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Bloody Waters - Ab-Soul, Anderson .Paak & James Blake 【和訳・解説】

Artist: Ab-Soul, Anderson .Paak & James Blake

Album: Black Panther: The Album

Song Title: Bloody Waters

概要

本楽曲は、Top Dawg Entertainment(TDE)の誇るリリシストAb-Soul、多才なソウルシンガーAnderson .Paak、そしてUKの鬼才James Blakeという異色のトリオが織りなす、アルバム屈指のコンシャスかつ不穏なトラックである。タイトルの「Bloody Waters(血塗られた水)」が示す通り、映画の最大のヴィランであるエリック・キルモンガーの壮絶な生い立ちと、アメリカのゲットーに蔓延する暴力の連鎖、政治の腐敗、そしてミシガン州フリントの水道水汚染問題に代表される環境レイシズムが幾重にもオーバーラップしている。Ab-Soulの高度な言葉遊び(ダブルミーニングやメタファー)と、Anderson .Paakの生命力あふれるコーラス、James Blakeの幽玄な哀哀が交差し、ストリートの「血」の歴史から逃れようとする魂の葛藤を見事に描き出した傑作だ。

和訳

[Intro: Yhung T.O. & James Blake]

Meet the man in the mask
マスクを被った男に会いに行け
※前曲「Paramedic!」のアウトロから直結するフレーズ。大英博物館でアフリカの仮面を奪い、最終的にワカンダの王座を狙うエリック・キルモンガーを指している。また、ストリートにおける覆面の強盗や殺し屋の暗喩でもある。

Meet the man in the mask
マスクを被った男に会いに行け

All those days in, all that stays in
あの日々の中で、すべてが内に留まっている

I don't keep it, I won't be here for it
俺は抱え込まない、そのためにここにいるわけじゃないからな
※James Blakeによる幽玄なボーカル。過去のトラウマや怨念(stays in)から解放されたいという願望と、それが叶わない逃避行の悲哀を表現している。

All those days in, all that stays in
あの日々の中で、すべてが内に留まっている

I don't keep it, though, I won't be here for it
でも俺は抱え込まない、そのためにここにいるわけじゃないから

[Chorus: Anderson .Paak]

Yes, Lawd, huh
イェス、ロード(神よ)、ハッ
※Anderson .Paakのトレードマークであるアドリブ。ゴスペル的な響きを持ちつつも、これから語られるストリートの残酷な真理への前口上として機能する。

Hail Mary's in the sky (Hail Mary's in the sky)
空に祈りの言葉(ヘイル・メアリー)が響き渡る
※「Hail Mary」はカトリックの「アヴェ・マリア(聖母マリアへの祈り)」であると同時に、アメフトにおける「一か八かの大パス」を意味する。また、2Pacのクラシック曲「Hail Mary」へのオマージュでもあり、死と隣り合わせのストリートで生き残りを賭けた最後の祈りを暗示している。

False prophets get buried alive (Alive)
偽物の預言者どもは生きたまま埋葬されるんだ(生きたままな)

Head on the throne, 'cause that's where I reside (Reside)
王座に頭を乗せる、そこが俺の居場所だからさ(居場所だ)
※王座(Throne)を狙うキルモンガーの野望。実力主義のストリートにおいて、自らが頂点(王)であるという力強い自己顕示。

Ways of the world, the weak won't survive
これがこの世の掟だ、弱者は生き残れねえ

Somethin's in the water (The water)
この水の中には何かが混ざってる(水の中にな)
※タイトルの「Bloody Waters(血塗られた水)」に直結する。ワカンダのハーブの儀式における神秘的な水、ミシガン州フリントの水道水汚染問題(黒人コミュニティが直面した環境レイシズム)、そしてストリートに蔓延する暴力の連鎖(血)を飲み込んで育たざるを得ない若者たちの運命というトリプルミーニング。

Ayy, my nigga, we lawless (Lawless)
エイ、マイ・ニガ、俺たちは無法者だぜ(無法者さ)

Please move with caution
頼むから慎重に動いてくれよ

Who set the fairway? (Fairway)
誰がフェアウェイ(安全な道)を用意したってんだ?(フェアウェイ)
※ゴルフのフェアウェイ(障害物のない道)と、「Fair way(公平な方法)」の掛け言葉。アメリカ社会において黒人に用意された道は決して「公平」でも「安全」でもないという社会批判。

Damn right, I need all this (All this)
その通りだ、俺にはこれ全部が必要なんだよ(全部な)

Yeah, Jack, I need all this, ayy
ああ、ジャック、俺にはこれ全部が必要なんだ、エイ

[Post-Chorus: Ab-Soul & Kendrick Lamar]

