesの二人が「1から12(13)」までの数字を歌詞に隠した高度なカウントアップ・スキームを披露し、それぞれの地元(アトランタのゾーン6とロングビーチの65thストリート)での過酷な現実を冷酷なまでに緻密なライミングで描写している。VCR(ビデオデッキ)という時代遅れの象徴をタイトルに冠しつつ、巻き戻すことのできないストリートの悲惨な過去と、そこから抜け出した彼らの現在地を対比させた、コンシャスでありながらドープなヒップホップの真髄を見せつける一曲だ。

和訳

[Intro]

From Rosewood all around the world, brought to you by the same niggas that gave us us free
ローズウッドから世界中へ、俺たちに自由をもたらしたのと同じ黒人たちがお届けするぜ
※「Rosewood(ローズウッド)」はフロリダ州にかつて存在した黒人の町。1923年に白人暴徒によって破壊された(ローズウッド虐殺)。「gave us us free」は、1839年のアミスタッド号反乱事件を描いた映画『アミスタッド』における奴隷シンケの有名な台詞「Give us us free(俺たちに自由をよこせ)」の引用。

Reminiscent of the depths of Oscarville
オスカービルのどん底を思い起こさせる
※「Oscarville(オスカービル)」はジョージア州フォーサイス郡にあった黒人コミュニティ。1912年に白人によるリンチと暴動が起き、黒人住民が完全に追放された後、意図的にラニアー湖の底に沈められたという歴史的背景を持つ。アトランタ出身のJ.I.Dならではのローカルかつディープな歴史的言及。

Vengeance from the ashes of Tulsa, we present to you, a colossal—
タルサの灰の中から蘇る復讐、俺たちがお前らに提示するのは、巨大な—
※「Tulsa(タルサ)」はオクラホマ州の都市。1921年、当時「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれた全米屈指の豊かな黒人居住区が、白人の暴徒(飛行機からの爆撃を含む)によって完全に焼き尽くされた「タルサ人種暴動」を指す。これらのイントロを通じて、意図的に破壊されてきた黒人の繁栄の歴史への怒りを示している。

Fuck you
クソ食らえだ

[Verse 1: JID]

Look, you want a piece of that American pie? Probably humble you
見ろよ、あのアメリカン・パイ(成功)の一切れが欲しいか? 痛い目を見て謙虚になるのがオチだぜ
※「American pie」はアメリカの伝統や豊かさ、ひいては「アメリカン・ドリーム」の象徴。しかし黒人にとってそのパイを手に入れようとすることは、白人社会からの叩き潰し(humble you)を意味するという皮肉。

Want that nice crib in the Hills? Real comfortable
ビバリーヒルズの豪邸が欲しいか? マジで快適だろうな

You're Juliet, I'll be Romeo Montague
お前がジュリエットなら、俺はロミオ・モンタギューさ

My mama said me foolin' 'round with you is irresponsible
母ちゃんは「あんな女と遊ぶのは無責任だ」って言ってたよ

You know how power and money do
権力と金がどう人を狂わせるか、お前も知ってるだろ

Try to monopolize you like the man with the monocle on his eye
片眼鏡(モノクル)をかけた男みたいに、お前を独占(モノポライズ)しようとするんだ
※ボードゲーム『モノポリー(Monopoly)』のキャラクター「ミスター・モノポリー(リッチ・アンクル・ペニーバッグス)」のメタファー。実際には彼はモノクルをかけていない(多くの人がかけていると勘違いしているマンデラ効果)が、資本主義の強欲さと独占を象徴する秀逸なワードプレイ。

When I pass go, give me two hundred dollars and shoot the fives
GOマスを通過したら、200ドルよこしてハイタッチ(ファイブ)しようぜ
※前行から続く『モノポリー』のルール「GOのマスを通ると200ドルもらえる」の引用。ストリートのサバイバルをゲームに見立てている。

I'm from the 6, no devil shit
俺はゾーン6の出身だ、悪魔崇拝(666)じゃねぇよ
※「the 6」はJ.I.Dの地元であるアトランタの第6警察管区(イーストサイド)を指す(Drakeの地元トロントのことではない)。「悪魔の数字」である666ではないと否定しつつ、ゲットーの過酷な環境をレペゼンしている。

