Artist: Clipse
Album: Let God Sort Em Out
Song Title: M.T.B.T.T.F.
概要
『Let God Sort Em Out』に収録された本作「M.T.B.T.T.F.」は、Clipseの真骨頂である冷徹極まりないコカイン・ラップの集大成とも言えるバンガーだ。タイトルの頭文字は、フックでも象徴的に繰り返される「Mike Tyson Blow To The Face(マイク・タイソンの顔面への一撃)」を示している。これは暴力的なパンチを意味するだけでなく、「Blow(コカイン)」を顔面(鼻)から強烈に吸い込む様を描いた見事なダブルミーニングである。Pusha Tは自身を「鼻(コカイン)の世界のジェフ・ベゾス」と豪語し、圧倒的な流通網と富を見せつける。一方のMaliceは、映画『300』のレオニダス王や1996年当時のJAY-Zを引き合いに出し、フェイクなネットギャングたちと一線を画す「本物のハスラー」としての凄みを見せつける。Pharrell Williamsによるであろう冷たいビートの上で、2人の兄弟が極上のストリート・ポエトリーを展開する傑作である。
和訳
[Verse 1: Pusha T]
No confessions, questions, we contestin'
自白も尋問もなしだ、俺たちは徹底的に抗うぜ
※警察の取り調べに対し、一切口を割らず法廷で争う(Contest)というストリートの不文律。
Fireworks'll send a message, iridescent
花火(銃撃)でメッセージを送ってやる、玉虫色に光るやつをな
※「Fireworks」はマズルフラッシュ(発砲時の閃光)や銃撃戦の隠語。「Iridescent」は銃弾の軌跡や硝煙が放つ不気味で美しい光を表現している。
Slow him down like Robitussin, if you rush in
突っ込んでくるなら、ロビタッシン(咳止めシロップ)みたいに動きを鈍らせてやる
※「Robitussin」はリーン(パープルドリンク)の原料となる咳止めシロップ。これによって引き起こされる酩酊状態のように、敵の動きを遅くする(=撃ち抜いて行動不能にする)という脅し。
At your door when we address him, we gon' bless him
奴の家のドアの前に立ち、「挨拶」する時、俺たちは奴を「祝福」してやるのさ
※「Address(話しかける/対処する)」と「Bless(祝福する/銃弾を撃ち込む)」という強烈なストリートのスラングを用いた皮肉。
Tried to bring him, shoulda left him, learned my lesson
あいつを引っ張り上げようとしたが、見捨てるべきだった、いい教訓になったよ
※裏切ったかつての仲間や、面倒を見切れなくなった身内に対する冷酷な判断。
Poker faces keep 'em guessin', no expression
ポーカーフェイスで奴らを惑わす、一切表情に出さずにな
Ice dressing on my chest and leave impression
胸元にはアイス(ダイヤ)を飾り、強烈な印象を焼き付ける
What's a Testarossa if you don't test 'em?
テストしねえ(限界まで乗り回さねえ)なら、テスタロッサに乗る意味なんてあるか?
※フェラーリの名車「テスタロッサ」と「Test(試す・性能を引き出す)」のワードプレイ。
Ain't your bitch unless you joystick undress 'em
ジョイスティック(ゲームのコントローラー/男根)で脱がせられねえなら、お前の女とは言えねえな
My presence, your plеasure
俺の存在が、お前の喜び(プレジャー)さ
Peasants, he's prеssure
農民ども、こいつは「プレッシャー(極上品)」だぜ
※「Pressure」は近年、純度が高く強力な大麻やドラッグを指すスラング。底辺の連中(Peasants)に本物を見せつけている。
I been knee deep, ki deep
俺はずっと首(膝)まで浸かってた、「キロ」の深さまでな
※「Knee deep(膝まで浸かる=深く関わる)」と「Ki deep(キログラム単位のコカイン取引)」を掛けた秀逸なライム。
We at ZZ's, me and Lee Lee
ZZ'sにいるぜ、俺とLee Leeでな
※「ZZ's」はニューヨークやマイアミにある超高級プライベートクラブ「ZZ's Club」。「Lee Lee」はPusha Tの古くからの仲間でビジネスパートナーのArthur "Lee Lee" Harrisonを指す。
Get you fronted for the summer so easy
夏に向けて、お前にブツを前借り(フロント)させてやるよ、余裕でな
※「Front」はドラッグを前渡しし、売上から後で回収する信用取引。大物ディーラーとしての余裕。
The snow alone, fill up a mobile home
雪(コカイン)だけで、トレーラーハウスがいっぱいになるぜ
My nigga's name ring like mobile phones and no one's home
