Artist: Radiohead
Album: Pablo Honey (Collector’s Edition)
Song Title: Yes I Am
概要
1992年にリリースされた大ヒットシングル『Creep』のB面として収録され、のちに『Pablo Honey』コレクターズ・エディションにも網羅された本作は、Radioheadのディスコグラフィにおいて「他者からの過剰な干渉とパラノイア」というテーマを扱った初期の重要曲である。アコースティックギターのストロークに歪んだエレキギターが絡みつくサウンドに乗せて、トム・ヨークはストーカー的とも言える執拗な他者(あるいは音楽業界という巨大なシステム)に対する激しい憎悪(Resentment)を歌い上げている。特筆すべきは、過去に「ドアに鍵をかけられ」閉じ込められた被害者が、最終的に「ドアを蹴り破る」という暴力的な反撃に出る心理的変化の描写である。のちの『OK Computer』で完成される「監視社会やシステムに対する恐怖」が、ここではよりパーソナルで攻撃的なグランジ的アングスト(焦燥)として生々しく刻まれている。
和訳
[Verse 1]
I resent you callin'
電話をかけてくる君を、僕はひどく憎んでいる。
※「resent(憤る、恨む)」という強い拒絶の言葉から楽曲は幕を開ける。この「君」は特定の執着心を持った人物とも、あるいは「Creep」のヒットによって突如として彼らのプライベートに踏み込んでくるようになったメディアや音楽業界の暗喩とも解釈できる。
I resent your voice
君のその声が、疎ましい。
I resent that I don't have a choice
僕に選択肢が残されていないという事実が、ひどく腹立たしい。
※主導権の喪失に対する怒り。契約や社会的プレッシャーによって身動きが取れなくなり、自分の人生のコントロールを他者に奪われている(I don't have a choice)という、トム・ヨークが生涯にわたって歌い続ける「自己決定権の剥奪」というテーマの初期の表出である。
Anywhere I go
僕がどこへ逃げ込もうとも。
You were always there
君はいつもそこに待ち構えていた。
Outside the car or in my hair
車の外に、あるいは僕の髪の中にまで。
※「in someone's hair」は「(人を)悩ませる、まとわりつく」という意味の英語の慣用句だが、「車の外」という物理的な空間描写と並べることで、文字通りストーカーが髪の毛に触れるほどのパーソナルスペースまで侵入してくるような、極めて不気味で閉所恐怖症的なパラノイアを生み出している。
[Verse 2]
Think I've been here before
以前にも、ここに来たことがある気がする。
Yes, I've been here before
あぁ、僕は間違いなくここに来たことがある。
But last time, you locked all the doors
だが前回、君はすべてのドアに鍵をかけた。
※トラウマのフラッシュバック。有毒な関係性(トキシック・リレーションシップ)において、逃げ道を塞がれ(locked all the doors)、精神的あるいは物理的に幽閉された過去の記憶を突きつけている。
And I resent you callin'
だからこそ、電話をかけてくる君を憎んでいる。
I resent your voice
君のその声が、疎ましい。
I resent that I don't have a choice
僕に選択肢が残されていない事実が、ひどく腹立たしい。
[Chorus]
And yes, I am wary
だから、そうさ、僕は警戒しているんだ。
※「wary(用心深い、警戒している)」。このタイトル回収とも言えるフレーズは、自分がパラノイアに陥っていることを認めつつ、それが君という外部の脅威から身を守るための必然的な防衛機制であることを宣言している。
Yes, I am
あぁ、僕は警戒している。
I am
警戒しているんだ。
[Verse 3]
Think I've told you once
一度、君に話したことがあったな。
Think I needed advice
アドバイスが欲しかったんだと思う。
You were such a help, that's very nice
君はとても役に立ってくれたよ、本当に素晴らしいね。
※かつては相手を信頼し、弱みを見せて頼っていた過去を振り返っている。しかし「that's very nice」という言葉には強烈な皮肉(シニシズム)が込められている。相手はその「助け」を盾にして支配的なパワーバランスを築き、搾取構造を作り上げたのだという冷徹な気付きである。
Think I've been here before
以前にも、ここに来たことがある気がする。
Yes, I've been here before
あぁ、僕は間違いなくここに来たことがある。
But this time, I kick down your door
だが今回、僕は君のドアを蹴り破ってやる。
※楽曲のクライマックスにして、劇的なパラダイムシフトの瞬間。Verse 2で「ドアに鍵をかけられ」閉じ込められていた受動的な被害者が、ここでは「相手のドアを蹴り破る(kick down your door)」という能動的で暴力的な加害性へと転じている。やられっぱなしでは終わらない、初期Radioheadが持っていた荒々しいパンク的ルサンチマンの爆発である。
[Chorus]
Yes, I am wary
そうさ、僕は警戒している。
Yes, I am wary
あぁ、僕は警戒しているんだ。
[Instrumental Outro]
