Artist: Lil Wayne (feat. Kurupt)
Album: Tha Carter II
Song Title: Oh No
概要
2005年発表の歴史的名盤『Tha Carter II』に収録された本作は、フック(サビ)を一切挟まず、約3分間にわたってLil Wayneが猛烈な勢いでスピットし続ける、彼の圧倒的なラップスキルとスタミナを証明するハードコアな一曲だ。Yonnyがプロデュースを手掛けた、哀愁漂う「Oh no」というソウルフルなボーカルサンプルがループするビートの上で、Wayneは地元ニューオーリンズ・ホリーグローブの過酷なストリートの現実、裏切り、そして自身の王としての余裕を冷徹な視点で描写している。タイトルの客演にKuruptがクレジットされているバージョンが存在するものの、実質的にはWayneの独壇場であり、彼がヒップホップ・シーンの頂点へと登り詰める過程で放った、最も純粋でハングリーなフリースタイル的バースの一つとして高く評価されている。
和訳
[Intro]
(Oh no, no, oh, no, no, oh, no, no)
(オー、ノー、ノー…)
Haha, cut the music up please
ハハ、曲のボリュームを上げてくれ
(Oh no, no, oh, no, no, oh, no, no)
(オー、ノー、ノー…)
Hahaha, yeah
ハハハ、イェー
[Verse]
I play the bullshit from the backseat, champ
俺は後部座席からクソみたいなゲームを操るんだよ、チャンプ
※ストリートの厄介事やビーフ(bullshit)に自ら手を汚すのではなく、運転手付きの高級車の後部座席(ボスとしての地位の象徴)から指示を出してコントロールしているというフレックス。「champ(王者)」と呼びかけることで、相手を見下す余裕を見せている。
Yeah, I'm in the backseat, still got the seat back
ああ、後部座席に座って、さらにシートを倒してくつろいでるぜ
Feet back, stay from where the fake be at
足を伸ばして、フェイク野郎どものいる場所からは距離を置く
※成功を収め、地元やストリートの偽物たち(fake)から物理的にも精神的にも離れた安全な場所にいることを示している。
Niggas snitch for the shine, where the patience at?
スポットライトを浴びるために密告する奴ら、我慢強さはどこに行ったんだ?
※司法取引で減刑を得る(shine=保身や利益)ために仲間を売るスニッチ(密告者)を批判。「ストリートの掟を守り抜く忍耐(patience)がない」と嘆いている。
Nigga make his own brother face his back
実の兄弟にすら背を向けさせるんだからな
※密告によって、血の繋がった兄弟や親友でさえも裏切り、互いに背を向ける(刑務所送りになる、あるいは敵対する)ストリートの悲惨な現状を描写。
Give love, then take it back
愛を与えといて、すぐに奪い返すんだ
Good grief, man, this world is quite heavy on my aching back
やれやれ、この世界は俺の痛む背中に重くのしかかってきやがる
※「Good grief」は漫画『ピーナッツ』のチャーリー・ブラウンの口癖としても有名。Cash Money Recordsの看板を背負い、家族やクルーを養うWayneの重圧(heavy)を「痛む背中」に喩えている。
Cops killing for crack, you know the story, snakes eat rats
サツはクラックのために殺しをやる、お決まりの話さ。ヘビがネズミを食うんだよ
※汚職警官(cops)が麻薬(crack)の利権や押収品を巡って平気で人を殺す腐敗したシステムを批判。「Snakes(ヘビ=悪徳警官や裏切り者)」が「Rats(ネズミ=密告者や弱者)」を捕食するという、食物連鎖に見立てたストリートの無慈悲な生態系を表している。
Face the facts, you can't change him
現実を見ろ、奴を変えることなんてできねえ
Can't shoot it if you can't aim it
狙いも定められねえなら、撃つことなんてできねえよ
Can't miss him, if he kill you, then you can't blame him
絶対に外すな。もし相手に殺されたって、そいつを恨むことはできねえ
※「Kill or be killed(殺るか殺られるか)」のストリートの掟。中途半端な覚悟で銃を抜き、仕留め損ねて自分が殺されたとしても、それは己のミスであり自己責任だという冷酷な真理。
That's just how the dice roll when you can't fade 'em
