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Unraveling Genius: Music, Knowledge, Madness

Inglorious Bastards - Clipse & Ab-Liva 【和訳・解説】

Artist: Clipse & Ab-Liva

Album: Let God Sort Em Out

Song Title: Inglorious Bastards

概要

Clipseの完全復活アルバム『Let God Sort Em Out』に収録された本作は、かつてのクルー「Re-Up Gang」の盟友であるAb-Livaを客演に迎え、ストリートの冷酷なビジネスを頂点まで極めた男たちの「名誉なき勝利」を歌い上げるバンガーである。タイトルの「Inglorious Bastards」はクエンティン・タランティーノ監督の同名映画から引用されており、道徳や倫理をかなぐり捨てて巨万の富を築き上げた彼ら自身の生き様を重ね合わせている。公民権運動の指導者であるジェシー・ジャクソンの過激なスピーチから幕を開け、Pusha Tは密売と現在のラグジュアリーな生活の交錯を、Maliceは過去の危険な運び屋としてのノウハウを、そしてAb-LivaはパリでのVIPライフを鮮やかに描写する。劇中で何度もリフレインされる「This is culturally inappropriate(これは文化的な不適切だ)」というフレーズが、黒人の元ドラッグディーラーたちが白人富裕層以上の特権的な生活を享受しているという痛烈なアイロニーとして機能している。

和訳

[Intro: Jesse Jackson]

When we are together, we got power
我々が団結すれば、そこには力が生まれる
※アメリカの著名な公民権運動家、ジェシー・ジャクソンのスピーチのサンプリング。

We have shifted from having a seizure
我々は、白人(ザ・マン)が持っているものに対して発作を起こす(怒り狂う)段階から
※「The man」は白人社会や権力体制を指すスラング。

About what the man got, to seizing what we need
自分たちに必要なものを「力ずくで奪い取る(Seize)」段階へと移行したのだ

Burn, baby, burn!
燃やせ、ベイビー、燃やせ!
※1965年のワッツ暴動などで黒人たちが体制への怒りを示す際に使われた有名なスローガン。ストリートの過激な反逆精神をアルバムの世界観に接続している。

[Verse 1: Pusha T]

Catch me in the kitchen where the dope is
ドープ(麻薬)があるキッチンで、俺を見つけてみろ

With an apron that's whiter than the Pope’s is
ローマ教皇の衣より白いエプロンをつけてるぜ
※コカインを調理(クラック精製)するトラップハウスの情景。純度100%の極上コカインの「白さ」を、神聖なローマ教皇(Pope)の装束よりも白いと表現する、Pusha Tらしい不遜で強烈な比喩。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)
※黒人のドラッグビジネスをカトリックの最高権威に例えることへのセルフツッコミ。今作で多用される彼らのシグネチャー・アドリブ。

Spread distribution, wide open
流通網を広げ、ビジネスは完全にオープンだ

Now all the smokers call him Moses
今じゃ、すべてのヤク中どもが俺のことを「モーセ」って呼ぶのさ
※旧約聖書の預言者モーセが海を割って民を導いたように、Pusha Tが「白い海(大量のコカインの塊)」を切り分け、中毒者たちをヤクの虜(約束の地)へと導く絶対的な存在であることを示している。

Heron browner than baby roaches
小指の先(ベイビー・ローチ)より茶色いヘロイン
※「Heron」はヘロインのスラング。「Roach」は吸い殻のジョイント、あるいはゴキブリ。不純物が混ざっていない、純度の高いブラウン・ヘロインの色合いを描写。

Got your bitch bent over like scoliosis
お前の女を脊柱側弯症(スコロイオーシス)みたいに前かがみにさせてるぜ
※背骨が曲がる病気(Scoliosis)を引き合いに出し、女性を屈服させている(性的な意味、あるいはドラッグへの服従)様子を冷酷に表現。

