Artist: Doechii
Album: Alligator Bites Never Heal
Song Title: DENIAL IS A RIVER
概要
Doechiiのミックステープ『Alligator Bites Never Heal』に収録された本作は、セラピーのセッションを模したスキットとラップが交差する、極めて演劇的で内省的な一曲だ。タイトルの「Denial is a river」は有名なジョーク「Denial is not just a river in Egypt(否定=Denialとナイル川=The Nileを掛けた言葉遊び)」からの引用であり、彼女が直面する現実逃避を暗示している。元恋人の凄惨な裏切り、TikTok向けの音楽を強要するレーベルからの重圧、そして名声の裏で陥った薬物依存や自己破壊衝動といったダークな現実を、軽快でシニカルなフロウでカモフラージュしながら吐き出していく。セラピストの介入を拒絶しながらも最終的には感情を爆発させてしまう、彼女の精神的葛藤が克明に記録されたドキュメンタリーのような名曲である。
和訳
[Intro]
Hey, I thought it was all over
やあ、もう終わったと思ってたわ
What's up, Doechii?
調子はどう、ドーチ?
Hey, girl
ねえ、ガール
You know, it's been a lil' minute since you and I have had a chat
私たちがこうして話すのは、随分と久しぶりよね
Has it really?
そうだったっけ?
Probably since, like, your last EP, 'Oh the Places You'll Go'
たぶん、あなたの前のEP『Oh the Places You'll Go』の頃からじゃないかしら
※セラピスト(あるいはカウンセラー)との対話形式で始まるスキット。2020年のEP『Oh The Places You'll Go』以来のセッションであることを明示し、彼女が業界で急激な成功を収めた空白の期間にメンタルヘルスが悪化していたことを示唆している。
Oh wow, it's been a minute, yeah (Yeah)
ああ、確かに随分経ったわね(ええ)
I've been gettin' some calls
いくつか電話をもらってるのよ
Oh?
あら?
People are a little bit worried about you
みんなあなたのことを少し心配しているみたい
Not worried, okay
心配なんてしてないわ、オーケイ
And I know that I was kinda that outlet for you, so
私はあなたの「はけ口」みたいなものだったって分かってるから
You were
そうだったわね
Why don't you just tell me what's been goin' on?
最近どうしているのか、話してくれない?
Okay
オーケイ
[Verse 1]
Remember old dude from 2019?
2019年に付き合ってたあの昔の男、覚えてる?
Nice, clean, nigga did me dirtier than laundry (Than laundry)
優しくて清潔だったのに、あの野郎、洗濯物よりも汚い手でアタシを裏切ったのよ(洗濯物よりもね)
Took a scroll through his IG
アイツのインスタをスクロールしてたら
Just to get a DM from his wifey (What the fuck?)
アイツの「嫁」からDMが飛んできたのさ(マジで何なの?)
I was so confused, what should Doechii do?
アタシは超混乱したわ、ドーチはどうすべき?
She didn't know about me and I didn't know 'bout Sue
彼女はアタシのことなんて知らなかったし、アタシもスーのことなんて知らなかった
I open up the messages and had to hit the zoom
メッセージを開いて、思わず画像を拡大しちゃったわ
Turns out the girl was really a dude? (Goddamn)
蓋を開けてみたら、その女はマジで男だったわけ?(クソが)
※「Sue」はジョニー・キャッシュの楽曲「A Boy Named Sue(スーという名の男の子)」の引用、あるいは単なる偽名だが、元彼の浮気相手がトランスウーマンまたは女装した男性であったという衝撃的な事実の暴露。
Nigga think he slicked back 'til I slipped back
野郎は上手くやった(slicked back)つもりだろうけど、アタシが舞い戻って(slipped back)バレたのよ
Got my lick back, turned a nigga to a knick-knack (To a knick-knack)
しっかり仕返し(リックバック)して、野郎をただのガラクタ(ニックナック)に変えてやったわ
※「get a lick back」はストリートスラングで「やられたらやり返す、復讐する」こと。
I moved on, dropped a couple of songs
アタシは前を向いて、何曲かドロップした
And then I went and got signed, now it's 2021
そしたら契約が決まって、あっという間に2021年よ
[Interlude]
Okay, I just feel like
オーケイ、私はただ…
This is the perfect opportunity for us to just take a second and kind of unpack what's happened to you
ちょっと時間を取って、あなたに何が起きたのかを紐解く(アンパックする)のに絶好の機会だと思うの
You know, this guy cheated on you, and—
ほら、この男はあなたを裏切って、それで—
Mm, nah (Oh), fuck it
んー、いや(ああ)、もうどうでもいいわ
※セラピストがトラウマと向き合わせようとするが、Doechiiはそれをごまかすように次のサクセスストーリー(Verse 2)へ強引に話題をすり替える。これがまさにタイトルの「Denial(現実逃避・否定)」のプロセスである。
[Verse 2]
"Platinum record" this, "viral record" that (That)
「プラチナ・レコード」がどうだとか、「バイラル・ヒット」がどうだとか
I'm makin' so much money, I'm all over the net
めちゃくちゃ稼いでるし、ネットじゃアタシの話題で持ちきりよ
I'm movin' so fast, no time to process
あまりにも展開が早すぎて、状況を処理する時間なんてない
And no, I'm not in a gang, but I'm always on set (Yeah)
別にギャングに入ってるわけじゃないけど、アタシは常に「セット」にいるのさ
※「set」はギャングの派閥・縄張り(reppin' a set)と、アーティストとしてのMVや映画の撮影現場(on set)のダブルミーニング。
Wrist watch, drip drop, label want the TikToks
腕時計に、滴るドリップ(宝石)。レーベルはTikTok向けの曲を要求してくる
Now I'm makin' TikTok music, what thee fuck?
