Album: Alligator Bites Never Heal
Song Title: PROFIT
概要
Doechiiのミックステープ『Alligator Bites Never Heal』に収録された本作は、コマーシャルな成功(Pop)とヒップホップのルーツの狭間で揺れる自身の葛藤と、音楽業界の政治(ポリティクス)に対する痛烈な中指を立てた宣言(マニフェスト)である。本名である「Jaylah Hickmon」をリリックに刻み込み、レーベル(TDE)とのクリエイティブな方向性の対立を隠すことなく暴露する。「批評家の銅像など建てられた歴史はない」というシベリウスの格言を引用しながら、偽善や謙遜を捨て去り、純粋に「利益(Profit)」と自らの芸術的エゴへの忠誠を誓う、生々しくもカタルシスに満ちた1曲だ。
和訳
[Intro]
Thank you Mike
ありがとう、マイク
[Verse]
Dirt under my fingernails, blood on my top hat
爪の間には泥、シルクハットには血がこびりついてる
※「爪の間の泥」は下積み時代の泥臭いハードワークの象徴。「シルクハット」は奇術師やリングマスター(興行師)のメタファーであり、エンターテイナーとしての華やかな顔の裏に隠された血みどろの闘いを暗示している。
Nigga talkin' tough, I had to peel the nigga top back
タフぶってイキる野郎がいたから、頭のてっぺんをふっ飛ばして(ピール・バック)やったのさ
※「peel one's top back」は銃で頭を撃ち抜く(頭皮を剥ぐ)という極めてバイオレントなストリート・スラング。口先だけのヘイターを実力で黙らせたという威嚇。
Flowin' on the beat, my engineer gon' mute the talkback
ビートの上でフロウしてる時は、エンジニアもトークバックをミュートするわ
※「talkback」はレコーディングスタジオでコントロールルームからブース内のアーティストへ話しかけるためのマイク。Doechiiが一度ゾーンに入れば、エンジニアすら指示を出すのをやめて聴き入ってしまうという圧倒的なスキルの誇示。
Black bitches always bendin' backwards on a soft mat
黒人のビッチ共はいつだって、柔らかいマットの上で後ろに反り返ってる(無理をしてる)
Doin' acrobatics, fallin' face first, ass down
アクロバットをこなして、顔から突っ込んで、ケツから落ちるの
※「bendin' backwards」は「他人のために無理をして尽くす」というイディオム。黒人女性が社会や業界で成功するために過剰な努力(アクロバット)を強いられ、さらには性的に消費(ass down)されて傷つく(fallin' face first)という過酷な現実への皮肉。
I was playin' father figure, now I'm makin' six now
アタシは「父親代わり」を演じてたけど、今じゃ6桁(シックス)稼いでるのよ
※家庭やコミュニティにおいて一家の大黒柱(父親役)としてプレッシャーを背負いながら生きてきた過去と、現在ヒップホップ・ドリームを掴み、年収10万ドル(約1500万円)以上の大台に乗ったという成功の対比。
Six figures, now my shit's bigger and you're sick now
6桁の稼ぎ、今じゃアタシの存在はデカくなって、アンタは吐き気(嫉妬)を感じてるでしょ
Who woulda thought that Jaylah Hickmon be a hit now?
「ジェイラ・ヒックモン」が今じゃ大ヒットするなんて、誰が想像した?
※Doechiiの本名。ステージネームの裏に隠された一人のフロリダの少女が、世界的スターになったことへのカタルシス。
I rep my city despite the fact that they hated me
地元連中に嫌われてたって、アタシはこの街(タンパ)をレペゼンし続けるわ
I'm breakin' bread with bird bitches like catering
ケータリングみたいに、鳥(頭の空っぽな)ビッチ共とパンを分け合ってるの
※「break bread」は利益を分け合う、共に食事をするという意味。「bird(ビッチの蔑称)」に「パン(餌)を与える」という痛烈なダブルミーニングで、格下のラッパーたちを養ってやっているという傲慢なフレックス。
I'm makin' peace with the fact that I'm goin' pop and shit
自分が「ポップ」な路線に行ってるって事実とは、上手く折り合いをつけてるの
I'm makin' pop and shit, but I'm still poppin' shit
ポップな曲を作っちゃいるけど、アタシは今でもストリートでブチかましてる(ポップ・シット)のよ
※「go pop(メインストリーム向けのポップスに迎合する)」ことへのセルアウト批判に対し、「pop shit(銃を撃つ、言いたい放題にイキる)」というストリート性を失っていないことを同音異義語で巧みに証明している。
My label hate the direction I'm goin', they knock my shit
レーベルはアタシの進む方向性が嫌いで、アタシの作品をボロカスに叩くの
※Top Dawg Entertainment (TDE) やCapitol Recordsといった所属レーベルとのクリエイティブな対立(オルタナティブを追求する彼女と、売れ線を求める上層部)を検閲なしで暴露している。
Stick to the plan and ignore 'em, I can't acknowledge it
自分の計画を貫いて、連中なんてシカトよ、あんな意見認めるわけにいかない
They don't make statues of critics, they don't make statues of fans
「批評家」の銅像なんて作られないし、「ファン」の銅像だって作られない
※フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスの有名な格言「批評家の銅像が建てられたためしはない(A statue has never been erected in honor of a critic)」の引用。歴史に名を残すのは常に創作者(アーティスト)だけであり、外野のノイズなど無価値であるという絶対的なエゴイズム。
I'm not no poli-ma-tician, I can't be shakin' them hands
アタシは政治家(ポリ・マ・ティシャン)じゃないんだから、誰彼構わず握手なんてしてられないわ
Fuck modest, fuck polished, fuck the politics
謙虚さなんてクソ食らえ、洗練(行儀の良さ)もクソ食らえ、業界の政治(ポリティクス)もクソ食らえよ
I pledge allegiance to the motherfuckin' profit, bitch
アタシが忠誠を誓うのは、クソみたいな「利益(プロフィット)」だけよ、ビッチ
※アメリカの「忠誠の誓い(Pledge of Allegiance)」のもじり。国家やレーベル、ヒップホップの規範などではなく、自分自身の経済的成功とエゴ(利益)のみを信じるという究極のアンチヒーロー宣言でヴァースを締めくくる。
[Outro]
Jaylah Hickmon?
ジェイラ・ヒックモン?
Hello?
もしもし?
You in the booth still?
まだブースにいるのか?
We recordin' right now
今まさに録音中よ
You're record–
録音して—
Nah, man, I'm just really proud of you though, I mean, that's, that's all
いや、なぁ、俺はお前のことを本当に誇りに思ってるんだ、言いたいのはそれだけだよ
I just, just wanna tell you that I'm proud of you, I love you, like
ただ、お前を誇りに思うって、愛してるって伝えたいだけなんだ
Talk your shit, go crazy
お前の言いたいことを言え、狂ったようにブチかませ
I mean, go be the icon that you are, that's all
お前はそのまま、アイコン(象徴)になれ、それだけだ
※曲の最後は、彼女を本名で呼ぶ親しい人物(家族や古くからの仲間)からのヴォイスメモで終わる。レーベルや業界との対立という孤独な戦いの中にあって、彼女の素顔(Jaylah Hickmon)を全肯定し、「そのままの君でアイコンになれ」と背中を押す、極めて感動的でエモーショナルなアウトロ。