俺のダチの名前は携帯電話みたいに鳴り響くが、家には誰もいねえ
※「Name rings bells(名前が鳴り響く=有名である)」というイディオムの応用。名前は携帯のようにストリート中で鳴り響くが、「誰もいない」=刑務所にいるか、あるいは誰にも捕まえられないゴーストのような存在であることを示唆。
White back to back Rolls at my gates
俺の門の前には、白いロールスロイスが数珠繋ぎだ
White slavemaster souls in my safe
俺の金庫の中には、白人の「奴隷主」たちの魂が詰まってる
※金庫の中の「白い魂」とは、白人の富裕層から巻き上げた莫大な金、あるいはかつて黒人を支配していた白人社会の富(古い紙幣の肖像画など)を自らが所有(支配)しているという逆転のメタファー。
White python Manolo is the taste
白いパイソン革のマノロ・ブラニク、それが俺のテイストだ
※極上のラグジュアリーブランド(マノロ)と、常に付きまとってきた「白(コカイン)」のイメージの統一。
She want a Mike Tyson blow to the face
彼女は顔面に「マイク・タイソンの一撃」を欲しがってる
※本作のタイトル(M.T.B.T.T.F.)の核となるライン。女性が強烈な刺激(コカインの吸引=Blow to the face)を求めている様を、マイク・タイソンの破壊的なパンチに例えている。
Twist and turn, these guns blitz and burn
捻り、回る、この銃たちがブリッツ(奇襲)をかけ、焼き尽くす
Too many flip and turn, had to get rich to learn Uh
寝返って裏切る(フリップ)奴らがいすぎた、金持ちになって初めて学んだよ、アー
※警察に情報を売る(Flip)連中の多さを、成功の代償として痛感している。
The Bezos of the nasal, that's case closed
鼻(コカイン)の世界のジェフ・ベゾス、これで一件落着だ
※Pusha Tのキャリアでも屈指のパンチライン。「Nasal(鼻・嗅覚)」で摂取するドラッグ業界において、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス並みの絶対的な流通網と莫大な富を誇るという強烈なボースト。
Got a team full of J. Bo's on they toes
つま先立ち(臨戦態勢)の「J. Bo」みたいな奴らで固めたチームを持ってるぜ
※「J. Bo」はアトランタのラップデュオYoungBloodZのメンバー、またはストリートの獰猛なハスラーの象徴。常に警戒を怠らず、いつでも動ける(On their toes)兵隊たちを従えている。
Niggas measly, cheap as Riesling
お前らはちっぽけだ、安物のリースリング(白ワイン)みたいにな
Believe me
信じてくれよ
I can tell because your bitches look needy
お前らの女が飢えてる(貧乏くさい)顔をしてるから、すぐに分かるぜ
[Chorus: Pusha T]
She want Mike Tyson blow to the face
彼女は顔面に「マイク・タイソンの一撃(コカイン)」を欲しがってる
Slalom ice, she wants snow on a plate
氷の上をスラロームする、彼女はお皿の上の「雪」を求めてる
※スキーのスラロームと、鏡や皿(Plate)の上でコカイン(Snow/Ice)をカードで切り分ける動作のダブルミーニング。
Half price when the blow's in the crates means
木箱に詰まった「ブツ(Blow)」が半額になるってことは
More ice for the Mo's and the Ace
モエ(シャンパン)とエース(・オブ・スペーズ)を冷やすための氷(ダイヤ)が増えるってことさ
※卸値が下がれば利益が増え、さらに豪華な酒とジュエリー(Ice)が買えるというディーラーの経済学。
Made a million off a flow to the nase
鼻(ネイズ)への「フロー」で、100万ドル稼ぎ出した
※ラップの「Flow(フロウ)」と、コカインの鼻(Nase/Nasal)への「流通(Flow)」を掛けている。
Niggas saying that it won't just a phase
奴らは「これはただのフェーズ(一時的な流行)じゃない」って言ってるぜ
911 Turbo with the glaze
艶光り(グレイズ)するポルシェ911ターボ
Top dollars poking holes in the case
最高級の札束が、アタッシュケースに穴を開けるほどパンパンに詰まってる
[Verse 2: Malice]
All you keyboard killers in your feelings
感情的になってる「キーボード・キラー(ネット弁慶)」ども
Mad you ain't trending
自分がトレンド入りしなくてキレてる
Mad, got you trickin' on your women
