Artist: Radiohead
Album: The Bends (Collector’s Edition)
Song Title: Bullet Proof... I Wish I Was (Acoustic)
概要
1995年発表の2ndアルバム『The Bends』に収録された本作のアコースティック・バージョン。ジョニー・グリーンウッドのエフェクトを駆使したアンビエントなノイズ・レイヤーが剥ぎ取られたことで、トム・ヨークが抱えていた極限の脆弱性とメロディの美しさがより生々しく露呈している。突然の世界的ブレイクによってメディアや大衆の暴力的な視線に晒されるようになった彼が、自らを守るための「防弾の皮膚」を渇望する姿は痛ましいほどにパーソナルだ。高度資本主義社会において「消費される自己」というディストピア的テーマが、アコースティック・ギターの静謐な響きの中でより孤独な祈りのように響き渡る貴重なテイクである。
和訳
[Verse 1]
Limb by limb and tooth by tooth
手足の一本一本、歯の一本一本まで。
※肉体を細部まで解体されるようなグロテスクな感覚。「Creep」のメガヒット以降、メディアや大衆によって一挙手一投足を解剖され、ゴシップとして消費されていく自身のプライバシーと身体の喪失を描写している。
Stirring up inside of me
僕の内側で、かき回されている。
※パニック障害や極度の不安感が引き起こす、胃の腑が煮えくり返るような身体的症状(ソマティゼーション)の生々しい表現である。
Every day, every hour
来る日も来る日も、片時も休むことなく。
Wish that I
あぁ、僕が
Was bulletproof
「防弾仕様(バレットプルーフ)」であったなら。
※他者の悪意や批判(言葉の銃弾)に無関心でいられるほどの強靭な皮膚、あるいは感情の麻痺を渇望している。アコースティック版ではサウンドの鎧すら存在しないため、傷つきやすすぎる生身の魂(Highly Sensitive Person)としてのトム・ヨークの実存的な叫びがより切実に響く。
[Verse 2]
Wax me, mold me
僕を蝋で固め、鋳型に流し込んでくれ。
※「Wax(蝋)」と「Mold(型を取る)」。音楽産業(レーベルやA&R)が、アーティストを売れ筋の「商品」として都合よく造形し、マダム・タッソーの蝋人形のように血の通わない偶像へと加工していく過程への強烈な皮肉である。
Heat the pins and stab them in
ピンを熱して、僕に突き刺すがいい。
※ブードゥー教の呪い人形のメタファー。匿名の大衆が、エンターテインメントとしてアーティストの痛ましい部分を突っつき、火傷を負わせるようなサディスティックな行為(現代のキャンセル・カルチャーにも通じる)を暗喩している。
You have turned me into this
君たちが、僕をこんな風に変えてしまったんだ。
※搾取するシステムと群衆に対する静かな告発。
Just wish that it
ただ、願わずにはいられない。
[Chorus]
Was bulletproof
それが防弾仕様であったならと。
Was bulletproof
銃弾を弾き返すほど、強靭であったならと。
[Verse 3]
So, pay me money and take a shot
だから、金を払って僕を撃つ(撮る)がいい。
※「take a shot」は、銃で撃つこと、写真(パパラッチ)を撮ること、あるいは遊園地の射的ゲームに金を払うことのトリプルミーニング。自らの苦痛すらも資本主義のスペクタクル(見世物)として消費されるという、極限のニヒリズムと自己放棄である。
Lead, fill the hole in me
鉛の弾丸よ、僕の心の穴を埋めてくれ。
※「Lead(鉛=銃弾)」。自身を破壊するはずの銃弾そのものに、自らの空虚さを満たしてもらおうとする倒錯した願望。自己破壊によってしか救済を得られない鬱の底無しの暗闇を示している。
I could burst a million bubbles
僕は百万の泡を破裂させることだってできる。
※「bubble(泡)」は、儚い名声、あるいは大衆が抱いている幻想のこと。自らが偶像としての虚像を打ち砕き、すべてを台無しにしてやるという破滅的な自己サボタージュの衝動。
All surrogate
すべては代理品(フェイク)に過ぎないのだから。
※「surrogate(代理の、身代わりの)」。自分が感じている感情も、他者から向けられる愛も、すべては本物ではないシミュラークル(オリジナルなきコピー)であるという冷徹な悟りだ。
[Chorus]
And bulletproof
防弾仕様の。
And bulletproof
銃弾を弾き返すほどの。
And bulletproof
防弾仕様であったなら。
Bulletproof
防弾仕様であったなら。
※オリジナル版のアウトロに存在した「Stop it」の悲鳴がない代わりに、ギターのアルペジオがただ静かに途切れる。外界からの攻撃を止めることも、自らが防弾になることもできないまま、無力に現実を受け入れるしかないアコースティック特有の深い諦念が漂っている。