相手を消せねえなら、サイコロの目はそう転がるってことさ
※「Fade」はスラングで「殺す」「打ち負かす」の意。ギャンブル(dice roll)のメタファーを用いて、ストリートライフの運否天賦と死の危険性を表現している。
Get too deep up in that water and they can't save you
深い水底までハマっちまったら、もう誰も助けちゃくれねえよ
※「Water」は危険な状況やドラッグビジネスの比喩。深入りしすぎれば、救いの手は届かなくなるという警告。
Me, I come out of that water like I was just bathin'
俺か? 俺はただ風呂にでも浸かってたみたいに、その水から上がってくるぜ
※他の人間が溺れ死ぬような危険なストリートの状況(water)でも、Wayneにとってはただの「入浴(bathin')」に過ぎず、無傷で平然と生還できるという圧倒的なサバイバル能力の誇示。
And watch my step on the wet pavement, yeah
濡れた舗装路でも、足元には気をつけてるからな
I'm from the hood, so I rep 'em where I can't take 'em
俺はフッドの出身だ。だから奴らを連れて行けねえ場所でも、フッドをレペゼンしてる
※メインストリームの華やかな舞台や高級な場所(地元のギャング仲間を連れて行けない場所)でも、常に地元ニューオーリンズの誇りを背負って立っているという宣言。
"Hollygrove, Hollygrove," was his last statement
「ホリーグローブ、ホリーグローブ」それが奴の最後の言葉だったな
※Hollygrove(ホリーグローブ)はニューオーリンズ第17区にあるWayneの地元。敵が死ぬ間際に恐怖の中で発した言葉か、あるいは倒れた仲間が死に際に残した地元への愛か、いずれにせよ凄惨な死の情景を描いている。
So nigga, get that look off your face
だからお前ら、そのビビった顔をやめな
And recognize you got a crook in the place
そしてこの場に本物のワルがいるってことを認識しろ
They call me W-E-E-crooked letter-Y, I'm so high
奴らは俺をW-E-E-"曲がった文字"-Yと呼ぶ。俺はガンギマリさ
※「W-E-E-Z-Y(Weezy)」のスペリング。Zを「crook(犯罪者/曲がった)」とかけて「crooked letter(曲がった文字)」と表現している。南部ヒップホップで「Z」や「S」をcrooked letterと呼ぶ伝統的な言葉遊び(Mississippiのスペルを覚える際の定番フレーズ等)を引用した秀逸なライン。
I skeet-skeet in any nigga dime like she's mine
誰の極上のオンナだろうと、自分のモノみたいに中に出してやるよ
※「Skeet」は射精の擬音・スラング。「Dime」は10点満点の美女。他人の女であってもお構いなしに寝取る、傍若無人なロックスター的振る舞い。
Street-sweeper in the back of the hatch, make me pop the latch
ハッチバックの後ろにはストリートスイーパーが積んである。ハッチを開けさせんなよ
※「Street-sweeper(道路清掃車)」は、ここでは巨大な弾倉を持つ軍用ショットガン(Armsel Strikerなど)の隠語。車のトランク(hatch)に重火器を隠し持っているという脅し。
Leave you bloody with the cops to match
サツがお似合いの血まみれ状態にして放置してやる
Bullet holes in your speakers from the chopper blast
チョッパーの連射で、お前の車のスピーカーを蜂の巣にしてやるよ
※「Chopper」はAK-47などのアサルトライフルのスラング。ヘリコプターのプロペラ音のように連射できることからそう呼ばれる。
Like, haha, ah
ハハ、アーッってな
That's bullet holes in your sneakers, got you hoppin' back
スニーカーにも風穴を開けてやる。後ろに飛び跳ねるハメになるぜ
※西部劇などで足元を撃ってタップダンスさせるような描写を彷彿とさせる。「スピーカー」と「スニーカー」で韻を踏みつつ、全身を標的にしている。
It all stop when they hit you in your top and back
頭と背中を撃たれたら、そこですべて終わりさ
No cockin' back, silly motherfucker, you ain't heard 'bout this
撃鉄を引く暇なんてねえよ、マヌケ野郎。この銃の噂を聞いたことねえのか
