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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

By the Grace of God - Clipse & Pharrell Williams 【和訳・解説】

Artist: Clipse & Pharrell Williams

Album: Let God Sort Em Out

Song Title: By the Grace of God

概要

Clipseの完全復活アルバム『Let God Sort Em Out』に収録された本作は、盟友Pharrell Williamsを迎え、彼らが生き延びてきたストリートの凄惨な過去と、現在に至るまでの「神の恩寵(Grace of God)」を歌い上げた内省的で重厚なトラックだ。Maliceのヴァースでは、刑務所送りになった仲間や亡くなった兄弟たちの遺品整理という生々しいトラウマが語られ、コカイン・ビジネスの魅力に抗えなかった過去の自分を省みる。対するPusha Tは、ストリートの不吉な予兆や死の影を振り切り、防弾仕様のロールス・ロイスで頂点に君臨する勝者の姿を描き出しつつも、自らが売り捌いてきた「薬物」が実は「死」そのものであったことに気づくという、痛切な自己対話を見せる。Pharrellによる哀愁漂うコーラスは、崩壊していくストリートの帝国を俯瞰し、彼らが生き残ったのは実力だけでなく「神の導き」であったことを示唆している。ヒップホップにおけるサバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)と信仰を見事に昇華させた傑作である。

和訳

[Verse 1: Malice]

The Devil's tapping on shoulders
悪魔が肩を叩いている

He's tryna get to know ya
奴はお前に取り入ろうとしてるんだ

The right time to fold ya
お前をへし折る(破滅させる)のに、最適なタイミングでな
※ストリートの誘惑や大金の魔力が、人間の隙を突いて破滅へと導く様子を悪魔に例えている。

I'm losing saints and my soldiers
俺は聖人たちと、俺の兵隊たちを失い続けている
※善人も、ストリートで戦う仲間たちも、等しく命を落としたり刑務所に送られたりしている現実。

It's all Lodi Dodi till you looking at the body
死体を目の当たりにするまでは、全部「ロディ・ドディ(お祭り騒ぎ)」みたいに楽しいのさ
※Snoop DoggらがカバーしたDoug E. Fresh & Slick Rickのクラシック・パーティーアンセム「Lodi Dodi」を引用。ドラッグで稼ぐ華やかな生活の裏にある、突然訪れる「死」という残酷な現実を対比させている。

Smiles I'll never see again
二度と見ることのない笑顔

Never be a "we" again
二度と「俺たち」には戻れない

Cleaning out your closet
お前のクローゼットを片付けてるよ

The one you kept your demons in
お前が「悪魔(暗い秘密)」を閉じ込めていた場所だ
※亡くなった仲間の遺品整理。同時に「Skeletons in the closet(人に言えない秘密)」というイディオムを踏まえ、亡き友が抱えていた苦悩や裏の顔に直面する悲哀を描いている。

Hard for me to breathe again
また息をするのも辛いよ

I'ma blame your head, not your heart
お前の心のせいじゃなく、頭(考え方)のせいにするよ
※友人がストリートで命を落としたのは、彼が根本から悪い人間(Heart)だったからではなく、環境が生んだ間違った選択(Head)のせいだったと解釈することで、自身を納得させようとする痛切なライン。

Till we meet again
また(天国で)会う日までな

Easily I coulda been one of them
俺だって簡単に、奴らのうちの一人になってたかもしれない

Locked up and never get to see the sun again
檻にぶち込まれて、二度と太陽を見られないような運命にな
※サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)と、紙一重で生き残ったことへの畏怖。

Burning buildings, I kept running in
燃え盛るビルに、俺は何度も飛び込んでいったんだ
※警察の捜査網や抗争のリスク(Burning buildings)を承知の上で、ドラッグディールの現場に向かっていた過去の狂気。

