Artist: Clipse & Pharrell Williams
Album: Let God Sort Em Out
Song Title: E.B.I.T.D.A.
概要
Clipseの歴史的復帰作『Let God Sort Em Out』に収録された本作は、盟友Pharrell Williamsをフィーチャーし、ストリートのハスラーからグローバルなビジネス帝国を築き上げた彼らの「現在の企業価値」を誇示するバンガーである。タイトルの「E.B.I.T.D.A.(エビットダー)」とは、利払い前・税引き前・減価償却前利益を指す財務指標であり、M&A(企業買収)における企業価値評価で最も重要視される数字だ。かつてトラップハウスでキロ単位のコカインを捌いていた彼らが、今やウォール街の投資家や多国籍企業のCEOと同じ言語(財務指標)で自らの価値を定義しているという強烈なパラダイムシフトが描かれている。ルイ・ヴィトンのメンズ・クリエイティブ・ディレクターとしてパリを拠点にするPharrellの優雅なヴァースから始まり、Pusha TとMaliceがメキシコの麻薬カルテルや故郷バージニアの港といった血生臭いストリートの記憶と現在の桁違いの富を交錯させる、知性と暴力が融合したClipseならではの傑作である。
和訳
[Verse 1: Pharrell Williams]
I mean the ears like vitamin C
耳元にはビタミンCみたいな輝きを
※イエローダイヤモンドのピアスを「ビタミンC(オレンジやレモンのような鮮やかな黄色)」に例えた、Pharrellらしいポップでラグジュアリーな表現。
I mean yellow like bright as a bee
ミツバチみたいに明るいイエローさ
I mean the sun like bright as can be
太陽みたいに、これ以上ないほど眩しいんだ
F80 knot you, tie it to me
F80が結び目を作って、俺と結びつける
※「F80」はフェラーリが発表した最新のハイパーカー(限定モデルで数億円)。また「Knot」はストリートスラングで「丸めた札束」を意味する。超高級車や莫大な札束が、彼自身の揺るぎないステータスと強く結びついている(Tie)というダブルミーニング。
Just to get from A to B and ain't drive it to see
A地点からB地点への移動のためだけさ、景色を見るために運転するわけじゃねえ
※数億円のハイパーカーですら、Pharrellにとっては単なる日常の移動手段に過ぎないという桁違いのフレックス(誇示)。
The Palais, the Eiffel, Army won't turn the parades off
グラン・パレにエッフェル塔、軍隊でもこのパレードは止められねえよ
※現在、ルイ・ヴィトンのメンズ・クリエイティブ・ディレクターとしてパリ(The Palais, the Eiffel)のファッション界に君臨するPharrell。彼が手がける華々しいファッションショー(Parades)の熱狂は、軍隊(Army)が介入しても止められないほどの社会的現象になっていることを示している。
God bless Takeoff
神よ、Takeoffを祝福したまえ
※2022年に銃撃事件で不慮の死を遂げたヒップホップ・トリオMigosのメンバー、Takeoffへの追悼。ファッションアイコンでもあった彼への敬意を表している。
I said I want the Rolls Royce with the drapes off
ドレープ(屋根)を外したロールスロイスが欲しいって言ったんだ
※ロールスロイスのドロップヘッド・クーペ(オープンカー)の注文。「Drapes」は高級なカーテンを意味し、屋根を優雅に表現している。
And it ain't electric so it's way off
電気自動車じゃねえぞ、そんなの論外だからな
※昨今のEVシフト(ロールスロイスのEVモデル「スペクター」など)に逆行し、あえて巨大なV12エンジンを積んだクラシックなガソリン車を好むという、彼のこだわりの美学。
[Verse 2: Pusha T]
Send it back
送り返しな
Sending for the Gordo pies?
「ゴルド」のパイ(巨大なコカインの塊)を取り寄せてるのか?
