Artist: Nas (feat. Scarface)
Album: I Am...
Song Title: Favor for a Favor
概要
本作は、Nasの3rdアルバム『I Am...』(1999年)に収録された、ニューヨークのNasとテキサス・ヒューストンの伝説的MCであるScarface(Geto Boys)という、東西・南部を代表する二大リリシストによる歴史的なコラボレーション楽曲である。曲のテーマは「Favor for a favor(貸し借り)」であり、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『見知らぬ乗客(Strangers on a Train)』を彷彿とさせる「交換殺人」のモチーフを、冷酷なマフィオソ・ラップの世界観に落とし込んでいる。互いに動機のない相手の敵を殺害し合うことで、警察の捜査網を逃れ、完全犯罪を成し遂げるというギャングスタの盟約が描かれている。当時、地域間の対立(コースト・ビーフ)の余波が残る中で、NYと南部が強固な「殺しの同盟」を結ぶというコンセプチュアルなストーリーテリングは、双方のファンの度肝を抜いた。L.E.S.がプロデュースした不穏で重厚なストリングス・ビート上で、Nasの文学的かつ映画的な描写と、Scarfaceの血生臭く生々しいサグ・ラップが見事なコントラストと相乗効果を生み出した、90年代後半の裏クラシックである。
和訳
[Intro: Scarface]
Yo Nas
ヨォ、Nas
I don't think they wanna fuck with this
連中も、これには手を出したくないだろうな
Gangsta shit, fo' sho'
本物のギャングスタ・シットだぜ、間違いない
Danger, danger
危険だぜ、ヤバいぞ
Check it out
聴いてみな
[Verse 1: Scarface]
It's on, and once again I bring niggas the rough
始まったぜ、俺がもう一度、ストリートの連中に荒々しい本物(ラフ)を届けてやる
Fuckin' with us, that get you motherfuckers touched
俺たちに盾突くようなクソ野郎どもは、確実にあの世行き(touched)だぜ
※「touched」はストリートのスラングで「手を下される(殺される、危害を加えられる)」の意。
Hit in the darkest alleys, where the Super Sports rally
一番暗い路地裏で撃ち殺してやる。スーパースポーツがエンジンを吹かすような場所でな
※「Super Sports(SS)」は、シボレー・カマロSSやインパラSSなど、アメリカのストリートで愛好されるマッスルカーの高出力モデル。南部のカー・カルチャーとギャングスタの日常が結びついた描写。
Beatin' up the block, leavin' these motherfuckers shot
ブロックを荒らし回り、クソ野郎どもをハチの巣にして置き去りにしてやる
They ain't ready for the Nakamici
連中はナカミチの爆音を受け止める準備なんてできてねえ
※「Nakamici(正しくはNakamichi)」は、当時アメリカのカーオーディオ愛好家やハスラーの間で最高級のステータスシンボルであった日本のオーディオブランド「ナカミチ」のこと。
I flip this shit like I'm Comaneci
俺はコマネチみたいに、このラップ(シット)をアクロバティックに操るぜ
※ナディア・コマネチ(ルーマニアの伝説的な体操選手)。自身の変幻自在なフロウやライミングのスキルを、体操の華麗な宙返り(flip)に例えたパンチライン。
Now dey a motherfuckin' see me
今や誰もが俺の姿を嫌でも目にするだろうな
They try to breeze me, but I got niggas in New York
連中は俺を吹き飛ばそう(殺そう)としてくるが、俺にはニューヨークに仲間がいるんだ
Comin' kama-kize, sparkin' this shit that keep me off the heezee
神風(カミカゼ)みたいに突っ込んで、この最高にヤバい状況をブチかましてやるのさ
※「kama-kize(kamikaze)」は自爆攻撃のような無謀さや凶暴さを示す。「off the heezee」は「off the hook」と同義で、狂気じみている、最高にヤバい(手が付けられない)状態を意味する当時のスラング。
Game over, he with my man came over
ゲームオーバーだ、あいつが俺のダチと一緒にやってきた
To scoop me, blowin' dukey, in the black Range Rover
俺を迎えにきたのさ、真っ黒なレンジローバーの中で極上のウィード(dukey)を吹かしながらな
※「dukey(あるいはdookie)」は、上質なマリファナを指すスラング。
Nasir, tell these motherfuckers what we came for
ナズィア、俺たちが何のために来たのか、このクソ野郎どもに教えてやれ
※「Nasir(ナズィア)」はNasの本名(Nasir bin Olu Dara Jones)。ScarfaceがNasを本名で呼ぶことで、ビジネス以上の深い血の結束とリスペクトを示している。
Tell these niggas why we here
俺たちがなぜここにいるのか、奴らに分からせてやれ
[Verse 2: Nas]
Nuttin' but the New York to Texas connection
ニューヨークからテキサスへの強固なコネクション、ただそれだけさ
※東海岸の王(Nas)と南部のドン(Scarface)という、当時としては非常に強力かつ画期的な地域を越えた同盟宣言。
Nuttin' but some real shit, what y'all expected
正真正銘のリアルなシットさ、お前らが期待してた通りのな
Spaz out, some times dreamin', think I'm awoke
ブチギレそうになる。たまに夢を見ながら、自分は目を覚ましてるんだと錯覚するのさ
Harsh realities of life, hit me after I smoke
ハッパを吸い終わると、人生の過酷な現実が俺に襲いかかってくる
