Artist: Nas
Album: I Am...
Song Title: Undying Love
概要
本作は、1999年にリリースされたNasの3rdアルバム『I Am...』の最後を飾る、息を呑むようなシネマティックなストーリーテリングが展開される楽曲である。L.E.S.がプロデュースした哀愁漂うギターとピアノのループ(Blondieの「In the Flesh」をサンプリング)に乗せ、Nasは「妻の浮気現場を目撃してしまった夫の絶望と凶行」を映画のワンシーンのように緻密に描写する。ラスベガスのカジノからNYの自宅へ帰還した際のディテール、浮気相手の痕跡(タバコの匂いや見知らぬティンバーランド)、そしてベッドルームでの裏切りの発覚から凄惨な無理心中へと至るプロットは、ヒップホップにおけるストーリーテリングの最高峰の一つとして高く評価されている。人間の持つ愛の脆さと、裏切りが引き起こす破壊衝動(Crime of passion)を見事に描き切った、Nasの文学的才能の集大成である。
和訳
[Intro]
Uh
アー
[Verse 1]
Pacino life, G a roll, casino dice
アル・パチーノのような人生、ギャングスタの振る舞い(G a roll)、カジノのダイス
At The Mirage, Vegas strip, neon lights
ラスベガス・ストリップのミラージュ・ホテル、ネオンの光
Gamblers puffin' cigars, couples and stars
葉巻を吹かすギャンブラーたち、カップルにスターたち
Flashin' cameras, dealers shufflin' cards
フラッシュを焚くカメラ、カードを切るディーラーたち
Spent the weekend, already miss New York and it's odd
週末をそこで過ごしたが、もうニューヨークが恋しくなってる。奇妙なもんだ
'Cause I'm the first to say it got too many hustlers who rob
だって、NYは強盗を働くハスラーが多すぎるって、真っ先に文句を言うのは俺なんだからな
I never hang out, when we do we bust the .45
俺は滅多に外で遊ばない。もし遊ぶ時は45口径をブッ放すハメになる
'Cause shells comin' back at us while we jump in the ride
車に飛び乗る時、俺たちに向けて薬莢(銃弾)が飛んでくるからな
Flyin', duckin', our bitches in the club cluckin'
猛スピードで逃げ(Flyin')、身を屈め(duckin')、クラブにいる俺たちの女たちは鶏みたいに騒ぎ立てる(cluckin')
Tellin' my wife who I was dancin' with like I was fuckin'
俺が誰と踊ってたか、まるで俺がその女とヤッてたかのように、俺の妻にチクりやがるんだ
※NYのストリート特有の暴力的な日常と、クラブでのつまらないゴシップ。そうした厄介事から逃れるためにベガスへ来ていたが、結局地元(そして愛する妻)が恋しくなるという主人公の心情描写。
Flew back, Monday evenin' from Nevada where the sun was beamin'
月曜の夕方、太陽が照りつけるネバダから飛行機で戻ってきた
To the concrete jungle of cement
セメントでできたコンクリート・ジャングル(NY)へな
Limousine's from LaGuardia airport, sleepin'
ラガーディア空港からリムジンに乗り込み、眠りについた
Told my dogs, "Peace", kept it movin', I was beat when
ダチどもに「じゃあな」と告げて車を走らせた。俺は疲れ果ててたんだ
Got to my crib, where the hell my keys went?
自分の家(crib)に着いた時、一体俺の鍵はどこにいっちまったんだ?
※ここから、不吉な予感とサスペンスの始まりを告げる緻密な状況描写が展開される。
Ringin' the bell, heard a yell but wasn't sure
ベルを鳴らすと、叫び声のようなものが聞こえたが、確信は持てなかった
Dropped my luggage to the ground, put my ear to the door
荷物を地面に置き、ドアに耳を当てた
Slow music, H-Town, no, that's down low
スローな音楽、H-Townか? いや、もっと低い(down low)音だ
※「H-Town」は90年代に大ヒットしたR&Bグループ。甘く官能的な音楽(浮気現場の定番BGM)が家の中から漏れ聞こえている。
My baby's drop Mercedes is parked, I creep around, yo
俺のベイビー(妻)のオープンカーのベンツが停まってる。俺はこっそり裏へ回った、ヨォ
To the back, she must be inside and can't hear
裏口へな。彼女は中にいるはずだが、ベルの音が聞こえないんだろう
Probably upstairs, in the mirror, doin' her hair
たぶん2階で、鏡に向かって髪でもセットしてるんだろうさ
I walked in through the back door entrance
俺は裏口のドアから中に入った
Shocked it was unlocked, when I walked in, I smelled incense
鍵が開いていたことにショックを受けた。中に入ると、お香(incense)の匂いがした
Chased by a weed aroma, empty Guinnesses
その後にウィードの香りが漂い、空になったギネスビールの瓶
And lipstick marks on like three empty Coronas
そして、空になった3本のコロナビールの瓶には口紅の跡がついていた
※妻が酒を飲み、マリファナを吸いながら、誰かと親密な時間を過ごしているという物理的な証拠(伏線)の羅列。映画のカメラワークのような描写。
A pair of blue jeans on the carpet; size twelve Timberlands
カーペットの上には脱ぎ捨てられたブルージーンズ。そして、サイズ12のティンバーランドのブーツ