Watching Tiafoe with the Open
フランシス・ティアフォの全米オープンを観戦しながらな
※黒人テニスプレイヤー、フランシス・ティアフォ(Tiafoe)へのシャウトアウト。富裕層の娯楽であるテニス観戦の優雅さ。

That's the only back and forth that I'm posting
俺がネットに投稿する「バック・アンド・フォース(ラリー)」は、それくらいのもんさ
※テニスの「ラリー(Back and forth)」と、SNSでの「言い争い(Back and forth)」のダブルミーニング。現代のラッパーたちのようにネットで口喧嘩をするような次元にはいないという余裕。

Wе really netted what wе grossing
俺たちは「総売上(グロス)」と同じ額を「純利益(ネット)」として手に入れた
※通常、合法ビジネスでは税金や経費が引かれるが、ストリートの非合法ビジネスでは売上がそのまま純利益になるというドラッグ・エコノミクス。

By the way, I’m writin' this on an ocean
ちなみに、俺は海の上(ヨット)でこのリリックを書いてる

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

By the way, this anchor's really frozen
ちなみに、この「錨(アンカー)」はマジで凍りついてるぜ
※海の上にいることに掛け、首につけた特大の錨(アンカー)型のペンダントが、無数のダイヤモンド(Ice/Frozen)で覆われているというフレックス。

By the way, the sinkers being loaded
ちなみに、「シンカー(釣りのおもり)」にはたっぷりブツが詰まってる
※海上での麻薬密輸の手口。沿岸警備隊に見つかりそうになった際、証拠隠滅のためにブツを海底に沈められるよう、おもり(Sinker)をつけている。

'Cause by the way this thinker's really chosen
なぜなら、ちなみに、この「思想家(俺)」はマジで選ばれし者だからな
※知略(Thinker)を巡らせてゲームを生き残ってきた自分を、神に選ばれた存在として誇示。「Ocean / Frozen / Loaded / Chosen」と踏み続ける流麗なライムスキーム。

Head halo'ing
頭には後光(ヘイロー)が差してる

Seated in a late foreign
最新の外国車(高級車)のシートに深く座り込んでる

Name a bitch who ain't going
俺になびかないビッチがいれば、名前を言ってみろ

Two-tone with the Royce rolling
ツートンカラーのロールスロイスで転がすのさ

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

Just a glimpse what the boy holding
俺(ザ・ボーイ)がどれだけのモノを持ってるか、ほんの少し見せてやっただけだ

Knocking over all you toy soldiers
お前らみたいな「おもちゃの兵隊」どもを、全員なぎ倒してやるよ
※フェイクなギャングスタ・ラッパーたちを一蹴。

One plus four acres, no neighbors
1足す4(5)エーカーの広大な敷地、隣人は誰もいねえ
※約6000坪の超豪邸に住む圧倒的なプライバシーと富。

I remember the days of no cable
ケーブルテレビすら契約できなかった日々を覚えてるぜ

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

Columbian stallions in a stable
厩舎にはコロンビア産の種馬(スタリオン)たちがいる
※「コロンビア産の極上コカイン」を馬に例えている。同時に「Stallion」はスラングで「背が高く美しい女性」も意味する。

With natural titties and no navels
天然のオッパイに、「へそ」がねえんだ
※前行の「コロンビアの女性」に掛かるライン。美容整形の「タミータック(腹部を切り取って引き締める手術)」をするとへその位置が変わったり消えたりすることがあるため、「作り物のボディ(または極限まで純度を高められたコカイン)」を表現したアンダーグラウンドな比喩。

Only work getting done is on the table
唯一行われる「仕事」は、テーブルの上(コカインの切り分け)だけさ

Death to skimmers and shavers
スキマー(利益をかすめ取る奴)と、シェーバー(ブツを削り取る奴)には死を
※組織の金を横領する者(Skimmers)や、卸す前のコカインの塊から少しだけ削り取って自分の懐に入れるようなセコい売人(Shavers)に対する冷酷な殺害予告。

I'm allergic to anything other than money behavior
俺は「金を稼ぐ」以外の振る舞いには、アレルギーが出るんだ

[Chorus: Pusha T]

