Artist: Snoop Dogg (feat. Richard Pryor)
Album: 10 Til’ Midnight
Song Title: Daddy Rich
概要
本作は、スヌープ・ドッグのアルバム『10 Til’ Midnight』に収録されたインタールード的な一曲である。客演にクレジットされている「リチャード・プライヤー(Richard Pryor)」は、アメリカの伝説的スタンドアップ・コメディアン。本作でサンプリングされているのは、彼が1976年のブラック・コメディ映画の名作『カー・ウォッシュ(Car Wash)』で演じたインチキな拝金主義の牧師「ダディ・リッチ(Daddy Rich)」のアイコニックな台詞だ。スヌープは長年、1970年代のブラックスプロイテーション映画やピンプ(ポン引き)カルチャーから多大な影響を受けており、本作もその系譜にある。ストリートの過酷な現実を抜け出し、圧倒的な富を手にした現在のスヌープの絶対的なスタンスを、ブラックカルチャーの偉大なレガシーへの敬意と共に提示する重要なスキットとして機能している。
和訳
[Daddy Rich]
'Cause it's better to have money and not to need it than to need it and not to have it
金ってのはな、必要だけど持ってねえより、持ってるけど必要じゃねえって状態の方がずっとマシなんだよ。
※1976年の映画『Car Wash』における、リチャード・プライヤー演じる「ダディ・リッチ」の有名なセリフのサンプリング。ダディ・リッチは「Church of Divine Economic Spirituality(神聖経済霊性教会)」という架空の教会の胡散臭い牧師であり、信者から巻き上げた金でリムジンに乗り回す拝金主義者として描かれている。ヒップホップにおける「プロスペリティ・ゴスペル(繁栄の神学:神は信者に現世での物質的繁栄を与えるという教え)」のパロディ的な元祖とも言えるキャラクターであり、スヌープはこれを引用することで、ストリートにおける冷酷な資本主義の真理と自身の途方もない富をユーモラスかつシニカルに肯定している。
And there's a good place in this world for money
そしてこの世界には、金にとって最高に居心地のいい場所がある。
※「good place」は文字通りの「良い場所」だが、説教を行う牧師というキャラクター設定上、天国や教会の寄付箱などを連想させる宗教的な響きをあえて持たせている。聴衆の期待を次のパンチラインで見事に裏切るためのセットアップ(前振り)として機能している。
Yes siree, and I know where it is—
ああ、そうだとも。俺はその場所がどこか知ってるぜ——
※「Yes siree」は「Yes, sir」を強調した古風でリズミカルな表現。アメリカ南部の黒人教会で牧師が説教中に信者を煽るような、大げさでシアトリカルな語り口を再現している。
It's right here in my pocket
それはな、俺のこのポケットん中だよ。
※宗教的な救済や綺麗事ではなく、結局は「自分の懐に入る現金(pocket)」が全てであるという究極のオチ。この身も蓋もない拝金主義は、その後のヒップホップ文化における「ゲットーから抜け出すためには手段を選ばず金を稼ぐ」というハスラーの美学に直結している。スヌープ自身が巨万の富を築き上げ、あらゆるビジネスを展開する現在の自身の姿を、この伝説的なコメディアンのシニカルなジョークに重ね合わせている。