※「Gordo」はスペイン語で「太った・大きな」を意味し、メキシコの麻薬カルテルの大物や、分厚いキロ単位のコカイン(Pies)を指すストリート・スラング。南米からの直ルートの密輸を示唆。
Picked up the Turo and drive
Turo(カーシェア)を拾って走り出す
※「Turo」は個人間カーシェアリングサービス。自分の派手な高級車ではなく、あえて足のつかない一般車(Turo)を手配して麻薬を運ぶ(Drive)という、プロのハスラーの生々しい手口。
Straight up the 405
405号線をまっすぐ北上するぜ
※ロサンゼルスを縦断する主要フリーウェイ「I-405」。西海岸における麻薬の輸送ルート。
The way that the boarders designed
運び屋(ボーダー)たちが計画した通りにな
※国境(Border)を越える密輸業者、あるいは組織の幹部(Boarders=取締役会)とのダブルミーニング。ストリートの犯罪をコーポレートな視点で描いている。
I'm feeling like the lord of the skies
まるで「空の主」になった気分だ
※「Lord of the skies(エル・セニョール・デ・ロス・シエロス)」は、ボーイング727などの大型航空機を丸ごと使ってコカインを密輸し、莫大な富を築いたメキシコの伝説的麻薬王、アマド・カリージョ・フエンテスの異名。自らのビジネスのスケールを歴史的犯罪者と同列に置いている。
Arms like 2:45
両腕は2時45分の針みたいにな
※時計の「2時45分(長針が9の方向、短針が3に近い方向)」は、両腕を水平にピンと張った状態に似ている。2丁拳銃を両手で水平に構えて乱射する姿勢、あるいはストリートで十字架に磔にされるような過酷な運命のメタファーとされる、秀逸なビジュアル表現。
Hit 'em, make sure that he dies
奴を撃て、確実に息の根を止めろ
That text, won't never reply
あのテキストメッセージに、返信が来ることは二度とねえよ
※標的が暗殺されたため、送ったメッセージが既読になることは永遠にないという冷酷な描写。
The Feds came and collected my guys
連邦捜査局(Feds)がやって来て、俺のダチたちを連行していった
※麻薬取締局(DEA)やFBIによる大規模な一斉摘発(RICO法など)。成功の裏で常に付き纏う組織壊滅のリスク。
The rain pours and I'm hearing it cries
土砂降りの雨が降り、それが泣き叫ぶ声に聞こえるぜ
※仲間を失った悲哀と、ストリートに流れる血を洗い流す雨の情景。
[Chorus: Pusha T]
Went from heaters up to fevers up
ヒーター(銃)を掲げるところから、フィーバー(熱狂的な成功)を巻き起こすまでになった
※「Heater」はストリートで持ち歩く拳銃のこと。暴力に塗れた過去から、現在のアリーナを沸かせるスターダム(Fever)への見事な昇華。
Bitches in the back, the seat is up
後ろの席にはビッチたち、シートは倒さず立ててある
※高級車の後部座席でVIP待遇を楽しんでいる様子。
Now I'm ten times the E.B.I.T.D.A
今じゃ俺の価値は「EBITDAの10倍(テンエックス)」だぜ
※曲のコアとなるパンチライン。企業買収(M&A)や株式上場の際、企業の評価額は「EBITDA(営業利益+減価償却費)の○倍」というマルチプル(倍率)で算出される。通常、優良企業でEBITDAの8〜10倍とされることから、「俺という人間(ブランド)の価値はウォール街の優良企業に匹敵する超高額だ」と宣言している。ストリートのハスラーが投資銀行レベルの金融リテラシーで自らをボーストする、Pusha Tならではの知的なフレックス。
If you let the money talk, who speaking up
金に物を言わせるなら、誰が俺に意見できるってんだ?
I'm sleepwalking, y'all don't dream enough
俺は夢遊病で歩いてるだけさ、お前らは夢を見る努力が足りねえんだよ
※Pusha Tにとっては無意識(睡眠中)にこなしている事でも、他のラッパーにとっては到底届かない夢のまた夢であるという圧倒的な実力差。
My third passport, I ain't seen enough
パスポートもこれで3冊目だが、まだ世界を見足りねえな
※世界中を飛び回ってスタンプが埋まり、パスポートを何度も更新しているというグローバルな成功。
If you can breathe up there, it ain't steep enough
もしお前がそこで普通に息ができるなら、まだ坂は急(険しい)じゃないってことだ
※高山病になるほど空気が薄い「真の頂点」に達していない連中への煽り。成功への道はもっと険しく息苦しいはずだという教訓。
The scale don't lie, you ain't even us
計り(スケール)は嘘をつかねえ、お前らは俺たちの足元にも及ばないぜ
※コカインの重さを量る「デジタルスケール(計り)」と、ビジネスの「スケール(規模)」のダブルミーニング。数字(金)は残酷なまでに事実を突きつける。
(Yeah)
(イェー)
[Verse 3: Pusha T & Malice]
Shorty want me hit her like an archer
女は俺に、アーチャー(弓兵)みたいに自分を射抜いて(ヤッて)ほしいとねだる
But I'm not desperate, so I starve her
だが俺はガツガツしてねえから、あいつを飢えさせたまま放置するのさ
How we fit thirty studs in the collar?
どうやってこの襟(ネックレス)に、30個もの大粒のダイヤ(スタッズ)を詰め込んだと思う?