キレて、自分の女に貢ぐ(トリッキング)ハメになってる
Mad I don't hit 'em, I just spin 'em
俺がそいつらを撃たない(相手にしない)からってキレてる、俺はただ振り回してるだけさ
Gunning and I'm grinning
銃をぶっ放し、そして俺はニヤリと笑う
In a Bugatti in my denim
デニム姿でブガッティに乗ってな
※超高級車ブガッティに、あえてラフなデニムで乗るというストリートの成功者の余裕。
This is the result of my vision
これが俺のビジョンの結果だ
React with precision
寸分の狂いもなく反応する
But God only knows my intention
だが、俺の本当の意図を知るのは神だけさ
※信仰の道に進んだMaliceらしい、自分の行いに対する神への畏怖と葛藤。
But selling dope is a religion
だが、ドープ(麻薬)を売るのも一つの宗教みたいなもんだ
※ストリートの掟と規律が、ある種の信仰レベルに達しているという冷酷な真理。
The hammer's in position
ハンマー(銃の撃鉄)はセットされてる
I can show niggas the difference
俺がお前らに「格の違い」を見せてやれるぜ
You niggas is screenwriters, we dream writers
お前らは「脚本家」、俺たちは「夢を描く作家」だ
※フェイクなギャングスタの物語をでっち上げるラッパー(脚本家)に対し、自分たちはリアルなストリートのハッスルを通じてアメリカン・ドリームを体現する存在だという対比。
Took change and touched chains like King Midas
小銭を掴み、そしてミダス王のように触れるものすべてをチェーン(金塊)に変えたのさ
※ギリシャ神話の「触れるものをすべて黄金に変えるミダス王」に例え、無一文(Change)からヒップホップ界とストリートで莫大な富(Chains)を築いたサクセスストーリー。
Imitation is flattery, they seem like us
模倣は最大の賛辞だ、奴らは俺たちみたいに見える
But only 300 bricks can make you Leonidas
だが、300個の「ブリック(キロ単位のコカイン)」だけが、お前をレオニダス王にできるんだぜ
※映画『300(スリーハンドレッド)』で300人のスパルタ兵を率いたレオニダス王と、300キロのコカイン(Bricks)を支配するドラッグロードを掛けた、歴史に残るレベルの驚異的なパンチライン。見た目だけ真似しても、実績(300キロの売買)がなければ王にはなれないという宣告。
My old plug asked the new plug to reunite us
俺の昔の「プラグ(供給元)」が、新しいプラグに頼んで俺たちを再会させたのさ
※麻薬カルテルのコネクションが世代を超えて繋がっているという強固なネットワークの誇示。
D class in my ears now let me see you bite it
俺の耳にはDクラス(最高級)のダイヤが輝いてる、さあ、これに噛みついて(パクって)みろよ
※「Bite」は「噛む」と「スタイルを盗む(Biter)」のダブルミーニング。
She want Mike Tyson blow to the face
彼女は顔面に「マイク・タイソンの一撃(コカイン)」を欲しがってる
I'm talkin' '96 Hov with the base
俺が言ってんのは、96年のHov(ジェイ・Z)と「ベース(コカイン)」のことさ
※1996年、JAY-Zがストリートのハッスルを赤裸々に描いた歴史的名盤『Reasonable Doubt』をリリースした当時の空気感(ベース=フリーベース・コカイン)に自分たちを重ね合わせている。コカインラップの正統な後継者としての強烈な自負。
[Chorus: Pusha T]
She want Mike Tyson blow to the face
彼女は顔面に「マイク・タイソンの一撃(コカイン)」を欲しがってる
Slalom ice, she wants snow on a plate
氷の上をスラロームする、彼女はお皿の上の「雪」を求めてる
Half price when the blow's in the crates means
木箱に詰まった「ブツ(Blow)」が半額になるってことは
More ice for the Mo's and the Ace
モエ(シャンパン)とエース(・オブ・スペーズ)を冷やすための氷(ダイヤ)が増えるってことさ
Made a million off a flow to the nase
鼻(ネイズ)への「フロー」で、100万ドル稼ぎ出した
Niggas saying that it won't just a phase
奴らは「これはただのフェーズ(一時的な流行)じゃない」って言ってるぜ
911 Turbo with the glaze
艶光り(グレイズ)するポルシェ911ターボ
Top dollars poking holes in the case
最高級の札束が、アタッシュケースに穴を開けるほどパンパンに詰まってる