※「サイズ12のティンバーランド」。明らかに主人公(Nas)のものではない、別の男の靴。浮気が確定した瞬間。
Somethin' swingin' on the ceiling fan, I stopped it
天井のシーリングファンに何かがぶら下がって揺れていた。俺はそれを止めた
Swingin' slower and slower
揺れは徐々に遅くなり
On the last swing, I saw it was a G-string and heard laughter
最後の揺れで、それがGストリングス(Tバックの下着)だと分かった。そして笑い声が聞こえたんだ
Thought about my nine-side Glock
腰の横(nine-side)に差したグロック(拳銃)のことが頭をよぎった
But somethin' made me disregard it
だが、何かが俺にそれを無視させたんだ
※怒りに任せてすぐに発砲するのではなく、まずは真実をこの目で確かめなければならないという理性が働いた瞬間。
Started my way up to where the noise and music was at
物音と音楽が聞こえる(2階の)場所へと階段を上がり始めた
Froze, I couldn't react
凍りつき、身動きが取れなかった
Bedroom door opened a crack
ベッドルームのドアが少しだけ開いていた
Seen wifey layin' with some nigga mumblin' shit
妻が見知らぬ野郎と一緒に寝そべり、何かを呟いているのが見えた
He had one hand on her ass, and she was rubbin' his dick
男の片手は彼女のケツにあり、彼女は男のイチモツをこすり上げていた
Toastin' wine glasses, cherry-scented candles was lit
ワイングラスで乾杯し、チェリーの香りのキャンドルに火が灯っていた
Couldn't handle the shit
耐えられなかった
Searchin' for words—I found none
言葉を探したが――何も見つからなかった
Without a sound, I left the house with a sick smile and took my gun
音も立てず、俺は病的な笑みを浮かべて家を出て、銃を手にした
※怒りと絶望が限界を超え、精神が崩壊した(sick smile=狂気の笑み)状態。パニックにならず、冷徹な復讐を決意したことが伺える。
Now I'm out buggin', whylin', what I'm gon' do?
外に出て、頭はおかしくなり(buggin')、暴走しそう(whylin')だ。俺はどうすりゃいい?
Call my man Horse, meet me outside, I'm comin' through
ダチのHorse(Braveheartsのメンバー)に電話した。「外で待っててくれ、今から行く」
[Chorus]
I thought you loved me
君は俺を愛してくれてると思ってた
I thought you cared for me
君は俺を大切にしてくれてると思ってた
I thought you needed me
君は俺を必要としてくれてると思ってた
Did you believe in me?
君は俺を信じてくれていたのか?
I thought you loved me
君は俺を愛してくれてると思ってた
I thought you cared for me
君は俺を大切にしてくれてると思ってた
I thought you needed me
君は俺を必要としてくれてると思ってた
Did you believe in me?
君は俺を信じてくれていたのか?
[Verse 2]
Got up with Horse, showed a look on my face, was mad lost
Horseと合流したが、俺の顔は完全に途方に暮れていた(mad lost)
I ain't know whether to cry or just, try to laugh it off
泣くべきか、それともただ笑い飛ばそうとすべきか分からなかった
"Son, you home early — they wiped you out that quick?"
「兄弟、帰りが早いな――カジノでそんなに早くスッちまったのか?」
I said, "Nah," showed him the plastic with nine in the clip
俺は「いや」と答え、クリップ(弾倉)に9発の弾が入ったプラスチック(グロックのポリマーフレーム)を見せた
Hopped in the whip, popped in the disc, pressed play
車に飛び乗り、CDを突っ込んで再生ボタンを押した
To the Grand Central, from the Van Wyck Expressway
ヴァン・ウィック・エクスプレスウェイから、グランド・セントラル・パークウェイへ
I said, "Bet you'll never guess in a million years
俺は言った。「100万年考えたって、お前には絶対に予想できないだろうな
What I just saw happenin' — and probably still is
俺がたった今、何を見たか――そして今もまだ(家で)続いてるであろうことを
Snuck in my crib, some nigga fuckin' my wis'
自分の家にこっそり入ったら、見知らぬ野郎が俺の妻(wis'=wife)とヤッてたんだ
I saw them, they ain't see me, I ducked and I slid
俺は奴らを見たが、奴らは俺に気づかなかった。俺は身を隠し、その場を離れた
I'ma grab shorty, I need you to grab the nigga for me"
俺があの女を捕まえる。お前にはあの野郎を捕まえてほしい」
Just when I thought I found love, she shitted on me
ついに真実の愛を見つけたと思った矢先に、彼女は俺にクソをぶっかけやがったんだ
Shopped in Vegas, a present, for our engagement
ベガスで買い物をしてたんだ。俺たちの婚約のためのプレゼントをな
Twenty G's on a ring I would've hit her today with
