Artist: JID (feat. Yasiin Bey)
Album: The Forever Story
Song Title: Stars
概要
JIDの最高傑作と名高い3rdアルバム『The Forever Story』(2022年)に収録された本作は、名声(スターダム)の本質と物質主義の虚飾を鋭く問う、スピリチュアルで哲学的な二部構成の楽曲である。前半(Part I)では、BadBadNotGoodらが手掛けたメロウなビートに乗せ、JIDが無名時代に夢見た成功と、実際に頂点へ上り詰めた後に感じた業界の空虚さを綴る。ネオソウルの女王エリカ・バドゥの有名なセリフを引用し、「真のアーティスト」としてのアイデンティティを自問する。後半(Part II)では、伝説的ラッパーMos DefことYasiin Beyが客演として登場。「現代の奴隷制度(New Slaves)」という強烈な前置きから、重すぎるジュエリーやブランド品に縛られた現代のラッパーたちを「宮殿という名の牢獄」に囚われていると一刀両断する。新旧のリリシストが「星(Stars)」という言葉を軸に、芸術と資本主義のジレンマを深く掘り下げたヒップホップ史に残る名曲である。
和訳
[Part I]
[Intro]
Oh, woah, woah, woah
オー、ウォウ、ウォウ、ウォウ
Look, uh
見な、アー
[Verse 1: JID]
Baby girl, have faith in a nigga without a job
なぁベイビー、仕事もないこんな男だけど、信じてくれないか
And let a nigga stay at your place
君の家に居候させてくれよ
Play it for your friends when I drop a mixtape
俺がミックステープを出したら、君の友達にも聴かせてやってくれ
Both of us will win if I get a big break
俺が大成功(ビッグブレイク)を掴めば、俺たち二人とも勝者になれるんだ
Broke nigga dick? Baby, had a long day
「貧乏人のディック(なんてお断り)」だって? ベイビー、今日は長い一日だったんだ
Tryna get rich, buy you Dolce
金持ちになって、君にドルチェを買ってやるために頑張ってるんだぜ
And Gabbana, baby, just be honest
アンド・ガッバーナをな。ベイビー、正直になってくれよ
Don't be tryna play me, I'm an artist, baby, I'm an artist
俺をからかわないでくれ。俺はアーティストなんだ、ベイビー、俺はアーティストなんだよ
Baby, I'm an artist (And I'm sensitive about my shit)
ベイビー、俺はアーティストなんだ(それに俺は、自分の作品に対してすごく繊細なんだから)
※ネオソウルの女王、Erykah Baduのライブアルバム『Live』(1997年)での楽曲「Tyrone」の演奏前に彼女が放った伝説的なセリフ「Keep in mind that I'm an artist, and I'm sensitive about my shit(心に留めておいて。私はアーティストで、自分の作品に対してとても繊細なの)」のサンプリング的引用。売れない時代に恋人に養ってもらいながらも、クリエイターとしての自尊心だけは高く持っていた過去の自分を回想している。
I been tryna make it on my grind, I'm takin' what is mine
俺はずっとハッスルして成功しようとしてきた。自分のものになるべきものを掴み取るんだ
I'm racin' with the time
俺は時間と競走している
I been tryna make it at my hardest, makin' it a promise
死に物狂いで成功しようとしてきた、必ず叶えるって約束するよ
Chasin' with my heart in it
魂を込めて追いかけ続けてるんだ
I just gotta make it to the stars, a spaceship or a rocket
俺は「星(スター)」に辿り着かなきゃならない、宇宙船かロケットに乗ってな
※「Stars」には宇宙の星と、エンタメ界の「スター(名声)」のダブルミーニングが含まれる。
Paintin', I'm an artist
絵を描いているのさ、俺はアーティストだからな
I'm just tryna make it as an artist (And I'm sensitive about my shit)
俺はただ、アーティストとして成功したいだけなんだ(俺は自分の作品に対して繊細なんだ)
I just gotta make it
絶対に成功しなきゃならないんだ
[Chorus: JID]
Heavy way to hold the head and notice
頭を抱え、重圧を感じながら気づくのは
Just a long and cold and scary
ただ長くて、冷たくて、恐ろしい道のりだということ
But I don't even feel a thing no more
でも、俺はもう何も感じなくなっちまった
I set my goals and I'm preparеd (Look-look-look-look-look, uh)
目標を定めて、覚悟はできてるぜ(見な、アー)
Will you be there? (Look, uh)
君はそこにいてくれるか?(見な、アー)
[Verse 2: JID]
Evеrybody wanna come and hang with the stars
誰も彼もが、「スター」に群がってつるみたがる
Pinky ring, chain, bling-bling and the cars
ピンキーリングにチェーン、ギラギラの宝石(ブリンブリン)に高級車
A hundred miles an hour on the way to Lee-R
100マイルの猛スピードでリーRへ向かう
You don't even believe in Jesus wearin' Christian Dior
お前はイエス(キリスト)を信じてもいないくせに、「クリスチャン」・ディオールの服を着てる
※ブランド名に含まれる「Christian(キリスト教徒)」と実際の信仰心のなさを対比させ、現代のラッパーたちの浅薄な物質主義を強烈に皮肉っている。
You crazy on a Twitter, who we need for PR?
