Artist: Lil Wayne
Album: Tha Carter
Song Title: Walk In
概要
2004年にリリースされた本作は、リル・ウェインのキャリアにおける最大の転換点となったアルバム『Tha Carter』の幕開けを飾る一曲である。かつての「Hot Boys」の一員としての幼いイメージを脱却し、ニューオーリンズの帝王としての地位を確立せんとする彼の野心が凝縮されている。タイトル「Walk In」が示す通り、リスナーを自らの要塞である「Tha Carter(高級マンション、あるいは麻薬取引所としての隠語)」へと招き入れるコンセプトを持っており、複雑なライムスキームと、後の「Best Rapper Alive」へと繋がる比類なきカリスマ性を提示した。プロデューサーのMannie Freshによる不穏かつ荘厳なビートに乗せ、ウェインは自身の内面とストリートの現実を交錯させている。
和訳
[Intro]
Yeah, yeah, yeah
イェア、イェア、イェア
It's Tha Carter, motherfucker, I came back around
これが「ザ・カーター」だぜ、マザーファッカー、俺が戻ってきた。
※「Tha Carter」はウェインの名字(Dwayne Carter)であると同時に、1991年の映画『ニュー・ジャック・シティ』に登場する麻薬王ニーノ・ブラウンが拠点とした巨大なアパート「The Carter」を指している。これはウェインがニューオーリンズのヒップホップ・ビジネスにおける支配権を握ったことを象徴するメタファーである。
It's Tha Carter, motherfucker, I came back around
これが「ザ・カーター」だ、俺が再び現れたんだ。
It's Tha Carter, motherfucker, yeah (Hah)
これが「ザ・カーター」だぜ、イェア。
I'ma show you all my building, man (Yeah), it's Tha Carter
俺のビル(城)の中を全部見せてやるよ、これが「ザ・カーター」だ。
I'ma show you the ins, the outs, the ups, the down, know what I'm talking 'bout?
内側も外側も、絶頂もどん底も、全部さらけ出してやる。俺が何を言ってるか分かるか?
This is me, fourth solo album, baby, I came back around
これが俺だ、4枚目のソロアルバム。ベイビー、また一回りして戻ってきたぜ。
※ウェインはこの時、前作までの「子供扱い」されるイメージを払拭しようとしていた。Cash Money Recordsの看板を一人で背負う覚悟を、4作目という節目で強調している。
By myself this time, back off the wall
今回は一人きりだ、崖っぷちから這い上がってきた。
※かつてのグループ「Hot Boys」のメンバーがレーベルを去り、実質的にウェイン一人が主力となった当時の状況を指している。背水の陣であることを示唆している。
Guns up in the air in the middle of the street like bang, bang, bang bang
ストリートのど真ん中で銃をぶっ放す。バン、バン、バン、バンってな。
[Verse]
Welcome, this is Tha Carter, y'all, welcome
ようこそ、これが「ザ・カーター」だ。みんな歓迎するぜ。
Hard as Malcolm, dark as The Falcon, Lord help him
マルコム・Xのようにタフで、「ファルコン」のようにダークだ。神の救いが必要だな。
※「Malcolm」は過激な公民権運動家マルコム・Xを、「The Falcon」は1985年のスパイ映画『コードネームはファルコン(The Falcon and the Snowman)』、あるいは当時ストリートで流通していたブラック・ムービーのダークなキャラクターを引用している。自身の硬派さと危険なオーラを対比させている。
But y'all felt him
だがお前らはヤツ(俺)を感じちまったんだろ。
And that make you a part of me and pardon me
それでお前らも俺の一部になったってわけだ、失礼。
If a part of me is what you wanna be, what you oughta be
もしお前らが俺みたいになりたいなら、あるいはそうあるべきだと思うなら
Doin', recording me or just actin' accordingly
俺を録音するか、あるいは相応に振る舞うことだ。
I give orders to the commander in chief, just the commander in me
俺は最高司令官にすら命令を下す。俺の中に潜む司令官がな。
Handlin' streets in the Mandarin V