The allure every time I flew a hunnid in
100(キロ)のブツを空輸するたびに感じる、あの魅力に惹かれてな

Codefendant cave in and lawyers couldn't save him
共犯者はプレッシャーに折れちまい、弁護士もそいつを救えなかった

All for the love of 580's and a mixed bitch having ya baby
全部ベンツの580と、お前のガキを産むミックスのビッチのためさ
※「580」はメルセデス・ベンツの高級SUV(GLS 580など)。高級車や美しい女性といった物質的な欲望(Love)が、結局はストリートの人間を破滅(密告や逮捕)へと導くという虚無感。

I done dodged strays crazy
俺は飛んでくる流れ弾を、狂ったように避けてきた

Man, I think about this shit daily
なあ、俺は毎日このクソみたいな過去を思い出してるんだ

[Pre-Chorus: Pusha T]

When the crew breaks apart, who takes the charge?
クルーがバラバラになった時、誰が罪(チャージ)を被るんだ?

You face the cards, I lace the squad
お前は配られたカード(運命)に向き合い、俺はスクワッド(仲間)に報いる
※「Lace」は靴紐を結ぶ=準備させるという意味や、金で武装させる・報いるという意味。捕まった仲間に対し、残されたボスとして弁護士費用などを負担して面倒を見るストリートの掟。

Went from mason jars to crepe tartare's
メイソンジャーから、クレープ・タルタルへとな
※「メイソンジャー」はストリートでマリファナを保管したり、ドラッグの密造に使われたりする安価なガラス瓶。「クレープ・タルタル」は高級レストランのメニュー。底辺のハスラーから超富裕層への劇的な飛躍を韻を踏んで表現している。

Escape the odds by the Grace of God
神の恩寵(Grace of God)によって、その絶望的な確率から逃げ延びたのさ

[Chorus: Pharrell]

I seen killers and kingpins sing behind the wall
俺は殺し屋やキングピン(麻薬王)が、塀の向こうで「歌う(密告する)」のを見てきた
※どんなにタフな大物でも、長い刑期を前にすると警察に仲間を売る(Sing)という冷酷な現実。

I watched many men die cause no one would make the call
誰も電話をかけようとしなかったせいで、何人もの男が死ぬのを見た
※ストリートの掟(Snitches get stitches=密告者は殺される)に縛られ、救急車や警察を呼べずに見殺しにされる悲劇。

I've seen entire empires crumble and fall
帝国全体が崩壊し、落ちていくのを見てきたんだ
※巨大な麻薬カルテルやストリートの組織が、内部崩壊や一斉摘発で消滅する様。

Yes, I've seen it all
ああ、俺はすべてを見てきたんだ

They missed this wall
奴らはこの壁を越えられなかった
※刑務所の壁(Wall)に阻まれ、自由や人生を失った者たちへの言及。

By the Grace of God
神の恩寵によって(俺たちは生き残ったんだ)

[Verse 2: Pusha T]

All the black cats I seen
俺が見てきたすべての黒猫(不吉の象徴)

All the black MAC's I squeezed
俺が引き金を絞ったすべての黒いMAC(サブマシンガン)

All the black crows I dreamed
俺が夢に見たすべての黒いカラス(死の象徴)

Even the black cloud hovering
頭上を覆う黒い雲でさえ

Couldn't touch me in the bulletproof Cullinan
防弾仕様のカリナン(ロールスロイス)に乗る俺には、指一本触れられなかった
※「Black」で韻を踏みながら、死や不吉な予兆が常に付きまとっていたストリート時代を描写。しかし現在、圧倒的な富(防弾の超高級SUV)を手に入れた彼には、その呪いすら届かないという絶対的なフレックス。

Tears on my pillow case
枕カバーの上の涙

Was I spitting in yo' face
俺はお前の顔に唾を吐いていたのか

When you let me beat that case (Ha)
お前が俺に、あの裁判を勝たせて(無罪にさせて)くれた時に(ハッ)
※重罪を免れた(Beat the case)のは神の助け(あるいはいずれかの身代わり)だったのに、その恩を仇で返すように再び犯罪に手を染めていた自分への強烈な自省。「お前(You)」は神、もしくは身代わりになった仲間を指すと考えられる。