今日彼女に渡すつもりだった、2万ドル(約300万円)の指輪さ
※単なる妻ではなく、正式なプロポーズ(婚約)のためにベガスで高価な指輪を買って帰ってきたという、悲劇を決定づけるあまりにも残酷な真実。
My surprise couldn't match the one she had for me
俺のサプライズは、彼女が俺に用意していたサプライズ(浮気)には敵わなかったよ
We pulled up, he was walkin' out the house backwardly
家に着くと、男が後ろ向きに(彼女に別れのキスでもしながら)家から出てくるところだった
Parked in the back of my house, they couldn't see us
家の裏に車を停めたから、奴らからは俺たちが見えない
Ran to the side of my house, cocked the heater
家の側面に走り、銃(heater)の撃鉄を引いた
Walked to the front, when I talked, he had jumped
正面に回り、俺が声をかけると、奴は飛び上がって驚いた
Bitch tried to slam the door shut, got caught in Horse foot
ビッチはドアをバタンと閉めようとしたが、Horseの足がドアに挟まった
Shot the Spanish kid in the rib, drug him in
そのスパニッシュのガキ(浮気相手)のあばら骨を撃ち抜き、家の中に引きずり込んだ
Grabbed her face, say goodbye to your undercover friend
彼女の顔を掴み、「アンタの隠し事の友達(浮気相手)に別れを告げな」と言った
One between the eye, she's died by mistake
眉間に一発。俺は過って彼女を殺しちまった
Must've held the gat too tight, pointed at her face
彼女の顔に銃(gat)を向けたまま、強く握りすぎたに違いない
※怒りのあまり指に力が入り、意図せず引き金を引いてしまった(暴発した)という描写。怒りの中にも、妻を殺すことに躊躇いがあったことが示唆されている。
Heard somebody knock—Horse helped me hide the bodies
誰かがドアをノックする音が聞こえた――Horseが死体を隠すのを手伝ってくれた
Heard sirens, I guess we goin' out like kamikaze
サイレンの音が聞こえる。どうやら俺たちは、神風(カミカゼ)みたいに死ぬ(玉砕する)ことになりそうだな
We surrounded, red lights flashin', who's inside?
俺たちは包囲され、赤いランプが点滅している。「中にいるのは誰だ?」
Came out a bullhorn, I'm contemplatin' suicide
拡声器(bullhorn)から声が響く。俺は自殺を考えている
Horse asked me for the MAC, he gave me dap, one love
Horseが俺にMAC(サブマシンガン)を寄越せと言った。俺たちはダップス(拳を合わせる挨拶)を交わし、「ワン・ラブ」と告げた
Cocked the strap, then he ran out the back
彼は銃(strap)を構え、裏口から走り出ていった
※親友であるHorseが、主人公が妻の傍で最期を迎えられるよう、囮となって警察の注意を引くために単身で突っ込んでいく、男の絆(One Love)の描写。
Mad shots, couldn't tell what was goin' on
凄まじい銃声。何が起きているのか分からなかった
Sat on the floor near my dead girl, put her in my arms
俺は死んだ彼女のそばの床に座り込み、彼女を腕に抱き寄せた
Pulled her ring out my pocket I was savin'
大切に取っておいた指輪をポケットから取り出し
Put it on her ring finger, cocked the Glock and started prayin'
彼女の薬指にはめ、グロックの撃鉄を引き、祈り始めた
To Muhammad and Allah, the most beneficial
ムハンマドとアラーへ、最も慈悲深きお方へ
Through you, all things are possible, I know you're listenin'
あなたを通せば、すべてのことが可能になる。あなたが聞いてくださっていることは分かっています
I never meant for this to happen, I never dreamed
こんなことが起きるなんて望んでいなかった。夢にも思わなかった
This'd be my fate, such a grotesque murder scene
こんなグロテスクな殺人現場が、自分の運命になるなんて
On that note, same time, the cops busted in
その祈りと同じタイミングで、警官たちが突入してきた
Kissed my lady, her blood on my lips, I said, "Amen"
俺は愛する女にキスをした。彼女の血が唇についた。俺は「アーメン」と呟いた
Put the nine to my head, pulled the hammer
9ミリを自分の頭に突きつけ、ハンマーを引いた
Held her close, squeeze the toast
彼女を強く抱きしめ、銃(toast)の引き金を引く
Said to her, "Now unto God, we elope... we elope"
彼女に言った。「さあ、神の元へ、俺たち2人で駆け落ち(elope)しよう……駆け落ちするんだ」
[Outro: Cop]
Stupid fucking niggers
「愚かなクソ黒人どもめ」
※感動的で悲劇的なロマンスの結末(無理心中)の直後、現場に突入してきた白人警官が冷酷に吐き捨てる言葉。主人公の「Undying Love(不滅の愛)」も、社会システムや権力(白人警官)の目から見れば、単なるゲットーの黒人による愚かな痴情のもつれ(ステレオタイプな暴力事件)としてしか処理されないという、ヒップホップにおける現実社会の残酷な冷や水を浴びせる完璧なアウトロ。
