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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Let God Sort Em Out/Chandeliers - Clipse & Nas 【和訳・解説】

Artist: Clipse & Nas

Album: Let God Sort Em Out

Song Title: Let God Sort Em Out/Chandeliers

概要

15年の歳月を経て完全復活を遂げたClipseのアルバムタイトル曲であり、二部構成(ビートスイッチ)の壮大なエピックである。前半の「Let God Sort Em Out(あとは神に任せろ/殺して神の裁きに委ねろ)」では、Pusha TとMaliceが麻薬カルテルの冷酷な世界観と、敵対するラッパーたちへの圧倒的な死の宣告を展開する。ドミニカ共和国の野球やハンセン病、コロンビアのコーヒー畑など、高度な隠喩と地理的なリファレンスを駆使したClipseならではのコカイン・ラップの極致が示される。後半の「Chandeliers」では、クイーンズの伝説・Nasが登場。Hit-Boyとの『King's Disease』及び『Magic』シリーズでベテランラッパーの新たな黄金期を自ら証明し、ヒップホップ・シーンにおける「エイジング(加齢)」の概念を根本から覆した自身の功績を力強く宣言する。ストリートの暗黒面から頂点の輝き(シャンデリア)へと至る、東海岸とバージニアのレジェンドたちによる歴史的なコラボレーションである。

和訳

[Part I: Let God Sort Em Out]

[Verse: Pusha T & Malice]

It's always the loudmouths that can't count
いつだって、計算ができない(金や弾の数を数えられない)奴に限って口数が多すぎるんだ
※ストリートにおける不文律。本当に恐ろしい人間は沈黙を守り、口先だけで吠えるフェイクな奴ほど実力(数)が伴っていないという冷徹な指摘。

The right price, I put the AR in the saint's mouth (Yeah, talk about it)
正当な値段(報酬)が支払われるなら、聖人の口にだってAR(アサルトライフル)を突っ込んでやるぜ(ああ、語ってやれ)

Bring all the watches and the chains out
持ってる時計とチェーンを全部出せ
※強盗(スティック・アップ)の生々しい描写。

Heat come, I'm De Niro, I got the safe house
サツ(熱)が来ても、俺はロバート・デ・ニーロさ、セーフハウス(隠れ家)を持ってるからな
※名作映画『ヒート』(1995年)でデ・ニーロ演じる冷徹なプロの強盗犯ニール・マッコーリーへのオマージュ。警察(Heat)の追跡を逃れるための完璧な計画と隠れ家を用意している。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

Surrounded by niggas with tears that don't drip
「決してこぼれ落ちない涙」を浮かべた奴らに囲まれてるんだ
※「Tears that don't drip(こぼれない涙)」は、顔に彫られた涙のタトゥー(Tear drop tattoo)のこと。ストリートでは「殺人を犯したこと」や「服役したこと」を意味する。本物の殺し屋たちに囲まれているという極限の暴力性の誇示。

(Talk about it)
(語ってやれ)

That ain't the ghost that you appear to go get
それじゃ、お前が手に入れようとしてる「ゴースト」には見えねえな
※「Ghost(幽霊)」と、超高級車ロールス・ロイス・ゴーストのダブルミーニング。敵のフェイクな富や、本当に死(ゴースト)を覚悟しているわけではない半端な態度を嘲笑している。

Finally got the courage but you still a whole bitch
やっと勇気を振り絞ったようだが、お前は相変わらず完全なビッチだ

The rest of y'all on my six year ago shit
お前ら残りの連中がやってるのは、俺が6年前にやってたレベルのクソさ
※Pusha Tの最高傑作と名高い『Daytona』(2018年リリース)の頃のレベルに、他のラッパーたちがようやく今頃追いつこうとしているというタイムスパンの皮肉。

Every move intentional, the links is atypical
すべての動きは意図的、リンク(繋がり)は非典型的だ
※彼らのビジネスや人脈(Links)、あるいは首元のキューバンリンク・チェーンが規格外(Atypical)であること。

Like baseball in D.R., you know what the stick'll do
D.R.(ドミニカ共和国)の野球みたいにな、「スティック」が何を引き起こすか分かってるだろ
※ドミニカ共和国(D.R.)はメジャーリーグに多数の強打者を輩出する野球大国。「Stick」は野球のバットを指すと同時に、ストリートでは「アサルトライフル(長物)」を意味する。バットで特大ホームランをかっ飛ばすように、アサルトライフルで敵を粉砕するという巧みなワードプレイ。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