Money satisfy half of my mood, then there's a part of me
金は俺の気分の半分を満たしてくれるが、俺の中には別の部分が存在する
That's distant, quiet, the most dangerous side of me
冷淡で、物静かで……俺の最も危険な一面ってやつがな
I'm twisted like, Dr. Death, Kevorkian
俺は「死の医師」ケヴォーキアンみたいに歪んでるのさ
※「Dr. Death, Kevorkian」とは、末期患者の自殺幇助(安楽死)を推進し、殺人罪で有罪判決を受けた実在の医師ジャック・ケヴォーキアン(Jack Kevorkian)のこと。自身の持つ「命を奪うことへの倫理的境界線の欠如」や「死を司る狂気」を彼に例えた強烈なメタファー。
Flip shit, white gun handle, made of porcelain
ヤバいブツを捌き、磁器(ポーセリン)でできた真っ白なグリップの銃を握る
※「porcelain」は高級な陶磁器。単なる殺しの道具ではなく、マフィアのボスが好むような装飾的で美しい特注品の銃を描写することで、冷酷さと洗練されたマフィオソの美学を表現している。
My, Houston niggas, come through for niggas
俺のヒューストンの仲間が、仲間のために駆けつけてくれる
Scarface get a call and we shootin' niggas
スカーフェイスに電話一本入れりゃ、俺たちは敵をハチの巣にするぜ
Favor, for a favor, that's how we do business
貸しには貸しで返す。それが俺たちのビジネスのやり方さ
※曲のコアとなるコンセプトの提示。お互いの敵(ターゲット)を交換して殺害することで、警察に動機やアリバイを悟らせない「交換殺人」という究極の裏社会のビジネス。
Tryin' to make future figures, we two of the illest, what?
未来の莫大な利益を築き上げようってんだ、俺たち2人は最高にヤバい(illest)タッグだろ、え?
[Chorus: Nas]
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい(血祭りにあげたい)奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
※「wet」は銃撃して血まみれにする(=殺害する)というマフィア/ストリートのスラング。「wetted」はその受け身。交換殺人の契約を不気味なほどシンプルに歌い上げている。
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
I'll wet who you want wetted, you wet who I want wetted
お前が殺したい奴を俺が殺し、俺が殺したい奴をお前が殺す
Any nigga can get it
誰であろうとあの世行きだ
[Verse 3: Scarface]
You say you got a problem? Then tell a nigga where he at
厄介事(片付けたい敵)がいるって? だったらそいつの居場所を俺に教えな
So I can study his motions and peel his motherfuckin' cap
そいつの行動パターンを研究して、頭の皮を吹っ飛ばして(撃ち抜いて)やるからよ
※「peel his cap」は、銃弾で頭部を撃ち抜くことを意味する残酷なストリート・スラング。動機がないからこそ、冷静に標的を観察し暗殺できるという利点を示している。
Where his brother go to school at? Find out some more information
そいつの弟はどこの学校に通ってやがる? もっと詳しい情報を洗い出せ
※標的本人だけでなく、その家族(兄弟)の生活圏まで調べ上げるという、Scarface特有の血も凍るような生々しいサグの描写。
Bout that bitch and hit a nigga right back
あのビッチ(標的)について調べたら、すぐに俺に連絡してこい
Cause when it come down to the come down;
いざ決行の時が来たらな
I'ma pull the motherfuckin' plug on him
俺があいつの生命維持装置(プラグ)を引き抜いてやるよ
※「pull the plug」は医療現場で生命維持装置を止めることだが、「息の根を止める」「計画を終わらせる」という暗殺の隠語として使われている。
Walk up to his face and then gone
奴の目の前まで歩み寄って(撃ち殺し)、そのまま姿を消す
Set a example, send these hoes a little message:
見せしめにしてやるんだ、あのクソ野郎どもにちょっとしたメッセージを送るのさ
They need to be more careful who they mess with, don't even stress it
誰に手を出してるのか、もっと慎重になるべきだったなってな。心配すんな
Leaded, I pull these capers all the time
鉛の弾(leaded)をブチ込む。俺はいつだってこういう犯罪計画(capers)をやってのける
With the ugliest AK, I blow his motherfuckin' mind
最高に無骨なAK-47で、奴の脳ミソをブチ撒けてやるよ
Him and whoever standin' by, I'll tell these niggas, "Let's go"
標的も、その隣に突っ立ってる奴らも全員だ。俺は仲間たちに「行くぞ」と声をかける
And then we fin' to ride, and he fin' to die
そして俺たちは車を走らせ(ride)、奴は死に絶えるのさ
He fin' to die, throwin' up his own blood
奴は死ぬんだ、自分の血を吐き散らしながらな
With a slug in his motherfuckin' mug
その顔面(mug)に鉛の弾(slug)を食らってな
I do this outta love, cause your money ain't no good here