Hittas acquitted with fingerprints on the Glock
ハジキに指紋が残ってても、ヒットマンたちは無罪放免さ

Screamin', "We gon' make it" like two-thirds of The LOX
「俺たちは成功する(生き残る)」って叫んでる、ザ・ロックスの3分の2みたいにな
※ニューヨークの伝説的ラップグループThe LOX(Jadakiss, Styles P, Sheek Louch)の2001年の大ヒット曲「We Gonna Make It」(JadakissとStyles Pの2人が参加=メンバーの3分の2)を鮮やかにサンプリングしたヒップホップIQの高いライン。ストリートから這い上がる決意の代名詞。

Yeah yeah, yeah yeah
イェーイェー、イェーイェー

"Pow-pow" becomes "Blah, blah"
「バキューン」という銃声が、「ペチャクチャ」という言い訳に変わる

[Verse 1: Ab-Soul]

Blood on my hands, I'ma need hot agua
手が血まみれだ、熱いお湯(アグア)が必要だぜ
※「Agua」はスペイン語で水。シェイクスピアの『マクベス』において、王を暗殺したマクベス夫人が血塗られた手を洗おうとするシーンのメタファー。罪悪感と暴力の連鎖から逃れられない心理状態を描写している。

You gon' meet yo' maker, I won't say it in Patois
お前を創造主(メーカー)に会わせてやる、パトワ語では言わねえけどな
※「meet your maker」は「死ぬ(神に会う)」という英語の慣用句。ジャマイカのパトワ語では「Bumboclaat」などの過激なスラングが使われるが、Ab-Soulはあえて知的な英語表現で殺害予告を行うというひねくれたリリシズム。

Hope I strike a nerve like a package of matches
マッチ箱みたいに、お前の神経に火をつけ(逆撫ででき)ればいいんだがな

You might wanna bypass, this smoke ain't gas trick
バイパス(迂回)した方がいいぜ、この煙(抗争)はただのガスのトリックじゃねえからな

A prince-turned-pauper tryna do like kings do
貧民に転落した王子が、王様みたいに振る舞おうとしてる
※ティ・チャカの弟ウンジョブの息子でありながら、ワカンダの王族の身分を奪われ、アメリカの貧困街(pauper)で育ったキルモンガーの生い立ちそのものを指す、極めて重要なライン。

Sweatin' in chess games, tryna move like kings move
チェスゲームで冷や汗を流しながら、キングの駒みたいに動こうとしてる
※ストリートの抗争をチェスに例えている。チェスの「キング」は1マスずつしか動けない脆弱な駒でありながら、取られればゲームオーバーとなる重圧(Sweatin')を負っている。王座を狙う者の孤独な戦略。

You should slow your roll before you drown in a moat
お堀で溺れる前に、少しペースを落とした方がいいぜ

He tried to channel balance, but never found the remote
奴はチャンネル(バランス)を合わせようとしたが、リモコンを見つけられなかったのさ
※「Channel(水路/テレビのチャンネル)」と「Remote(人里離れた/リモコン)」を掛けた秀逸なワードプレイ。心の平穏(バランス)を保とうとしたが、自分を制御する術を見失い、暴力に呑み込まれてしまったキルモンガーやストリートの若者たちへの哀悼。

Killers on the prowl still juggin' off a lick
うろつく殺し屋どもは、未だに強盗(リック)で稼いでる

**** still a **** with a double for his bleep
は今でもだ、奴の****の影武者(ダブル)と共にな
※意図的に伏せ字(検閲)にされた不穏なライン。政治家やシステムへの過激なディスが含まれていると推測される。

Common politics, everlastin' mayhem
よくある政治、永遠に続く大混乱さ

Draw to stick you for your figures, that's how they hang, man
お前の金(数字)を奪うために銃を抜く、それが奴らのやり方(ハング・マン)なのさ
※「hang」は首吊り(ハングマン)と、仲間とつるむ(hang out)のダブルミーニング。ストリートの冷酷な搾取構造。

So what's your game plan if you got one?
それで、お前に作戦(ゲームプラン)があるなら教えてくれよ?