We got the drop on your shadow
俺たちはお前の影すら押さえてる(完全に先回りしてる)んだぜ

You know we can get to you
いつでもお前の命を奪えるってこと、分かってるよな

The pen to exprеss my dreams and expertisе
俺の夢と専門知識(エキスパティーズ)を表現するためのペン

And TEC's I squeeze
そして俺が引き金を絞る(スクイーズする)TEC(テック9)
※ラッパーとしてのペンと、ギャングとしての銃(TEC-9)の対比。

Coke spots all over like leprosy
ハンセン病(レプラ)みたいに、至る所にコーク・スポット(麻薬の売場)がある
※全身に斑点(Spot)が現れる病気と、街中にコカインの密売所(Spot)が存在する様子を掛けた、ダークで卓越したシミー(直喩)。

It's a dark spirit tucked behind the flesh you see
お前が見ているこの肉体の裏には、暗黒の魂(ダーク・スピリット)が隠されてるんだ

Got every single word of the hex I need
俺に必要な「呪い(ヘックス)」の言葉は、一語残らず手に入れてる

The death I breathe, the death I see
俺が呼吸する死、俺が目撃する死

Looks so good on ya, the coffin wood on ya
お前によく似合ってるぜ、お前を覆う棺桶の木材がな

Closed casket cause I'm only siccing wolves on ya
閉じた棺桶(クローズド・キャスケット)になるぜ、俺はお前に狼どもをけしかけるだけだからな
※アメリカの葬儀では通常、棺を開けて故人と対面するが、顔が原型を留めないほど激しく損傷している場合は「Closed casket」となる。ヒットマン(狼)たちに惨殺されるため、顔を見ることもできないという残虐な宣告。

Berlinetta horse power, put them hooves on ya
ベルリネッタの馬力だ、その蹄(ひづめ)でお前を踏み潰してやる
※フェラーリ・F12ベルリネッタの圧倒的な馬力(跳ね馬)と、敵を物理的に蹂躙する様を掛けている。

Blow a half a mil in LV leather goods on ya
LV(ルイ・ヴィトン)のレザーグッズに、50万ドル(約7500万円)を吹き飛ばす

We been doing this for eons
俺たちは何億年(イーオンズ)も前からこれをやってるのさ
※ストリートのゲームとヒップホップにおける、彼らのキャリアの長さと絶対的な王者としての自負。

While you thirsty tryna figure out who you can spill the tea on
お前らが誰のゴシップ(ティー)をこぼそうかと、必死になって探り合ってる間にな
※「Spill the tea」はゴシップや秘密を暴露するというスラング。SNSでのしょうもない暴露合戦に現を抜かす現代のラッパーたちを軽蔑している。

I'm in coffee fields making mil's (Ah-ah)
俺はコーヒー畑の中で数百万ドルを稼ぎ出してるんだ(アーアー)
※南米コロンビアの主要な輸出物である「コーヒー」を隠れ蓑にした、麻薬カルテルのコカイン・ビジネスの比喩。ネットのゴシップ(Tea=お茶)に対し、こちらはリアルなビジネス(Coffee)で大金を稼いでいるという飲料を掛けた見事なパンチライン。

You get the chills 'cause this shit is real
お前らは悪寒(チル)を感じるだろうよ、だってこいつはリアルだからな

Now let me ribbon bowtie your surprise
さあ、お前の驚きにリボンと蝶ネクタイを結んでやろう

The feeling that you get when you realize
すべてを悟った時にお前が感じる、あの感情にな

It was really you that died and we are so alive
本当に死んだのはお前の方で、俺たちは最高に生きているって事実をな
※Drakeとの歴史的ビーフにおいて、業界の圧力やネットの思惑がどうであれ、ラッパーとして本当に致命傷を負い「死んだ」のは相手の方であり、Clipseはこうして最前線に生き残っているという絶対的な勝利宣言と解釈できる。

Conspiracy theory, you can't believe it's us
陰謀論だ、俺たちがやったなんて信じられないだろうな

Soul leave your body like a fentanyl rush
魂が体から抜け出すぜ、フェンタニルのラッシュ(過剰摂取)のようにな

(Dead on your back with your eyes looking up)
(仰向けに倒れて死に、目は虚しく上を見つめている)

Chandeliers
シャンデリア
※後編となるNasのバースへと続く象徴的なキーワード。死という暗黒の世界から、天上を照らす富と栄光の象徴(シャンデリア)への鮮やかな場面転換。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

[Part II: Chandeliers]

[Verse: Nas]