俺はこれを愛(絆)のためにやってるんだ。お前の金なんかここでは意味がねえ
※Nasに対して、殺しの報酬としての金は一切受け取らないと宣言している。あくまで「兄弟の絆」に基づく無償の行為(favor)としての暗殺。
Just consider that as favor, until I need a favor
ただの貸しだと思っとけ。俺がお前に「お願い(殺し)」をする時が来るまでな
[Chorus: Nas]
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
I'll wet who you want wetted, you wet who I want wetted
お前が殺したい奴を俺が殺し、俺が殺したい奴をお前が殺す
Any nigga can get it
誰であろうとあの世行きだ
[Verse 4: Nas]
A killer code, secret untold, how we bury beef with a rose
殺し屋の掟、語られざる秘密。俺たちがどうやって一輪の薔薇と共にビーフ(抗争)を葬り去るか
※イタリアンマフィアが死の警告や葬儀の象徴として薔薇を送る伝統(映画『ゴッドファーザー』などに見られるマフィオソの美学)へのオマージュ。
To his wake we send a wreath that explodes
奴の通夜(wake)には、爆発する花輪(wreath)を送りつけてやるのさ
Beneath us sleep with the Reaper, they sleep eyes closed
俺たちの足元で、死神(Reaper)と共に眠るがいい。奴らは目を閉じて永遠の眠りにつく
That's how real Brad Jordan keep it, to him I owe
それが本物のブラッド・ジョーダンのやり方さ。俺は彼に借りができた
※Brad JordanはScarfaceの本名。Verse 1でScarfaceがNasを本名(Nasir)で呼んだことに対する返答であり、二人の深い信頼関係を表現している。
Five fo-fo's ready, five masks, five machetes
5丁の44口径(fo-fo's)の準備はできてる。5つの覆面に、5本のマチェーテ(山刀)もな
Attack 'em like Freddy, then we toastin' over spaghetti
(エルム街の悪夢の)フレディみたいに奴らを襲撃し、その後はスパゲッティを食いながら祝杯を挙げるんだ
※ホラー映画の殺人鬼フレディ・クルーガーのような残虐性と、殺しの直後にイタリアンレストランで平然とパスタを食べるマフィア映画のクリシェを組み合わせた、Nasらしいシネマティックなライミング。
I share withcha drama, you share with mine
俺がお前のドラマ(厄介事)を引き受け、お前が俺のドラマを引き受ける
That's how we killin' two birds at the same time
そうやって俺たちは、一石二鳥(二羽の鳥を同時に殺す)を成し遂げるんだ
※「kill two birds with one stone(一石二鳥)」ということわざを、文字通り「二人の標的(鳥)を同時に暗殺する」という意味にフリップしている。
Send my enemy's ear, I'll send your enemy's finger
俺の敵の耳を送りつけてくれ。俺はお前の敵の指を送ってやる
With a pinkie ring, that's just a present my nigga
ピンキーリングをはめた状態の指をな。ただのプレゼントさ、兄弟
※ピンキーリング(小指の指輪)は、マフィアの構成員であることを示す伝統的な装飾品。暗殺の確固たる証拠として、切断した身体の部位(耳と指)を物理的に「交換」するという猟奇的でマフィオソな描写の極致。
Either way the heat is grave, fuck with 'Face we bring war
どっちにしろ熱(銃火)は墓場行きを意味する。'Face(スカーフェイス)に盾突くなら、俺たちが戦争を引き起こすぜ
Either, you feel these bullets or the Texas chainsaw
お前らは俺の銃弾を食らうか、それともテキサスのチェーンソーを味わうかのどっちかだ
※『悪魔のいけにえ(The Texas Chain Saw Massacre)』への言及。テキサス・ヒューストン出身のScarfaceがチェーンソー(南部特有の残虐性)を振るい、NYのNasが銃弾を浴びせるという両者のルーツを活かしたパンチライン。
Not for popularity popularity reasons, but for the love of the art
人気の為とかそんな理由じゃねえ、ただ「殺しの芸術(art)」への純粋な愛の為さ
And you my heart, I leave casualties bleedin'
お前は俺の心臓(ソウルブラザー)だ。俺は犠牲者たちを血まみれにして置き去りにしてやる
Cause we keep it death for a death, life for a life
だって俺たちの掟は「死には死を、命には命を」だからな
Murder for a murder, and I got you it's vice versa
「殺人には殺人を」。お前の背中は俺が守るし、逆もまた然り(vice versa)だ
[Chorus: Nas]
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
You wet who I want wetted, I'll wet who you want wetted
俺が殺したい奴をお前が殺し、お前が殺したい奴を俺が殺す
Any nigga can get it (a favor for a favor)
どんな野郎だろうが容赦しねえ(貸しには貸しを)
I'll wet who you want wetted, you wet who I want wetted
お前が殺したい奴を俺が殺し、俺が殺したい奴をお前が殺す
Any nigga can get it
誰であろうとあの世行きだ
[Outro: Nas]
A favor for a favor
貸しには貸しを
A favor for a favor
恩には恩を
A favor for a favor
殺しには殺しを