マンダリン・オレンジのV(500シリーズ)を転がして、ストリートを支配する。
※「Mandarin V」はメルセデス・ベンツVクラス、あるいはBMWの5シリーズのオレンジカラーを指すと推測される。高級車で街を流しながらビジネスを取り仕切る様子を表現している。
I hear you haters slanderin' me, I just hand 'em to P
ヘイターどもが俺を中傷してるのは聞こえてるが、そんなヤツらはPに任せるぜ。
※「P」はウェインのボディーガード、あるいは地元のコネクションを指す。トップスターとして自ら手を下すまでもないという余裕の表れである。
Any drama, I pace it like Indiana
どんな揉め事も、インディアナのペース(ペイサーズ)で片付けてやる。
※NBAチームの「インディアナ・ペイサーズ」と、揉め事の歩調を合わせる(Pace)をかけたダブルミーニング。2004年当時のNBAの話題性をリリックに組み込むウェイン特有のパンチラインである。
Take your grandma pacemaker and just hand her the piece
お前のばあちゃんの「ペースメーカー」を取り上げて、代わりに「ピース(銃)」を握らせてやるよ。
※前のラインの「Pace」から心臓のペースメーカー、そして銃を意味する「Piece」へと繋げる極めてダークな言葉遊びである。
Not two fingers, I simultaneously pop two bangers
2本の指を立てる(ピースサイン)んじゃねえ、同時に2挺の銃(バンガー)をぶっ放すんだ。
You do not want angus, USDA prime beef, you're dead meat
アンガス牛なんて欲しくないだろ。USDA(米国農務省)認可の極上ビーフだ。お前はもう「死に体(デッドミート)」なんだよ。
※「Beef(揉め事)」と「Meat(食肉)」をかけた高度なメタファー。敵を「屠殺される肉」に例え、その格の違いをUSDA(最高級の格付け)という言葉で強調している。
I'm so ahead of these trendy rappers, speed up
流行りだけのラッパーどもより遥か先を行ってる。スピードを上げろ。
I'm already hot when another one startin' to heat up
他のヤツらが温まり始めた頃には、俺はもうとっくに熱いんだ。
Got Mannie hot with me 'cause I always beat his beat up
プロデューサーのマニー・フレッシュまで熱くさせちまった。俺がいつもヤツのビートを乗りこなしてブチ壊す(Beat up)からな。
※「Beat(リズム)」と「Beat up(叩きのめす)」をかけている。マニーが作ったトラックに対し、ウェインのラップが完璧すぎてビートが悲鳴を上げているという最高の賛辞である。
Y'all cats with y'all feet up startin' to look like V'd up
足を組んでリラックスしてるお前らは、V字型に股を開いてるようにしか見えねえな。
※「V'd up」は女性が股を開いている様子や、臆病者が屈服している様子を揶揄するスラング。怠慢なラッパーを女性化して侮辱している。
I'm G'd up on the re-up, in the truck, gotta put my seat up
再仕入れ(リーアップ)の時もギャングスタを貫く。トラックのシートを立ててな。
※「Re-up」は麻薬の在庫を補充すること。ビジネスの場でも常に武装し、警戒を怠らない姿勢を示している。
In the trunk, I got my base and I ain't speakin' about no speakers
トランクには「ベース(土台)」が入ってる。だがスピーカー(低音)の話をしてるんじゃねえぞ。
※「Base」はスピーカーの重低音(Bass)と、コカインの精製物である「フリーベース(Freebase)」をかけたダブルミーニング。トランクに積んでいるのはオーディオ機器ではなく、大量のドラッグであるという示唆である。
What's leakin' up out of your speakers is the speech of Weezy F. Baby
お前のスピーカーから漏れ出してるのは、ウィージー・F・ベイビーの演説だ。
No more, no less, baby, so forth and so on, let's go
それ以上でも以下でもない。そんな感じさ、さあ行くぞ。
Front door, living room, young nigga switch and weave
玄関からリビングへ。若き黒人が身をかわしながら進む。
※ボクシングの防御技術「Switch and Weave(スイッチとウィーブ)」を用い、捜査の手や敵の攻撃をかわしながらビジネスをこなす様子を表現している。
What you need? Get you crack, get you weed
何が必要だ?クラックか?それともウィード(大麻)か?