You aimin' at passengers with a shotgun? Whoa
ショットガンで助手席の奴を狙うつもりか? ウォウ

The aftermath is you in the scope
その結末(アフターマス)は、お前自身がスコープに狙われるってことだぜ

It's warfare—is war fair? No
これは戦争(ウォーフェア)だ—戦争は公平(ウォー・フェア)か? いや、違うね
※「warfare(戦争)」と「war fair(戦争は公平か)」という同音異義語を用いた、Ab-Soul屈指の哲学的なパンチライン。ストリートの殺し合いにも、国家間の戦争にも、決して公平な正義など存在しないという真理の提示。

You understand? It's probably better you don't
分かるか? 分からない方がマシだろうな

Just keep a dock on standby, charter a boat
波止場(ドック)を待機させておけ、ボートをチャーターするんだ
※血塗られた水(Bloody Waters)から逃れるための脱出計画。

Ships set sail and planes depart
船は出航し、飛行機は飛び立つ

The big picture's in motion, are you playin' your part?
大きな絵(大局)は動き出してる、お前は自分の役割を演じてるか?

Before the lights get dark and the curtains get closed
照明が落ちて、カーテンが閉まる前に

Are you playin' your role?
お前は自分の役を演じきってるか?
※人生やヒップホップゲームを舞台演劇に見立て、死(幕引き)が訪れる前に自分自身の使命を果たしているかというリスナーへの根源的な問いかけ。

As told by an organized criminal
組織的犯罪者からの言葉として受け取ってくれ

In general, get off my genitals, I got your general
大抵の場合、俺の股間から離れな、お前らの将軍(ジェネラル)は俺が捕らえたぜ
※「general(一般的/将軍)」と「genitals(性器)」で踏む言葉遊び。敵のトップを打ち取ったという勝利宣言。

[Chorus: Anderson .Paak]

Hail Mary's in the sky (Hail Mary's in the sky)
空に祈りの言葉(ヘイル・メアリー)が響き渡る

False prophets get buried alive (Alive)
偽物の預言者どもは生きたまま埋葬されるんだ(生きたままな)

Head on the throne, 'cause that's where I reside (Reside)
王座に頭を乗せる、そこが俺の居場所だからさ(居場所だ)

Ways of the world, the weak won't survive
これがこの世の掟だ、弱者は生き残れねえ

Somethin's in the water (The water)
この水の中には何かが混ざってる(水の中にな)

Ayy, my nigga, we lawless (Lawless)
エイ、マイ・ニガ、俺たちは無法者だぜ(無法者さ)

Please move with caution
頼むから慎重に動いてくれよ

Who set the fairway? (Fairway)
誰がフェアウェイ(安全な道)を用意したってんだ?(フェアウェイ)

Damn right, I need all this (All this)
その通りだ、俺にはこれ全部が必要なんだよ(全部な)

Yeah, Jack, I need all this, ayy
ああ、ジャック、俺にはこれ全部が必要なんだ、エイ

[Verse 2: Ab-Soul]

I had to be about nine when I first had seen it
俺が初めて「あれ」を見たのは、たしか9歳の時だった

Low-lows pulled up outside of the Ralph's
ラルフス(スーパー)の外に、ローライダーたちが乗り付けてきた

After a car show at Dominguez
ドミンゲス高校でのカーショーの後のことだ
※Ab-Soulの地元、カリフォルニア州カーソンにあるドミンゲス高校(Richard ShermanなどのNFL選手も輩出)周辺での実体験。西海岸特有のローライダー文化の裏にある危険な日常の描写。

They had a disagreement, they had to air out (Air out)
奴らの間でちょっとした口論があって、銃撃戦(エア・アウト)が始まったんだ(銃撃戦さ)

Just another day in Del Amo
デル・アモじゃ、よくある日常の一コマさ
※カーソンにある巨大なショッピングモール、デル・アモ・ファッションセンター周辺。ギャング抗争が日常茶飯事であった地元への複雑な愛憎。

Fo' sho', man down, mando
間違いなく、誰かが倒れる(死ぬ)、それが義務(マンド)みたいなもんさ

(Thank) thank God I never had to knock your partner off
(感謝するぜ)神に感謝するよ、俺がお前の相棒を殺さずに済んで

Or be another casualty of war, amen
あるいは、俺自身がこの戦争の犠牲者にならずに済んでな、アーメン
※ストリートの抗争(戦争)において、加害者にも被害者にもならず、ヒップホップを通じて生き残ることができた奇跡に対する神への感謝。

There's four footprints in the sand where I walk
俺が歩く砂浜には、4つの足跡が残ってる
※有名なキリスト教の詩『あしあと(Footprints in the Sand)』の引用。苦難の時、神が背負って歩いてくれたから足跡が2つになるという詩だが、Ab-Soulは「4つ」と歌う。つまり神に背負われるのではなく、神(あるいは亡き親友や仲間)と「肩を並べて共に歩いている」という独自のスピリチュアルな解釈である。

I never claimed to be a saint at all
俺は聖人君子だなんて、一度も主張したことはねえ

Four Russians trippin' with hollow tips
ホローポイント弾(貫通せずに体内で弾ける殺傷力の高い弾丸)を装填してイカれてる4人のロシア人