お前はTwitterで発狂してる。PR(炎上商法)のために誰が必要だって?
You out of control, P-O-W-E-R
お前はもうコントロール不能だ、P-O-W-E-R(権力)のせいでな
Went to the head and now you doin' bodily harm
権力が頭に回って、今じゃ(薬物などで)自分の身体を痛めつけてる
On the meds and nobody wanna say
薬漬けになってるのに、誰も何も言おうとしない
Because they scared to lose a gig
仕事(おこぼれ)を失うのが怖いからな
※周囲をイエスマンで固め、裸の王様になって破滅していくスターの孤独な末路。
But yeah-yeah, you wanna be JID, kid
でもそうさ、お前はJIDになりたいんだろ、小僧
I used to wanna be Jay, I used to wanna be Wayne
俺だって昔は、ジェイ・Zになりたかったし、リル・ウェインになりたかった
I used to wanna be Kanye and Andre 3K
カニエ・ウェストや、アンドレ3000になりたかったんだ
And all my homegirls wanted to be Beyoncé
そして俺の地元の女友達はみんな、ビヨンセになりたがってた
Can you pay my telephone bills?
「私の電話代を払ってくれる?」ってな
※ビヨンセが所属していたDestiny's Childの1999年の大ヒット曲「Bills, Bills, Bills」の一節「Can you pay my telephone bills?」の引用。ヒップホップ/R&Bの偉大な先人たちに憧れていた子供時代を回想している。
Woah, shit, I was just lookin' for a deal
あぁクソッ、俺はただレコード契約(ディール)が欲しかっただけだった
Workin' so hard, had to sharpen my skills
死に物狂いで働き、自分のスキルを磨き上げなきゃならなかった
Work with my dawgs, still sharpen my steel
ダチと一緒に動き、今でも自分の刃(スティール/ラップ)を研ぎ澄ましている
Was still in apartments, stealin' and starvin'
まだアパートに住んでて、盗みを働き、飢えていた頃
Fast-forward, I'm in a buildin' with stars
早送りして今、俺は「スター」たちが集まるビルの中にいる
And I got in Yachty car, he got stars in the ceilin'
リル・ヨッティの車に乗ったら、天井に「星(スター)」が輝いてたぜ
※アトランタのラッパーLil Yachtyの所有するロールス・ロイスの「スターライト・ヘッドライナー(天井に星空のようにLEDが埋め込まれたオプション)」への言及。車内のフェイクな「星」と、エンタメ業界の「スター」を掛けている。
Pause for a minute (Wait)
ちょっと待てよ(待て)
Gotta know the difference in the stars and the gimmicks
本物の「スター」と、ただの「ギミック(作り物)」の違いを見極めなきゃならねえ
Are you really in it for the arts or the image?
お前は本当に芸術(アート)のためにやってるのか? それともイメージ(見栄)のためか?
Do you really live it in your heart and spirit?
本気で心と魂を込めて生きてるのか?
It's part of all you are, and all you isn't
それはお前という人間のすべてであり、同時にお前が持っていないものすべてのことなんだ
[Chorus: JID]
Heavy way to hold the head and notice (Trust your vision)
頭を抱え、重圧を感じながら気づくのは(お前のビジョンを信じろ)
Just a long and cold and scary (Trust your vision)
ただ長くて、冷たくて、恐ろしい道のりだということ(ビジョンを信じろ)
But I don't even feel a thing no more
でも、俺はもう何も感じなくなっちまった
I set my goals and I'm prepared
目標を定めて、覚悟はできてるぜ
Will you be there?
君はそこにいてくれるか?
