Artist: Kendrick Lamar
Album: DAMN.
Song Title: HUMBLE.
概要
本作『DAMN.』の8曲目に鎮座する「HUMBLE.」は、Mike WiLL Made-Itが手掛けた凶暴なピアノリフに乗せて放たれる、アルバム中最も攻撃的で商業的にも大成功を収めたアンセムである。正規順(BLOOD.から始まる運命と悲劇の物語)のストーリーラインにおいて、本作の配置は極めてシニカルかつ重要だ。直前の「PRIDE.(傲慢)」で、ケンドリックは人間のエゴや罪深さについて深く内省し、「完璧な世界なら偽りの謙虚さは見せない」と語っていた。その直後に続くこの曲で、彼は自らが最も「傲慢」な絶対王者として振る舞いながら、周囲のラッパーたちに対して「謙虚になれ(Be humble)、座ってろ(Sit down)」と高圧的に命じるのだ。この巨大な矛盾こそが、現在の彼が「Wickedness(邪悪)」に完全に飲み込まれている状態であることを示している。「BLOOD.」で他者への善意(Weakness)を示して理不尽な死を迎えた彼は、もはや道徳や博愛主義を捨て去り、コンプトンのストリートで培った生存本能と圧倒的なラップスキルを武器に、フェイクな業界を徹底的に蹂躙していく。ブラック・ヘブライ・イスラエライトの教義における「呪い」から逃れられないのであれば、いっそこのバビロン(アメリカ社会)で頂点に君臨し続けてやるという、開き直りにも似た闘争宣言であり、彼の複雑な自我が最も暴力的な形で表出したマスターピースである。
和訳
[Intro]
Nobody pray for me
誰も俺のためには祈ってくれやしねぇ
※「ELEMENT.」や「FEEL.」から引き継がれるアルバムの核となるテーマ。神からの加護や他者からの救済を失った孤独な状態での戦いの幕開け。
It been that day for me
今日はそんな日(試練の日)なんだよ
※孤独とプレッシャーの中で、自らの力のみで状況を打開しなければならない覚悟。
Way (Yeah, yeah)
道を開けな(イェー、イェー)
※ここから、圧倒的な自我の爆発が始まる。
[Verse 1]
Ayy, I remember syrup sandwiches and crime allowances
エイ、シロップ・サンドイッチと、犯罪で稼いだ小遣いのことを覚えてるぜ
※コンプトンでの極貧時代。パンにシロップを挟んだだけの食事と、生きるために身を染めた軽犯罪というルーツの回白。
Finesse a nigga with some counterfeits, but now I'm countin’ this
偽札で奴らを騙してた俺が、今じゃこの大金を数えてる
※過去のストリートのハッスルから、現在の莫大な正当な富へのコントラスト。
Parmesan where my accountant lives, in fact, I'm downin' this
俺の会計士が住む場所にはパルメザン(大金)がある、実際、俺は飲み干してる
※「Parmesan」はチーズ=大金のスラング。会計士を雇うほどの資産家になったというフレックス。
D’ussé with my boo bae, tastes like Kool-Aid for the analysts
俺の女と一緒に飲むデュセ、アナリストどもにとっちゃクールエイドみたいな味だろうな
※「D’ussé」はJay-Zが関わる高級コニャック。「Kool-Aid」は貧困層の子供がよく飲む安価な粉末ジュース。彼を分析(Analyze)しようとする評論家やメディアは、彼の真のラグジュアリーやストリートの味を理解できず、安っぽく解釈しているという皮肉。
Girl, I can buy your ass the world with my paystub
なぁ、俺の給与明細さえあれば、お前に世界だって買ってやれるぜ
※圧倒的な経済力の誇示。
Ooh, that pussy good, won't you sit it on my taste bloods?
ウー、そのプッシーは最高だ、俺の「味覚(Taste bloods)」の上に座ってくれないか?