※「Cocking back(撃鉄を起こす、スライドを引くアクション)」が不要な、常に弾装填済みのオートマチック銃であることを示している。
The clips hang down to the dick
弾倉は股間まで垂れ下がってるぜ
※超大容量の拡張マガジン(ロングマガジン)を使用しているため、銃を構えるとマガジンの底が股間の位置まで届くほど長いという暴力的な誇張表現。同時に男性器の大きさ(男としての強さ)を暗喩するファルス・シンボルでもある。
That's an automatic shotty from a drum they call Tommy
そいつはトミーって呼ばれるドラムマガジン付きのフルオート・ショットガンさ
※「Tommy」はマフィア御用達のトンプソン・サブマシンガン(トミーガン)の通称だが、ここではドラムマガジン(円筒形の巨大な弾倉)を装着した連射式ショットガンにその名を冠している。
Guaranteed to get you bitches from by me
俺のそばからお前らビッチ共を確実に排除できる代物だ
When I hit every piece of your visible body, he leakin'
お前の体の見える箇所すべてを撃ち抜けば、血が吹き出すぜ
Mortimer is no longer leapin', he's sleepin'
モーティマーはもう飛び跳ねちゃいない、永遠の眠りについたのさ
※「Mortimer」はカエルのキャラクター(Mortimer the Leaping Frogなど)や、子供向けの言葉遊びと思われる。弾丸を浴びて飛び跳ねていた(hoppin' back)敵が、ついに絶命して動かなくなった(sleepin')様子をブラックジョークで表現している。
While you pussy niggas is sleepin', I'm thinkin'
お前ら腰抜けが寝こけてる間も、俺は思考を巡らせてる
※ライバルたちがサボっている間(あるいは死んで眠っている間)も、常に次のビジネスやラップのパンチラインを考え続けているというハスラーとしての勤勉さ。
Deep in thought, the boy ain't even winkin'
深く考え込んで、瞬きすら一つしねえよ
Bob Marley got me stinkin'
ボブ・マーリーのおかげで、俺は草の匂いがプンプンだ
※「Bob Marley」は極上のマリファナの隠語。レゲエの神様の名を借りて、常に上質なウィードを吸っていることをアピールしている。
Stackin' figures, I'm standing firm, life's a Slinky
札束を積み上げ、俺は揺るがず立っている。人生はスリンキーみたいなもんさ
※「Slinky」は階段を降りるバネのおもちゃ。人生はスリンキーのようにアップダウン(浮き沈み)が激しく、ねじれたり転がり落ちたりするが、Wayne自身は地に足を着けて(standing firm)富を築き上げているという対比のメタファー。
Pipes is filled with crack cocaine
パイプにはクラック・コカインが詰まってる
And the dope go inside of the veins
そしてドープは静脈の中へと流れ込んでいく
※文字通りのヘロインやクラックの静脈注射(あるいは吸引)によるストリートの蔓延を描写していると同時に、自身のラップ(dope)がリスナーの血肉にまで浸透していく様子を暗示している。
From where I came
それが俺の生まれ育った場所だ
Though I bear a name only one can live with
ただ一人しか背負えない名前を、俺は授かってるがな
※「Lil Wayne」や「Best Rapper Alive」という称号の重み。他の誰にも代わりが務まらない、唯一無二の存在であるという自負。
Coach, they won't knock me off my pivot, forget it
コーチ、奴らじゃ俺のピボットは崩せねえよ、諦めな
※バスケットボールの用語「ピボット(軸足)」を使用。どれだけディフェンス(ヘイターや逆境)にプレッシャーをかけられても、自分のプレイスタイルや確固たる軸は決してブレないというスポーツのメタファー。
I'm sicker with it, pick a city, buy a condo
俺の病的なラップスキルさ。好きな街を選びな、コンドミニアムを買ってやるよ
※「Sick」は「最高にヤバい、イケてる」のスラング。圧倒的な富により、全米のどの都市でも瞬時に高級マンションを買える財力を見せつけている。
Find a fine ho, let some time go, chill
極上の女を見つけて、時間を忘れてチルするんだ
What you know about a bongo having her mind go
ボンゴを叩いて、女を狂わせる感覚を、お前は知ってんのか?
