目次
- 目次
- アルバム解説
- トラック和訳
- 1. SIR BAUDELAIRE
- 2. CORSO
- 3. LEMONHEAD
- 4. WUSYANAME
- 5. LUMBERJACK
- 6. HOT WIND BLOWS
- 7. MASSA
- 8. RUNITUP
- 9. MANIFESTO
- 10. SWEET / I THOUGHT YOU WANTED TO DANCE
- 11. MOMMA TALK
- 12. RISE!
- 13. BLESSED
- 14. JUGGERNAUT
- 15. WILSHIRE
- 16. SAFARI
- 17. EVERYTHING MUST GO
- 18. STUNTMAN
- 19. WHAT A DAY
- 20. WHARF TALK
- 21. DOGTOOTH
- 22. HEAVEN TO ME
- 23. BOYFRIEND, GIRLFRIEND (2020 Demo)
- 24. SORRY NOT SORRY
アルバム解説
概要
2023年3月に突如として届けられた『CALL ME IF YOU GET LOST: The Estate Sale』は、2021年のヒップホップ・シーンを席巻し、グラミー賞を手にした大傑作の「完結編」である。本作は単なる未発表曲集ではない。タイラー本人が「CMIYGLのセッション中に生まれたが、収録しきれなかったあまりにも良質な楽曲たち」と語る通り、そこには「Tyler Baudelaire」というペルソナが旅の終わりに整理した、極めて純度の高いクリエイティビティが凝縮されている。DJ Dramaによる Gangsta Grillz 流の煽りはそのままに、プロダクション面ではマッドリブの参加や、タイラー自身のプロダクション能力がさらに研ぎ澄まされた楽曲が並ぶ。リリース当時、シーンはタイラーが次にどの方向へ向かうのか注視していたが、彼は本作で「ボートレール時代」に完璧な終止符を打ち、自身の過去・現在・未来を繋ぐ極めて重要なステートメントを提示してみせた。
コアテーマと考察
「Estate Sale(遺品整理)」が意味する過去人格との決別
アルバムタイトルに冠された「Estate Sale」とは、一般的に家主が亡くなった際などに遺品を整理・売却することを指す。タイラーはこの言葉を借りて、CMIYGL期に作り上げた「Tyler Baudelaire」という豪華絢爛な旅人のペルソナを、自らの手で解体し、次なるステージへ進むための儀式として本作を位置づけた。追加された新曲群は、旅の華やかさの裏側にある内省や、かつて抱いていた渇望をより深く掘り下げている。これは、単なる「余り物」の放出ではなく、彼がアーティストとして常に変化し続けるために必要な「脱皮」のプロセスを、ファンと共有するためのアーカイブなのである。
「SORRY NOT SORRY」:多重人格的なキャリアの総括と全方位への宣戦布告
追加楽曲の白眉であり、タイラーのキャリア史上最も重要な曲の一つとなったのが「SORRY NOT SORRY」である。この曲のミュージックビデオでは、これまでのタイラーの歴史――『Bastard』の初期衝動、『Wolf』の孤独、『Cherry Bomb』の混乱、『Flower Boy』の開花、『IGOR』の悲恋、そして『Baudelaire』の富――を象徴するすべての人格が登場し、現在のタイラーによって一人ずつ葬られていく。リリックでは、カミングアウト、母親への愛、過去の失言、ファンとの距離、そして自らの富への執着まで、ありとあらゆる事象に対して「申し訳ない(Sorry)」と「やっぱり申し訳なくない(Not Sorry)」を繰り返す。これは、他者からの評価や過去のイメージに縛られることを拒絶し、一人の人間としての複雑さをそのまま受け入れるという、究極の自己肯定の宣言である。
ブラック・ラグジュアリーの深淵とクリエイティブな自由の獲得
「DOGTOOTH」や「WHARF TALK」で見られるサウンドは、1970年代のソウルやAORの極上のエッセンスを、現代のヒップホップのフィルターで濾過したような豊潤さを持っている。タイラーが本作で見せつける「成功」は、単なる金銭的な誇示にとどまらない。それは、黒人アーティストがいかにして「ラップ」という枠組みを維持したまま、ジャンルの境界線を消し去り、誰にも指示されずに自らの「美学(Aesthetic)」を貫き通せるかという自由の証明である。彼は自身の欲望を隠さず、同時にその欲望がもたらす孤独をも描き出すことで、ラグジュアリー・ラップに深遠な人間性を吹き込んだ。本作は、彼がもはや誰のフォロワーでもなく、独自の文化圏を統治する王であることを確信させる内容となっている。
総評
『CALL ME IF YOU GET LOST: The Estate Sale』は、デラックス盤という形式を借りた、Tyler, The Creatorによる「2010年代から2020年代へ至るまでの自己探求の旅」の総決算である。本作をもって「Baudelaire」の旅は終わるが、それは同時に、彼がまた全く新しい未知の領域へと足を踏み出す準備が整ったことを意味している。既存のヒップホップの文脈を重んじながら、同時にそれを破壊し再構築する彼の手腕は、もはや一つのジャンルとして独立していると言っても過言ではない。音楽史において、一人のラッパーがこれほどまでに自身のアイデンティティを多層的に、かつ美的に管理し、表現しきった例は他にない。本作は、タイラーが「現代の巨匠」であることを改めて世界に刻みつけた、非の打ち所がないクロージング・ステートメントである。
トラック和訳
1. SIR BAUDELAIRE
2. CORSO
3. LEMONHEAD
4. WUSYANAME
5. LUMBERJACK
6. HOT WIND BLOWS
7. MASSA
8. RUNITUP
9. MANIFESTO
10. SWEET / I THOUGHT YOU WANTED TO DANCE
11. MOMMA TALK
12. RISE!
13. BLESSED
14. JUGGERNAUT
15. WILSHIRE
16. SAFARI
17. EVERYTHING MUST GO
18. STUNTMAN
19. WHAT A DAY
20. WHARF TALK
21. DOGTOOTH
22. HEAVEN TO ME
23. BOYFRIEND, GIRLFRIEND (2020 Demo)
24. SORRY NOT SORRY