Prince of Egypt told me look at life through Heaven's eyes
『プリンス・オブ・エジプト』は俺に、天国の目を通して人生を見ろって教えてくれた
※1998年のドリームワークスのアニメ映画『プリンス・オブ・エジプト』の挿入歌「Through Heaven's Eyes」の引用。神の視点、あるいはより高い精神的視座からストリートの不条理を見つめ直そうとする姿勢。

Seeing evil shit was regular, we ain't recognize
邪悪な惨状を見るのは日常茶飯事で、俺たちはそれが異常だって気づきもしなかった

Taraji and Common couldn't get the guy to testify
タラジとコモンでさえ、あの男に証言させることはできなかったのさ
※2006年の映画『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』で、タラジ・P・ヘンソンとラッパーのコモンが凶悪な暗殺者コンビを演じていたことへの言及。ストリートにおける「Snitches get stitches(密告者は報復される)」という掟の強固さを示している。

They wearing wires and camouflage, it's espionage
奴らは盗聴器(ワイヤー)と迷彩服を身につけてる、スパイ活動(エスピオナージ)さ

Hop into the ride, it's a Hellcat, but the vessel of God
車に乗り込む、こいつはヘルキャット(地獄の猫)だが、神の器なのさ
※ダッジ・チャレンジャー/チャージャーの超高性能モデル「Hellcat」と、神の意志を運ぶ「器(vessel)」を対比させた表現。

Cops probably stop me any time they feel jeopardized
サツどもは自分たちが危険(ジェパダイズ)だと感じたら、いつだって俺を止めるんだ

Pull me to the side, I go IG Live
路肩に寄せられたら、俺はすかさずインスタライブを始めるぜ
※白人警官による不当な暴力や射殺を防ぐため、黒人たちが警察とのやり取りをInstagram Live等でリアルタイム配信して証拠を残そうとする現代のアメリカの防衛手段。

If I feel endangered, I'ma up my (Fah)
もし身の危険を感じたら、俺は銃を構える(バァン!)

Do it for the squad because it's no child ever left behind
スクワッド(仲間)のためにやるんだ、落ちこぼれる子供は一人も出さねぇ
※ブッシュ政権下で制定された教育改革法「No Child Left Behind Act(落ちこぼれ防止法)」の皮肉な引用。政府は俺たちを救わなかったが、俺は仲間(フッドの子供たち)を絶対に見捨てないというストリートの連帯感。

Hold me down, dog, have my back and just protect my spine
俺を支えてくれ兄弟、俺の背後を守り、背骨を死守してくれ

And if they at your neck, just know it's wrecking time
もし奴らがお前の首を狙ってきたら、その時は破壊の時間の始まりだ

Only one shot could cause a second line
たった一発の銃弾(ワン・ショット)が、セカンド・ライン(葬儀のパレード)を引き起こすんだ
※「セカンド・ライン」はニューオーリンズ発祥のブラスバンドを伴う伝統的な葬送パレード。一発の銃弾が誰かの死を招くという現実。ここから「One, Two...」という怒涛のカウントアップ・スキームがスタートする。

One, two, three niggas riding through the city with they strap on
1、2、3人の黒人が、銃(ストラップ)を身につけて街を車で流してる

Four niggas at the gas station on the trap phone
ガソリンスタンドには4人の黒人、トラップ・フォン(使い捨て携帯)でシノギをしてる

Five o'clock traffic on the block, they in the mix
5時の帰宅ラッシュのブロックで、奴らはヤバい事に巻き込まれてる

But the plot twist is, niggas done made it out the 6
だがここでのどんでん返し(プロット・ツイスト)は、俺たちがゾーン6(シックス)から無事に抜け出したってことだ

Seven in the morning off of Bouldercrest and Flat Shoals
朝の7時、ボルダークレストとフラットショールズの交差点で
※アトランタのイーストサイド(ゾーン6)に実在するストリート名。J.I.Dの原点。

No, I haven't ate, I'm finna eat from off of rap songs
いや、俺はまだ何も食ってねぇ(8)、これからラップの曲で飯を食っていく(eat)んだ
※数字の「8(Eight)」と食べるの過去形「Ate」を掛けた見事なライミング。

9 on this waist, you better straighten up your back bone
この腰には9ミリ拳銃、お前ら背筋をピンと伸ばしといた方がいいぜ

Ten times out of ten, niggas is in attack mode (One, two, three, look, uh)
10回中10回、連中は常に攻撃モードだからな(1、2、3、見ろよ、あぁ)