Inglorious, victorious
名誉なき(イングロリアス)、勝利者(ビクトリアス)だ
※タランティーノ映画『イングロリアス・バスターズ』の引用。麻薬という非道な手段で富を築いた彼らには「名誉」はないが、資本主義のゲームにおいては絶対的な「勝者」であるという達観。

Wide body, B.I.G. like Notorious
ワイドボディの車、ノトーリアスのようにB.I.G.(巨大)だぜ

Tell me is we trafficking or trickin’
教えてくれ、俺たちは「密売(トラフィッキング)」してるのか、それとも「女に貢いでる(トリッキング)」のか?
※稼いだ大金をすぐに高級品や女につぎ込んでしまうドラッグディーラーの矛盾したライフスタイルへの自嘲。

Somebody gotta show me the difference
誰か俺に、その違いを説明してくれよ

[Verse 2: Malice]

Stand on every word whenever I wrote shit
俺がリリックを書く時はいつだって、すべての言葉に責任(スタンド)を持つ

Under my boots, nigga, nothin’ but goat shit
俺のブーツの下にあるのは、ヤギのクソ(GOAT shit)だけだぜ
※非常に高度なダブルミーニング。「GOAT(Greatest Of All Time=史上最高)」と呼ばれるラッパーたちでさえ、自分の足元(ブーツの下)にいる糞のような存在だという究極のセルフボースト。同時に、牧歌的な農場の情景を連想させるシュールさも孕んでいる。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

I was fine getting rich under their noses
奴らの鼻の先(気づかれないところ)で金持ちになるのは、気分が良かったよ
※警察や白人社会の盲点を突き、アンダーグラウンドで密かに巨万の富を築いた過去。

Today, a nigga celebrate to ya and post it
今日じゃ、奴らはお前を祝うフリをして、それをSNSに投稿(ポスト)しやがる
※現代のSNS中心のフェイクな人間関係への嫌悪感。

Saltwater tears, cooked with sodium
塩水の涙、それをナトリウム(重曹)と一緒に調理する
※「Sodium(ナトリウム/重曹)」はコカインをクラックに精製(クック)する際の必須アイテム。ストリートで流された血と涙(Saltwater tears)が、彼らのドラッグビジネスの原動力となっていることを示唆する悲劇的なライン。

McLaren hypercar, no petroleum
マクラーレンのハイパーカー、ガソリン(ペトロリウム)なんていらねえ
※マクラーレン・P1などのプラグインハイブリッド式ハイパーカーへの言及。

Back then, hid work under linoleum
あの頃は、リノリウムの床下に「仕事(ブツ)」を隠してたもんだ
※安アパートのリノリウムの床を剥がして麻薬を隠していた、下積み時代のリアルな情景。

That thinking got me standing on this podium
その思考回路(サバイバル術)があったからこそ、俺は今、この表彰台(ポディウム)に立ってるんだ

Chop the roof off, nigga, this coupe talk
屋根を切り落とす、これはクーペの話だぜ

A Virginia nigga driving in New York
バージニアのハスラーが、ニューヨークをドライブしてる
※彼らの故郷であるバージニアから、巨大市場であるニューヨークへの麻薬の陸路輸送(トラフィッキング)の記憶。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

State trap ducking, my tints was too dark
州警察の罠(トラップ)をすり抜ける、俺の車のスモーク(ティント)は濃すぎたからな
※アメリカでは車の窓の濃すぎるスモークは違法であり、警察に車を止められる(職務質問される)格好の理由となる。大量の麻薬を積んだ車で、いかに警察の目をかいくぐって州境を越えるかという極限のスリル。

The money's in a trailer car, fuck what you thought
実は金は別のトレーラーカーに積んでるんだ、お前らの思惑なんてクソ食らえだ
※警察がスモークの濃い乗用車を怪しんで止めている間に、本当の大金やブツは全く目立たない後ろのトレーラーに積んで運ばせているという、プロの運び屋の巧妙な囮(おとり)作戦。