今じゃアタシは「TikTokミュージック」を作らされてる、マジでふざけんなよ
※TDEという実力派レーベルに所属しながらも、業界のトレンドとして「TikTokでバズるキャッチーな曲」を量産するよう強要されることへの強いフラストレーションとアイデンティティの喪失。
I need a cleanse, need a detox
浄化(クレンズ)が必要よ、デトックスしなきゃ
But we ain't got time to stop, the charts need us (And they do)
でも立ち止まってる暇なんてないの、チャートがアタシらを求めてるからね(実際にそうだし)
Fast forward, me, 2023
早送りして、アタシの2023年
I'm stackin' lots of cheese and makin' money
チーズ(札束)を山ほど積み上げて、金を稼ぎまくってる
My grass is really green, and—
アタシの芝生は本当に青々としてて、それから—
[Interlude]
Honestly, I can't even fucking cap no more, this is a really dark time for me
ぶっちゃけ、もうこれ以上クソみたいな嘘(キャップ)はつけない。アタシにとって本当にダークな時期なのよ
※ついに「Denial(否定・強がり)」の壁が崩れ、栄光の裏側にある深刻なメンタルヘルスの悪化を告白し始める重要なターニングポイント。
I'm going through a lot
色々と抱え込んでて…
By "a lot," you mean drugs?
「色々」って、薬物のこと?
Um, I wouldn't—
ええと、別にアタシは—
Drugs?
薬物なのね?
No, it's a—
いや、それは—
No?
違うの?
It's a natural plant
自然の植物(マリファナ)よ
No, I'm not judging
いいのよ、あなたを責めたりしないわ
I'm not an addict
依存症ってわけじゃないんだから
I'm just saying
ただ聞いてるだけよ
I don't think—
アタシはそうは思わ—
You wanna talk about it?
そのことについて話したい?
Uh
あー…
[Verse 3]
I mean, fuck, I like pills, I like drugs
つまりさ、クソッ、アタシはピル(錠剤)が好きだし、ドラッグが好きなのよ
I like gettin' money, I like strippers, I like to fuck
金を稼ぐのが好きだし、ストリッパーも好き、ヤるのも大好きなの
I like day-drinkin' and day parties and Hollywood
昼間から酒を飲むのも、昼間のパーティーも、ハリウッドも好き
I like doin' Hollywood shit, snort it? Probably would
「ハリウッド的なこと」をするのが好きなの、鼻から吸うかって? たぶんやるわね
※プレッシャーと虚無感から、コカインの吸引(snort)を含むハリウッドの退廃的なセレブカルチャーに完全に呑み込まれ、享楽的な生活に依存していることを赤裸々に告白している。
What can I say? The shit works, it feels good
何て言えばいい? 実際効くし、気持ちいいんだから
And my self-worth's at an all-time low
でもアタシの自己肯定感(セルフワース)は過去最低まで落ち込んでる
And just when it couldn't get worse
これ以上最悪な事態にはならないって思った矢先に
My ex crashed my place and destroyed all I owned
元カレがアタシの家に押し入ってきて、アタシの持ち物を全部ぶっ壊しやがったのよ
Whoopsie, made a oopsie
おっと、やらかしちゃったわね
One-hundred thousand dollar "oops" made me loopy
10万ドル(約1500万円)の「おっと」のせいで、アタシはおかしく(ルーピー)なっちまったわ
※実際の事件か比喩かは不明だが、薬物依存でボロボロの精神状態に追い討ちをかけるように、私生活でも甚大な被害(約10万ドルの損害)を受けたという凄惨なエピソード。
I ain't a killer, but don't push me
アタシは人殺しじゃないけど、これ以上アタシを追い詰めないで
※2Pacの不朽の名曲「Hail Mary」の有名なリリック「I ain't a killer but don't push me」の直接的なサンプリング。限界ギリギリの精神状態で、引き金を引く一歩手前であることを示している。
Don't wanna have to turn a nigga guts into soup beans
野郎の内臓を、煮込んだ豆スープみたいにグチャグチャにしたくはないからね
[Outro]
Woah, woah, woah, woah, woah (Rurr)
ウォウ、ウォウ、ウォウ…(ルルッ)
Okay, Doechii
オーケイ、ドーチ
We don't wanna revert back into our old ways (Sorry, okay)
また昔の悪い癖(自己破壊)に逆戻りしたくはないでしょ?(ごめん、オーケイ)
So, we're gonna try a breathing exercise, okay? (Alright, word)
だから、一緒に呼吸の練習をしてみましょう、いいわね?(分かった、マジで)
When I breathe, you breathe (Okay, okay)
私が息を吸ったら、あなたも吸うの(オーケイ、オーケイ)
Alright? Let's go
いい? いくわよ
Uh-uh-uh, uh-uh-ah
アー、アー…
Uh, uh, uh, ah
アー、アー…
Uh, uh, uh, uh, ah
アー、アー…
Uh, uh, uh, uh, ah, woosah
アー、アー…ウーサー
※感情を爆発させ、バイオレントな脅しを口にしたDoechiiをセラピストがなだめる。「woosah(ウーサー)」は、怒りやストレスを鎮めるための深呼吸の際に唱える言葉(映画『バッドボーイズ2バッド』などで有名)。アルバム全体を通した彼女の精神的リハビリのプロセスを締めくくっている。