Everywhere I go, I'm good 'cause I know the codes, huh
俺はどこへ行っても大丈夫さ、ストリートの掟(コード)を知ってるからな

I open up my soul and then it opened doors
俺は自分の魂を解放した、そしたら扉が開いたんだ

I ain't killin' shit 'cause of Cole, it's 'cause I'm cold
俺がシーンを無双(キル)してんのはJ・コールのおかげじゃねぇ、俺自身が冷酷(コールド)でヤバいからだ
※J.I.Dが所属するレーベル「Dreamville」のボスであるJ. Coleへの言及。コールのフックアップが無くても自分自身の実力(cold)だけで天下を取れるという強烈な自負。

But I ain't do this shit alone, I make it known
だが俺一人でここまで来たわけじゃない、それはハッキリさせておくぜ

I got all of this on my dome, as I write more sentences
もっと文章を書き綴るにつれて、すべてが俺の頭(ドーム)に浮かんでくる

If I explode like a truckload of nitroglycerin
もし俺がトラック一台分のニトログリセリンみたいに爆発したら

You just a bump in the road, shit, you might go missin', I'm psycho
お前なんか道端のただのデコボコさ、クソが、跡形もなく吹き飛ぶ(行方不明になる)ぜ、俺はサイコだからな

I keep a pole like I might go fishin'
釣りに行くみたいに、俺は常に竿(ポール / 銃)を持ち歩いてる
※「pole」は釣り竿と、アサルトライフルなどの「長銃」を意味するストリートスラングのダブルミーニング。

I'm from where shoes hang from power lines and light poles
俺は電線や街灯の柱に靴がぶら下がってる場所の出身だ
※ゲットーの電線にスニーカーが投げ掛けられている風景。ギャングの縄張りの目印、ドラッグが買える場所のサイン、あるいはストリートで亡くなった者への追悼など、様々な意味を持つフッドの象徴。

A light skin ho on a corner, her braids micro
街角には色白の売春婦、彼女の髪はマイクロ・ブレイズ

She on a night stroll and he gon' buy it if the price low
彼女は夜の徘徊(客引き)をしてて、値段が安けりゃ男はそれを買う

He walk a tight rope, is he sane or out his mind? I hope (Niggas gon' be fine)
アイツは綱渡りをしてる、正気なのか、それともイカれちまってるのか? 俺は願うよ(ダチが無事でいてくれることを)

[Verse 2: Vince Staples]

But why whine? This shit get better with time
だがなぜ泣き言を言う? こんなクソな状況も時間が経てばマシになるさ
※ここからVince Staplesの客演。彼の冷笑的でニヒリズムを含んだ特有のトーン。

See the movie's not rewinding, my friend
いいか、映画みたいに巻き戻しはきかないんだよ、友よ

We turn the VCRs to dinosaurs
俺たちはVCR(ビデオデッキ)を恐竜(化石)に変えちまった
※タイトルの「VCRs」の回収。VCRが時代遅れの遺物になったように、かつての凄惨なストリートの過去を巻き戻すことはできない。また、過去のトラウマを引きずらずに前へ進む(あるいは切り捨てる)という比喩。

The money we spend just leave us wanting more
俺たちが使う金は、ただもっと金が欲しくなるだけの渇きを残す

But money make the continents spin
だが金がこの大陸(世界)を回してるのさ

Built the world in seven days
世界は7日間で創られた
※旧約聖書の「天地創造」の引用。

Rolled a seven, you'll get paid, it all align
ダイスで7を出せば金が手に入る、全ては繋がってるんだ
※クラップス(サイコロ賭博)で「7」は勝敗を分ける重要な数字。神の御業もストリートのギャンブルも、すべては運命(align)で決まるというニヒルな視点。

We was line pressing in our better days
俺たちが調子良かった頃は、ライン(境界線)を押し上げて(ドラッグを捌いて)た

Raising hell to get a taste of Heaven gates
天国の門の味を少しでも知るために、地獄を呼び起こしてたんだ
※金(天国)を得るために、ストリートで暴力や犯罪(地獄)を引き起こすというゲットーの矛盾。

They can't relate, I wouldn't wait for them to figure it out
奴ら(部外者)には理解できねぇよ、俺は奴らが気付くまで待ってやる気もねぇ

They want the dreams without the nightmares, heads in the clouds
奴らは悪夢を見ずに夢だけを見たがる、頭はお花畑(雲の上)さ