And a Kalashnikov, aimed at y'all (Kla-kla-kla!)
そしてカラシニコフ(AK-47)が、お前らを狙ってるぜ(クラ・クラ・クラ!)
※「Four Russians」はカクテルの名前(ブラック・ルシアンのバリエーション)でもあるが、ここではロシア製の自動小銃「AK-47(カラシニコフ)」を扱うギャングたちの比喩。アサルトライフルの乾いた連射音(Kla-kla-kla!)でラインを締める。

No, Soulo, ho, kept it clean
いや、ソウロ(俺)はクリーンにやってきたぜ、ホー

Ridin' dirty, jury would have gave me thirty
もしダーティに(ドラッグや銃を積んで)乗ってたら、陪審員は俺に30年の刑期を与えただろうな
※Chamillionaireのヒット曲「Ridin'」でお馴染みのフレーズ「Ridin' dirty」の引用。ストリートの誘惑を躱し、音楽で成功を収めた自身の選択を振り返っている。

Herbie love buggin' out, hit the target blindfolded
ハービー・ラブ(愛しのハービー)が暴走してる、目隠ししたままでもターゲットに命中するぜ
※1968年のディズニー映画『The Love Bug』に登場する意志を持ったワーゲンビートル「ハービー(Herbie)」の引用。自分がコントロールを失うほど暴走(buggin' out)していても、圧倒的なラップスキルで的を外さないというボースト。

Electorial college devoted
熱狂的な選挙人団

To hit the score, to write the score that's not a metaphor
スコア(大金)を稼ぐために、スコア(歴史的な記録)を書き刻むために、これは決してメタファーじゃねえ
※「hit the score(強盗で大金を得る)」と「write the score(映画のサウンドトラックを作曲する、歴史に名を刻む)」のダブルミーニング。ストリートの犯罪から抜け出し、いま実際に『ブラックパンサー』という歴史的映画のサントラを制作している現実を誇っている。

Ragin' against the machinery, tapin' up the scenery
マシナリー(機械・体制)に対して怒りを燃やし、その光景をテープに記録する
※伝説的ロックバンド「Rage Against the Machine(体制への怒り)」をもじった表現。白人至上主義的なシステムや業界の構造に対するAb-Soulの反逆精神。

You gotta keep the piece to keep the peace
平和(ピース)を保つために、チャカ(ピース)を持ち歩かなきゃならねえ
※「piece(銃)」と「peace(平和)」の同音異義語。ワカンダが平和を守るために強大な武力(ヴィブラニウム)を隠し持っていたことや、ストリートの「抑止力としての武装」という矛盾を突く名ライン。

Got dough, squad up and mopped the block up for a cleanin' fee
金を稼ぎ、仲間を集めて、清掃代(クリーニング・フィー)のためにブロック(街区)を綺麗にモップがけしてやったぜ
※「Mop up」はストリートスラングで「敵を一掃する(皆殺しにする)」こと。音楽で大金(dough)を稼ぎ、TDEという最強のスクワッドでシーンの雑魚どもを一掃したという痛快なエンディング。

[Outro: James Blake]

I don't need you to change
君に変わってほしいなんて思わない

I don't need you to change
君に変わってほしいなんて思わないんだ

Yourself (Get, get away, get away)
君自身のままで(逃げろ、逃げ去るんだ)
※James Blakeの浮遊感のあるボーカルが戻る。ストリートの血塗られた現実(Bloody Waters)に染まってしまった者たちに対し、無理にシステムに迎合(change)するのではなく、その有害な環境そのものから「逃げ出せ(Get away)」と促している。

But I've got to get away (Get, get away, get away)
でも、俺はここから逃げ出さなきゃならない

I've got to get away (Get, get away, get away)
遠くへ逃げ去らなきゃならないんだ

For my health (Get, get away, get away)
俺自身の心を守るために

(Get, get away, get away)
(逃げろ、逃げ去るんだ)

Be as free as you can (Get, get away, get away)
できる限り自由になれ(逃げろ、逃げ去るんだ)

Be as free as you can (Get, get away, get away)
できる限り自由になるんだ

Away from me (Get, get away)
俺から離れて

I tried to be a saint like everybody else
俺だって、他の誰もがそうであるように、聖人になろうとしたんだ
※バース2のAb-Soulのライン「I never claimed to be a saint at all(聖人だなんて主張したことはない)」との対比。平和や理想(聖人)を求めたが、血塗られた現実の中では生き残るために手を汚さざるを得なかった、キルモンガーやストリートの若者たちの悲哀に満ちた魂の叫びである。