※本来は「Taste buds(味蕾)」だが、意図的に「Bloods」と発音している。これはLAのストリートギャング「Bloods」を暗示しており、彼のルーツであるコンプトンの血の匂いを漂わせるダブルミーニング。
I get way too petty once you let me do the extras
俺に「特別扱い(エキストラ)」をさせたら、徹底的に容赦しねぇぞ
※少しでも隙を見せたり、舐めた真似をすれば、些細なこと(Petty)でも徹底的に潰すというストリートの掟。
Pull up on your block, then break it down, we playin' Tetris
お前らのシマに乗り込んで、ぶっ壊してやる、テトリスでもやってるみたいにな
※「Block(区画)」とテトリスの「ブロック」を掛けている。敵の縄張りを遊び感覚で消し去る余裕。
A.m. to the p.m., p.m. to the a.m., funk
朝から晩まで、晩から朝までだ、クソが
※休むことのないハードワーク。
Piss out your per diem, you just gotta hate 'em, funk
お前らの日当なんてションベンで流してやる、ただ憎むしかねぇだろ、クソが
※「Per diem」は出張などの日当。他のラッパーの稼ぎなど、彼にとっては排泄物と同等の価値しかないという痛烈なディス。
If I quit your BM, I still ride Mercedes, funk
お前のベイビーママ(BM)と切れても、俺はまだメルセデスに乗ってるぜ、クソが
※BMは「Baby Mama(子供の母親)」と「BMW」のダブルミーニング。女を捨てても(BMWを手放しても)、俺のステータス(Mercedes)は揺るがないという言葉遊び。
If I quit this season, I still be the greatest, funk
もし俺が今シーズンで引退したとしても、俺が史上最高(G.O.A.T.)であることに変わりはねぇ、クソが
※すでに歴史に名を刻んでおり、今のラップゲームで証明すべきことは何もないという絶対的な自信。
My left stroke just went viral
俺の左腕のストローク(一撃)が、今バイラル(バズ)になったとこだわ
※彼が放つ楽曲やMVがあっという間に世界中に拡散(Viral)される様。あるいは水泳のストロークのように音楽業界をスイスイと泳ぐ姿。
Right stroke put lil' baby in a spiral
俺の右のストロークで、ガキどもは螺旋(スパイラル)に落ちていく
※強烈なパンチ(ラップのスキル)で他の未熟なラッパー(lil' baby)を混乱と絶望の渦に叩き込む。
Soprano C, we like to keep it on a high note
ソプラノのC(ハイC)、俺らは常に高いノート(高み/高額紙幣)をキープするのが好きなんだ
※「High note」は音楽的な高音と、「高額紙幣(C-note=100ドル札)」、そしてウィードで「ハイになる」ことのトリプルミーニング。
It's levels to it, you and I know
格(レベル)が違うんだよ、お前も俺も分かってんだろ
※自分と他のラッパーとの間には、決して越えられない壁がある。
[Chorus]
Bitch, be humble (Hold up, bitch)
ビッチ、謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
※この曲の根幹をなす巨大な矛盾。最も傲慢(Pride)なフレックスを連発した直後に、他人に対してのみ「謙虚さ」を強要する。これは神が人間に求める絶対的な服従を、彼自身が他者に求めているとも解釈できる。
Sit down (Hold up, lil'— hold up, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、小僧— 待てよ、ビッチ)
※身の程をわきまえろという命令。
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, sit down, lil’— sit down, lil’ bitch)
座ってろ(待てよ、座れ、小僧— 座ってろ、ビッチ)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil' bitch)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待てよ、ビッチ)
Bitch, sit down (Hold up, lil’ bitch)
ビッチ、座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, hold up, hold up, hold up)
座ってろ(待て、待て、待て、待て)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil'—)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待て、小僧—)
Sit down (Hold up, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, sit down, lil'— sit down, lil’ bitch)
座ってろ(待てよ、座れ、小僧— 座ってろ、ビッチ)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil' bitch)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待てよ、ビッチ)
Bitch, sit down (Hold up, lil' bitch)
ビッチ、座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, hold up, hold up, hold up)
座ってろ(待て、待て、待て、待て)
[Verse 2]
Who that nigga thinkin' that he frontin' on Man-Man? (Man-Man)
マン・マンに対して虚勢を張れると思ってる奴はどこのどいつだ?(マン・マン)
※「Man-Man」はケンドリックの家族内での幼少期のあだ名。自分がいかにビッグになってもルーツを忘れていない証であり、地元の自分を知る者なら絶対に逆らわないという脅し。
Get the fuck off my stage, I'm the Sandman (Sandman)
俺のステージから失せな、俺は「サンドマン」だぜ(サンドマン)
※NYのアポロ・シアターの名物キャラ「サンドマン・シムズ」の引用。彼はアマチュア・ナイトでパフォーマンスが下手な出場者をほうきでステージから追い出す役割だった。ケンドリックはワックなラッパーをヒップホップ界から追放する権限を持っていると宣言している。
Get the fuck off my dick, that ain't right
俺のディックから離れろ(媚びを売るな)、そんなの間違ってるぜ
※名声を利用しようとすり寄ってくる連中への嫌悪。