※「Bongo」は打楽器のボンゴだが、ここでは女性の豊満なヒップを叩く(スパンキング)行為のメタファー。女性を完全に昇天(mind go)させるテクニックを自慢している。
Over a convo about dough? Nothing
金の話題だけで女を夢中にさせる方法を? お前らじゃ何も知らねえだろ
※「Dough」は「金(札束)」のスラング。ベッドでのテクニックだけでなく、ただ自分の莫大な資産について語る(convo)だけで、女性が虜になってしまうという成金的フレックス。
Man, the four-wheelers look so good on the sand
なぁ、砂浜を走る四輪バギーは最高にキマってるぜ
※マイアミのビーチなどで四輪バギー(ATV)を乗り回す、ラッパー特有の豪遊ライフスタイル。ストリートの殺伐とした現実(コンクリート)から、成功者の象徴であるリゾート(砂浜)への場面転換。
Tee or tank top, pocket fan
Tシャツかタンクトップに、ポケット扇風機だけだ
※銃や防弾チョッキを身につける必要のない、完全にリラックスした安全な状態(chill)を強調している。
No pocketknife, no handgun in sight
ポケットナイフもなきゃ、ハンドガンも見当たらねえ
Just that rat-tat, tat, tat-tat-t-tat-tat, boom
聴こえるのは、このラタタタ…ドカン!っていうビートだけさ
※銃撃戦の擬音(rat-tat-tat)のように聞こえるが、ここでは銃声ではなく、ビーチで聴いている爆音の音楽(ベースやスネアの音)、あるいは自身の破壊的なラップのフロウそのものを表している。
Haha, tonight, I might just boost my feature price
ハハ、今夜あたり、俺の客演のギャラを跳ね上げてやるか
※自身のラップスキルが最高潮に達していることを自覚し、他のアーティストが自分をフューチャリングに呼ぶための相場(feature price)をさらに吊り上げると宣言。実際に2005年以降、Wayneの客演オファーは殺到し、ギャラは高騰した。
'Cause to each his own, and the lights is bright
十人十色とは言うが、俺を照らすスポットライトは眩しすぎるからな
And I'm feeling like Mike at a Tyson fight
今の俺は、タイソンの試合に出るマイク・タイソンの気分だぜ
※「Mike」はマイク・タイソンのこと。絶頂期のタイソンがリングで見せたような、圧倒的な無敵感と破壊衝動に満ちている状態。誰にも止められないという究極の自信の表れ。
I'm from Cita house, Big Mama's house
俺はシータの家、ビッグ・ママの家で育ったんだ
※「Cita」はWayneの母親(JJacida Carter)の愛称。「Big Mama」は彼の祖母(あるいは地域で慕われる年配の女性像)。女性たちの過酷な愛情とルールに育てられたフッドの生い立ちをシャウトアウトしている。
She told me to shoot you right after I knock you out
ママは言ってたぜ、「相手をノックアウトしたら、そのまま撃ち殺せ」ってな
※ストリートの母親の教えがいかにハードコアであるかを示すライン。「相手に反撃の余地を一切与えるな(完全に息の根を止めろ)」というニューオーリンズの非情なサバイバル教育。
And he ain't gettin' up after them shots if you hit him in the right spot
急所にブチ込んでやれば、撃たれた奴は二度と起き上がれねえよ
Hold up, the beat might drop
待てよ、ここでビートが落ちるぜ
※ラップの最後でビートがブレイクダウンすることを見越し、自ら曲の構成をナビゲートするメタ的で余裕のある締めくくり。
[Outro]
(Oh no, no, oh, no, no, oh, no, no)
(オー、ノー、ノー…)
(Oh no, no, oh, no, no, oh, no, no)
(オー、ノー、ノー…)