Single-handedly boosted rap to its truest place
俺が単独で、ラップを最も「真実の場所(最高到達点)」へと引き上げたんだ
※Nasのヴァース。Hit-Boyと組んだ『King's Disease』シリーズおよび『Magic』シリーズによって、ヒップホップにおけるベテランのルネサンスを一人で成し遂げたという揺るぎない事実。

Fuck speaking candidly, I alone did rejuvenate
率直に言うなんてクソくらえだ、俺一人が「若返らせた(リジュベネイト)」のさ

Hip-hop into its newest place
ヒップホップを、一番新しい場所へとな

Made it cool for Grammy nominated LP's from previous generation MC's
前世代のMCたちのLP(アルバム)がグラミー賞にノミネートされるのを、クールなことに変えてやったんだ
※Nasは2021年の第63回グラミー賞で『King's Disease』が自身初となる最優秀ラップ・アルバム賞を受賞した。「おじさんラッパー」が若手に媚びることなく、自らのヒップホップを追求してグラミーを獲るという道を切り拓いた功績を誇っている。

And that rings loud and reverberates
その事実は高らかに鳴り響き、反響(リバーブレイト)し続けている

It's not fair to them, I'm thinking I deserve the hate
奴らにとっちゃ不公平だろうな、俺はヘイトされて当然だと思ってるよ
※自分だけが50歳を超えてなお全盛期以上の質と量の作品をリリースし続けているため、同世代のラッパーや若手から嫉妬(Hate)されても仕方がないという王者の余裕。

Bring it, the only thing you killing is precious time
かかってこいよ、お前らが殺せる(無駄にできる)のは貴重な時間だけだ

Used to clash with Decepticons, I was dumb, deaf and blind
昔は「ディセプティコンズ」と衝突したもんさ、俺も愚かで、耳も聞こえず、盲目だった
※「Decepticons(ディセプティコンズ)」は1980年代後半から90年代前半にかけてブルックリンを中心に悪名を轟かせた実在の巨大ストリートギャング(名前の由来は『トランスフォーマー』の悪の組織)。Nas自身はクイーンズ出身だが、当時のニューヨークの荒れ狂うストリートで、彼もまた無知(Dumb, deaf and blind)な若者として暴力の渦中にいた過去を回顧している。

So cancel me before I unleash the "Panther" me
だから、俺が自分の中の「パンサー」を解き放つ前に、俺をキャンセルしてみろよ
※「Panther」は急進的な黒人解放組織「ブラックパンサー党」のこと。ポリティカル・コレクトネスでキャンセルしようとする現代社会に対し、怒れる黒人としての過激な思想を爆発させるぞという威嚇。

The pantheon is a family, we some upstanding G's
パンテオン(神々の殿堂)は家族だ、俺たちは立派なG(ギャングスタ/神)なんだよ
※ヒップホップの殿堂にいるレジェンドたち(NasやClipse)の連帯と、単なるチンピラではない「Upstanding(立派な)」存在としての自負。

The difference between regular spitters and bosses
そこら辺の普通のラッパー(スピッター)と、ボスとの違いさ

My principles' high
俺の原則(プリンシプル)は崇高だ

You need a glimpse of me from satellites in orbit
俺の姿を見るには、軌道上の人工衛星から覗き込む必要があるぜ
※精神的にもキャリア的にも到達している「高度」が高すぎるため、宇宙の人工衛星から見下ろさなければ俺を捉えることはできないという、スケールが大きすぎるボースト。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

Tape sabbaticals on avenues
アベニュー(大通り)で録音のサバティカル(長期休暇)を過ごし

Bring AK's on vacay's when we paddle canoes
カヌーを漕ぐようなバカンスにも、AK-47を持参するのさ
※富裕層が楽しむような優雅な休暇(Vacation)と、ストリートで培われたパラノイア(常にアサルトライフルを持ち歩く)が同居する、異質で危険なライフスタイル。

Follow the leader, Terminator
リーダーに続け、ターミネーターさ
※エリックB&ラキムのクラシック「Follow the Leader」の引用と、シーンを破壊し再生させるターミネーターとしての自己規定。

Hasta la vista, man of the year
「アスタ・ラ・ビスタ(地獄で会おうぜ)」、マン・オブ・ザ・イヤーだ
※映画『ターミネーター2』の有名な決め台詞。シーンの競争相手に別れを告げ、自らが今年の最優秀人物(Man of the year)であることを宣言する。

Nasir, rockin' chandeliers
ナズィア(Nasの本名)、シャンデリアを揺らして(輝かせて)るぜ
※タイトルの回収。泥沼のストリートから頂点へと上り詰め、ヒップホップの玉座でシャンデリアのように永遠に輝き続ける伝説のMC、Nasによる完璧なクロージング。