Artist: JID
Album: DiCaprio 2
Song Title: Frequency Change
概要
JIDの2ndアルバム『DiCaprio 2』(2018年)の中盤に配置された本作は、楽曲というよりシネマティックなスキット(寸劇)である。タイトル「Frequency Change(周波数の変更)」が示す通り、何者かがテレビのチャンネルをザッピングしていく構成をとっており、深夜のアダルトダイヤル、ラッパーを生態系の一部として観察する野生動物ドキュメンタリー、チープな昼ドラ、そしてフェイクニュースと、現代メディアの混沌と黒人文化の消費のされ方を痛烈に風刺している。特に注目すべきは、ニュースキャスターが言及する「Mirrorland casino」だ。これはJIDも所属するヒップホップコレクティヴ「Spillage Village」の盟友、EarthGangが翌2019年にリリースした名盤『Mirrorland』の壮大なティザー(予告)となっており、Dreamville周辺のアーティスト間における緻密な世界観の共有と、伏線構築の巧みさを証明する重要トラックとなっている。
和訳
[Intro]
Thud
ドンッ(物が落ちる音)
Yawn
ふぁ〜(あくびの音)
Lighter Flick
カチッ(ライターで火をつける音)
Channel Switch
ピッ(チャンネルを切り替える音)
[First Channel: Love Chat Line Teleprompter]
Ooh, you wanna have a fantasy tonight, call 1-800-555-DiC-2...
あぁ、今夜ファンタジーを味わいたいなら、1-800-555-DiC-2 に電話してね…
※米国の深夜テレビで頻繁に流れるアダルト系テレホンサービスのパロディ。電話番号の「1-800」は米国のフリーダイヤルを指し、「555」は映画やドラマで使われる架空の局番である。末尾の「DiC-2」は本作のアルバムタイトル『DiCaprio 2』の略称であると同時に、「Dick(男性器)」との露骨なダブルミーニングとなっている。深夜の気怠いマリファナ・セッションの始まりを演出するユーモアだ。
Channel Switch
ピッ(チャンネルを切り替える音)
[Second Channel: Wildlife Documentary Host]
Today on DiCaprio's World Discoveries, I'm here backstage at a hip-hop concert.
本日の『ディカプリオのワールド・ディスカバリーズ』は、ヒップホップ・コンサートの舞台裏からお届けします。
※英国の著名な動物学者デヴィッド・アッテンボローや、オーストラリアの環境保護運動家スティーブ・アーウィンのような野生動物ドキュメンタリー番組のパロディ。「DiCaprio」という名前は、レオナルド・ディカプリオ自身が熱心な環境保護活動家であり、ドキュメンタリー映画の制作も行っていることに由来する秀逸な設定である。
I just spotted a gaggle of rappers.
今、ラッパーの群れを発見しました。
※「gaggle」は通常、ガチョウの群れなどを指す単語。白人主導のメインストリームメディアがいかに黒人文化やヒップホップを「エキゾチックな見世物」として消費し、彼らを野生動物のように扱っているかを辛辣に皮肉っている。
I see loads and loads of cash in their bags.
カバンの中に大量の札束が詰め込まれているのが見えますね。
I see guns with extended clips that don't even fit the guns in their trousers.
ズボンの中に銃を隠し持っていますが、拡張マガジンが長すぎて銃自体にすら合っていません。
※「extended clips(装弾数を増やした違法な拡張マガジン)」というギャングスタラップの典型的なトピックを取り上げているが、銃のサイズに合っていないという滑稽な描写を用いることで、ラッパーたちの誇張されたマッチョイズム(虚勢)や中身のない暴力性を笑い飛ばしている。
So what he's trying to say: "I'm so tough, don't mess with me, I'm the baddest bloke on the block...