※「Studs」はスタッド・ダイヤモンド(一粒ダイヤ)のこと。首回り(Collar)を埋め尽くすほどの富の誇示。
Open the sunroof, wave to my father
サンルーフを開けて、親父に向かって手を振るんだ
※前曲でも語られた、亡き父(Gene Sr.)への言及。天国にいる父親に向かって、自分たちの成功を報告しているエモーショナルなライン。
Remembering the shipments at the Portsmouth Harbor
ポーツマス港での「積み荷」のことを思い出してるよ
※バージニア州にあるポーツマス港は、東海岸の主要な貿易港。彼らがコカインの密輸(Shipment)の玄関口として利用していた過去のハッスルを回顧している。
Something for the face-numbers and the nodders
顔を麻痺させる奴ら(コカイン中毒者)と、うなずく奴ら(ヘロイン中毒者)のためのブツさ
※「Face-numbers(顔が痺れる=Numb)」はコカインの作用、「Nodders(Nodding off=座ったままうとうとする)」はヘロインやオピオイド系薬物の強烈なダウナー作用を指す。彼らがストリートに供給していたドラッグの現実。
Grew up playing real life Contra
現実世界の「魂斗羅(コントラ)」をプレイしながら育ってきたんだ
※コナミの伝説的アクションゲーム『魂斗羅(Contra)』の過酷な銃撃戦と、ストリートでの本物の銃撃戦を重ねている。また、1980年代にCIAがニカラグアの反共ゲリラ「コントラ」を支援するために米国へのコカイン密輸を黙認したとされる「イラン・コントラ事件」との見事なダブルミーニングであり、アメリカの黒人社会を崩壊させたドラッグの歴史的背景をも突いている。
"Never give up," that's the mantra
「決して諦めるな」、それが俺たちのマントラ(真言)だ
Lifting all this weight, now I live behind the gate
これだけの重さ(コカインのキロ/人生の重圧)を持ち上げてきたから、今じゃ厳重なゲートの裏(超高級住宅街)に住んでる
※「Weight」はコカインの重量。大量の麻薬を捌き切った結果として得た、要塞のような豪邸での暮らし。
Should DJ the way they digging through the crates
奴らがクレート(木箱)を漁る姿は、まるでDJみたいだぜ
※DJがレコードの入った木箱(Crates)を漁る(Digging)姿と、末端の売人や中毒者がコカインの入った密輸用の木箱を血眼になって漁る姿を掛けた、ヒップホップIQの高いメタファー。
You niggas busting bricks on a plate
お前らは、お皿の上でブリック(コカインの塊)を割ってるレベルだろ
※末端のディーラーが少量のコカインをお皿の上で切り分けている小規模なハッスルを小馬鹿にしている。
I need more space to make paste
俺には「ペースト」を作るための、もっと広いスペースが必要なんだ
※純度の高いコカインを精製したり、大量のコカインをクラックに調理(Paste)するための巨大なアジトが必要だという規模の違い。
The wrap houses running out of tape
ラップハウス(梱包所)じゃ、ガムテープが底を突いてるぜ
※「Wrap house」は、コカインのブロックを密輸・配送のために真空パックやテープで厳重に梱包する拠点。テープが足りなくなるほど尋常ではない量のブツを捌いていることの証明。
The drug money busting out the safes
ドラッグマネーが多すぎて、金庫がはち切れそうになってる
Scammers running in and out of Chase
詐欺師どもがチェース銀行(Chase)を慌ただしく出入りしてる
※現代のストリートの主流であるクレジットカード詐欺やPPPローン詐欺(Scammers)の連中が、銀行(Chase Bank)でマネーロンダリングに勤しむ様子。ドラッグからサイバー犯罪へと移り変わるストリートのエコシステムを俯瞰している。
Bottle service running out of Ace
クラブのボトルサービスじゃ、「エース」が品切れになってやがる
※大金を稼いだ連中がクラブで超高級シャンパン「Ace of Spades(アルマン・ド・ブリニャック)」を頼みまくるため、在庫が枯渇しているという、バブルのような狂騒のエンディング。
[Chorus: Pusha T]
Went from heaters up to fevers up
ヒーター(銃)を掲げるところから、フィーバー(熱狂的な成功)を巻き起こすまでになった
Bitches in the back, the seat is up
後ろの席にはビッチたち、シートは倒さず立ててある
Now I'm ten times the E.B.I.T.D.A
今じゃ俺の価値は「EBITDAの10倍(テンエックス)」だぜ
If you let the money talk, who speaking up
金に物を言わせるなら、誰が俺に意見できるってんだ?
I'm sleepwalking, y'all don't dream enough
俺は夢遊病で歩いてるだけさ、お前らは夢を見る努力が足りねえんだよ
My third passport, I ain't seen enough
パスポートもこれで3冊目だが、まだ世界を見足りねえな
If you can breathe up there, it ain't steep enough
もしお前がそこで普通に息ができるなら、まだ坂は急(険しい)じゃないってことだ
The scale don't lie, you ain't even us
計り(スケール)は嘘をつかねえ、お前らは俺たちの足元にも及ばないぜ