Thirsty for clout, they don't know the burdens I got, murders I caught
名声(クラウト)に飢えてる奴らは、俺が背負った重荷も、俺が手を染めた殺しも知らねぇ

Cuz ain't say a word and got shot, grabbing his heart
俺のダチ(Cuz)は一言も発しないまま、心臓を押さえて撃たれたんだ
※「Cuz」は従兄弟を意味するが、Vinceの地元ロングビーチを支配する「クリップス(Crips)」のメンバー同士の呼び名でもある。

Now we just a scattering thought, a part of the art
今じゃ俺たちはただ散り散りになった記憶の欠片、このアート(ラップ)の一部に過ぎねぇ

Just a casualty of the war, it goes one, two
ただの戦争(ギャング抗争)の犠牲者さ、こうやって進んでいく、1、2
※Vince StaplesもJ.I.Dのカウントアップ・スキームを引き継ぎ、独自のカウントを開始する。

Three, five-seven snub hanging out the window
3(.357)マグナムの短銃身(スナブノーズ)を車の窓から突き出す
※数字の「3」。357マグナムと掛けている。

Four-door G-ride, stole it off Obispo
4ドアのGライド(盗難車)、オビスポ通りでパクったやつだ
※数字の「4」。「G-ride」はギャングがドライブバイ・シューティング等に使う盗難車。「Obispo」はロングビーチの通りの名前。

Five years later, I was still on 65th
5年後、俺はまだ65丁目に居座ってた
※数字の「5」と「6」。65th StreetはVince Staplesの地元ノース・ロングビーチのフッド。

I'm a seven figure nigga, but I never will forget
俺は7桁(ミリオン)稼ぐ黒人になったが、絶対に忘れやしねぇ
※数字の「7」。

Ate Top Ramen every day like it was gourmet
毎日トップラーメン(インスタントラーメン)を、まるでご馳走みたいに食ってた(8)あの頃をな
※数字の「8」。J.I.DのVerseと同様、「Ate(食べた)」と「Eight(8)」を掛けている。

Nine times out of ten, niggas beat the court case
10回中9回は、俺たちは裁判を切り抜けて(無罪を勝ち取って)きた
※数字の「9」と「10」。

Doing two elevens, ain't never make us rich
211(強盗)をやったところで、俺たちが金持ちになれるわけじゃなかった
※数字の「11(eleven)」。カリフォルニア州刑法第211条(強盗罪)を意味するスラング「two-eleven」。

This a twelve gauge shotty, I ain't gotta aim at sh—
こいつは12ゲージのショットガンだ、狙いを定める必要すらねぇ—
※数字の「12」。ショットガンは散弾であるため、正確に狙わなくても吹き飛ばせるという暴力的なラインでVerseを締める。

[Verse 3: JID]

And who the unlucky thirteenth?
そして、不運な13人目は誰だ?
※Vinceのカウントを引き継ぎ、西洋で不吉とされる「13」へ到達するJ.I.D。

They made an angel out the man that used to be an earthling
奴らは、かつて地球人(ただの人間)だった男を、天使(死体)に変えちまった

And you can say it's dirt cheap
お前はそれを、泥みたいに安い(命が軽い)って言うかもしれないが

'Cause when they shootin', niggas turn to Jackie Joyner-Kersee
だって奴らが発砲した途端、黒人どもはジャッキー・ジョイナー・カーシーみたいに走るんだからな
※「ジャッキー・ジョイナー・カーシー」はアメリカの陸上競技の伝説的オリンピック金メダリスト。銃声が鳴り響いた瞬間、誰もが陸上選手のような猛烈なスピードで逃げ惑うという、ゲットーの悲惨な日常をブラックジョークを交えて描写。

Personally, I know nobody never been perfect or move perfectly
個人的には、完璧な人間なんて誰もいないし、完璧に行動できる奴もいないってわかってる

I'm prayin' when you see me at my worst, you see worth in me
俺がどん底(最悪な状態)にいる時でも、お前が俺の中に価値(worth)を見出してくれるよう祈ってるよ
※「worst」と「worth」のライミング。

Battlin' demons, addiction, and adversity
悪魔(トラウマ)、依存症、そして逆境と戦いながら

Balancin' dreams internally, it's my eternity
俺の内面で夢とのバランスを取る、それが俺の永遠(の戦い)なんだ