[Verse 3: Ab-Liva]

Been playin’ in the snow like Rudolph
「ルドルフ」みたいに、ずっと「雪」の中で遊んでた
※Clipseの初期からの盟友、Ab-Livaのヴァース。「赤鼻のトナカイのルドルフ」と「Snow(コカイン)」を掛け、コカインを吸いすぎて鼻が赤くなっている中毒者たち、あるいはそのビジネスにどっぷり浸かっていた自分たちを表現。

In that two-door, roof helping me cool off
あの2ドアの車の中で、開けたルーフが俺をクールダウンさせてくれる

Chains on me like Slick Rick the Ruler
「スリック・リック・ザ・ルーラー」みたいに、大量のチェーンをジャラジャラさせてるぜ
※ヒップホップ黄金期のレジェンド、Slick Rickの象徴である尋常ではない数の極太ゴールドチェーン。自らの成功とクラシックな美学の誇示。

Seats white but the 6 blacker than Umar
シートは真っ白だが、この「6」はウマルより真っ黒だ
※「6」はBMWの6シリーズ、あるいは超高級車。「Umar」は、急進的なパン・アフリカニズム活動家であり、過激な黒人至上主義的発言で知られるDr. Umar Johnsonのこと。車のボディの漆黒さを、Umarの強烈な「ブラックネス(黒人性)」に例えた鋭いワードプレイ。

Niggas trying to stop my play, Parisian nights
奴らは俺のプレイ(ビジネス)を止めようとするが、俺はパリの夜を楽しんでる

Private rooms at Bar des Prés, the seasons right
「バル・デ・プレ」の個室だ、季節も最高だな
※Bar des Prés(バル・デ・プレ)はパリのサン・ジェルマン・デ・プレにある超高級フレンチ・アジアンレストラン。ストリートから遠く離れた、ヨーロッパでのエクスクルーシブなVIPライフ。

Lou' Vuitton, hug my arms
ルイ・ヴィトンが、俺の両腕を抱きしめる
※Pharrell Williamsがクリエイティブ・ディレクターを務めるLouis Vuittonの特注ウェアを着こなしている。

Scribbled in red, blood diamonds flood my charm
赤で殴り書きされた文字、ブラッド・ダイヤモンドが俺のチャーム(ペンダント)を埋め尽くす
※紛争地域で不法に採掘される「ブラッド・ダイヤモンド(血塗られたダイヤ)」。彼らの富が、ストリートで流された血の犠牲の上に成り立っているというダークな現実。

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

The chauffeurs are made
お抱えの運転手(ショーファー)が用意され

Flights are chartered, the villas in the hills are paved
プライベートジェットがチャーターされ、丘の上のヴィラまでの道は綺麗に舗装されてる

Blood is spilled, ring finger, names engraved
血が流され、薬指の指輪には名前が刻まれる
※マフィアの「血の掟」や、組織に対する絶対的な忠誠(結婚指輪のようなもの)のメタファー。

Shirts are silk, the yacht life, flags are waved
シルクのシャツを着て、ヨットの上で過ごす人生、旗が振られているぜ
※ストリートの底辺から、地中海でヨットを乗り回す究極の成功者(ヴィクトリアス)へと上り詰めた彼らの、圧倒的な勝利の光景で締めくくられる。

[Chorus: Ab-Liva]

Inglorious, victorious
名誉なき(イングロリアス)、勝利者(ビクトリアス)だ

Wide body, B.I.G. like Notorious
ワイドボディの車、ノトーリアスのようにB.I.G.(巨大)だぜ

(This is culturally inappropriate)
(こいつは文化的な不適切ってやつだ)

Tell me is we trafficking or trickin'
教えてくれ、俺たちは「密売(トラフィッキング)」してるのか、それとも「女に貢いでる(トリッキング)」のか?

Somebody gotta show me the difference
誰か俺に、その違いを説明してくれよ