Make your way to the back, look ahead and see
奥の部屋へ進め、前を見てみろ。
White bitch in the bathroom givin' head for speed
バスルームじゃ白人の女が「スピード」欲しさにフェラをしてるぜ。
※「Speed」は覚醒剤(アンフェタミン)を指す。ドラッグハウスの生々しい光景を描写している。
Boy, don't you turn your head at me
おい、俺を軽蔑した目で見るんじゃねえぞ。
The president been doin' it, then he tried to ruin it
大統領だってやってたことだ。ヤツはそれを隠して台無しにしようとしたがな。
※当時のブッシュ大統領、あるいはビル・クリントンなどの政治家のスキャンダルや麻薬政策を批判的に引用している。「権力者も裏では同じことをしている」というストリートの論理である。
But I built this building from the ruts
だが俺はこのビル(帝国)をどん底の轍から築き上げたんだ。
I own all the corners and the cuts in this motherfucker
この街の「コーナー(角)」も「カット(抜け道)」もすべて俺の支配下だ。
And the feds know just what's in this motherfucker
連邦捜査官(フェッズ)もこのビルの中に何があるか分かってやがる。
Made niggas, so they can't bust in this motherfucker
ここは「メイド・ニガ(本物のマフィア)」ばかりだ。簡単に踏み込める場所じゃねえ。
※「Made Man」はマフィアの正式な構成員を指す。自分たちが組織化され、守られているため警察も容易には手を出せないことを誇示している。
So with that, let's keep it movin'
さあ、次へ行こうか。
Onto the kitchen where my witches keep it brewin'
キッチンへ案内しよう。ここでは俺の「魔女」たちが何かを煮込んでるぜ。
※「Witches」はドラッグを精製(クック)する女たちを指し、「Brewin'(醸造)」はコカインをクラックに加工する工程を魔女の鍋に例えている。
Uh-huh, look at how my bitches do it
ああ、俺の女たちの働きを見てな。
Bucky-buck-naked, look at all my bitches' booties
真っ裸(バッキー・バック・ネイキッド)だ。女たちのケツを見てみろよ。
※ドラッグを持ち出させないよう、全裸で作業をさせているという非常にシビアなストリートの習慣を描写している。
Hah, they handle all my pharmaceutics
ハハ、彼女らが俺の「医薬品(ドラッグ)」をすべて扱ってるんだ。
I got it, from promethazine to Metamucil
プロメタジン(シロップ)からメタムシル(整腸剤)まで、何でも揃ってるぜ。
※プロメタジンはウェインが愛用する「リーン(紫のドリンク)」の主成分。メタムシル(食物繊維サプリメント)は便秘解消に使われるが、ここではドラッグの混ぜ物や副作用対策、あるいは「不純物を排除する」という比喩として用いられている可能性がある。
I'm crucial, don't mean to spook you
俺は本気(クルーシャル)だ、お前をビビらせるつもりはないがな。
But this is New Orleans, so my queens do voodoo, you know?
だがここはニューオーリンズだ。俺の「クイーン」たちはブードゥー教の呪術を使うんだぜ、分かるか?
※地元の文化であるブードゥー教を引き合いに出し、逆らう者には呪いがかかるという超自然的な威嚇を加えている。
So the things just move through
だからブツは滞りなく流れていく。
I feel your pain, I got things to soothe you
お前の痛みは分かる。癒やしてやるための「モノ」なら持ってるぜ。
There's fields of 'caine, so Wayne in neutral
そこら中に「コカインの野原」が広がってる。だからウェインはニュートラル(自然体)でいられるんだ。
※「Cocaine」と「Cane(サトウキビ)」をかけている。ルイジアナ州の名産であるサトウキビ畑(Cane fields)をコカイン畑に見立て、その中で王として鎮座する自分を表現している。
Don't hate the game, hate the institution
この「ゲーム(ストリートの掟)」を恨むな。恨むならこの「制度(社会の仕組み)」を恨むんだな。
※「Don't hate the player, hate the game」という有名なフレーズを捻り、個人の行動よりも、彼らをそうせざるを得なくさせている社会構造や制度(Institution)に矛先を向けている。
There's fields of 'caine, so Wayne in neutral
コカインが溢れてる。俺は平常心だ。
Don't hate the game, hate the institution, fucker
ゲームを恨むな、このクソな体制を恨みやがれ、ファッカー。
[Outro]
I came back around, it's Tha Carter
戻ってきたぜ、これが「ザ・カーター」だ。
Show you the rest of the house later
屋敷の残りは後で見せてやるよ。
We gonna go upstairs, you know?
次は2階へ行くんだ、分かるだろ?
You know what this is, right?
これが何なのか、分かってるよな?
Tha Carter
ザ・カーターだ。