I make a play fucking up your whole life
俺が一手打てば、お前の人生ごとぶっ壊せるんだぞ
※業界における彼の絶大な権力。
I'm so fuckin' sick and tired of the Photoshop
俺はPhotoshop(加工)にはもうウンザリなんだよ
※現代のSNSやメディアに蔓延する、作り物(フェイク)の美しさや偽りのイメージに対する強烈な批判。
Show me somethin' natural like afro on Richard Pryor
リチャード・プライヤーのアフロみたいに、何か自然な(ナチュラルな)ものを見せてくれよ
※伝説的な黒人コメディアン、リチャード・プライヤー。彼のアフロは黒人としてのありのままのルーツと誇りの象徴である。
Show me somethin' natural like ass with some stretch marks
妊娠線の残るケツみたいに、自然なものを見せてくれよ
※整形手術や画像加工で作られた体ではなく、女性の自然な肉体(母性や生の証であるストレッチマーク)こそが美しいという、彼のリアル志向な価値観。
Still'll take you down right on your mama couch in Polo socks
ポロのソックスを履いたまま、お前のママのソファの上でヤってやるよ
※飾らない自然な魅力を持つ女性に対し、高級ホテルではなく実家のソファというリアルなシチュエーションで愛し合うという、ストリート特有の生々しいロマンス。
Ayy, this shit way too crazy, ayy, you do not amaze me, ayy
エイ、この状況はマジで狂いすぎてる、エイ、お前らじゃ俺を驚かせることはできねぇよ、エイ
※彼の成功の規模が常軌を逸しており、他のラッパーの小手先のトリックではもはや感動しない。
I blew cool from AC, ayy, Obama just paged me, ayy
エアコン(AC)みたいにクールな風を吹かせてやる、エイ、オバマからページャー(ポケベル)が鳴ったぜ、エイ
※「AC」はAir Conditionerと、彼の地元コンプトンに隣接する「Auto Club(自動車クラブ)」のダブルミーニングの可能性。さらに前大統領のバラク・オバマと個人的な親交がある(実際にホワイトハウスに招かれている)という、他のラッパーには絶対に真似できない究極のフレックス。
I don't fabricate it, ayy, most of y'all be fakin', ayy
俺は話を作ったり(捏造)しねぇ、エイ、お前らの大半はフェイクだ、エイ
※自分は事実しか語っていないという宣言。
I stay modest 'bout it, ayy, she elaborate it, ayy
俺はそのことについて控えめ(モデスト)にしてるが、エイ、彼女が詳細を語ってくれるさ、エイ
※自分で自慢しなくても、彼の功績や凄さは周囲(メディアや女性たち)が勝手に広めてくれる。
This that Grey Poupon, that Evian, that TED Talk, ayy
これはグレイ・プーポン(高級マスタード)、エビアン(ミネラルウォーター)、TEDトークのレベルのシットだぜ、エイ
※「Grey Poupon」はヒップホップで高級品の代名詞としてよく使われる。知的なプレゼン番組である「TED Talk」を引き合いに出し、自分のラップが単なるストリートの音楽を超えた知的で高尚な芸術であることを主張している。
Watch my soul speak, you let the meds talk, ayy
俺の「魂」が語るのを見てろ、お前らは「クスリ(Meds)」に語らせとけ、エイ
※最近のラッパーたちがリーン(咳止めシロップ)やザナックスなどの薬物に頼って中身のないラップをしていることを痛烈に批判。ケンドリックの言葉は自身の魂から直接湧き出たものである。
If I kill a nigga, it won't be the alcohol, ayy
もし俺が誰かを殺すとしたら、それは酒のせいじゃねぇ、エイ
※前作の「u」などで語られたアルコール依存の弱さ(Weakness)を克服し、シラフの意志(冷酷なWickedness)として完全に相手を仕留めるという宣言。
I'm the realest nigga after all
結局のところ、俺が一番「リアル」な男なんだよ
※神の前ではちっぽけな存在であっても、このヒップホップゲームにおいては自分こそが唯一無二の真実であるという絶対的な結論。
[Chorus]
Bitch, be humble (Hold up, bitch)
ビッチ、謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, lil'— hold up, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、小僧— 待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, sit down, lil'— sit down, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、座れ、小僧— 座ってろ、ビッチ)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil' bitch)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待てよ、ビッチ)
Bitch, sit down (Hold up, lil' bitch)
ビッチ、座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, hold up, hold up, hold up)
座ってろ(待て、待て、待て、待て)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil'—)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待て、小僧—)
Sit down (Hold up, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, sit down, lil'— sit down, lil' bitch)
座ってろ(待てよ、座れ、小僧— 座ってろ、ビッチ)
Be humble (Hold up, hold up, hold up, hold up, lil' bitch)
謙虚になれ(待て、待て、待て、待てよ、ビッチ)
Bitch, sit down (Hold up, lil' bitch)
ビッチ、座ってろ(待てよ、ビッチ)
Be humble (Hold up, bitch)
謙虚になれ(待てよ、ビッチ)
Sit down (Hold up, hold up, hold up, hold up)
座ってろ(待て、待て、待て、待て)
※徹底的なマウンティングと傲慢さを見せつけた後、アルバムはさらに深い自己探求の沼である次曲「LUST.(肉欲)」へと、彼をカルマの底へ引きずり込んでいく。