つまり、彼が言いたいのはこういうことです。「俺は超タフだ、俺にちょっかい出すな、俺はこのブロックで一番ヤバい野郎だぜ」…
※ドキュメンタリーの白人ホストが、ラッパーの威嚇行動を「動物の求愛行動や縄張り争い」のように翻訳して解説するメタ的な視点。シーンのステレオタイプに対するJIDの冷めた客観性が窺える。
Channel Switch
ピッ(チャンネルを切り替える音)
[Third Channel: Demetrius & Susan]
Susan, I've found another lover
スーザン、俺、他に好きな女ができたんだ。
Well so have I, Demetrius, it's over
奇遇ね、ディミトリアス。私もよ、これで終わりね。
※米国の昼ドラ(ソープオペラ)における古典的な愛憎劇のクリシェ。過剰にドラマチックなメロドラマをサンプリングすることで「無数にあるテレビ番組をザッピングしている」という聴覚的なリアリティと没入感を高めている。
Dramatic Music Intensifies
(ドラマチックなBGMが激しくなる)
Channel Switch
ピッ(チャンネルを切り替える音)
[Fourth Channel: Anchorman Jason, Anchorman John, & Witness]
Breaking news on DiCaprio 2, channel two, at two. Take it, John
時刻は2時、『DiCaprio 2』第2チャンネルからニュース速報です。ジョン、現場の状況は?
※「2」という数字の執拗な繰り返しは、本作が前作『DiCaprio』EPの続編(パート2)であることを強調するライミング。「Take it, 〇〇(〇〇、伝えてくれ)」は米国のニュース番組の定型句。
I'm on DiCaprio Lane, Jason, in the Mirrorland casino where there seem to be two niggas about to jump ready to die, I'm here on the scene with a witness
はいジェイソン、こちらはディカプリオ通りの『ミラーランド・カジノ』前です。黒人の男2人が飛び降り自殺を図りそうな状況で、私は今、目撃者と共に現場にいます。
※このスキット最大のイースターエッグ。「Mirrorland(ミラーランド)」とは、アトランタのデュオEarthGangが翌2019年に発表したメジャーデビューアルバムのタイトルである。JIDは自身のアルバム内で仲間の次作の特大ティザーを仕込んでいた。また「ready to die(死ぬ準備ができている)」はThe Notorious B.I.G.の伝説的デビューアルバム『Ready to Die』へのオマージュであると同時に、カジノで全財産を失い飛び降りようとしている男たちの切羽詰まった状況を描写している。
(Reversed Speech) Them two niggas mad
(逆再生の音声)あの2人のダチ、キレてやがんな
※実際の楽曲では目撃者の音声が完全にリバース(逆再生)されて収録されており、不気味でシュールな雰囲気を醸し出している。GeniusやRedditではこの音声を反転再生して解析するファンが続出した。「マッド(狂っている/怒っている)」という表現は、錯乱状態にある飛び降り犯を指している。
Oh yeah?
なるほど、そうですか。
(Reversed Speech) That shit was the first black president
(逆再生の音声)あんなのまるで、最初の黒人ヤロウの大統領じゃねえか
※目撃者の支離滅裂な証言は、カジノでの異常な騒ぎを、歴史的イベント(オバマ大統領の誕生など)の熱狂に例えているか、あるいは目撃者自身がドラッグでハイになっており、ストリートのリアルな狂気を体現している。
Is that right?
へえ、本当ですか?
(Reversed Speech) Barack Obama was number two
(逆再生の音声)バラク・オバマはナンバー・ツーだったな
※この不可解な発言は、米国のブラックコミュニティにおける都市伝説(「最初の黒人大統領はビル・クリントンだ」とする有名なジョーク)を反映している。また、「ナンバー・ツー」という言葉選びによって、ここでもアルバムの裏テーマである「2」に強引に結びつけている。
Interesting
興味深いですね。
(Reversed Speech) Alive, I said CDC (Do it!, Don't do it!, He's doin' it, dude!)
(逆再生の音声)生きてるぜ、俺はCDCって言ったんだ(やれ!、早まるな!、おいマジでやりやがるぞ!)
※「CDC」は米国疾病予防管理センターの略称だが、ここではEarthGangや彼らのコミュニティに関する内輪の暗号、または譫妄状態の言葉の羅列と考えられる。背景の野次馬による「Do it!(跳べ!)」と「Don't do it!(やめろ!)」が入り混じる声は、他人の不幸や生死すらもエンターテインメントとして消費する大衆の冷酷な野次馬根性(SNS社会の病理)を痛烈に批判している。
Oh, shit, there they go
あぁ、クソッ、彼らが飛び降りてしまいました!
Audience Gasps
ハッ(観衆の息を呑む音)
Channel Switch
ピッ(チャンネルを切り替える音)