Some niggas see the money, can't make it (Can't make it)
金を見ても、稼げない奴らがいる(稼げない)

Some niggas get the money, can't take it (Can't take it)
金を手に入れても、それに耐えられない奴らがいる(耐えられない)
※大金を手にした途端にパラノイアやプレッシャーに押し潰されるハスラーたちの末路。

Gotta realize that they was naked (Naked)
奴らが丸裸だったってことに気づかなきゃな(丸裸に)
※虚飾を剥がせば、彼らには本質的な強さがなかったという指摘。

Was I cooking death when I was baking (Uh)
俺は「死」を料理していたのか、あの時ブツを焼いていた俺は(アー)
※コカインを火にかけて(Baking)クラックを精製することが、結果的に黒人コミュニティに「死」を振り撒く行為だったという、Pusha Tのキャリアにおいても非常に珍しい、罪の重さに気づくライン。

Salt bae it, sprinkle it and sauté it (Shhh)
「ソルト・ベイ」みたいにな、振りかけて、ソテーするんだ(シーッ)
※特徴的な塩の振り方で世界的に有名になったシェフ「Salt Bae」の動きと、コカインの精製や客への小分け作業を掛け合わせた見事な直喩。自責の念から一転、不遜なドラッグディーラーのペルソナへとシームレスに回帰する。

You don't trust me then we all weigh it
俺を信用できないなら、みんなで計りにかけようぜ
※取引相手との緊張感。デジタルスケールでブツの重さをごまかしていないか確認するリアルな現場。

And it ain't over till we all say it
俺たち全員が「終わりだ」と言うまで、こいつは終わらねえ

And you ain't shooting shit, them guns is archaic
お前は何も撃ってやしねえ、そんな銃は時代遅れ(アルカイック)だ
※最新の兵器(ビジネスモデル)を持つ自分たちに対し、古いやり方に固執するフェイクなギャングスタを嘲笑。

In closing, I see I'm chosen
締めくくりに言っておくが、俺は自分が選ばれし者だって分かってる

All my pressure points frozen
俺のプレッシャーポイント(弱点)はすべて凍りついている
※「Frozen」は「感情が麻痺している(冷酷無比)」という意味と、首元や手首の弱点(脈を測る部分)がすべて「大量のダイヤモンド(Ice/Frozen)で覆われている」という究極のダブルミーニング。神の恩寵を受け、無敵の存在となったPusha Tの完璧なクロージング。

You know how it goes
どういうことか分かるだろ

[Pre-Chorus: Pusha T]

When the crew breaks apart, who takes the charge?
クルーがバラバラになった時、誰が罪(チャージ)を被るんだ?

You face the cards, I lace the squad
お前は配られたカード(運命)に向き合い、俺はスクワッド(仲間)に報いる

Went from mason jars to crepe tartare's
メイソンジャーから、クレープ・タルタルへとな

Escape the odds by the Grace of God
神の恩寵(Grace of God)によって、その絶望的な確率から逃げ延びたのさ

[Chorus: Pharrell]

I seen killers and kingpins sing behind the wall
俺は殺し屋やキングピン(麻薬王)が、塀の向こうで「歌う(密告する)」のを見てきた

I watched many men die cause no one would make the call
誰も電話をかけようとしなかったせいで、何人もの男が死ぬのを見た

I've seen entire empires crumble and fall
帝国全体が崩壊し、落ちていくのを見てきたんだ

Yes, I've seen it all
ああ、俺はすべてを見てきたんだ

They missed this wall
奴らはこの壁を越えられなかった

(Yeah)
(イェー)

By the Grace of God
神の恩寵によって(俺たちは生き残ったんだ)