[Part II]
[Intro: Tane Runo]
And now, a word from our ancestors
それでは、我々の祖先からの一言です
Man, I, I like these new slaves
「いやぁ、私は、この『新しい奴隷たち』が気に入ったよ」
※ここでビートがスイッチ。俳優/アーティストのTane Runoによる痛烈なイントロダクション。現代のラッパーや黒人たちが、自らブランド品や宝飾品に縛られている姿を、かつての白人奴隷主の視点から「素晴らしい新しい奴隷だ」と冷笑する、非常にダークで社会的な皮肉。
[Verse: Yasiin Bey]
Your chain hangin', bling swingin', back breakin'
お前の首から下がるチェーン、揺れるブリンブリン、背骨が折れそうだぜ
※伝説のリリシストMos DefことYasiin Beyのヴァース。巨大で重いジュエリーを見せびらかす現代のラッパーたちを、鎖に繋がれた奴隷に例えている。
But it's gleamin', problem posture, double cup leanin'
でもキラキラ輝いてるな。姿勢は最悪で、ダブルカップ(リーン)を傾けて(リーニン)寄りかかってる
Slide, slouchin' tiger, pimpin' dragon on swagger
スライドし、前かがみの虎、スワッグを気取るピンプなドラゴン
※映画『Crouching Tiger, Hidden Dragon(グリーン・デスティニー)』のもじり。ドラッグ(リーン)で前かがみ(Slouching)になっているラッパーたちの滑稽な姿を描写。
VVS is very vertebrae snappin', lights flashin'
VVS(最高級ダイヤ)は、見事に脊椎(バーテブレ)をへし折るぜ、フラッシュが焚かれる中でな
A manicured appearance concealin' the shattered spirit
綺麗にマニキュアされた(着飾った)外見が、粉々に砕け散った精神を隠している
Jinn sneerin' out the paradox prism
パラドックスのプリズム(矛盾に満ちた華やかな世界)から、ジン(悪霊/精霊)が冷笑している
The palace as the prison, retail religion
「宮殿」という名の「牢獄」。「小売(消費)」という名の「宗教」
Red carpet constriction, the freedom is the fiction
レッドカーペットによる束縛、「自由」なんてものはフィクション(虚構)に過ぎない
※富や名声の象徴である大邸宅やレッドカーペットが、実は彼らを縛り付ける牢獄であり、物質主義という宗教に洗脳されているという高度な文明批判。
As niggas raised specific is race really existin'
「黒人」として特別に育てられた俺たちだが、そもそも「人種」なんてものは本当に存在するのか?
Man, get the bag, you're trippin'
おい、「金(バッグ)を稼げ」って? お前はイカれてるよ
Go 'head partner, hit this, sip this
さあ相棒、これを吸いな、これを飲みな
Wishlist, hitlist, top ten, shit list, bitchless
ウィッシュリスト(欲しい物リスト)、ヒットリスト(暗殺リスト)、トップ10、シットリスト(嫌な奴リスト)、ビッチレス(女がいない)
Chickless, playmate, playboy, flip sides, same coin, big front
女がいない、プレイメイト、プレイボーイ。裏返せば、同じコインの裏表だ。デカい虚勢(フロント)を張ってるだけさ
But no joy, yuck, oh boy, hot girls, cold hearts
でもそこには「喜び」がない。オエッ、なんてこった。ホットな女たち、冷え切った心
Tax man like the Taliban and ISIS
税務署の役人は、タリバンやISISみたいなもんだ
※どれだけ稼いでも、国家(税務署)というテロリストのようなシステムに無慈悲に搾取される現実。
No relation to class of Osiris
オシリス(エジプトの冥界の神/再生の象徴)の階級とは何の関係もない
Kissin' cousins 'til the climbin' gas prices kill a climate
ガソリン価格の高騰が気候を破壊するまで、従兄弟同士でキスでもしてな(内輪で馴れ合ってろ)
Yikes-es, sucker, mean muggin', who the nicest?
ヤバいな、マヌケども。ガン飛ばし合って、一体誰が一番イケてる(ナイス)だって?
A promised death known is what they life is
「約束された死」を知ること、それが奴らの人生のすべてさ
Bey tap in, they tap out like a tabloid typist
ベイ(Yasiin Bey)が参戦(タップ・イン)すれば、奴らはタブロイド紙のタイピストみたいにタップアウト(降参/文字を打つ)するぜ
They touch too tiny to the titan, YA-S-double I-N
奴らの攻撃なんて、このタイタン(巨人)には小さすぎて届かない。Y-A-S-I-I-N(ヤシーン)だ
Conquerin' lion out the liar, seek the garden, flee the fire
嘘つきども(ライアー)の中から現れた征服するライオン(ライオン)。楽園(ガーデン)を探し求め、業火(ファイア)から逃れるんだ
※ラスタファリ運動における「ユダ族のライオン(Conquering Lion)」の引用。腐敗したバビロン(物質主義の嘘の世界)から抜け出し、真の精神的平穏(ガーデン)を目指せという崇高なエンディング。
[Outro]
One, two, three, four
ワン、ツー、スリー、フォー
